喪黒福造「そろそろ優等生キャラをやめて、本能に正直な生き方をしてみませんか?」 ハーフ女性タレント「……分かりました」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
サンドラ(31) 女性タレント
【破れかぶれ】
ホーッホッホッホ……。」
鳴り響く音楽とともに、華やかな衣装を着た行列が姿を現す。パレードの行列を眺める一般客たち。
行列には、ドレスを着た女性の姿も見える。黒髪だが、顔つきはどうやらハーフの女性のようだ。
テロップ「サンドラ(31) 女性タレント 本名はサンドラ・優香・タイラー」
一般客に手を振るサンドラ。一般客たちから歓声が上がる。
控室。サンドラがマネージャーを叱り飛ばしている。彼女にひたすら頭を下げるマネージャー。
サンドラの態度はパレードの時のさわやかなものとは違い、傲慢そうなものになっている。
東京。帝国テレビ。テレビ局の中で、バラエティー番組の撮影が行われている。
椅子に座った出演者たちが、笑顔で何かを話す。レギュラー出演者の中にはサンドラもいる。
日曜日の夜。とある大衆食堂。店内にある液晶テレビを見つめる客たち。客の中には喪黒福造の姿がある。
液晶テレビは、バラエティー番組を映している。番組出演者のサンドラと女性芸人が笑顔で何かを話す。
客B「ああ。それにしても、サンドラの需要がどこにあるのかさっぱり分からん」
客C「あえて言うなら、サンドラは優等生キャラだから使い勝手がいいってことだろ」
喪黒「…………」
ある朝。線路を走る満員電車。ドアの近くには、眼鏡をかけて変装したサンドラが立っている。
サンドラの近くには、つり革を持ったまま居眠りをしているサラリーマンがいる。さらに、その近くには喪黒もいる。
つり革から手が離れ、サンドラの身体にぶつかるサラリーマン。
サンドラ「キャアアッ!!」
サラリーマン「あっ……。す、すみません……」
サンドラの悲鳴を聞き、目を覚ますサラリーマン。
サンドラ「みんなーーーっ!!痴漢よーーっ!!痴漢!!」
サラリーマンを指差し、大声で叫ぶサンドラ。
乗客たちはいぶかしい表情で、サラリーマンを見つめる。青ざめた顔になるサラリーマン。
喪黒「お待ちください!!」
サンドラ「えっ!?」
喪黒「お嬢さん、この人は痴漢ではありません。なぜなら、彼はつり革を持ったまま居眠りをしていました」
「だから、電車が揺れた時、たまたまお嬢さんにぶつかっただけなのです!」
乗客たち「そうだ、そうだ!!」「彼が居眠りしているとこ、俺も見てたよ!」「この人は悪くないぞー!」
駅。電車を降りたサンドラ、サラリーマン、喪黒がいる。
サラリーマン「ありがとうございます。あなたがいなかったら、私は今ごろどうなっていたか……」
喪黒「いえいえ。私は目で見たままのことを、言ったまでですから……」
サンドラ「さっきは、本当にすみませんでした……」
サラリーマン「分かればいいんです。誤解が解けてホッとしていますよ」
喪黒とサンドラの前から、サラリーマンが立ち去る。
サンドラ「私にですか?」
喪黒「はい。どうも、気になることがありましてねぇ……。あなた、今回のことは初めてじゃないでしょう?」
サンドラ「な、何のことですか!?」
喪黒「とぼけないでください。あなたはこれまで、痴漢冤罪事件を2回起こしていますよねぇ……」
「過去に、バラエティー番組でそう話していたでしょう?サンドラさん……」
サンドラ「ああっ……」
喪黒「無実の人を陥れるのは、よくありませんよ。あなたのせいで、善良な市民の人生が狂わされたんですから……」
サンドラ「ご、ごめんなさい!!」
喪黒に頭を下げるサンドラ。
喪黒「どうやら、サンドラさんにも心にスキマがおありのようですねぇ。私の仕事柄、あなたを放っておくわけにはいきません」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
サンドラ「人生相談のお仕事なんですか?」
喪黒「どちらかというと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
BAR「魔の巣」。喪黒とサンドラが席に腰掛けている。
サンドラ「それにしても、私がサンドラだってどうして分かったんですか?」
喪黒「あなたは、テレビ番組に何本も出演している有名人です」
「だから、変装をしても芸能人としての雰囲気は隠しきれませんよ」
サンドラ「そうなんですか……」
喪黒「サンドラさん。あなたは日ごろ、ストレスがたまっていますよねぇ?」
「だから……。見ず知らずの人間に対し、攻撃的な感情を抱いてしまったのでしょう?」
「そのせいで、わざと痴漢冤罪事件を起こしたのではないですか?」
サンドラ「あ、あの……。さっきの私は頭に血が上ってたものだから……、つい……」
喪黒「はっきり言いましょうか?あなたのストレスの原因は、建前と本音のギャップですね?」
喪黒「芸能人としてのサンドラさんは、明るくてクリーンな優等生キャラを演じています」
「しかし、それは本来のあなたの人格ではありません!」
「建前でいい子を演じ続けることに対し、ストレスがたまっているのが今のあなたなのです!」
サンドラ「!!!」
喪黒「本音を押し通し、本能のまま、面白おかしく生きてみたい……。それが、無意識のあなたの願望です」
サンドラ「ええ……。その通りですよ。まるで、私の内面を見透かされているみたいですね……」
喪黒「しかしながら、サンドラさんの需要は優等生的なイメージにあるのですから……」
「あなたが今のキャラをやめるのは、かなりのリスクが伴うでしょうねぇ」
サンドラ「はい。もしも、タレントのサンドラとしてのキャラがぶっ壊れたら……」
「最悪の場合、私は仕事がなくなるかもしれません」
喪黒「とはいえ、今のあなたはストレスがたまっていますから……。それを何かの形で発散する必要があるのです」
サンドラ「分かっていますよ。でも、どうすればいいんですか?」
喪黒「サンドラさん。今のあなたには、自らを理解してくれる恋人が必要なのです」
「ありのままの交際によって、あなたは本音を相手に打ち明けることができるでしょう」
喪黒「本音と本音の関係で、お互いに本能を貫きあえる恋愛……」
「これはあなたのストレス発散に役立つでしょうし、今までの生き方を変えてくれるはずです」
サンドラ「そうかもしれませんね……」
喪黒「サンドラさん。そろそろ優等生キャラをやめて、本能に正直な生き方をしてみませんか?」
サンドラ「……分かりました」
喪黒は、サンドラに右手の人差し指を向ける。
喪黒「さあ、サンドラさん。本能の赴くまま、思う存分、恋愛を楽しんでくさい!!」
「ドーーーーーーーーーーーーン!!!」
サンドラ「キャアアアアアアアアアアアア!!!」
とあるホール。ステージの上で、バンドグループが歌を歌っている。男2人、女2人の4人組だ。
このグループのボーカル担当は、茶髪のマッシュルームカットをした若い男性だ。
テロップ「バンドグループ『ゲスなケダモノたち』」
観客席でサイリウムを振るファンたち。サンドラも、ファンたちとともにサイリウムを振っている。
花束を持ったサンドラが、4人の前に現れる。サンドラの姿に気がつくボーカル担当の男。
川中「ああ……。確か君は、日曜の『イッテGO』に出演しているサンドラさんですよね?」
テロップ「川中玲於奈(26) 『ゲスなケダモノたち』ボーカル 本名は川中新一」
サンドラ「はい。私、あなたのファンなんです……」
顔を赤らめたサンドラが、川中に花束を手渡す。
とある街。サンドラと川中が手をつなぎながら、道を歩いている。
雑貨屋の中を歩くサンドラと川中。美術館の中で、日本画を鑑賞するサンドラと川中。
カフェの中でコーヒーを飲むサンドラと川中。2人はお互いにスマホを見せ合う。
川中「じゃあ、LINEのアドレスの交換でもしようか?」
サンドラ「うん。いいよ」
サンドラ「新ちゃん。お願い、私を抱いて……」
川中「優香ちゃん。僕は君を1人にさせないからな……」
2人はいつの間にか、本名の名前で呼び合っている。ホテルの中に入るサンドラと川中。
ビル街。高層ビルのスクリーンには、『ゲスなケダモノたち』のPV映像が映っている。最新曲を歌う川中。
一方、帝国テレビではバラエティー番組『イッテGO』の撮影が行われている。『イッテGO』の撮影に参加するサンドラ。
北海道総合体育センター。ステージで熱唱をするとあるロックグループ。
恋人同士となったサンドラと川中が、このロックグループのライブを鑑賞している。
夜。あるホテル。客室のダブルベッドで寝ているサンドラと川中。
川中「優香ちゃん。今まで君に内緒にしていたけど……。実は僕、妻がいるんだ……」
サンドラ「えっ!?じゃあ、新ちゃんはすでに既婚者ってこと!?」
サンドラ「そうなんだ……。新ちゃんも、いろいろ複雑な事情があるんだね……」
川中「離婚話を切りだしてきたのは妻の方だし、僕もあいつを愛していない」
「今の僕が心から愛しているのは……。優香ちゃん、君だけだよ」
サンドラ「新ちゃん……」
BAR「魔の巣」。喪黒とサンドラが席に腰掛けている。
喪黒「なるほど……。今のサンドラさんは、本音と本音の恋愛関係を堪能しているようですなぁ」
サンドラ「でも、気になることがあるんです……。なぜなら、今の彼は妻帯者ですから……」
喪黒「ほう……。要するに、サンドラさんと川中さんは不倫関係なのですか」
サンドラ「そうなんです。まあ……。今の彼は奥さんがすでに家を出て行って、離婚協議の最中ですけど……」
「ほら、さすがに不倫はダメでしょう?相手の家庭に迷惑がかかりますし、私もただじゃ済まないでしょうから……」
喪黒「相手に迷惑をかけたくない?今さら何を言うんですか。あなたは、痴漢冤罪で多くの人たちに迷惑をかけたでしょう」
サンドラ「くっ……」
「不倫の恋は、まさにその最たるもの……。生き方の変化を望んでいるあなたに、実にぴったりですよ」
サンドラ「で、でも……」
喪黒「なぁに……。芸能人なら色恋沙汰の一つや二つ、珍しいことではありませんよ」
サンドラ「そ、それはそうだけど……」
喪黒「ところで、サンドラさん。あなたは、川中玲於奈さんのことを愛していますか?」
サンドラ「もちろん、心から愛していますよ!!」
喪黒「だったら、サンドラさんには私と約束していただきたいことがあります」
サンドラ「約束!?」
喪黒「はい。あなたは本音を押し通し、本能を貫く生き方をこのまま続けるべきなのです」
「たとえ……。川中さんとの恋愛関係が世間に知れ渡ったとしても、正直に振る舞ってください」
「いいですね、約束ですよ!?」
サンドラ「わ、分かりました……。喪黒さん」
夜。サンドラを連れて、地元に帰省した川中。自宅マンションで、息子とともにサンドラと初対面する川中の両親。
川中の父「ふーーむ……。君がサンドラさんか」
サンドラ「ええ。そうですよ……」
川中の母「サンドラさん。私、『イッテGO』であなたを何度も見ましたよ」
朝。実家から出て、道を歩く川中とサンドラ。2人の前に、目つきの悪い男――週刊誌記者が現れる。
週刊文隆の記者「あのー、すみません……。私、『週刊文隆』の者ですが……」
週刊誌記者を目にし、思わず目を丸くする川中とサンドラ。2人は動揺した様子で、週刊誌の記者の取材を受ける。
週刊文隆の記者「山本由里恵さんとはどういう関係なんですか?」
川中「な、名前は知っていますよ……。僕とは友達同士です」
新幹線に乗り、東京を目指す川中とサンドラ。
サンドラ「どうして嘘ついたの?新ちゃん、由里恵さんはあなたの奥さんでしょ……」
「君だって、今の優等生キャラが壊れるのは嫌だろ?それで飯を食ってるんだから……」
サンドラ「うん……」
川中「このまま嘘をつき通せば、マスコミの追及はいくらでもごまかせるよ。だから、心配するなって」
翌日。マンション。サンドラはスマホを操作している。彼女は川中とLINEのやりとりをしている。
サンドラのスマホ「友達で押し通す予定!」
川中のスマホ「逆に堂々とできるキッカケになるかも」
サンドラのスマホ「ありがとう文隆!」
サンドラ(私は、略奪愛なんかしていない……。なぜなら、新ちゃんは奥さんと離婚協議をしているから……)
サンドラのスマホ「略奪でもありません!」
川中のスマホ「うん!」
サンドラのスマホ「センテンス プロスパー!」
サンドラ「お付き合いということはなく、友人関係であることは間違いありません」
深夜。不安そうな顔で、住宅街を歩くサンドラ。道には彼女以外に誰もない。
サンドラ(私はこれから一体、どうなるんだろう……)
サンドラが角を曲がった時……。街灯の下には、喪黒と川中がいる。気まずそうな表情の川中。
サンドラ「も、喪黒さん……!!それに、新ちゃん……!!」
喪黒「サンドラさん……。あなた約束を破りましたね」
サンドラ「なっ……!?」
喪黒「私は言ったはずですよ。川中さんとの恋愛関係が世間に知れ渡ったとしても、正直に振る舞え……と」
「にも関わらず、サンドラさんは記者会見で嘘をつきましたねぇ」
サンドラ「だ、だって……。不倫を正直に認めたら、私は世間から袋叩きにされますよ」
喪黒「略奪愛であっても……。正直な態度を貫けば、メディアもある程度大目に見てくれたでしょうし……」
「あなたたちの恋も実ったでしょうに……」
川中「優香ちゃん、ごめん……。僕、嘘ついてた……」
サンドラ「新ちゃん、どういうこと!?」
喪黒「川中さんは、奥さんと別居も離婚協議もしていませんよ。何しろ、彼の奥さんは現在妊娠中なのですから……」
サンドラ「そんな……。私、新ちゃんに騙されていたんだ……」
川中「何もかも喪黒さんの言う通りだよ……。弁解するつもりはない」
喪黒「まあまあ……。今さら後悔してもどうにもなりません。ですが……、私がお二人に解決策をプレゼントしましょう」
川中・サンドラ「えっ!?」
喪黒「いっそのこと、落ちるところまで落ちるべきなのですよ!!自分に正直な生き方をするために……ね」
喪黒は川中とサンドラに右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
川中「ギャアアアアアアアアア!!!」 サンドラ「キャアアアアアアアアア!!!」
風俗店が並ぶとある歓楽街。週刊誌の記者が、無料案内所で関係者と話をしている。
週刊真実の記者「すいません、私は『週刊真実』の者ですが……。本当に彼女は、この店で働いているんですか?」
案内所関係者「ええ。間違いありません。しかも、彼女の常連客はあいつなんですよ。ほら、あの……」
とある風俗店。店の奥で信じがたい光景を目にし、驚愕した様子になる『週刊真実』の記者。
SMの女王様の衣装を着たサンドラが、全裸になった川中を鞭で叩いている。全身が傷だらけになり、恍惚の表情を浮かべる川中。
サンドラ「この変態豚野郎!!今日も懲りもせず、あたしに調教されに来たのか!!」
川中「はい、女王様……。僕は変態豚野郎です!!だから、もっと僕をぶってください!!」
歓楽街の前にいる喪黒。
喪黒「何はともあれ……。文明の発達で社会が複雑化した以上、人々は誰もが建前と本音を抱えながら生きています」
「建前に縛られて生きるのは何かと窮屈ですし……。かといって、本音のみで生きるのは大いにリスクが伴います」
「だから……。建前と本音を二つ抱え持った上で、両方のバランスを大切にするのが無難な生き方とも言えましょう」
「しかしながら、自分の心はごまかせませんから……。結局、正直な生き方こそが心の健康にいいのかもしれません」
「まぁ、それにしても……。サンドラさんも川中さんも、自分に正直な生き方ができて、楽しそうで何よりです」
「よかったですねぇ……。オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
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- 2018年10月24日 23:48
- ベッキーと川谷か
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