喪黒福造「何なら、私と一緒にツチノコ探しをしてみませんか?」 スポーツ紙記者「望むところですよ」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
川口藤雄(46) スポーツ紙記者
【ツチノコ】
ホーッホッホッホ……。」
テロップ「極東スポーツ新聞社・編集局」
極スポ編集局。オフィスで机に向かい、ノートパソコンを操作する一人の男。
川口(よし……。今回はこの内容で行こう……!)
テロップ「川口藤雄(46) 極東スポーツ記者」
翌朝、発売された極東スポーツの一面は……。
極東スポーツ「衝撃写真公開! 沖縄にカッパ出現」
一面に写るどこかの景色の写真。河原の方の岩には、何かの人影が見える。
これはカッパというよりは……スマホを触っている男性にも見えなくもない。
牽強付会で仰々しい見出しのおかげか、コミカルな雰囲気が紙面から漂う。
ネット掲示板「安定の極スポ」「こういうの好きです」「それでこそ極スポ」「極スポは日付以外は全部誤報」
極東スポーツを買う喪黒福造。喪黒は、極スポの一面の見出しをじっと見つめる。
極東スポーツ「独占写真 UFO大群 東京・西多摩に出現!」
一面に移る青空の写真と、黒っぽい三角形の拡大図の写真。UFOというよりは……戦闘機にも見えなくもない。
不自然で大げさな見出しが、新聞の紙面でたった一つだけ浮いた状態になっている。
喪黒「…………」
どうやら、喪黒はまたしても何かの企みを思いついたようだ。
夜。とある居酒屋。カウンター席に座りながら、客たちとともに酒を飲む川口。川口の隣には、喪黒がいる。
店の奥にある液晶テレビが、オカルトものの番組を放送している。番組で特集されているのは、ツチノコの有無だ。
インタビューに応じる怪しい人間たち。ツチノコがいることを前提に展開されていく番組内容。おどろおどろしいBGM。
客B「ああ、全くだ。ツチノコなんているわけねえだろ」
川口「そんなことはありません!ツチノコは必ずどこかにいますよ!」
きょとんとした顔で、川口を見つめる客A・客B。しばらくした後、2人は爆笑する。
客A・客B「アハハハハ!!」
居酒屋を出て、街を歩く川口と喪黒。喪黒が川口に話しかける。
喪黒「ところで、あなたはツチノコの存在を信じているようですねぇ」
川口「もちろんですよ!ツチノコがいるという情報は、昔から数多くあるじゃないですか!」
喪黒「ほう……。では、ツチノコ以外のUMAとかも存在を信じているのですか?」
川口「そりゃあ、もう……。例えば、カッパとかなら日本のどこかにいるでしょう」
喪黒「なるほど、面白い人ですねぇ。私、あなたに大いに興味を持ちましたよ」
川口「ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私は心を扱うセールスマンです。ボランティアでやっていますから、お金は一銭もいただきません」
川口「聞いたことのないお仕事ですね……。あなたこそ、面白そうな人ですよ」
喪黒「いい店を知っていますから、そこでゆっくり話でもしましょうか」
BAR「魔の巣」。喪黒と川口が席に腰掛けている。
喪黒「なるほど……。あなたがあの極東スポーツの記者だったのですか」
川口「まあ、私も楽しんで一連の仕事をしているのですよ」
喪黒「極スポといえば、これ……」
鞄から大学ノートを取り出す喪黒。大学ノートには、極スポの記事の切り抜きがいくつも貼られている。
「UFO 島根に出現」「長野・佐久高原で宇宙人目撃」「人魚の化石、発掘」「コロボックル写真公開」「茨城にカッパ来襲」
川口「なかなかやりますね……。極スポの記事をここまで集めるなんて……」
喪黒「おそらく、これらの記事を書いたのはあなたでしょう」
川口「そうです。極スポのオカルト記事を今まで担当してきたのは、何を隠そう私なんですよ」
「中でも、私はUMAに対して興味を持っているんです」
喪黒「日本のUMAといえば、何と言ってもツチノコの伝説とかがそうでしょう」
川口「はい。ツチノコは日本各地で目撃証言が相次いでいますし、生き物の特徴に対する具体的情報もあります」
「ここまで数多くの情報が揃ったものを、どうして否定できるんですか!」
喪黒「そうですよ。実は、私もツチノコの存在を信じているんです」
川口「あなたもですか……。何だか、同志に出会った感じさえしますね」
喪黒「私は、ツチノコの姿を実際に目撃しました。だから、ツチノコはいるんだと自ら確信しましたよ」
喪黒「ツチノコは必ずいますよ。何なら、私と一緒にツチノコ探しをしてみませんか?」
川口「望むところですよ。極スポの記事の新たなネタができるかもしれませんからね」
喪黒「場合によっては、本物のツチノコを目にすることだってできますよ」
川口「本物のツチノコ……。この目で見れるといいですね」
岐阜県北白雪村。『ツチノコ博物館』の中にいる喪黒と川口。川口は、首からカメラを下げている。
館内にあるパネルを見つめる喪黒と川口。パネルには、ツチノコの目撃証言が多数書かれている。
喪黒「ほう……。昭和初期からツチノコの目撃証言があったようですねぇ」
川口「1970年代以降のツチノコブームが起きる前から、目撃はあったのでしょう」
「何しろ、日本国内で、特にツチノコの目撃例が多いのがこの地域だそうですから……」
喪黒「だから、私はあなたをここへお連れしたのですよ」
喪黒「ツチノコはもうすぐ現れますよ。後は待つだけです」
川口「一応、ツチノコを捕獲するための罠も作っておきましたからね」
2人から遠く離れた場所では……。金網式のネズミ捕りが、藪の中に隠れている。
ネズミ捕りの中には、スルメと酒の入った徳利が置かれている。
喪黒「ツチノコの好物は、スルメと日本酒だそうですからねぇ」
川口「ツチノコは、髪の毛を焼く臭いも好むそうです。あとは、髪の毛を焼けばいいだけ……」
喪黒「それに関してなら、いい機械がありますよ」
喪黒は、ズボンのポケットから何かを取り出す。板状の機械に、ボタンがいくつか付いたものだ。
川口「何ですか、これ?」
喪黒「ツチノコ発生装置です。この機械を使えば、ツチノコを呼び寄せることが可能なんですよ」
喪黒「はい。ツチノコ発生装置を操作すると、髪の毛を焼く臭いと特殊な音波が発生します」
「この機械から発生する音波は、人間には聞こえずツチノコだけに聞こえる特別なものなのです」
川口「何だか、胡散臭いおもちゃみたいですね……」
喪黒「いいえ。機械の性能は本物です。試しに操作してみましょう」
ツチノコ発生装置を操作する喪黒。
川口「やはり、何も起きなかったみたいですね……」
その時、藪の中から金属音がする。ガシャンッ!!金網式のネズミ捕りの中に、何かの動物が入ったようだ。
喪黒「どうやら、何かの動物が罠に引っ掛かったようですよ」
川口「まさか、そいつがツチノコだとか……」
ネズミ捕りの中を見る喪黒と川口。
川口「こ、こいつは……!!」
焦げ茶色の肉体、膨らんだ胴の部分、30センチメートルほどの全長……。まばたきを始めるこの珍獣。
川口「ツチノコだ!!ツチノコが本当にいる!!」
喪黒「驚くのはまだ早いですよ」
川口「えっ!?」
気がつくと……。喪黒と川口の足元には、別のツチノコが数匹ほど這い回っている。
川口「ツチノコが何匹もいる!!ま、まさか、こんなことが本当に起きるなんて……」
喪黒「川口さん。これは、極スポのいい特ダネ記事になるでしょう」
川口「え、ええ……!!」
慌ててカメラを持ち、ツチノコを撮影する川口。カシャッ!!カシャッ!!
喪黒「…………」
極東スポーツ「決定的写真 ツチノコ発見 岐阜の山中」
川口が撮影したツチノコの写真が、大きめに掲載されている。新聞の一面の大半のスペースを使って――。
BAR「魔の巣」。喪黒と川口が席に腰掛けている。机の上には、極東スポーツの朝刊が置かれている。
喪黒「あのツチノコの写真、とうとう一面トップになりましたねぇ」
川口「まあ、世間では『いつもの極スポ』って扱いですけどね……」
喪黒「でも、ツチノコがいることを、実際に目で確かめることができたわけでしょう」
川口「は、はい……。よりによって、自分がツチノコの目撃者になるとは意外でした」
喪黒「ところで……。私の方から、あなたに渡しておきたいものがあるんですよ」
喪黒は、川口に例の機械――ツチノコ発生装置を渡す。
川口「これは、ツチノコをおびき出すために使った機械……!」
「ツチノコの発見者であるあなたこそ、これを持つべきなのですよ」
川口「ど、どうも……」
ツチノコ発生装置を受け取る川口。
喪黒「そこでですが……。川口さんには約束していただきたいことがあります」
川口「約束!?」
喪黒「はい。ツチノコ発生装置を使えば、いつどんな場所でもツチノコを呼び込めます」
「ただし、この機械を濫用するような真似は絶対いけませんよ。いいですね!?」
川口「わ、分かりました……。喪黒さん」
極東スポーツ編集局。編集局長と川口が会話をする。
編集局長「この間のツチノコの一面記事、なかなか評判がよかったぞ」
川口「ありがとうございます……。編集局長」
川口「は、はい……」
新潟県。川口は山の中にいる。首からカメラを下げ、ツチノコ発生装置を手にした川口。
川口の頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「ただし、この機械を濫用するような真似は絶対いけませんよ」)
川口(でも、この機械を使わなければ、ツチノコをおびき寄せることは不可能……)
(ツチノコの記事を書けば、極スポは売れる。それに、今後もツチノコ特集をやらざるを得ない……)
(だから、俺はやるしかない……)
ツチノコ発生装置を操作する川口。彼の足元に、ツチノコが数匹発生する。カメラでツチノコを撮影する川口。
極東スポーツ「独占スクープ 新潟でツチノコ出現」
ネット掲示板「ソース極スポ」「駅で買います」「昔からの安定感」「ツチノコとUFOは極スポに任せろ」
ネット掲示板「蛇にしてはふっくらしてる」「写真が本物っぽい」「何度も目撃があるってことは……」「まさか本当にいるのか?」
夜。とある大衆食堂屋。客たちに交じり、食事をする川口。店の中にある液晶テレビが、ニュースを報道する。
テレビ「幻の生き物とされていたツチノコが、岐阜県在住の男性によって発見されました」
目を丸くしながら、テレビを見つめる川口。ツチノコを発見した農家の男性が、関係者たちのインタビューに答えている。
川口(岐阜県北白雪村……。俺が訪れた地域だ!一般人がツチノコを見つけたってことは、これから先どうなるんだ……)
ネット掲示板「キタ━━━(゚∀゚)━━━!!」「ツチノコは本当にいた!」「極スポが真実を伝えただと……?」「極スポは正しかった」
極東スポーツ編集局。編集局長と会話する川口。
編集局長「もしかすると、ツチノコの本当の第一発見者はお前じゃないのか?」
川口「いやぁ、私はその……」
編集局長「これからも、ツチノコについてガンガン報道しろ。新聞を売るためにな」
ツチノコに関係した記事を何度も報道する極東スポーツ。駅やコンビニでは、極スポが飛ぶように売れていく。
一方、テレビでは、女性アナウンサーがニュース原稿を読んでいる。
テレビ「日本各地で、ツチノコ探しがブームになっています」
山の中を歩き、ツチノコ探しに熱中する市民。彼らの中には、虫取り網を持った小学生の姿も見える。
夜。川口の自宅。金属製の籠に入ったツチノコを眺める川口。
川口(気が付いたら、俺もツチノコを飼っていた……。こいつは本当に可愛いなぁ)
とある山。いつも通り、川口がツチノコ発生装置を使用しようとした時……。彼の後ろに、聞き慣れた声がする。
喪黒「お待ちなさい!!」
川口が振り向くと、そこには喪黒が立っている。
川口「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私は忠告したはずですよ。ツチノコ発生装置を濫用してはいけない……と。それにも関わらず、あなたは……」
川口「仕方ありませんよ……。この機械を使わなければ、ツチノコをおびき出すことはできませんでしたし……」
「あのころの私は、記事を作るためにやむを得ずこれを使いました」
喪黒「川口さんが機械を濫用したせいで、今では日本各地でツチノコが大量発生するまでに至りましたねぇ」
川口「それの何がいけないんですか!?ツチノコブームが起きて、みんなが楽しんでいるからいいでしょう!」
喪黒「ほう……、それがあなたの答えですか。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は川口に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
川口「ギャアアアアアアアアア!!!」
テレビ「厚生労働省の発表よると……。全国各地で流行しているキタシラユキ熱は、これまでに135人の死者が確認されています」
「キタシラユキ熱は、ウイルス性の熱病の一つであり……。北白雪村で初の感染者が出たことから、命名された伝染病です」
「この病気は、ツチノコから人に感染するとされており……。初期の感染者たちは、ツチノコに手を噛まれたことが共通しています」
「現在のところ、キタシラユキ熱に対する有効な治療薬は確立しておらず……。厚生労働省は今後も注意を呼び掛ける方針です」
隔離病棟の中には、キタシラユキ熱に感染した多くの患者が収容されている。もちろん、極東スポーツ記者の川口もその一人だ。
ベッドに横たわり、高熱にうなされながら苦しむ川口。彼は息も絶え絶えで、朦朧とした表情をしている。
とあるビルの前にいる喪黒。ビルの6階には、極東スポーツ編集局が入居している。
喪黒「UMA(未確認動物)は、生物学的な実在が確認されていないことから……。しばしば誤認や捏造として扱われがちです」
「しかし、ゴリラ、パンダ、カモノハシなどのように……。UMA扱いされながら実在が確認された生き物も少なからずいます」
「地球は広いですし、自然はまだまだ謎が多いですから……。UMAとされる生き物は、どこかにいても不思議ではありません」
「ただ、UMAというものは、あくまでも未発見のままであるからこそ……。人々の想像とロマンを駆り立ててくれるわけです」
「川口藤雄さんが見つけたツチノコも、UMAとしてロマンのままであればよかったのでしょうねぇ。今となっては後の祭りですが……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
元スレ
喪黒福造「何なら、私と一緒にツチノコ探しをしてみませんか?」 スポーツ紙記者「望むところですよ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1543850249/
喪黒福造「何なら、私と一緒にツチノコ探しをしてみませんか?」 スポーツ紙記者「望むところですよ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1543850249/
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