【ミリデレ越境】春菜と紗代子と眼鏡と眼鏡
越境ネタ注意。
モバP「え、どれ?」
春菜「あの子ですよあの子! ほら、眼鏡をかけたおさげの!」
モバP「えーっと……。ああ、高山紗代子か」
春菜「プロデューサーさん、知ってるんですか!?」
モバP「ああ。今日の相手だよ。ライブバトルの」
モバP「高山紗代子が」
春菜「だ、誰の?」
モバP「お前の」
春菜「ということは、あの子はアイドル……?」
モバP「そうだ」
春菜「そ、そんな……!」ガックシ
モバP「急にどうした春菜」
モバP「そんなに落ち込むようなことか?」
春菜「そんなにです! 紗代子ちゃんこそ眼鏡アイドル界に舞い降りた新星! きっと私の良き同志となってくれるはずです!」
モバP「…………」
春菜「こうしてはいられません! プロデューサーさん、さっそくご挨拶に伺いましょう!」
モバP「まあ待て待て。とりあえず準備をしてから──」
春菜「何してるんですかプロデューサーさん! 早く行きますよ!」
モバP「……春菜、765プロの控え室は左だ」
高山紗代子「……」
ミリP「紗代子、大丈夫か?」
紗代子「……緊張はしてます。でも、この日のために一生懸命レッスンをしてきました! だから、きっと……」
ミリP「そうだな、紗代子は頑張ってる。相手はアイドルとしては先輩だけど、その努力は絶対に無駄にはならないよ。全力でぶつかってこい!」
紗代子「っ……はい! 今の私の全力、見ていてください!」
ミリP「あれ、誰だろう?」
紗代子「スタッフさんかもしれませんね。私、出ます」
紗代子「はーい」ガチャ
春菜「失礼します!」
紗代子「!?」
ミリP「!?」
紗代子「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」
モバP「おい春菜! 廊下を走るな!」
モバP「……ああ、765さんすみません。ウチの上条が挨拶をすると言って聞かなくて……」
ミリP「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそすみません。我々から伺おうと思っていたんですけど……な、紗代子?」
春菜「素敵な眼鏡ですね! それを選んだポイントとかありますか?」
紗代子「えっと、形と色が好みだったので……」
ミリP「ははは、すっかり話し込んでますね」
モバP「すみません本当に。おい春菜! もう戻るぞ!」
モバP「高山さん引いてるだろ! 迷惑かけんな! もし集中乱してたらどうするつもりだ?」
紗代子「い、いえ! 私は大丈夫です」
モバP「ほら気ぃ遣わせてる。帰るぞ。こっちにも準備があるんだから」ズルズル
春菜「うう……紗代子ちゃん、ライブバトルの後、じっくりお話しましょうねー!」ズルズル
モバP「お前な、かけるなら眼鏡だけにしとけって俺は何度も──」
バタン
ミリP「ああ、噂通りの眼鏡ストだ」
紗代子「め、眼鏡スト……?」
ミリP「そうだ。眼鏡をこよなく愛する眼鏡アイドル、それが上条春菜ちゃんだよ」
紗代子「……そう、なんですね」
ミリP「もちろん油断しちゃ駄目だ。普段とステージでは別人だなんて、よくあることだからな」
紗代子(普段とステージが別人……)ホワンホワンホワン
???『わーいわーい!』
紗代子「……大丈夫です。油断なんてできません」
ミリP「よし、その意気だ!」
???『紗代子ちゃん、がんばってね♪』
モバP「もう一回確認するぞ。今日のライブバトルは『デュオ』。お前と高山が同時にステージに立ち、2曲連続でパフォーマンスする」
春菜「はい。1曲目が『Snow Wings』。そして2曲目が、765プロの『brave HARMONY』ですよね」
モバP「そうだ。いいか春菜、油断はするな。客の印象に残りやすい2曲目は相手の持ち歌だ」
春菜「油断なんてしません。ステージに立つときはいつも真剣です。そうでないとファンの皆さんと眼鏡に失礼ですから」
モバP「それならいい。場数ではお前が勝っているが相手は765だ。新人かどうかは関係ないからな」
モバP「楽しみ、か」
春菜「い、いえ! もちろん気を抜いているわけではなくって……」
モバP「わかってる。眼鏡アイドル2人でどんなステージになるのか、それが楽しみなんだろ?」
春菜「はい。それも、あの偉大な先輩眼鏡アイドルがいる765プロですから! さすがはプロデューサーさん、お見通しですね!」
モバP「お前がわかりやすいだけだ」
春菜「そうですか?」
モバP「……おっと、そうだ春菜。アドバイスをしておこう」
春菜「アドバイスですか? ぜひお願いします!」
春菜「え?」
モバP「高山紗代子を見るな。視界に入れるな。意識を割くな」
春菜「ど、どういうことですか?」
モバP「そして、ステージが終わったらまっすぐ控え室に戻れ。わかったな?」
春菜「そんな、いきなり言われても……」
モバP「……まあ、お前にできるとは思っていない。だけど心の準備はしておけ。期待通りにはならないからな」
『奏でよう、想いをあつめて。大切にあたためてきた日々は』
『お互いの夢、願いを、叶えると、掴もうと、うなずきあった決意』
モバP「高山さんは、逸材ですね」
ミリP「あ、346さん。ありがとうございます」
モバP「まず歌に惹かれますが、ダンスも疎かにしていない。新人の子はどっちつかずになりそうなものですが、堂々としていますね」
ミリP「はい。『妥協はしたくないんです』って聞かなくて。かなり熱心にレッスンに取り組んでいました」
モバP「それでも普通は間に合わないでしょうに。よほど自信があったんですね」
ミリP「いいえ。逆です」
モバP「……逆、ですか」
モバP「なるほど」
ミリP「いえ、違いますね。紗代子はきっと永遠に止まりません。どれだけ努力しようが、どれだけ力をつけようが、『もっとできるはずだ』『もっと頑張れるはずだ』という考えが頭から離れないでしょう」
モバP「……それでは、すぐに潰れてしまいますよ」
ミリP「だからブレーキが必要なんです。紗代子の頑張りを認める存在が」
モバP「それが、あなたですか」
ミリP「ええ。俺や、劇場のみんながそうです」
モバP「……ひとつ、いいですか?」
ミリP「はい?」
モバP「高山さんは、どうして──」
『広い空に、夜空にたったひとつ。なりたいのは、佇んでいる、美しい、大きく輝く月』
『Like a blue moon…』
『Like a blue moon…』
春菜「紗代子ちゃん!」
紗代子「春菜さん。今日は、ありがとうございました」
春菜「…………」
紗代子「その……お客さんの判断はともかく、春菜さんのパフォーマンスは、とても──」
春菜「どうして、どうして眼鏡を外したんですか?」
紗代子「…………」
春菜「お願いします、答えてください」
紗代子「……眼鏡をかけた弱い私が、ファンの皆さんの前に立つわけにはいかないからです」
春菜「眼鏡姿を見られるのが、恥ずかしいということですか」
紗代子「……『恥ずかしい』とは、少し違います」
春菜「それなら、どうして──」
紗代子「!」
春菜「プ、プロデューサーさん……」
モバP「高山さん、悪いね。疲れてるだろうから、早く控え室に戻った方がいい」
紗代子「は、はい……」
モバP「それと、今日のステージはとても良かったよ。俺に言われても嬉しくはないだろうけど」
紗代子「い、いえ! あの……本当に、ありがとうございました。失礼します」タッタッタッタ
モバP「さて、春菜」
春菜「…………」
モバP「帰ろうか」
春菜「……はい」
モバP「春菜。言っておくが悪くはなかったぞ。歌詞も振り付けも完璧だった」
春菜「…………」
モバP「ただまあ、上の空というか、集中できてなかった気はする」
春菜「…………」
モバP「それでも紙一重の勝負だったと思う。自分のパフォーマンスに集中していれば勝ってただろうな。それが今回の反省だ」
春菜「…………」
モバP「なあ春菜。別に慰めるつもりじゃなくて、俺は本気でそう思って──」
春菜「プロデューサーさんは」
モバP「ん?」
モバP「そりゃそうだ。あの765プロの新プロジェクト、そのオーディションを勝ち抜いた1人だ。注目しない理由がない」
春菜「紗代子ちゃんは、ステージで眼鏡を外していました」
モバP「そうだ。高山紗代子はステージで眼鏡をかけない。理由は……」
ミリP『はい?』
モバP『高山さんは、どうして眼鏡を外したんですか?』
ミリP『ああ……。それですか』
モバP『ひどい近視でしょう? 彼女。最前列の観客さえ見えていないのでは?』
ミリP『はい。コンタクトも使う気がないみたいで。こっちはいつもヒヤヒヤしてますよ』
モバP『……理解できません』
ミリP『俺もです』
モバP『なっ……』
ミリP『一度聞きましたが、教えてはもらえませんでした。本人にとっては、これ以上ないほど意味のある行為らしいですけどね』
モバP『……知りたいとは、思わないんですか』
ミリP『思いません。話してくれるまで待ちますよ。そうでないと意味がない気がするんです』
春菜「……ごめんなさい」
モバP「どうした、急に」
春菜「ステージに上がって、紗代子ちゃんが眼鏡をかけていなくて……そこで、プロデューサーさんのアドバイスの意味がわかりました」
モバP「そうか」
春菜「言われた通りにやろうと、思いました」
モバP「でも、できなかった」
春菜「はい……だって、紗代子ちゃんは本当に眼鏡が似合っていて、可愛くて、それなのに……」
モバP「悔しそうだな、春菜」
春菜「……そうです! 私は悔しいんです! 紗代子ちゃんに胸を張ってほしいんです! 紗代子ちゃんに、眼鏡をかけた自分を好きになってもらいたいのに!」
モバP「…………」
モバP「チャンス?」
春菜「2……いえ、1ヶ月後に、紗代子ちゃんにライブバトルを挑ませてください!」
モバP「それで、どうするつもりだ」
春菜「私のパフォーマンスで、紗代子ちゃんを変えてみせます! だから、お願いします!」
モバP「…………」
春菜「…………」
春菜「……はい! そんな人にこそ、私は私の想いを届けたいんです!」
モバP「そうか……」
春菜「…………」
モバP「春奈、お前はひどいやつだよ」
春菜「……はい」
モバP「そして……最高だ!」
春菜「!」
モバP「やってやろうじゃないか! 1ヶ月後、お前の本気を見せてやれ!!」
春菜「……はいっ!! この、眼鏡に誓って!」
ミリP「紗代子、ライブバトルの挑戦が来た」
紗代子「わ、私にですか?」
ミリP「そうだ。期日は1ヶ月後。形式は『デュオ』で、会場はこの前と同じ場所だ」
紗代子「それで、相手は……?」
ミリP「346プロ、上条春菜」
紗代子「…………」
ミリP「あまり驚かないんだな」
紗代子「はい。もう一度ぶつかるような、そんな気はしてましたから」
ミリP「どうする? スケジュールは空いてるけど」
紗代子「……やります。やらせてください!」
ミリP「わかった。先方にもそう言っておくよ」
ミリP「いや。1曲目は346プロの『Nation Blue』だ」
紗代子「!」
ミリP「2曲目はこちらが選ぶけど、俺は『星屑のシンフォニア』を推そうと思っている」
紗代子「あの曲を、一人で……」
ミリP「一度敗けた相手に、1ヶ月後に勝負を挑む。どんな覚悟かは想像もつかないけど、今のままで勝てるとは思わない方がいい」
紗代子「…………」
ミリP「この歌をものにすれば勝てる。そして、紗代子ならそれができると思う。だから選んだんだ」
紗代子「プロデューサー……!」
ミリP「できるか?」
紗代子「はい! 全力で行きます!」
もう少し。もう少しだ。
高山紗代子というアイドルを知ったときから、いつか春菜の壁になると確信していた。実力ではなく精神、その在り方に対しての壁だ。春菜が目指すアイドル像、その究極に至る過程で必ずぶつかる壁だ。
高山紗代子は眼鏡そのものを嫌悪しているわけではないだろう。しかし春菜にとっては同じことだ。眼鏡を「弱さ」として切り捨てるのなら、あいつは黙っていない。
だから意図的にぶつけた。春菜には、ギリギリまで相手が高山紗代子であることを言わなかった。一種の裏切り行為によって、春菜を最大限動揺させるために。そして負けさせるために。
そのとき春菜はどうするか。
あいつは折れない。他のことはともかく、眼鏡のことなら譲らない。悔しさをバネにもっと輝く。必死に羽ばたく。
だからもう少し。もう少しなんだ。
もう少しで、上条春菜は次のステージに辿り着く。それは目先の勝利に比べて遥かに価値があることだ。
『速く、速く、速く。もっと走れるから信じてね』
『願う事の強さ。それが最後のDestination』
モバP「彼女はやっぱり逸材ですね。346の曲をこうも歌いこなすなんて。それともプロデューサーの腕ですか?」
ミリP「まさか。日頃のレッスンの賜物ですよ。頑張ったのは俺じゃなくて紗代子です」
『諦める事なく、前を向いて自分信じてね』
ミリP「今回も勝ちはもらいますよ。紗代子は、たった一度の勝利にあぐらをかくアイドルじゃないですから」
モバP「……春菜は、眼鏡をかけてようやくアイドルでいることができます。眼鏡をかけて、ようやくステージに立っています。自信がないのは高山さんと同じです」
ミリP「そう、だったんですか……」
モバP「その春菜が自分から言ったんです。『もう一度やらせてほしい』『1ヶ月で仕上げてみせる』と。それがどんな意味なのか、わかりますか?」
ミリP「それは……」
モバP「765さん。春菜は勝ちますよ」
ミリP「…………」
『がむしゃら、未来へと。一途な明日へと。信じる力と情熱で走れ』
春菜は歌う。春菜は踊る。広めるために。自分の世界を、理論を、信念を。
紗代子は歌う。紗代子は踊る。引き込むために。自分の世界に、意志に、情熱に。
ぶつかり合う歌と歌。踊りと踊り。過去と過去。意地と意地。
「変えてみせる」と息巻く春菜に「変わるものか」と紗代子が応じる。侵略と魅了。二人の在り方は対照的だ。
『見上げた夜空に、星屑のシャワー』
春菜は紗代子を見ていた。強さを得て鮮明になった視界で、しっかりと。
紗代子は春菜を感じていた。弱さを捨ててぼやけた視界で、はっきりと。
二人の世界にあるのは、もはや互いの姿だけだった。それで良かった。
会場が揺れる。観客が沸く。ファンとアイドルはかけ離れていた。それで良かった。決闘を見守る彼らは、正しく観客だった。
春菜に染められた会場は、紗代子に魅入られた会場は、どこまでもその熱を高めていく。
『もう一度願いをかけて』
──そして、弾けた。
~~
今もそう。学校の課題が手につかない。明日が休みでよかったと思いながら、私はベットに潜り込んだ。
気を抜けば、すぐに今日のステージが頭に浮かぶ。あれだけ努力したけど、やっぱり反省点はたくさんあった。もっとやれた。そんな後悔がずっと消えない。
だけどそれ以上に私の頭を占領する感情がある。それは好奇心。
あのとき、あのステージの上で、私の隣にいたアイドルは、いったいどんな顔をしていたんだろう?
「眼鏡をかけてたら、見えたのかな……」
咄嗟に口をついて出た言葉で、眼鏡をかけたままだったことに気が付く。私は慌てて眼鏡ケースに手を伸ばした。
そして目を閉じる。暗闇に浮かぶのは少女の顔。ぼんやりとしていて、表情は読み取れない。眼鏡をかけていて、そして私を見ていることしかわからない。
意識が完全に闇に落ちるまで、彼女は私から目を逸らさなかった。
渋に投稿した作品を少しだけ手直ししました。
シンデレラガールズより
>>2
上条春菜(18)
>>10
Snow Wings
http://www.youtube.com/watch?v=A-TAIeClhbc
>>25
Nation Blue
http://www.youtube.com/watch?v=buyMnZMESdM
ミリオンライブより
>>5
高山紗代子(17)
>>10
brave HARMONY
http://www.youtube.com/watch?v=K65meAo6u1A
>>25
星屑のシンフォニア
http://www.youtube.com/watch?v=ArkzdJspB4Q
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