【モバマス】速水奏「記憶消失薬」
・速水奏
・宮本フレデリカ
・一ノ瀬志希
備考
・地の文(奏目線)あり
・元ネタあり
以前に見逃した映画がようやく地上波で放映されるということで、私は柄にもなく高揚していた。
時刻は映画が始まる、夜九時十五分になろうかという所。番組前のコマーシャルも、まるで上映前の映画の予告集を見ているかのように思えた。
・・・と、そんな気分でコマーシャルを見ている最中に、思わぬ横槍が入った。
奏 「・・フレちゃん?私、今日は映画を見るって言っていたでしょう?」
私は少なからず不満を胸に抱きながら、突如乱入してきた金髪娘を見上げた。
フレ「まあまあ、これからお楽しみの所だと思うけど、ちょっとフレちゃんの話を聞いてほしいんだ~!」
彼女は強引に喋り出すと、私に口をさしはさむ余地を与えなかった。
アイドルやりながら苦心の末に実験して、研究して・・ついにシキちゃんから貰ったんだ~」
奏 「・・それ、フレちゃん関係ないじゃない。それより・・」
フレ「わかるよカナデちゃん、このスペシャリカでレアデリカな薬はそうそう他の人にあげたりできない・・
ただ、カナデちゃんにならあげてもいいかな~って思ったんだよ~?」
テレビのコマーシャルはちょうど終わろうとしている。
奏 「・・それで、この薬は何に効くのかしら?」
私は早く結論を言わせ、この金髪娘を帰国させようと試みた。
このお薬を飲むと、何とある期間の記憶を消しちゃうことが出来るんだって!」
奏 「記憶を?」
フレ「そーそー。ヒトは色々なことを見たり聞いたりして覚えるよね~。
それを、このお薬を飲むと、自由に消すことが出来るの!」
私は少し興味がわいてきた。映画はすでに始まり、何やら台風のような映像が映っている。
そういう事を、忘れたい時に飲む・・とか、知りたくもないイヤ~な事を知ってしまった時に、とか・・
このお薬は、色々な使い方が出来ると思うんだ~。例えば・・」
私はとうとう、テレビのスイッチを切ってしまった。台風と共に、なぜかサメが飛んでいるように見えた。
フレ「カナデちゃん、映画見るの好きだよね~。記憶を消してもう一度見たい!っていう映画とか、
逆に見たこと自体記憶から消しちゃいたくなる映画とかあるんじゃない?良い映画でも、悪い映画でも、
内容を忘れちゃえるのがこのお薬!見た後にこれを飲むようにすればオールオッケー!
名作映画を何回でも新鮮に楽しめちゃうよ!」
奏 「・・そうね。駄作をもう一度見るはめにならないといいけど・・」
態度には出さないものの、私はすっかり彼女の話に引き込まれていた。
奏 「他の人に?」
フレ「そう、他の人!カナデちゃんって、謎に包まれてる~とか、ミステリアス~がミリョクでしょ?
カナデちゃんが持ってる秘密、知られたら困っちゃうよね!そういう秘密を知られちゃったときに、これを飲ませるの!
秘密は女を・・ナントカって言うし、カナデちゃんにはうってつけのお薬だと思うよ~」
奏 「そうね・・秘密を守るには、いいかもしれないわ・・」
丸薬のような物がたくさん入っているのが、すけて見える。
フレ「この一袋に、一時間用、つまり飲んだ時から一時間前までの記憶を消す薬が百粒入ってるんだって!
いっぱいあるね~、カナデちゃんも見る?」
彼女は袋を開け四、五粒手のひらに取り出し私の方にさし出して見せた。
その時、その中の一粒が彼女の手からすべり落ち、床を転がっていったけれど、
彼女は気がついていないみたいだった。
奏 「これが、その薬なのね・・で、私はこの・・スペシャリカ?な薬を手に入れるのに何の対価を支払えばいいのかしら?」
フレ「んー、何もいらないよ?」
私は彼女の顔を見た。
フレ「ありえなーい、って思ってる?でもでも、これはいつも頑張ってるカナデちゃんへのご褒美だから!
エンリョせずに貰ってほしいな~!」
奏 「ご褒美・・ね。」
そういえば、今日放送の映画も元々はフレデリカと見に行く約束をしていた。
結局多忙を理由にお流れになってしまい、フレデリカに謝った記憶がある。
フレデリカは相変わらずの様子で許してくれたが、それだけでなく映画を見逃した私を内心気遣ってさえいたのかもしれない。
フレ「あっ、そーいえば、このお薬が効くかどうか試してないね。
試用品として三分間の記憶を消すものもあるんだ~。これで実際に試してみれば、納得すると思うよ!」
一人で感慨に浸っていたが、フレデリカの声が現実に引き戻す。
フレデリカの気持ちは受け取るとしても、この薬が本物かはまだわからない。
奏 「試すって・・フレちゃんが飲むのかしら?」
フレ「いやいや~、アタシが飲んで、効いたフリしてもカナデちゃんにはわからないからね~。
カナデちゃんが飲むんだよ~」
奏 「私が?」
フレ「そう!コップにお水を一杯、入れてほしいな」
私は彼女の言葉にひきずられ、コップを取りに行ってしまった。
私に躊躇する暇を与えず、彼女は腕時計を見ながら、早口でいった。
フレ「オッケー?この薬を飲んでから三分で効力が出るよ!今、九時三十分。さ、すぐにそれを飲んじゃって」
私はあわてて、粒を舌の上にのせてしまった。何の味もしなかった。
フレ「ホラ、お水お水」
彼女がせきたてる。私はコップの水をのみ下した・・。
フレ「どうかな?効いたでしょ」
彼女が大きな声を出した。
フレ「たったよ?ホラ見て見て、今九時三十三分だよ」
彼女はそう言って、腕時計を私の方に見せた。
フレ「つまり、薬を飲んだ時から、効き目が出るまでの三分間、カナデちゃんの記憶が消えちゃったってこと!」
どうだ、と言わんばかりに、彼女は私の顔をじっと見つめた。
一時間用も、飲んでから三分で効果が出るからね!」
フレ「それじゃあね、カナデちゃん!多分、二つ飲めば二時間、三つで三時間消えるんじゃないかな?
フレちゃんにはそこまでわからないけどね~♪」
彼女は私に薬の袋を渡し、部屋から出ていこうとした。
奏 「あ、フレちゃん、ちょっと」
私は声をかけた。
奏 「九時三十分からの三分間、私とフレちゃんはどんな話をしていたのかしら?」
彼女は振り向いてウィンクをし、ドアを開けて出て行った。
・・・一体、この薬は本当に効くのかしら。さっきの試用品はたしかにフレデリカの言ったとおりに・・
私は、今の出来事を、もう一度思い返そうとした。その時、また新たな訪問者がやってきた。
今度の訪問者は、志希だった。
奏 「あら、志希じゃない・・フレちゃん?ええ、来たわよ」
志希「ふむふむ。じゃあ、記憶が消える薬・・を、フレちゃんから貰った?」
奏 「ええ、貰ったわよ。また妙な薬を完成させたわね」
志希「にゃはは・・ごめんごめん、実はあの薬、何の効果も無いのだ!」
奏 「えっ?」
最後の段階で成分が相殺されて何の効果も無い薬になっちゃうの。だからアレは未完成ってことで諦めたんだ~、飽きちゃったし!」
志希「そういうわけだから、その薬は処分しよ~って決めたんだけど・・薬が無くなってたから、フレちゃんが持ち出したな?って気づいた!
薬があった棚にフレちゃんの匂いが残ってたし、この薬のことを話したらフレちゃんから興味津々な匂いがしたからね」
奏 「・・そう、あの薬は効果が無いの・・フレちゃん・・フレデリカもそれを知っていたのかしら?」
志希「うん、話したよ」
彼女は施しを与えてくれる天使ではなく、小悪魔だった・・とフレデリカの顔を思い浮かべる。
タチの悪いドッキリ・・と思いかけて、一つの疑問が頭に浮かんできた。
志希「ノンノン。効果のない薬だよ?どういう感じだったの?」
奏 「薬を飲んだら、記憶が消えて、いつの間にか時間が経ってて・・
確か、九時三十分から三十三分までの三分間・・の記憶が無いのよ。時計を見たら、本当に三十三分だったのよ」
志希「ふ~ん・・奏ちゃん、それって、始める時間をちゃんと確認した?」
奏 「・・・。」
本当の時間の経過は分からなかったでしょ?時計が指してる三分前の時間を言っておいて薬を飲ませて、
すぐに時計を見せて、実際に三分経ったみたいに演出する。奏ちゃんに三分間の記憶が無くなったみたいに
思わせたんだよ!言うならフレちゃんドッキリ大成功って感じかな?よく考えたね~、この薬も報われるよ」
奏 「あら・・まったく、小悪魔なんだから・・」
私はこんな会話をしながらも、考えを巡らせていた。志希の話は分かったようで分からない。
もう一度、頭の中で繰り返してみる必要があった。
これをもう一回飲めばわかることだよ~。今回は、ちゃんと始まりの時間を見てね」
私はしばらく黙っていた。そして、さっき飲み残した水が入っているコップを手に取り、
寝室から目覚まし時計を持ってきて、テーブルの上に置いた。
九時五十分、私は志希から薬を受け取り、飲んだ。
私は時計を睨み続けた。志希も珍しく無言だった。時計の針は刻々と動き、ついに九時五十三分を指した。
待っている時間の事を、私は鮮明に覚えていた。私は念のためもう三分待った。
その後も針は動き九時五十六分を指したが、やはり同じことだった。私は志希に薬の入っている袋を渡した。
奏 「全くね・・それにしても、志希にも作れないモノがあるのね・・。
個人的に興味があるから、処分するのも勿体ないわ。できれば完成品を見たいわね」
志希「そうだにゃ~。またあたしの興味が向けば完成する時が来るかも!乞うご期待!」
私は何となく、この薬の行く末が分かった気がした。
奏 「(志希は、あの薬を未完成、効果なしと言っていたけれど・・本当にそうなのかしら。
志希から貰った薬は効かなかったけれど、かといってフレちゃんの持っていた薬も効果の無い
ものだったとは言い切れないわ)」
つまり、記憶消失薬は本当は完成していて、フレデリカが持っていた薬は本物。志希が持っていた薬は
何か適当な粉を入れた、作られた無効果品だったかもしれない。
記憶を消すという物騒な薬を、フレちゃんがこっそり持ち出した。そして、志希がそれに気づいた。
簡単に運用していい薬ではないだけに、薬は効果なしと偽り、薬を回収した・・)」
しかし、これも私の想像に過ぎない。一体どっちが本当なのか?フレデリカが言ったことと、志希が言ったこと・・
私は床の上を探して、それを見つけ出した。
テーブルの上の目覚まし時計は、十時十分を指している。私は、今、薬を飲んだ所。
奏 「(・・・あと三分で、すべてがわかるのね)」
薬が効果の無いものだとすれば、勿論私の記憶は無くならない。
もし本当に効くとすれば、九時十三分から十時十三分までの私の記憶が・・
奏 「・・なんてこと。すると、やっぱり私にとって記憶消失薬は存在しなかったことになるじゃない」
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コメント一覧 (2)
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- 2019年01月11日 20:02
- 本当にそんな薬あるならからくりサーカスの記憶消して最初から読みたい
どうして俺は先にwikiなんか読んじゃったのか…
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