【艦これ】秋雲「寒いから部屋に入れてくれないかな?」
~1日目~
鎮守府が消灯時間を迎える。
浜波が就寝準備をしていると、部屋の窓ガラスを軽く叩く音が聞こえた。
浜波「誰……?」
秋雲「もしもし?浜波?」
浜波「秋雲さん……?」
秋雲「いきなり悪いけど、寒いから部屋に入れてくれないかな?」
浜波「え…でも……どうして…急に……」
秋雲「絵のネタを探そうとほっつき歩いてたら消灯時間過ぎちゃって。」
秋雲「宿舎の入口と裏口も鍵かかっちゃったし、窓から入るしかないんだ。」
浜波「わかり……ました……」
見張りの憲兵が巡回する直前に、秋雲は窓から浜波の部屋へ入って行った。
秋雲「危なかったぁ!!あのまま憲兵に連れてかれるかと思ったよ。」
浜波「よかった……です……」
秋雲「折角だし、このままこの部屋で寝てもいい?」
浜波「え……ここ…あたしの……」
秋雲「じゃあ何でベッドが2つもあるの?明らかに誰か来ることを想定してるでしょ?」
浜波「…………わかり…ました……どうぞ…使って………くださぃ……」
秋雲「ありがとう!!」
浜波は部屋の電気を消した。このとき、秋雲の微笑んだ口から舌先が出ていたの浜波は
見ていたが、それを気にすることはなく眠りについた。
~2日目~
秋雲を部屋に入れたその日の夜、浜波は夢を見た。
提督に褒められ、夕雲を始めとする姉妹達からも褒められる夢だった。
朝を迎え、夢から目が覚めると秋雲の姿は無かった。恐らく浜波よりも
一足早く起きて部屋を出たのであろう。
しかし、布団は綺麗に敷かれており、まるで秋雲が使う前の状態と同じに
見えたが、浜波は特に怪しまなかった。
その後はいつものように海域で任務に励み、戦果を挙げた。
そして夢と同じように提督に褒められた。浜波は顔を赤くし、
視線を下に向けたまま何も言えなかった。
時間は経過し、夜を迎えた。浜波は就寝準備の途中で何かに気付く。
ぬいぐるみが無かった。
鳳翔と明石が一緒に作った提督を模したぬいぐるみだ。
浜波は部屋中を隈無く探したが、ぬいぐるみは見つからなかった。
浜波「うっ……ぐずっ………うぅぅ…………うぁぁ………」
部屋の電気を消し、ベッドに入った浜波は大事なぬいぐるみを無くしたことを
悔み、泣きじゃくりながら眠った。
この日も、昨日と同様に窓の外には秋雲が立っていた。
その手にはボロボロのぬいぐるみが握られていた。
~3日目~
この日の夜、浜波は自分の部屋を離れて天龍の部屋に泊まった。
天龍「どうしたんだよ急に。」
浜波「あの……実は……」
浜波は急に、『悪夢』を見るようになったことを自覚し始めたのだ。
浜波「昨日から………あたしの…周りで……おかしいことが………秋雲………」
天龍に昨日の出来事を伝えるが、これらは全て真っ赤な嘘である。
『誰かに魅入られている』という本当の理由を伝えられなかった。
その後、天龍と一緒にベッドへ入ると浜波は考え始めた。
ドアや窓を覆うカーテンのかすかな隙間から除く目のような光、床を横切って滑る影、
睡眠に近づくにつれて吐き出す自分の溜息に紛れる誰かの呼吸音を思い出す。
これらはただの記憶なのか? 否、これらは浜波が見た悪夢の名残である。
翌朝、天龍は頭痛を訴えたがそれ以外には何もなかった。
~4日目~
この日、非番だった浜波は来るべき夜に備え準備を急いだ。
部屋の入り口前に1人が寝られる分のソファを置き、その上に自分のベッドから
持ってきた枕と布団を置いて、簡易型のベッドを作ったのである。
更に工廠から自衛用にシャベルを持ってきた。
夜を迎えると浜波は自分の部屋のベッドではなく、部屋の入り口前に
置いたソファの上で寝ていた。近くにはシャベルが立てられている。
他の艦娘達からは変な目で見られたが、本人に気にする余裕は無かった。
外は風が強く、雨が降っていた。
時計が深夜を迎えると、『それ』はやって来た。
浜波「き……来てる………」
足音、打音、囁き、しかしこれらは浜波の想像に過ぎなかった。
ひょっとしたらただの風かもしれない。
音は全て浜波の部屋から聞こえた。この時浜波はあることに気付いた。
浜波「あっ………窓………」
浜波は飛び起き、これまでの行動を振り返る。
自分の部屋を意図的に避けるために部屋の電気は豆電球の夜間照明のみにし、
ドアの鍵は外から閉めたが窓の鍵は開けっ放しだったのだ。
こうしている内にも、音は次々と部屋の中から聞こえてくる。
浜波は布団を握って震えていた。今ここで何をすべきなのか、ドアを開けて
真相を確かめるか、それとも逃げるか。
しかし、部屋から聞こえた音がただの幻覚で窓が閉まっていたらどうだろうか。
心の弱い浜波にとっては、それこそ更なる恐怖を呼び起こしてしまうだろう。
数分の沈黙が続いた後、浜波はドアを開けて確かめることを選んだ。
内心は知ろうとしつつも怯えていたが、訳の分からない恐怖に殺されるよりは
まだましだった。
ゆっくりとドアに近づき、鍵穴に鍵を差し込む。大きな音を出さないよう、慎重に
鍵を開けた。そのまま躊躇せずにゆっくりとドアを開けると、風が自分の顔に当たった。
豆電球の夜間照明が暗い闇を照らし、部屋の様子を映し出す。
部屋の窓は開いていた。風で雨が部屋の中に降り注ぎ、床を濡らしている。
濡れた床には葉っぱや小さな枝が散らばっていた。これは窓の外のすぐ近くにある樹木の物であろう。
散らばってる量からして、かなり時間が経っていることが分かった。
しかし、浜波の視線は別の物を捉えていた。2つ並んだ自分のベッドである。
1つは枕も布団も無い自分がよく使うベッド。もう1つは枕と布団が敷かれたベッド。
浜波は枕と布団が敷かれたベッドを見て言葉を失った。布団は膨らみ、呼吸をするかのように動いていた。
浜波「あ………あぁ…………」
布団の中の『存在』に気付いた浜波は立ち尽くしてしまった。口から声を漏らしてしまったが、幸いにも
風と雨の音に掻き消された。布団の中の『存在』も、浜波が近くにいることに気付いていなかった。
浜波は部屋を出てゆっくりとドアを閉めた。部屋を出た後はシャベルを置き、ソファに戻り布団を被った。
布団の中の『存在』のことを気に掛けながら、そのまま眠りについた。
~5日目~
浜波は宿舎の廊下で夜を過ごした。提督や他の艦娘達からそのことについて色々と聞かれたが、浜波は
『部屋に強盗が来た』という嘘の証言で乗り切った。
その後、憲兵隊によって部屋の詮索が行われたが何も手掛かりは得られずに終わった。
詮索が終わった後、浜波は2日振りに自分の部屋での生活に戻った。ベッドには特に変わった所は無い。
提督「浜波、最近疲れているんだろう?しばらく休め。」
浜波「うぅ…………はい………」
しばらく休むよう言われた浜波は、いつもの制服から私服に着替えようとしていた。
どの服を着るか迷う中、気になる物を見つける。古くなった夕雲型の制服だった。
何故かこの制服だけが汚れている。浜波は汚れを凝視していると、それの正体に気付いて顔を青ざめた。
シャツの汚れは埃や泥ではなく、乾いた血だった。その汚れは、まるで幾つもの手形が重なったようにも見えた。
夜になると、浜波は工廠に忍び込み、バーナーから飛び散る火花を利用して汚れた制服に火をつけた。
その後、制服の袖についた火が全体に広がる前に鎮守府から少し離れた草木の無い場所に捨ててその場を後にした。
天龍「浜波の奴、最近変だな………一昨日の夜なんか小さい声で秋雲とか言ってたし。」
天龍「今度機会があったら聞いてみるか……」
~6日目~
この日の夜、浜波は極度の眠気に襲われつつも、窓から目を逸らすことを拒んだ。
窓の外には秋雲が立っている。手には黒焦げになった制服の袖が握られていた。
浜波は、秋雲が窓ガラスを軽く叩きながら『寒いから部屋に入れてくれないかな?』と言うことを予想していた。
互いにガラス越しで見つめ合う中、浜波は別のことを考えていた。
最初に秋雲を部屋に入れた次の日の夜に見た悪夢と何か関係があるのか、
一昨日の夜に部屋のベッドにいたのは秋雲なのか。
疑心暗鬼に近い感情を抱きながら秋雲を見つめ続けた。
眠気を押し殺し、凝視対決という地味な戦いは夜明けまで続いた。
太陽が昇り始めると、秋雲は諦めたような顔をしてどこかへ行ってしまった。
浜波は安心しきっていると、押し殺していた眠気が一気に襲い掛かりその場で眠ってしまった。
天龍「正直に答えろ。毎晩毎晩、浜波に何をしてるんだ。」
秋雲「え?何もしてないよ。」
~7日目~
憲兵隊により鎮守府から17m離れた位置に焼け焦げた夕雲型の制服が発見された。
浜波は提督や他の艦娘達からまたしても色々と聞かれた。焦げた制服の件の他にも、浜波が睡眠障害に
なった原因を聞かれたり、秋雲に対し敵意を持っているとして疑いをかけられたりもしたが、再び嘘で乗り切ろうとした。
浜波自身が望むとするなら、他の鎮守府への転属であろう。この部屋から離れられれば、
あの悪夢とはおさらばできるのだ。
しかし、提督は他の鎮守府への転属命令を出さなかった。
浜波は、この問題について天龍が提督に相談していたことを確信していたが、当分の間は秋雲との
凝視対決に苦しむことを強いられた。
夜になると、窓ガラスを軽く叩く音が部屋に響く。
視線を窓に向けると秋雲の姿が見える。秋雲の目はいつもより大きく見えた。
浜波は今までと違い、目を逸らしてしまった。
その直後、
秋雲「寒いから部屋に入れてくれないかな?」
あの日の夜と同じことを言った。
浜波は窓下の壁に頭を押し付け、
浜波「お願い……もうやめて………怖いよ……怖い怖い怖い怖い………助けて……」
秋雲は窓ガラスを叩き続けた。浜波はその音を聞かないようにしていたが、叩く音がする度に精神的な苦痛が
全身に伝わり、夜明けまでもがき苦しんだ。
~8日目~
この日の夜、浜波は昨日の夜と4日前の夜を比較してあることに気付いた。
・あの『存在』は幽霊ではなく実体である。
・窓からしか侵入できない。
・鍵や窓ガラスを壊すと言った破壊行為は一切行わない。
この3つの点を基に対策を練り、明日の夜に方を付けるという決断に至った。
勇敢な決断に思えたかもしれないが、実際は怖がっていた。
そして時刻が深夜を過ぎる頃、窓の外に秋雲が姿を現した。
浜波は眠らなかった。視線を窓の外の秋雲に向け、集点を合わせた。
秋雲は微笑み、舌舐めずりをしながら浜波を見ていた。
~9日目~
浜波は窓を開け、太陽が沈むのを待った。
やがて夜になり、時刻が23時を過ぎると行動を開始した。
調理場に忍び込み、錆びていない新品の包丁を持ち出した。
この包丁は以前のシャベルとは違い、自衛用ではない。
途中で停電時用の蝋燭とマッチを見つけ、灯り代わりに使うことにした。
ドアの前で待つこと数十分、時刻が深夜を過ぎた。
浜波は蝋燭を左手に、包丁を右手に持っている。
ドアをゆっくりと開け、部屋の中を確かめる。
例の『存在』は再びベッドに横たわっていた。布団を被り、熟睡しているようだった。
床に蝋燭を置くと コトッ と音が鳴った。予想外の音に思わず凍り付くが、『存在』が
起きる気配は無かった。浜波は安堵の溜息をついた。
その後は、気を引き締めながら『存在』が寝ているベッドへ慎重に近づくと、
『存在』は寝相悪く動いた。
浜波はこれに驚き、
包 丁 を 落 と し て し ま っ た 。
浜波「あっ!!!」
思わず声を出し、その後すぐに両手で口を覆ったが既に遅かった。
目を覚ました『存在』は近くに浜波がいることを感じ取り、布団から姿を現した。
その姿は『秋雲』だったが、手足の動きはぎくしゃくし、背中や腰を曲げてブリッジの姿勢になり、
頭を痙攣させながら辺りを見渡している。
更には唸り声をあげた。
浜波「いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
不気味な怪物に変わり果てた秋雲を前に、浜波は出したことのない大声で叫んだ。
ベッドから飛び降りた怪物は床だけでなく、壁や天井を蜘蛛のように走り回った。
怪物になったとはいえ、その姿は秋雲の面影を残していた。
顔はいつもの秋雲の顔だ。しかし、首は不自然な角度に曲がっている。
ブリッジの姿勢なのに、頭は逆さまになっていないのだ。頭は正面から見て反時計回りに持ち上がり、
真上から少し右にずれた位置に移動していたのだ。
遂には顔も変わってしまった。
口は不気味な笑みを浮かべた途端に首の根元まで裂け、両目は腐敗ガスが溜まったかのように
肥大し、カメレオンのように不揃いな動きを見せた。
裂けた口を開けると、長い舌が垂れ下がるように出てきた。
天龍「どうした浜波!!!??」
浜波の叫び声を聞いた天龍は刀を片手に持ち、部屋へ駆けつけた。
その右目に映った光景は、腰を抜かして後退りする浜波をじりじりと追い詰める怪物の姿だった。
天龍「何だよこれ!!?」
天龍の目は恐怖と混乱に染まった。
直後、怪物は首の角度を戻し、腕に力を入れてブリッジから直立状態に移行した。
その顔はもはや秋雲の面影は無かった。
首の根元まで裂けた口、肥大化した両目。垂れ下がる長い舌。
あの悪夢以降、浜波を苦しめ続けた怪物の姿だった。
天龍「クソッ!!!!」
手に持った刀で斬りかかるが、怪物の長い舌が天龍の片足を捕らえた。
舌はそのまま足を引っ張り、天龍は仰向けに転倒してしまう。
怪物は腹這いの四足歩行で天龍に迫った。
首の根元まで裂けた口を大きく開け、天龍の頭を喰らおうと距離を縮めた。
天龍「…………これでも食ってろ!!!」
天龍は何かを拾い、怪物の右目に突き刺した。
怪物は叫び声を上げ、もがき苦しむ。
浜波「あ…………蝋燭………」
蝋燭の火が右目から頭、やがて全身へとありえない早さで広がり、怪物は火だるまと化した。
怪物は断末魔のような叫び声を上げ続ける。その叫び声は、秋雲の声と不気味な声が
重なってるように聞こえた。
大淀「1階の部屋で火災発生!!!」
提督「何だと!!?すぐに消火活動に移れ!!!!」
艦娘達の消火活動により、火は鎮火された。提督は火事現場の浜波の部屋へ入ると、そこには…
状況整理が追い付かず、頭を抱える天龍。
部屋の隅でうずくまり、涙と鼻水で顔がグチャグチャな浜波。
そして消火されて残った火災跡には、
焼 け 焦 げ た 人 骨 が 転 が っ て い た 。
~それから~
あの一夜事件の真相を巡って憲兵隊による鎮守府周囲の詮索が行われたが、またしても
手掛かりは得られず、この鎮守府に所属する秋雲本人に尋問するも、浜波や天龍が言う
『怪物化した秋雲』については終始困惑しており、『あの人骨も知らない』と語った。
結果、この事件は未解決となった。
焼け焦げた人骨は鎮守府から遠く離れた太平洋の海に散骨された。
あの一夜以降、浜波は精神的に負担がかかっていたため、暫くの間は提督と同じ部屋で過ごすことになった。
夜になると窓の鍵やカーテンを必ず閉めるようになってしまい、暑い夏の夜でもお構いなしだ。
更に、『あの部屋には2度と入らない』と誓い、かつての自分の部屋を避けるようになった。
事件から数週間後、浜波は本物の秋雲と定期的なやり取りをするようになったが、顔を合わせて
話すのには数ヶ月もかかった。
秋雲が微笑むたびに、浜波は顔を青ざめた。あの怪物の笑った顔が今でも頭の中を過ぎるからだ。
事件から1年後、新しい艦娘が着任した。
その艦娘はかつて浜波が使っていたあの部屋に住むことになった。
夜になって就寝準備をしていると、窓ガラスを軽く叩く音が聞こえた。
同時にガラス越しで声も聞こえた。
「寒いから部屋に入れてくれないかな?」
http://livedoor.blogimg.jp/hatima/imgs/f/8/f836d420.jpg
終わり………?
これで終わりです。
コミュ障な浜波を主役に書きました。
ちなみに元ネタは某海外馬アニメの二次創作です。
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-
- 2019年02月17日 00:01
- こえーよ
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