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アメリカの首都、ワシントンD.C.の東にあるチェサピーク湾には、いたるところにブイや昼標、ライト、灯台がある。
いずれも昼夜行き交う船を案内するためのものだ。ときおり灯台に旅行者や写真家が訪れることもあるが、それ以外はただそこにあるだけだ。
ホーランド・アイランド・バー灯台は、一件なんの変哲もない、どこにでもある無人の港の灯台だが、その地味な姿の裏にはミステリーがある。
1930年代、灯台に人が常駐していた時代に事件は起きた。
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ある灯台にまつわる死と謎の過去
チェサピーク湾のケッジズ海峡に浮かぶホーランド・アイランド・バー灯台も大した特徴はなく、いくつかの距離マーカーと、錆びた骨組みに載せるにしては大きすぎるように思える自動式照明があるだけだ。
人間が滅多によりつかないのを知ってのことか、鳥が巣を作ってそこに留まったりするのもいつもの光景だ。
あたりを包む静寂を破るのは、打ち寄せる波の音か、たまに聞こえる鳥の鳴き声くらい。近くを航行する船員は時折目に留まるかもしれないが、それも航路の修正をするまで束の間だけだ。
こうしたなんの変哲もない姿にも関わらず、この灯台には死と謎の過去が存在する。
ホーランド・アイランド・バー灯台は、かつて六角形の木製骨組みを持つスクリューパイル式灯台で、人が常駐していたことがあった。
事件はその頃起きた。
image credit:US Coast Guard
消えていたバー灯台のあかり
その事件は1931年3月11日の夜、付近にあったソロモンズ・ランプ灯台の灯台守ヘンリー・スターリングがケッジズ海峡の西を見渡したときに発覚した。
普段なら、数キロ先にあるバー灯台に明かりが灯り、スターリングの友人でもあった灯台守のウルマン・オーウェンズが見えるはずだ。
2人は米国灯台サービスの従業員で、チェサピーク湾の航海の安全を守るために、灯台の照明が消えないよう管理する仕事をしていた。
ところがその晩、バー灯台は暗くオーウェンズの姿が見えなかった。
事故を予感したスターリングは保安官に無線で通報。翌日、保安官が郡判事と医師を伴ってやってきた。
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灯台で死亡していた灯台守の謎
保安官一行は灯台に接近しながら呼びかけたが返事はない。誰かがそこで何かをしている様子も見当たらなかった。
しかし、バー灯台の所定の場所にはボートが停泊している。オーウェンズはそこにいるはずだ。灯台守が誤って海に転落したのでは?と推測しながら一行はバー灯台に降り立った。
ドアを開くと内部は不気味な静寂に包まれていた。
そこで恐ろしい事実が明らかになる。
ウルマン・オーウェンズが床の上に大の字に倒れていたのだ。部屋は荒らされており、家具や書類がそこかしこに散らばっていた。
あたりには血飛沫が点々と付着しており、オーウェンズのそばには血が付着したナイフが落ちていた。
ところが・・・
医師が遺体を確認したところ、オーウェンズの体には痣(アザ)が1つあるだけで、切創のようなものはない。医師は最終的に、オーウェンズが脳梗塞かなにかの発作を起こしたのではと診断した。
灯台の日誌は、通報があった直前で止まっており、特に手がかりになるようなものはなかった。
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ナイフと血痕の正体は?様々な憶測が流れる
警察の捜査が始まり、やがて事件の噂が広まり始めた。そこに人々の関心をひくミステリーのニオイを嗅ぎつけたメディアはこぞって報道した。
ある新聞は灯台で正体不明の麻薬が発見されたと報じた。
だが、これは誤報であると判明した。
すると今度は、オーウェンズが死んだ晩、灯台の方向から無灯火のまま航行していた謎の船があったと報じられるようになった。
しかしこの船は別の船を牽引していたもので、事件とは無関係であることが明らかになった。
最も支持された噂は、密造酒組織に消された説
こうした噂の中でも一番広まり、いつまでも消えなかったのが、酒の密売人に関するものである。
1931年当時、米国では禁酒法によってアルコールの製造販売が厳しく禁止されていた。そのご時世に、チェサピーク湾はボルチモア、ワシントン、アナポリスへ向けた酒の密輸船が横行していたのである。
必然的に灯台守はそうした船を目撃することも多くなる。オーウェンズがそうした密輸船を沿岸警備隊に報告し、その報復に犯罪組織によって殺害されたのだという推理は、それなりに辻褄のあったものだったのだ。
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捜査局が介入。遺体を掘り起こし解剖し、判明した真相とは?
こうした密造酒組織が関与しているという説が浮上すると、今度は捜査局(のちのFBI)までが捜査に乗り出した。
彼らはまずオーウェンズの遺体を掘り起こし、検死解剖にかけることにした。
彼の家族からその同意をえるために、捜査官は彼が自然死などではなく、事件に巻き込まれた可能性があると吹き込んだ。
もうしそうなら、あなたたち家族には給付金が支払われることになるぞ、と。
こうして行われた検死からは、すでに発見されていたあざ以外に、頭蓋骨が骨折し、さらに心臓まで肥大していたことが判明した。
ここからさらに捜査を進め、いくつかの証言を得た結果、地元警察と捜査局は同じ結論に達した。
――医師が最初に診断した通りの自然死である。
どうやらオーウェンズは心臓発作か何かに見舞われ、苦しみで身悶えしながら部屋をめちゃくちゃにし、あざを作り、頭蓋骨まで骨折してしまったようだった。
では傷がないのに残されていた血飛沫は何であろうか?
おそらくは鼻血だろう。
散々大騒ぎした挙句に、やはり自然死でしたという結論に、遺族は納得いかなかっただろう。だが話はこれで終わらないのだ。
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密造酒売人による暴露?
この事件にはまた別の不穏な事実がある。
同年、灯台から北に数キロ先にあるテイラーズ・アイランドで、酒類取締局の捜査官が大規模な密造酒組織を壊滅させた。
このとき逮捕されたある構成員が、連行される途中で捜査官に対して、「灯台守と同じ目に遭わせてやる……あれは俺たちがやったんだ」とこぼしたというのだ。
捜査官が聞き返すと、冗談だとはぐらかされた。
これに関する証拠はなく、以降、売人は灯台守との関係を否定している――やはり、すっきりしない結末である。
果たして本当に灯台守は自然死だったのだろうか?現代の技術ならすぐにその謎は解けたであろうが、事件は1931年という第二次世界大戦前に起きたものだ。
ホーランド・アイランド・バー灯台のその後
1939年、米国灯台サービスは沿岸警備隊に合併された。なんとその後、1957年にホーランド・アイランド・バー灯台は海軍の攻撃を受けている。
このとき海軍の戦闘機は、灯台から数キロ離れた場所で沈没した船を標的にロケット砲の試射を行なっていた。だが、手違いと夜の暗闇のせいで、パイロットはうっかり灯台に攻撃をしかけてしまう。
幸いにもロケットに爆薬は搭載されておらず、死者や怪我人が出るようなことはなかった。灯台に穴が空き、土台の骨組みが壊れたりはしたが、建物自体が倒壊するようなこともなかった。
1962年、沿岸警備隊は、スクリューパイル式の土台を撤去し、自動式の無人灯台に交換することを決定。
今日、その近くを航行する船乗りたちが、チェサピーク湾に鎮座する小さな無人灯台に注目するようなことはない。
だが、きちんと観察してみれば、今でも当時の名残りである骨組みを見ることができる。
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古い灯台はもうない。だがこの話は語り継がれていくことだろう。
References:Secrets of the Holland Island Bar Light — CHESAPEAKE BAY MAGAZINE/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
鼻血だったら発見された時に鼻から血が流れ出たあとがあって
わかったんじゃないのかな?
2. 匿名処理班
>>1
だから現場に行った医師はスルーしたんじゃない?
ただし、保安官は現場の状況報告書を作成して保安官事務所を統括している上部組織に報告する必要があるから、現場の状況を書いたんじゃないかな
実際に鼻から吹き出した血による血痕はあったんだし
3. 匿名処理班
近隣の灯台守ヘンリー・スターリング
保安官
郡判事
医師
この中に一人だけ、全身黒タイツの男がいたのである。
4. 匿名処理班
そういう時代背景とはいえ、これで事件なら世の中の孤独死は大半が事件になっちゃうよ。
うちの爺さんの場合も髭剃り持ったまま風呂場で死んでて
しかも外傷があったから警察が色々調べたけど結局老衰だったし。
5. 匿名処理班
たった一人で戦ったのかな