速水奏「部屋の照明がミラーボールになった」
私の頭は正常だし、目がおかしくなったというわけでもない。おおよそ一般的に日本語として意味を成していないが、実際に部屋の照明がミラーボールになってる以上こうとしか言えない。
今日は疲れたし明日も朝からCAERULAでのレッスンがあるから今日は早く寝ようかな……と思いながら女子寮の自室の部屋のドアを開け、電気を点けるとそこには色とりどりの世界が広がっていた。見たところ赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、紫の7色。
まるで虹だと思わず笑みがこぼれる。いや、笑ってる場合じゃないのだけれど。でもいつも照明があるところには銀色の球体が光を放っていた。なんなのこれ。
仕掛けそうなのは周子あたりかしら。でもこれはすぐに否定される。
鍵はしっかりかけて自室を出たし、入るときもしっかり鍵を開けた。
合鍵を持ってるならまだしも、そもそも私はこの部屋の鍵を1つしか持ってないし、それは肌身離さず持ち歩いていた。
雑誌の撮影中やレッスンの時間は流石に身につけていなかったけれど、控え室やロッカーなど施錠できるところに鍵は置いてきた。
周囲の目を盗んでこの鍵を盗み、照明をミラーボールに変え、また元の場所に鍵を戻すなんてことは不可能だ。
どこかの趣味の悪いテレビや雑誌がドッキリと称してプロデューサーさんの許可を取り、ちひろさんか寮母さんにこの部屋の鍵を借りてミラーボールを設置した。
……ありえなくはない。
事実、困惑してるのだしドッキリとしては成功なのだろう。悪趣味極まりないが。
プロデューサーさんがこんなこと許可するとも思えないし杞憂だろうと思い込むのは簡単だ。
だがしかし、事実私の部屋の照明はミラーボールになっていたし突然こうなるわけもない。ドッキリでもないと説明できない。
というかそもそも照明がミラーボールのせいでそんなに明るくないし、いろんな色に照らされるせいで目がチカチカするせいで探しにくいことこの上なかった。
そもそもドッキリだったとするなら見つからないような場所に隠しカメラの類は見つからない場所に置いてあるのが定石だ。こうやって素人が探し回る姿は格好の獲物だったのかもしれない。
してやられたと思いつつもどうしようもできないし、部屋の照明がミラーボールから元に戻るわけでもない。
「帰ったら部屋が虹の世界になってました」なんて、頭のおかしい人みたいなことは言っても誰も信じないだろう。
この部屋を見せれば一発だが、こんなことになった私の部屋を見せたくはない。文香や美波は信じてくれるかもしれないけど、それ以降彼女達の目に映る私は「自室にミラーボールがある(と自称する)女」となる。
正直痛いし、そんなことは流石に出来ない。
私だって友人から「自室の照明はミラーボールなんだ」と言われれば接し方を変える。
なら出来ることは傍観。現状維持。
もしドッキリとしてこのまま慌てふためく姿を撮られるのは癪に触る。
なので私の部屋の照明は元からミラーボールですよ、という風に振る舞う。
頭おかしい人かしら?
お風呂の電気は普通でなんとも言えない気持ちになったが、考えるのはやめて電気(ミラーボール)を消しベッドに倒れこんだ。
ーーーーーーーーーーーー
朝、夢だったんじゃないかと天井を見上げるとそこには悠然としてミラーボールが佇んでいた。
バカじゃないの?
これはもう仕方ないので諦め、正直食欲はわかないが朝食を食べに食堂へ向かうとありすちゃんと飛鳥が向かい合って食事を取っていた。
2人は同じCAERULAのメンバー。CAERULAの年少組といったところ。
私は2人を密かにAAコンビ(飛鳥とありすの頭文字がどちらもAという理由)と密かに呼んでいる。
本人達が聞いたら一緒くたにするなと怒られそうだけど。
「おはようございます。奏さん」
「おはよう。もちろんだ。隣に座るといい」
「じゃあ、失礼して」
そう言って私は飛鳥の隣に座ると飛鳥はフッと鼻を鳴らした。
目の前のありすちゃんがぐぬぬと唸っている。
こういうところがかわいいのよね。
「さあ、今日は見かけてないな」
「どうせ寝坊でしょう。朝食が終わったら叩き起こしに行かないといけません」
私たちは同じレッスンを受ける以上、同じような時間に起きて同じように朝食をとるのは当たり前である。
寮暮らしでない文香はともかく、周子をまだ見かけないのはおかしい。
ありすちゃんの言う通り寝坊だろう。
「もちろんです!私は既に準備を済ませてますので」
「なに、ボクも行こう。ボクも用意は済ましてあるし1人よりは2人だろう」
「なら2人ともよろしくね」
「ああ」「任せてください!」
まあ2人とも元気ね……頼りになる後輩だこと。
周子は……まあいいわ。
結局周子は朝食には来なかった。
部屋に戻るとあいも変わらずあの丸い球体が存在感示していてげんなりしたけれど気に留めても仕方ないので無視して用意を済ませ部屋を出た。
ーーーーーーーーーーーー
レッスンは何事もなく終了。
結局周子はAAコンビに引きづられてレッスンルームに連れてこられていた。
途中でお腹すいたーんとか言ってたけど、朝食抜きでレッスンなんてすると当然である。
ちなみに文香はしっかり五分前には用意を済ましていた。さすがね。
ーーーーーーーーーーーー
そのレッスン終わりの午後、私は部屋でベッドに寝転びながら暇を持て余していた。
CAERULAの他の4人は午後に仕事が入っていたけれど私は何もなし。
することもないので帰ってきた。
私だけ仕事ないのか、と思う人もいるかもしれないけど、これはここ最近忙しかった私へのプロデューサーさんの些細な気遣いなのだろう……。
映画館でも寄って帰ってこればよかったかしら。
でも一度家に帰ってゆったりした今、また外出する気にはなかなかなれない。
いつもなら読書をしたり、レンタルショップで借りてきた映画を見るんだけれどもなんとも気が乗らない。
なぜなら「アレ」があるから。
そう、ミラーボール。
存在感のレベルが違う。
まるでうえきちゃん(フレちゃんがいきなり連れてきた謎の植物……植物?)のようである。
手頃な椅子を踏み台にして手が届くところまで近づいてみる。
近い(当たり前だけれど)。ぶら下がっている銀色の球体。
その綺麗な球形と明らかな金属感は嫌いじゃないけど、こうやって私の時間を浪費させられるあたりやはり嫌いだ。
おそるおそる触ってみる。
ペタペタ。
固い。そりゃそうだ。
だって金属の塊だし。ペタペタ。
ミラーボール自身が光を放つわけでもないし当然なのだが、これまで動揺していたためか気づかなかった。
無性に腹が立つ。なにがミラーボールだ。
ふと、ミラーボールといえばディスコやダンスホールということを思い出す。
本来そういうところにあるものであって、間違っても一般人(アイドルの時点で一般人でないかもしれないがここでは置いておく)の家にあるようなものではない。
まだ太陽が出てる明るい時間だけども、カーテンを閉めればそれなりの暗さにはなるだろう。
そこにこのミラーボールを加えればいい感じになるのではないか。
ミラーボールが私の部屋を七色の光で照らす。
昨日は驚きが勝りよくわからなかったけど、冷静になるとミラーボールも綺麗じゃないか。悪くない気分だ。
あわててスマホを手に取ると伊吹ちゃんからの電話みたいだった
「もしもし奏?今日は18時ぐらいに行けばいい?」
「え…?あ……」
「ん?どしたの奏?」
しまった。私としてなんたる不覚。
そういえば今日は伊吹ちゃんと映画を観る約束をしてた日。
私と伊吹ちゃん、涼と小梅ちゃんはよく集まって映画を見る(伊吹ちゃんは映画部と呼んでいる)ことがよくある。
夜通しで映画を見てそのまま止まるのが定番だ。
場所は誰かの家というくらいでどこかはまちまち。
今回はエルドリッチロアテラーの収録があるということで私たち2人だけになった。
私としては嫌いじゃないし、むしろ楽しみにしてたんだけど、この謎のミラーボールのせいで今までてっきり忘れてしまっていた。
観る映画は私と伊吹ちゃんで一本ずつ持ち合うことになっているが、私の持ち寄ろうと思っていた映画はすでに部屋にあるから問題ないけれど問題はこの銀の球体。
これを伊吹ちゃんに見せることになる。
それは嫌だ。
でもなんともできない。
「おっけー!じゃあその時間にお菓子とか色々買ってそっちいくね!それじゃ!」
そう言って伊吹ちゃんは電話を切った。
伊吹ちゃんの元気な声は聞いてて元気が出る。
……さて、どうしようかしら。
とりあえずこのミラーボールの電気?は消しておこう。
取り外し方も知らないし、いくらこんなものと言っても部屋の照明がなくなるのも困る。
部屋が真っ暗だと不便極まりない。
真っ暗の部屋で映画を見るというのもアリではあるだろうけど、私のはともかく伊吹ちゃんの持ち寄る映画にそれは似合わないだろう。
どうしようもないのでそのまま出迎えることにする。
「いらっしゃい、伊吹ちゃん」
「おじゃましまーす!」
元気な声で挨拶した伊吹ちゃんと中へ入る。
「あっ、ダメ」
「え?」
パチ。
部屋の壁についていたスイッチを押すと私の部屋は再び七色の世界に包まれた。
「うわっ!なにこれ!ドッキリ!?」
「私が聞きたいぐらいよ……」
「こんなところね……」
「うん……なに言ってるの奏?」
「なんだよエスパーか?」
「うわっ!アタシの真似?」
「……ちょっとやってみたくなったのよ」
ほんと、なに言ってるのかしら私。
本当に頭がおかしくなったのかもしれない。
本当は私が部屋の照明をミラーボールにしたのかもしれない。
いや、そんな記憶はさらさらないんだけれど。
そう言って伊吹ちゃんは軽く踊り出した。全く構わないわね……
家具をできる限り隅に寄せ、手頃な音楽をかけて私たちは踊った。
周りの部屋に迷惑じゃないかと思ったけどここは2階の角部屋。
都合よく隣は空き部屋だったし、下は物置。上は小梅ちゃんの部屋だった。
多少うるさくても問題ないだろう。
それよりもう……止まれない。
怒られたらその時考えればいい。
私と伊吹ちゃんの夜は始まったばかりだ。
ーーーーーーーーーーーー
それからいつまでだろう……。
踊り続けた私たちはいつのまにか眠ってしまった。
私が目を覚ますと伊吹ちゃんはまだ眠っていた。
少し伸びをしてどことなく天井を見るとそこにミラーボールなんてものはなく、なんてないただの照明がそこにはあった。
疲れとストレスが溜まっていて、伊吹ちゃんと騒いでストレス解消になってぐっすり寝たことで疲労が回復したとか。
なんて思いついてそれはないなと思う。
なぜなら伊吹ちゃんがいたから。
あの銀色の球体が幻覚であったなら伊吹ちゃんに見えてるはずがないから
たまにはこんなことがあってもいいんじゃないか。
世にも奇妙な物語ってね。
なんだかスッキリした気持ちになった私はぐっすり眠っている伊吹ちゃんの肩を揺すった。
おわり
ご覧いただきありがとうございました
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コメント一覧
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- 2018年09月30日 22:24
- 悪くないね
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- 2018年09月30日 22:33
- 止まるんじゃねえぞ・・・
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- 2018年09月30日 22:46
- よくわかんないな…
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- 2018年09月30日 22:50
- ???「我が奏の部屋の照明をミラーボールに書き換えたのだ。」
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- 2018年09月30日 22:58
- どういうこっちゃ
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- 2018年09月30日 22:59
- 周子(あれー?ミラーボールにしてみたのに突っ込みないやんー)
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- 2018年09月30日 23:38
- まさかお前分かんないの?
速ミ水ラ奏、小ー松ボ伊ー吹、橘あルす
この名前はアナグラムになっている、後は偏差値の低いエレ速読者でも分かるかな?^^
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- 2018年09月30日 23:46
- ※7
もうちょい腹抱えて笑いたくなるような文章考えてから書き込めよ
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- 2018年09月30日 23:55
- 犯人に心当たりが多すぎる
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- 2018年10月01日 00:02
- そのミラーボールの下で奏に早苗さんや菜々さんがよく知ってる扇を使ったダンスか、パンツにお金を挟んだ状態でやる棒を使ったダンスをしてほしい。
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- 2018年10月01日 00:02
- 何となくかまいたちの夜のコメディ編みたいな雰囲気を感じた
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