喪黒福造「インスタグラムで撮影するために、猫を飼ってみたらどうですか?」 ファッションモデル「私が猫を飼うんですか!?」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
猫本聖羅(19) ファッションモデル
【猫とインスタグラム】
ホーッホッホッホ……。」
彼女に対し、カメラを向ける男性カメラマン。女性モデルとカメラマンを見守るスタッフたち。
カメラマン「それじゃあ、いきますよー」
聖羅「はい」
テロップ「猫本聖羅(19) ファッションモデル」
カメラマンが、聖羅をカメラで撮影する。カシャッ!!
とある大型書店。雑誌コーナーに置かれた女性ファッション雑誌『GLORIA(グロリア)』。
『GLORIA』の表紙には、聖羅の写真が写っている。この前、スタジオで撮影した例の写真が――。
夜。とある居酒屋。店の奥にある液晶テレビには、デジタルカメラのCMに出演する聖羅の姿が映っている。
カウンター席に座り、客たちとともにビールを飲む喪黒福造。喪黒は、テレビに映る聖羅の顔を見つめる。
どうやら、喪黒はまたしても何かの企みを思いついたようだ。
とあるカフェ。聖羅が、友人の女性モデルと一緒にパフェを食べている。
美央「ねぇ、聖羅。あんた、インスタグラム始めたんだってね?」
テロップ「玉川美央(20) ファッションモデル」
聖羅「そうだよ。まだ、やり始めたばかりだからさー……。試行錯誤っていうか……」
美央「最初は誰だってそうだよ。慣れてくれば、インスタも生活の一部になるよ」
聖羅「うん……。でも、できるなら、インスタ映えする題材をスマホで撮りたいよねぇ」
美央「インスタ映え……ね。じゃあ、例えばこのテーブルにあるパフェを撮影するのとか……どう?」
聖羅「あ、そっか!」
スマホでパフェを撮影する聖羅。
聖羅(この魚とか、インスタ映えしそう……。インスタ映え……。インスタ映え……)
次の瞬間、スマホの画面に喪黒の顔が大写しで映る。
喪黒「ばあ」
水槽のガラスに張り付く喪黒。喪黒の顔に、驚く聖羅。彼女は思わず、スマホで喪黒の顔を撮影してしまう。
聖羅「あーーーーっ!!!」
喪黒「どうです!?インスタ映えはバッチリでしょ!?」
聖羅「何てことしてくれたんですか!!おじさん!!」
喪黒「すみません。私は悪気はなかったのですよ。あなたの手助けをしようとしたまでで……」
聖羅「手助け!?わざわざ、私に何のつもりなんですか!?」
喪黒「猫本聖羅さん。あなたは、インスタグラムを始めたばかりでしょう」
「だから、インスタ映えについて、私はあなたにアドバイスがしたいのですよ」
喪黒「いいえ。私はこういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
聖羅「ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」
聖羅「か、変わったお仕事ですね……」
喪黒「いい店を知っていますから、そこでゆっくり話でもしましょうか」
BAR「魔の巣」。喪黒と聖羅が席に腰掛けている。
喪黒「最近、若い世代の間にインスタグラムを利用する人が増えていますねぇ」
聖羅「はい……。喪黒さんもご存じのように、私もインスタを始めたばかりなんですよ」
喪黒「芸能人には、インスタグラムを利用している人はかなりいますからねぇ」
喪黒「それだけじゃあ、ないでしょう」
「芸能人でも実力がある人は、インスタ映えする題材を選ぶテクニックも持ってるんです」
聖羅「……ですよね」
喪黒「ごく自然でありながら、個性的である題材……。インスタ映えする写真には、これが欠かせません」
聖羅「……はい」
喪黒「色の美しさや、おしゃれさもインスタ映えには大事です。あと、写真を撮るために、小物を利用するのもいいでしょう」
聖羅「……なるほど」
喪黒「インスタ映えする題材として、非常に打ってつけのものがごく身近にあります」
聖羅「何ですか、それ?」
喪黒「猫ですよ。2017年に日本で最も人気があったインスタグラムのハッシュタグは、『#猫 / #ねこ』だったんです」
聖羅「猫?」
「猫は人々に人気のある動物ですし、その可愛らしい姿は見る人に癒しを与えてくれます」
聖羅「確かに……」
喪黒「猫本さん。インスタグラムで撮影するために、猫を飼ってみたらどうですか?」
聖羅「私が猫を飼うんですか!?」
喪黒「そうです。あなたが飼い猫の写真をインスタグラムに投稿すれば、労せずして『いいね』がたくさん付きます」
「それにより、猫本さんのインスタグラムは、フォロワーと投稿への『いいね』が増えていく……というわけです」
聖羅「そうですか……」
喪黒「その上……。インスタグラムでフォロワーと『いいね』が増えるおかげで、あなたのファンもさらに増えます」
「まさに、いいことづくめですよ」
聖羅「……分かりました。私、思い切って猫を飼ってみようと思います」
喪黒「そうです!その調子!」
聖羅の母「猫を飼う!?どうしてまた、急にそんなことを……!?」
聖羅「インスタ映えのためだよ。実はさ……」
一連の事情を両親に話す聖羅。
聖羅の母「猫を飼うなんて、反対よ。不衛生だし、扱いに困るじゃん」
聖羅「そんな!!母さん……!!」
聖羅の父「父さんは賛成だね。聖羅が飼いたいと言ってるんだからな」
聖羅「ほら!父さんもそう言ってるんだから、猫を飼おうよ!」
とあるペットショップ。店内にいる聖羅と両親。3人は、ガラスケースの中にいる猫を見つめる。
この猫は耳が立っていて、ふっくらした肉体をしており、足は短めだ。
聖羅「これ、可愛い……」
「愛らしい姿もさることながら、人懐っこくて社交的な子が多いんです」
聖羅の父「そうなんですか……」
店員「大人のマンチカンは賢い性格なので、留守番が得意な猫とも言われてるんですよ」
聖羅「じゃあ、これに決めたっ」
猫本家、聖羅の部屋。スマホで喪黒と通話する聖羅。
聖羅「もしもし、喪黒さん?私、遂に猫を飼いましたよ」
喪黒「ほう……。それにしても、素早く決断してくれましたねぇ」
聖羅「はい。ペットショップに行って、猫を購入してきたんです。これもインスタ映えのためですから……」
喪黒「あなたの飼い猫で、いい写真が撮れるといいですねぇ」
聖羅「ええ。必ず、あの猫でインスタ映えした写真を投稿して見せますよ!」
マットの上に寝転ぶモモ。キャットフードを食べるモモ。聖羅に頭をなでられるモモ。椅子の上にいるモモ。
座布団の上に座るモモ。身体を伸ばしたまま寝そべるモモ。2本足で立った状態のモモ。顔が大写しのモモ。
聖羅(やった!今日も、モモの写真に『いいね』が多く付いている!)
スマホを見つめながら、喜ぶ聖羅。
とある海岸。海を背景に、砂浜の上に立つ聖羅。彼女にカメラを向けるカメラマン。聖羅とカメラマンを見守るスタッフたち。
様々なポーズを決める聖羅。そんな彼女を、カメラマンが数回ほど撮影する。カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ……!!
カメラマン「オッケー!ばっちりだよ!」
撮影を終え、ほっとした表情になる聖羅。
移動中のワンボックスカー。後部座席でスマホを眺める聖羅。
聖羅(私のインスタ、順調にフォロワーが増えてる……。もしかしたら、モモの写真のおかげかもしれない……)
聖羅(よーーし。今日はこういう感じで写真を撮ろう)
スマホでモモを撮影する聖羅。
BAR「魔の巣」。喪黒と聖羅が席に腰掛けている。
喪黒「猫本さん。あなたのインスタグラムに投稿されたモモちゃんの写真、なかなか可愛いですよ」
聖羅「喪黒さんもそう思いますか?モモの写真を投稿すると、いつも『いいね』がいっぱい付くんです!」
喪黒「よかったですねぇ。猫本さん」
聖羅「喪黒さんのおかげですよ。喪黒さんが私に、猫を飼うよう勧めてくださったからです」
喪黒「どういたしまして……。ですがねぇ、私としてはあなたに忠告しておきたいことがあるんですよ」
聖羅「どういうことですか?」
喪黒「これは、私がモモちゃんの写真を見た感想ですが……。今のところ、モモちゃんは大切に飼育されているようです」
喪黒「自分の手で大切に飼育していれば、ペットを心から愛することができるはずです」
「あくまでも、自分の手で世話をした場合の話ですよ」
聖羅「ええ、まあ……」
喪黒「そこでです。猫本さんには、私と約束していただきたいことがあります」
聖羅「約束!?」
喪黒「そうです。あなたが飼育する猫は、モモちゃんの1匹だけにしておいてください」
「それ以外の猫は、絶対に飼ってはいけませんよ。いいですね!?」
聖羅「わ、分かりました……。喪黒さん」
ある夜。猫本家。帰宅した聖羅。彼女を出迎える家政婦の女性。
聖羅「ただいまーー」
家政婦「おかえりなさいませ、お嬢様」
聖羅「ところで、モモの世話はちゃんとやってる?」
聖羅「うん、それならいいよ」
聖羅の部屋。ベッドの上で、モモを抱える聖羅。
聖羅「お前は可愛いねぇ。モモ」
モモ「ニャーーン」
ベッドに寝そべりながら、スマホを操作する聖羅。彼女の側にいるモモ。
聖羅(えーーーと……。私以外の、インスタユーザーによる猫の写真はどうなってるんだろう?)
聖羅のスマホの画面に、猫の写真が次々と映し出される。豊富な猫の種類と、独特な構図の写真ばかりが――。
聖羅(うわぁ~~。みんなの写真、私よりもインスタ映えが抜群じゃん……。しかも、どの猫も個性的だね……)
聖羅の側にいるモモが鳴く。
モモ「ニャーーン」
聖羅(確かに、モモは可愛い……。でも、この子1匹だけではインスタ映えする題材に限度がある)
(だから、私は他の猫も欲しい。それに、他の猫も見ていると可愛さを感じてしまう……)
(そうだ……。私の家は金持ちだし、お父さんは私に甘いから、きっと何とかなるはず……)
聖羅「私、他にも猫を飼いたくなったんだけど……」
聖羅の父「分かったよ。聖羅が猫を飼いたいなら、好きにすればいいさ」
数日後。猫本家。フローリングの上には、モモも含め5匹の猫が寝そべっている。猫たちを見守る聖羅と家政婦。
聖羅「この子たちの世話、しっかりやっておくんだよ」
家政婦「はい」
家の階段を上る聖羅。
聖羅「やったーー!これでインスタ映えする題材にいくらでも恵まれる!」
彼女が自分の部屋に入ると……。室内にあるベッドに、喪黒が座っている。
聖羅「も、喪黒さん!!いつの間に、私の部屋に入り込んでいたんですか!?」
喪黒「やぁ、猫本さん……。あなた約束を破りましたね」
聖羅「なっ……」
「それにも関わらず、あなたはモモちゃん以外にも4匹の猫を飼いましたねぇ」
聖羅「だ、だって……。私にも欲がありますよ!他の種類の猫も使って、インスタ映えした写真を撮りたくなったんです!」
喪黒「インスタ映えを求めるのは結構……。しかし、ペットは飼い主のおもちゃではなく、大切な家族の一員なのですよ」
「まずは、かけがえのない1匹に愛情を注ぐべきではないですか?」
聖羅「え、ええ……。私は猫を大切に飼育していますし……」
喪黒「猫本さん。猫を飼育しているのは、あなたではなくこの家の家政婦さんでしょう」
「自分の手で飼育していないから、たった1匹のモモちゃんを愛せなかったということなのですよ!」
聖羅「そ、そんな……!!」
喪黒「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は聖羅に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
聖羅「キャアアアアアアアアアアア!!!」
光はやがて、はっきりした姿となる。そう……、聖羅が飼っている猫のモモの姿だ。
喪黒「猫本さん。私はそろそろ失礼します」
聖羅の部屋を出る喪黒。部屋のドアが閉まる。バタンッ!!
聖羅「ニャーーン……(え、何これ……)。ニャーーン(何が起きたの?)」
喪黒がいなくなり、部屋にたった1人……いや、たった1匹残された聖羅。
必死に言葉を話そうとする聖羅。しかし……、彼女の口から出てきたのは、どれも猫の鳴き声ばかりだ。
聖羅(何か、部屋がとっても巨大になってる……。まさか、私……)
聖羅の目から見た部屋の光景は、猫の目で見た光景になっている。その時、彼女の部屋のドアが開く。ガチャッ……。
聖羅の部屋に、誰かが入る。そう、聖羅と生き写しのもう1人の自分だ。
聖羅「ニャーーン……(わ、私がもう1人いる……)。ニャーーーン(どういうこと!?)」
モモ「こんにちは、ご主人様。私は、あなたの飼い猫だったモモだよ」
聖羅「ニャーーーン……(な、何だって……)」
モモ「これから私が、人間・猫本聖羅としての人生を謳歌するからね。よろしく」
聖羅「ニャーーーーン(そ、そんなぁ)!!」
猫本邸の前にいる喪黒。
喪黒「昔から、猫は人々の間に根強い人気を持っており……。犬と並んで、人間のペットとして長らく飼われてきました」
「猫の魅力とは、見た目の愛らしさがそうですし……。その鳴き声の心地よさは、人々の心を癒す力を持っています」
「それだけでなく、頭がよくて、飼い主に懐きやすいことも……。猫が持っている魅力の一つと言えるのかもしれません」
「ところで、飼い猫の写真をインスタグラムに投稿するのは結構ですが……。忘れてはならないことがあります。それは……」
「飼い猫はおもちゃではなく、大切な家族だということです。猫の気持ちにもなって考えてみるべきですよ。ねぇ、猫本聖羅さん……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
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喪黒福造「インスタグラムで撮影するために、猫を飼ってみたらどうですか?」 ファッションモデル「私が猫を飼うんですか!?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1544018999/
喪黒福造「インスタグラムで撮影するために、猫を飼ってみたらどうですか?」 ファッションモデル「私が猫を飼うんですか!?」
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コメント一覧 (1)
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- 2018年12月29日 22:53
- 猫本さん「うう……猫にされてからというもの、餌を食べ、冷暖房の効いた部屋で一日中ゴロゴロし。人間になったモモと一緒にテレビや動画を見る毎日……。あれ?むしろ、人間だった頃より気楽じゃね?」
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