12月に入りクリスマス商戦は真っ盛り。プレゼントの準備をする時期だ。
子どもたちへプレゼントをくれるのはサンタクロースが定番だが、そればかりが世界の伝統という訳ではない。
オランダではサンタクロースの起源ともいわれる聖ニコライが、ロシアでは寒波じいさん(ジェド・マロース)が訪ねてきたりもする。
しかし、サンタをはじめとするこうした存在は、無条件にプレゼントをくれるわけではない。一年間いい子にしていなかった場合には、プレゼントの代わりに石炭や小枝を置いていったりもする。この小枝は、悪さをした罰としてお尻を叩くためのものなのだそうだ。
そして、アイスランドには「悪い子をひと呑みにしてしまう」存在がいるという。その名も「ユール・キャット」。「ユール」とはクリスマスの時季をさす言葉なので、「クリスマスの猫」という意味になる。
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クリスマスプレゼントにはあたたかい服
アイスランドでは、クリスマスに家族で贈りあうプレゼントは、セーターやマフラー、手袋といった「身体をあたたかく保ってくれるもの」が定番だ。
北半球の高緯度地帯にあるこの国では、この時季、身体をあたためるものは必需品である、というのも理由のひとつだろう。だがそれだけではない。
クリスマス・イブに、新しいあたたかい衣服を身につけていないと、ユール・キャットにひと呑みにされてしまうのだ。
19世紀から伝わる伝承
この伝承は、記録に残っている限りでは、19世紀頃からのものであるらしい。当初は、牧畜農場で労働者を働かせるために用いられたとの説もある。
すなわち、羊毛の刈り取りと加工の工程にしっかり従事すれば、農場主から新しい衣服がもらえる。怠けていれば衣服はもらえず、ユール・キャットに食べられるというわけだ。
この話は子どもたちにも教えられ、悪い子はユール・キャットに食べられちゃうよ!ということになったらしい。
また、アイスランドの伝承にはグリラという巨人の女が登場する。グリラは親のいうことを聞かない子どもを攫い、料理して食べてしまうのだ。ユール・キャットは、グリラの飼い猫なのである。
image credit:imgur
ユール・キャットの歌
では、アイスランドの作家・詩人であるヨハネス・ウル・コルトゥムが描き出したユール・キャットを見ていくことにしよう。
ユール・キャットを知ってるだろう
その猫は滅茶苦茶でかかった
誰も知らない、そいつがどこから来て
それからどこへ行ったのかを
でっかく開いたそいつの目は
ふたつともギラギラ光っていたさ
本当に勇気のあるやつだけが
その瞳を覗くことができたのさ
そいつのヒゲは刺のように鋭く
そいつの背中は高くそびえた
毛むくじゃらの足に生えたツメは
見るだに怖ろしいものだった
やつは尻尾を波打たせると
飛び跳ね、ひっかき、シューッといった
時には山の中の谷間で
時には海岸に沿って
image credit:imgur
飢えた悪い猫はうろつきまわった
ユールの凍える雪の中を
家の中では
そいつの名前を聞いてみな震え上がった
あわれな「ニャー」を聞いた人には
すぐに不幸が起こった
みんな知っていた、やつは人を狩った
ネズミを気にかける代わりに
やつが選んだのはかわいそうな人
新しい服が手に入らなかった人
ユールに――骨折って働き
何も持たずに生きていた
やつは一息に取り上げた
ユールのごちそうを全て
そして自分で食っちまった
それができたときには
それだから女たちは
紡ぎ車の前に座って
色とりどりの糸を紡いだ
コートや靴下をこしらえるため
それはやつに
小さな子どもたちを捕まえさせないため
子どもたちには新しい着物を
大人が毎年与えるのだ
ユールの前夜に光がさして
猫がおぼろに現れても
子どもたちは明るく誇らしげに立っていた
新しい着物に身を包み
新しいエプロンをもらった子
新しい靴をもらった子
足りなかった何かをもらった子
――それで全て
新しい服をもらった子は
やつには捕まえられなかった
やつはひどい声を上げて
けれどそのまま去っていった
やつがまだいるのかは知らないが
来てみたところで骨折り損だ
次のときにも誰もがみんな
新しい着物を持っているなら
君たちはいま考えているだろう
どこで助けが必要か、って
おそらく子どもの何人かは
何ももらえずにいることだろう
そんな子どもを捜してごらん
光のささない世界に暮らしている子たちを
そうすればいい日になるだろう
そして素晴らしいユールに!
Bjork - Jolakotturinn - Hvit Er Borg Og Bar - Icelandic Christmas Cat - (1987) - [HD]
References: i iz cat / Wikipedia など / written by K.Y.K. / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
>「ニャー」を聞いた人には
ニャーのせいで恐さが半減するw
2. 匿名処理班
可愛い猫ちゃんならぜひ来てください!
とか思ってた自分がバカでした。
3. 匿名処理班
ウチの猫はユールキャットだったのか‥
時期問わず寝てる俺の胸の上でチャンス伺ってます
4. 匿名処理班
悪いごはいニャーが!
5. 匿名処理班
怖くて悪い猫なのに鳴き声は「ニャー」なんだなw
6. 匿名処理班
不浄猫か
7. 匿名処理班
ユール・キャットって初めて知った
字面だけだと寒いときにモフモフしに来てくれる猫を期待してしまうけど
黒いサンタに近いのね
8. 匿名処理班
クリスマスに物欲にまみれた連中を成敗するにゃ(=^・^=)
9. 匿名処理班
ユールキャットは人を喰らい、ユールゴートは人に燃やされる。ですか
10. 匿名処理班
>>6
新しい服を貰えないほどの悪い子、生きる力のない家庭の子供を排除するという意味では確かに新世界よりの不浄猫らしくもあるな
11. 匿名処理班
なにか温かい唄
12.
13. 匿名処理班
お国が違えばクリスマスも違う、それぞれの年末の過ごし方があって面白いね。私はクリスマスよりお正月の雰囲気のほうが好き。
14. 匿名処理班
詩がカッコいい
15. 匿名処理班
いい子にはサンタさんが来るけど、悪い子にはナマハゲみたいなサンタが来る国もあったな。
16. 匿名処理班
詩を見てると「何も貰えず寒さとユールキャットに怯えて震える子供達に、暖かい服と気持ちをあげよう!」みたいな慈善の歌っぽく聞こえて面白い。
子供一人丸呑みにする猫ってむちゃくちゃでかいけど。
17. 匿名処理班
全然違うけど何故か地球ネコを思い出してしまった。デカイから?