【モバマス】あの歌が聞こえる
○白菊ほたる「あの歌を歌う」
アイドルを目指して鳥取から出てきて、どれぐらいになるでしょう。
アイドルを目指す夢はまだ果たせないままだけど、東京での暮らしが長くなるうちに、私――白菊ほたるの生活には、いくつもの習慣ができました。
夜明け前の、人があまり居ない時間にランニングをすること。
学校帰り、川沿いの高架下で発生練習をすること。
少し無理して買った姿見の前で、笑顔を作る練習をすること。
――そして辛いとき、公園に行くこと。
その公園は、私がお世話になっている下宿の最寄り駅近くにあります。
少しの遊具と緑、そしてベンチがあるだけの、何の変哲もない公園。
鳥取を思い出す山茶花の影に隠れた、誰も座らないベンチが私の指定席。
つらい気持ちがあふれそうになって、私は今日もこのベンチに腰掛けて、じっと目を閉じるのです。
アイドルになるのに苦労があることも、自分の不幸も、覚悟していたことでした。
――だけど。
『いやよ。私、ほたると一緒なら現場に行かない』
今朝がた、事務所で言われた言葉を思い出します。
事務所の稼ぎ頭、明るい笑顔とトークが売りの先輩。
バーターとして私も一緒に先輩の出る番組に出してもらうことになった、とプロデューサーさんから説明を受けたとき、先輩は私を睨んで、はっきりとそういったのです。
とても、冷たい目でした。
最初はそうじゃなかったんです。
先輩はとても明るい人で、面倒見が良くて。
自分も地方出身だからって、何度もオーディションに落ちたからって、私にとても親切にしてくれて――
だけど、それは変わってしまいました。
私のまわりには、不幸があります。
それはじわじわと身体に染み入る冬の冷気みたいに、少しづつまとわりついて、やがて人を締め上げていくのです。
小さな予定のすれ違い、なんてことないトラブル。
最初は気にしないといってくれた先輩の笑顔が、トラブルが続くうち、そして先輩自身や先輩の知人にまで考えられないような不運に見舞われるうちに変わっていくのを、私は何も出来ないまま、見ていました。
――苦労も、不幸も、覚悟していたことでした。
だけど、これにだけはいつまでも慣れることができません。
優しい人、親しくしてくれた人、友達で居たいと思った人――
そんな人たちが私の不幸で傷つき、やがて私を恐れ嫌うようになってしまうことには。
嫌いにならないでって。
謝るから一緒に居てって、何度言おうとしたか解りません。
だけど、その資格が自分にはないことも、原因が私にあることも、身に沁みて解っていたから。
私はいつも、伸ばそうとした手を力なく下げたまま、ただ『すみません』としか言えないでいたのです。
……明日は、お仕事です。
先輩のバーターだけど、初めてのお仕事。
アイドルとして初めて、ちゃんと現場に向うところまでたどり着いたお仕事です。
でも、明日、先輩は来てくれるでしょうか。
仕事は、うまく行くのでしょうか。
いえ、そもそも、こんなふうな私が、アイドルになることなんてできるのでしょうか。
そんな不安がぐるぐると回り始めると、私はきまってちいさく歌を歌います。
それは、前のプロダクションでいただいた歌でした。
私を、幸せにしてくれた歌。
そして、私が不幸にしてしまった歌。
『ほたる。お前の歌ができたぞ』
プロダクションの社長さんは、ハンチング帽がトレードマークでした。
恐い顔をしているけど、いつも私を気にかけてくれる人でした。
その社長さんが珍しく笑顔でそういってくれた日を、私は今でもよく覚えています。
楽譜を枕元に置いて寝て、毎日毎日テープを聞いて。
自分の歌が出来るんだ。
本当にアイドルになれるんだ!
夢がかなうことが信じられなくて、でも舞い上がるほど楽しくて。
友達は、明るくなったねって言ってくれて、プロダクションのみんなも応援してくれて。
いつもは厳しい先輩も、頑張ったねって言ってくれて――
プロダクションが倒産したのは、そんな時。
レコーディング当日のことでした。
『お前の不幸とやらのせいで、俺のプロダクションは倒産だ!!』
赤い札だらけの事務所で、社長さんが言ったその言葉が、今でも胸に刺さっているような気がします。
不幸にしてしまった人たち。
この歌も、私が歌うことになったばかりに、世に出る機会を失ってしまいました。
私が、不幸にしてしまったんです。
だけど――ああ、だけど、この歌は本当に素敵な歌なんです。
誰かにこのメロディを聞いてもらいたかった。
だれかにこの歌詞に共感してほしかった。
この歌を、みんなに届けたかった――
そんな思いが、くじけそうになった私の心を押してくれます。
もう一度やるんだって。
きっと今度は、ちゃんと歌を届けられるようになるんだって。
――空が、夕焼けに染まっていきます。
誰にも聞かれない歌が、赤い空に静かに消えていきました――
○高森藍子「あの歌が聞こえる」
私、高森藍子は散歩が大好きです。
お気に入りの景色を眺めてゆったりと歩くひとときも、知らない角を曲がって知らない景色を見るどきどきも、私にとってはなくてはならないものなのです。
それは、アイドルの卵になってからも同じこと。
同じ東京でもお世話になっている事務所は家から離れた場所で、近所には知らない景色が沢山ありました。
だからむしろ、お散歩の機会は増えたかも知れません。
今日も収録で遅くなってしまいましたけど、この間見つけた公園を是非覗いてみたくて。
寒さに負けないように少し厚着して、遅い時間のお散歩に出てしまいました。
町は夕暮れ、刻々と色と角度を変えていく陽射しが、町の印象をどんどん変えていきます。
目当ての公園は、事務所の最寄り駅のすぐ傍にありました。
仕事を終えて駅に向う人たちにとって公園はただの近道なのでしょう、公園の景色に目もくれず、足早に通り過ぎてしまいます。
私は公園を覗いてみて、そのことを少しもったいなく思いました。
遊具や道の傍に植えられた木々も花壇も、とても丁寧に手入れされていました。
もしかしたら、誰かがいつもお手入れをしているのではないでしょうか。
どの木々も、花も生き生きとしていて、遊具で遊ぶ可愛い子供達の声が聞こえて――
脚を止めてこの光景を少し眺めたら、きっと心が安らぐのに。
勝手にそんなことを考えてしまうのです。
私はちっちゃなカメラを片手に公園を歩きます。
――あの歌が聞こえてきたのは、夕日を浴びて照り映える山茶花の葉を写真に収めようとしていたときでした。
聞いたことの無い、歌でした。
私はファインダーから目を離して、あたりを見渡します。
ベンチに座って俯いた、黒髪の女の子を見つけるのに、そんなに時間はかかりませんでした。
聞いたことの無いその歌は、その子が唄っていたのです。
上手だな、と思いました。
――高森藍子はアイドルの卵です。
今はたくさんのレッスンをして、デビューに備えているところ。
ボイスレッスンだって何度もなんども重ねて、いままで漠然とやってきた「唄う」ってことが実はどれほど難しいのか、思い知っているところなんです。
その子がたくさくたくさんレッスンを積み重ねたであろうこと。
この歌をどれほど練習してきたのかが、よくわかってしまうのです。
それに、その歌はとても、耳に残りました。
悲しい調子の、恋の歌です。
その歌に乗って女の子の中から悲しみが溢れてくるみたい。
歌の悲しさ以上にそれに乗った心情の濃さに縫いとめられて、私は動けなくなってしまいました。
私は、あれほど悲しそうに恋の歌を歌う女の子を、見たことがありませんでした。
――放っておけない気がして、声をかけようとして。
私が一歩踏み出すのと、その子が暗い顔で立ち上がって歩き出すのが、同時でした。
その後姿が、誰かが傍にいることを拒むような暗い影を背負っているように思えて、私はそれを追うことが出来ませんでした。
呆然と女の子を見送って、私は少し、震えました。
何故でしょう、とてもとても、寒かったのです
まるで女の子の歌と冬の寒さ、両方が私を冷やしてしまったみたいでした――
◇
短いお散歩ではあったけど、出てよかった、と思います。
公園は素敵で、こんな可愛いカフェも見つけて。
そして、公園では――
あの子の顔を思い出して、カメラから目を上げます。
あの子は、どうしているでしょう。
どうして、あんなに悲しそうだったのでしょう。
それに、あの歌は――
私はふと、あの歌を口ずさみました。
よほど印象に残っていたのか、歌はすらすらと出てきました。
悲しいけど、素敵な恋の歌でした。
だけど。
――がしゃん!!
瀬戸物が割れる音がして、私は歌を止めました。
さっきの店員さんが、カフェオレを載せたトレーを取り落として、呆然とした顔をしていました。
「その歌は」
震えるような声でした。
「さっき、公園で聞いたんです」
何故あの歌を知っているのか、あの子とこの店員さんにどういう関係があるのか。
そんなことは、解りません。
だけど店員さんのまなざしは真剣で、ごまかしてはいけないことだと解りました。
私は出来るだけ落ち着いた口調で、答えます。
「公園。西口の?」
「はい、西口の。山茶花のそばで、黒髪の女の子が歌っていて、それが印象的で――」
会話はそこまででした。
店員さんが、店を駆け出してしまったからです。
○カフェの店員「あの歌が聞こえない」
駆け出してどうしようと言うんだろう。
今からもう一度会ってどうしようって言うんだろう。
そんな事をちゃんと考える前に、私はカフェを駆け出していた。
公園まで全力疾走。
そして――
そこには、白菊ほたるは居なかった。
耳を澄ます。
あの歌は、聞こえなかった。
私は息をついてしゃがみこんだ。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
白菊ほたる、白菊ほたる。
忘れようとしてきたことだった。
忘れかけていたことだった。
――あの事務所に居たころから、まだ半年も経ってない。
あの事務所に居たころ、私はアイドルで。
あの子、白菊ほたるは社長が拾ってきたアイドルの卵だった。
正直頼りない子だった。
私は正直、人当たりがいいほうじゃない。
気弱なあの子には、それがキツかったのかも知れない。
だけど、あの子は諦めることを知らなかった。
あやまりながら、おどおどしながら、それでもトレーナーや私の言うことに喰らい付いてきた。
それが可愛くなかったと言ったら、嘘だ。
あの子があの歌を貰って、デビューが迫ったことを喜ばなかったといえば、嘘だ。
だけど、プロダクションが潰れて全てが変わった。
あいつの不幸のせいで潰れたのだと、社長は怒鳴り散らした。
私たちは自分たちが所属していたプロダクションが借金まみれだったことを今更に知った。
埋まっていたはずのスケジュール、アイドルとして成功する夢。
そんなものがいきなり断たれた。
白菊ほたるは、ごめんなさい、と何度も謝っていた。
――だけど、それを受け入れる余裕は、その時の私たちにはなかった。
登っていたと思った階段がいきなりくずれて投げ出される。
事務所に連日沢山の人がやってきて、今まで聞かなかったような罵詈雑言が飛び交う。
私たちが明日どうなるのか解らない。
ほたるの不幸で、皆多かれ少なかれ、痛い思いをしていた。
心がささくれる日々の中、追求が社長とほたるに向くのはある意味、当然だった。
そして、プロダクションは無くなった。
私たちは放り出された。
私はアイドルを続けようとして――できなかった。
プロダクションの経営実態が明らかになって、報道されて。
そういう状況で私たちを拾おうという事務所は、どこにもなかったのだ
だけど、ダメだった。
何度も断られた。
私はアイドルとして活動実績があったから、倒産に関してマスコミから面白半分の取材が来るようになった。
色々な噂も立った。
私の中の、アイドルを続けたいという思いが、ぽっきり折れた。
社長のせいだ。
あの子のせいだ。
そんな恨み言を呟きながら、私はあの世界を去った。
――公園は、寒かった。
白菊ほたるは、居なかった。
それが解っていて、私は公園を見回した。
あの子の影がそこに残って居ないか、探すみたいに。
白菊ほたるを思いだす。
この世の終わりみたいな顔で謝罪する顔と、あの歌を貰ったときの飛び切りの笑顔を思い出す。
山茶花は鳥取の木なのだと、白菊ほたるが言っていたことを思い出す。
あの子は、まだ挑戦を続けているのだろうか。
私と同じで、とっくに諦めて鳥取に戻ったのだと思っていた。
今は、解ってる。
事務所の借金はほたるが来る前からあった。
ほたるがそれをこしらえたわけじゃない。
ほたるも夢を潰された側なんだ。
解ってる。
だから、忘れようとした。
だけど。
あの子は今も夢を追いかけているのだろうか。
私が終えなかった夢を追おうとしているのだろうか。
いつか、その夢をかなえるのだろうか。
いや、それはきっと無理だ。
私も諦めてしまったんだから。
それが当たり前なんだ。
あの子もいつか、きっと、私みたいに――。
白菊ほたるを思い出す。
私を慕ってくれたことを思い出す。
あの子が起した不幸を思い出す。
私は白菊ほたるをどう思っているんだろう。
腹の中に色々な感情が渦巻いて、わけが解らない。
「――歌が聞こえないわ、ほたる」
呟いた。
もともと、声が小さい子だった。
憎しみもある。
それ以外のものもある。
だけど、あの子のちいさな歌声が、もう二度と誰にも届くことなく消えていく。
その事を思うと、私はなぜか、たまらない気持ちになっていた――
「あれ、どうしたんだ高森さん。帰ったんじゃなかったのかい」
お散歩を終えて、家に帰るかどうするか迷って――それから私は、事務所に戻りました。
「ちょっと、お話を聞いてほしくて――」
あの歌の事を思い出して、なんだかそのままにしておけなくて。
私はPさんに相談することにしたのです。
知らない歌を歌う女の子のこと。
その歌を聴いて取り乱した店員さんのこと。
あの歌の歌詞を検索しても、なにもわからなかったこと――
「そうか、そんな事があったのか」
Pさんも、興味を引かれたようでした。
言われて、ちょっと歌ってみます。
よく覚えているものだね、とPさんは目を丸くします。
だけど高森藍子はアイドルの卵ですもの。
歌を覚えるのは得意なんですよ。
「――ああ、その歌は知ってるな」
Pさんの顔が、少し険しくなりました。
「誰も知らないまま、消えていった歌なんだ」
「でも、それなら何故、Pさんはあの歌を知っているんですか?」
「一曲の歌ができるまでに、どれだけの人間が関わると思う?」
ふとPさんがそんな事を聞きました。
見当がつかなくて、私は小首を傾げます。
「まず所属事務所やレコード会社が集まってコンセプトを決める。コンセプトに添って作詞作曲を依頼、そこから編曲して伴奏取りして――沢山の人の手を渡りながら、歌は作られていく。僕は、この伴奏録音を聞かせてもらったことがあるんだよ」
当時のことを懐かしむように、Pさんは天井を見上げました。
「こんどこういう子売り出すんだって、そこの社長さんに写真と一緒にね――黒い髪の、華奢な子だったな。どこか縮こまったような――」
その説明がまさに公園のあの子そのもので、私は目を丸くします。
歌が上手いと思ったけど、やっぱりアイドルの卵だったんですね。
でもそれならどうして、あの子もこの歌も、誰にも知られていないのでしょう?
私の疑問をさておいて、Pさんの説明は続きます。
「そこから先で、実際にアイドルが歌を入れた音源を作って宣伝を打ったり視聴期間を設けたりして一般に歌を周知していくわけだけど、そうならない場合もある。この歌の場合、歌うはずだったアイドルの所属事務所が倒産したんだ」
倒産。
ニュースではよく聞くその言葉が生々しくて、私は眉を寄せました。
つまり、あの子は事務所を失って、道を閉ざされて――
「もちろん別の人が歌うようになるってこともあるけど、あのプロダクションは色々揉めていたからね。お蔵入りになっちゃったわけだ。しかし――そうか」
Pさんの目は、どこか遠くを見ているようでした。
「その子、続けていたんだな。話を全然聞かないから、アイドルを諦めたか、東京に居ないものと思っていたんだけど」
「きっと、あの子は続けると思います」
思わず、そんなふうに答えていました。
「きっとあの子、事務所がなくなっても、ずっと頑張ってきたんですよ」
「――どうしてそう思うんだい」
「歌を、聴いたからです」
あの時の歌を思い出します。
「あの歌は悲しい歌詞で、そこにまるであの子の悲しい思いがそのまま乗ってるみたいだったけど――でも、辛くて悲しいだけのものを押し付けられても、口ずさみたいとは思いません」
もしそうだったら、あの歌をつい覚えてしまう、なんてことはなかっただしょう。
だけど。
「――覚えて歌いたくなっちゃったのは、あの子の中の何かがまだ前に向かって行こうとしているからだと思うんです。それが、訴えかけてくるんだと、私は思ったんです」
音楽業界に長く関わってきたPさんにこんなことを言うのはまさに釈迦に説法って感じかもしれません。
だけど私は、そう思えてならなかったんです。
あの子が歌に乗せた思いの中に、前向きなものがあったから。
だからあの歌はあんなに印象的だったんだ、って。
Pさんは私の言葉を聴いて、ふむと考え込んでしまったようでした。
そして、長い沈黙のあと――
「ちょっと、その子の事、調べてみることにするよ」
そう言ったのです。
白菊ほたるさんが、私たちの事務所に連れられてきたのは、それからたった数日後の事でした――
白菊さんが事務所に来てから、すぐに半月が経過しました。
少し暗い顔で、俯き気味で、人を避けようとする白菊さん。
彼女が事務所に馴染んでいくのには、まだまだ時間がかかるでしょう。
だけど――
「――♪」
あの歌が聞こえました。
レッスン時間が終わった後の、事務所でのことです。
かすかな音を手繰って屋上にいくと、白菊さんはベンチにぽつんと座って、あの歌を歌っていました。
私はそっと、その隣に座りました。
「あ――」
驚くように、歌が止まりました。
私はちいさく笑って、白菊さんにお願いします。
白菊さんの歌が、おずおずと再開します。
始まった歌にあわせて、私も歌いだしました。
白菊さんは驚いたように目を丸くして――それでも、歌うのをやめませんでした。
うれしくなって、私は笑いました。
『なんだか、きになるの』
『うん、解る』
つい先日、裕美ちゃんと千鶴ちゃんがそんな話しをしているのを、私は聞いていました。
きっと、この事務所の皆は、白菊さんを一人になんてしておきません。
そして、それは私もそうなのです。
悲しい歌を歌う、でも前向きな女の子。
私はその子の心を少しでも知りたくて、一緒にあの歌を歌いました――。
○エピローグ
仕事を終えて帰路についたカフェの店員は、ふと脚を止めた。
ほんのかすかに、悲しい響きの歌が聞こえた気がしたのだ。
雑踏にまぎれて、とぎれとぎれの、聞き取り難い歌。
それが、あの歌のように思えたのだ。
ほたるの声に聞こえたのだ。
そこにやがて、ほんの少し明るい雰囲気の歌声が重なった。
重なる声と明るい雰囲気は、悲しい声をすこし明るくした。
どこから歌が聞こえてきているのか、解らない。
もしかしたら、幻。
聞き違いなのかも知れない、そんなふうに思う。
だけど、明るい声に導かれたほたるの声は、あの日別れたときよりもほんの少しだけ、明るくなっているような気がした。
ちょっとだけ明るくなった二人の歌声が、ゆっくりと、冬の町に流れていく。
いつのまにか自分がほんの少し微笑んでいることに、彼女は気付いていなかった――
(おしまい)
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