これまで、光速より速く移動できれば理論上はタイムトラブルも可能であるとする研究結果が報告されてきたりもしたのだが、光速移動の方法が問題だった。
SFで人気のあるアイデアは、ブラックホールを別次元や別宇宙へと跳ぶポータルとして使うというものだが、確かにブラックホールを利用すれば光速より速く移動することが可能になるかもしれないという。
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ブラックホール・ポータルを利用したワープ航法
ブラックホールは宇宙でも一番ミステリアスな天体だ。死にゆく星が重力で際限なく潰れ、特異点が形成された結果として誕生する。
このとき、その星の密度は無限大まで圧縮され、それによって時空に穴が穿たれる。れを利用すれば、もしかしたらワープ航法も可能かもしれないという。
つまり特異点の穴を通過して時空をショートカットし、はるか遠方の宇宙へ短時間で到達できる、というのがブラックホール・ポータルの基本コンセプトだ。
だがブラックホールをポータルとして利用しようという宇宙船は、最悪の状況を想定して設計されなければならない、というのが従来の見解だ。
というのも熱く高密度の特異点は、そこに進入した宇宙船をスパゲッティのように引き延ばしたり、圧縮したりしながら、最後は蒸発させてしまうだろうからだ。
ブラックホールを安全な通路として利用できる可能性が
最近、アメリカ・マサチューセッツ・ダートマス大学のガウラフ・カナ教授らによって、すべてのブラックホールが同じような作りではないことが示された。
そして、いて座A*のような巨大でかつ回転しているブラックホールならば、特異点はとても穏やかなものかもしれないという。
つまりブラックホールを安全な通路として利用できるかもしれないということだ。
その研究チームによれば、回転するブラックホール内部の特異点は専門的に見れば”弱い”。そのために、ここに接触した物体を破壊することもない。
一見、このことは直感に反するかもしれない。だが、それはロウソクの炎の部分にさっと指を通すことと似ている。炎は2000度もあるが、指に火傷を負わないのと同じだ。
クーパーは生き残れるか?
大ヒットSF映画『インターステラ』に登場するクーパーは、太陽の1億倍の質量を持つという架空の超大質量ブラックホールであるガルガンチュアに落ちてしまう。
これにインスピレーションを受けたカナ教授が指導するキャロライン・マラリー氏は、彼が本当に生き残れるのか確かめるために、回転する巨大なブラックホールに落ちた宇宙船が受ける物理効果を再現するコンピューターモデルを作り上げた。
その結果判明したのは、どのような条件であっても、回転するブラックホールに落下する物体は、特異点を通過する際、無限に大きな影響は受けないだろうということだ。
それだけでなく、条件が適切ならば、そうした影響は無視できるほど小さくなり、かなり快適な通路となる。実際のところ、落下する物体にははっきり気づくような影響がないかもしれないほどだという。
ブラックホールをワープ航法のポータルとして利用するというアイデアの実現可能性を高めてくれる見解である。
スパゲッティ化現象も軽微
マラリー氏はさらに、これまでならあまり好ましいとは考えられなかっただろうことも発見した。
それは回転するブラックホールの特異点の影響によって、宇宙船の引き延ばしと圧縮というスパゲッティ化現象のサイクルが急速になるということだ。
ところがである。ガルガンチュア級のブラックホールなら、その力は宇宙船のクルーが気づかないほど小さいものかもしれないという。
決定的なのは、こうした効果が際限なく増加したりはしないということだ。ブラックホールに接近する宇宙船にかかるストレスが無限に増加する傾向にあるとしても、その効果は有限の範囲に留まるのだ。
ただしブラックホールが完全に孤立していることが前提
ただし、このシミュレーションを実施するにあたっては、単純化するためにいくつか前提条件が設けられた点に注意しなければならない。
特に重要な前提は、ブラックホールが完全に孤立しており、近隣にある恒星のようなものから撹乱を受けておらず、放射線も浴びていないというものだ。
これによってシミュレーションは容易になるが、実際のところ、ほとんどのブラックホールはチリやガス、放射線といったもので囲まれていることを指摘しておきたい。
それゆえに、今後はマラリーモデルをより現実的なブラックホールに当てはめるとどうなるかという点を検討せねばならない。
こうしたコンピューターシミュレーションによる研究は、ブラックホール物理学の分野ではごく一般的なものだ。
言うまでもなく、それを実験室で再現することはできず、実物に近寄ることだってできない。ゆえに理論やシミュレーションは、ブラックホールを理解するための大切なツールなのである。
この研究論文は『researchgate』に掲載されている。
References:arxiv / inverse/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ほう‥解らんっ!
2. 匿名処理班
加速するのと同じくらい減速するのも大変そう。
3. 匿名処理班
ブラックホールを使って光速を越えた移動をすると言っても太陽系から一番近いブラックホールが3000光年先ですってよ奥さん
4. 匿名処理班
>ただしブラックホールが完全に孤立していることが前提
地球上でブラックホール作ろうって実験どうなったんかな
仮にこの人のいうことが現実味を帯びてきたら、”安全”なブラックホールを探すより
ブラックホールを”作る”方向にシフトするだろうね
5. 匿名処理班
ナンドロメダ星雲!
6. 怒れ、怒れ、消え行く光に
インターステラーでの超次元内のクーパーとシャア…じゃなかった、TARS(吹き替えの中の人がアレなので)の会話が、どうにも頭こんがらがる。
主人公たちを導いたのが、未来の主人公たち自身なら、では原初の主人公たちはどうゆう理由でどうゆう手段でもって超次元へと導かれたのか?
重力と次元を操れるまでに高度に進歩した人類が干渉している的なことも言っていたが、そもそも主人公たちが重力の解のヒントを地球側に伝えていなければ、人類は絶滅していたのではないのか?
貧弱な私のオツムではどうにも理解しきれなかったよ。
まぁでも、あの映画はよかった。好きなSF映画の一つ。
山脈に見えて実は超津波とか、新鮮だった。
7. 匿名処理班
未来に飛べば関係ないじゃん。
8. 匿名処理班
ワープワンで前進!
9. 匿名処理班
元の場所に帰ってこれなさそうだな。それだと実験的にやってみてもちゃんとブラックホールの向こう側に行けたかどうか確かめようもないな
10. 匿名処理班
まず、月に人が住めるようになるまで何年かかるかな?
11. 匿名処理班
その前に、光速を越えるには、光速でBHに突入せんといかんだろ!
12. 匿名処理班
宇宙線A「お前最初にブラックホールは入れよ」
宇宙線B「いや、おまえが」
宇宙線C「いやいや」
13. 匿名処理班
1万年後には今の人類が電車やバスに乗るくらい気軽にワープで移動してるかもしれんね
14. 匿名処理班
これ理論が正しくてもさ
ワープした先を設定できないんだよね
どこに出るのかなんて全然制御できないし
SF映画やアニメではこの事が
完全にぼかされてるけど
事実上ワープ航法なんて
100%意味無いか無理でしょ
15. 匿名処理班
そうですか、確かに、ブラックホールを使って「タイムトラブル」ができたら大変ですよね。
記事本文冒頭2行引用。
「これまで、光速より速く移動できれば理論上はタイムトラブルも可能であるとする研究結果が報告されてきたりもしたのだが、光速移動の方法が問題だった。」
16. 匿名処理班
これは特異点を抜けられるかもというだけで、可能なのは「探査機を送り込めるかも」くらい、データ回収や帰還などその先はわからない。
ワープしたいなら、もしホワイトホールが存在して、ブラックホールに繋がってて、上手くそこを無事に抜けられて、ホワイトホールのエネルギー放射に耐えられて、かつ、その位置と時間経過がわかるなら利用できるかもね(それでも片道なら利用できるか
もわからない)。
いやワープ自体にはすごく期待してる。
この予想だけでは何もわからない。
17. 匿名処理班
仮にカーブラックホールを通過できたとしても、座標の指定はできないからな
地球は自転・公転してるから全く別の座標に飛ばされる、あるいは宇宙空間に放り出されることになるんだぞ?
18. 匿名処理班
※6
卵が先か、鶏が先か。って言うと同じじゃないかな。
地上でも同じ方向にずっと進み続けると地球を1周して出発地点に戻ってくるように、
時空間にもそういうスタートも無ければゴールも無いループ的な事があっても不思議ではないと思う。
19. 匿名処理班
タイムトラベルに成功したら宇宙船の時間が逆行して石油とか鉄鉱石に戻るような気が
20. 匿名処理班
昔は海を進むと世界の端から奈落へ落ちてしまうと本気で信じられてたからな(世界円盤説)。どんなに突拍子もない研究内容でも日頃から「ありえない」だの「無意味」だの言っちゃわないように気を付けてる。
量子コンピューターだって光速を超えて情報が伝わる量子対の原理は解明されてないけれど、既に実用化が始まっている段階。ある意味、情報(物理量)のワープ装置は既に出来ていると言ってもいい。
21. 匿名処理班
光速を超えた宇宙船の時間が逆行して鉄鉱石とか石油になってしまうとかいうオチ
22. 匿名処理班
重力は質量が作り出した時空の歪みであって、ブラックホールがどこか他の場所に繋がっているだとかワープなんてオカルトでしかない。
量子力学では量子が距離に関係なく双方干渉できると言われてるけど、それは量子だけの理論であって、質量のあるものが物理法則を無視してワープできるとは到底思えない。
23. 匿名処理班
>>9
タイムトラベルしてみたいが帰ってこれなかった時は悲惨すぎるよね。戸籍がないとなにもできない。管理されていない時代にタイムトラベルすれば話しは違うのだろうけど、そんな時代に行って怪しまれて殺される可能性だってある。
24. 匿名処理班
仮にこの理論が正しいとして、最寄りの利用できるブラックホールまで何光年かかるんだろ
そもそもどこに出るか、それどころか常に同じ場所から排出されるかの保証もなければ確認も取れないからなんとも言い難い。確認しようにも何万光年先、下手すると何億、もしかすると宇宙の外に吐き出されるのかもしれないからどれだけでも時間がかかる。そのうちに人類滅んでるんじゃなかろうか
25. 匿名処理班
ふーむ、通常のブラックホールに吸い込まれるとスパゲッティになるが、回転するブラックホールに吸い込まれてもスパゲッティにはならないことだけはわかった
26. 匿名処理班
デスクロスで人工ブラックホールを作り出して、ワープするんですね!
27. ナパチャット
理論上可能なら138億年も歴史あるんだから先人の宇宙人がやってるだろ
28. 匿名処理班
行きたいところから、より遠いところについたりしたら意味がない
29. 匿名処理班
アルクビエレドライブの事じゃないのか…
30. 匿名処理班
タイムトラベルっても、移動中に時間が巻き戻るんじゃなくて、老化を止めるって感じでしょ?
31. 匿名処理班
ブラックホールに突っ込むのではなくて、
引っ張る力を使って加速だけする
スイングバイってのは無理なのかな。
32. 匿名処理班
星を継ぐものって小説の最後の方で似たようなワープ航法が出てきたような
33. 匿名処理班
どうなるのか身を以て体験してみたいところではある。無理だけど