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第二次世界大戦後、アメリカを盟主とする資本主義・自由主義陣営と、ソ連(現ロシア)を盟主とする共産主義・社会主義陣営は対立構造にあった。
軍事力で直接戦う戦争はなかったものの、水面下では軍拡競争が繰り広げられていたのである。1945年から1989年までの44年間続いた米ソ冷戦時代である。
両陣営の軍拡競争は、その副産物として、いくつかの奇抜なアイデアを産み落とした。
米空軍が提案した「レトロ計画」もその1つである。ソ連が核弾頭ミサイルを撃ってきたのがわかったら、地球の自転をロケットで止めようという計画だ。
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ロケットエンジン1000基を並べる作戦「レトロ計画」
1960年、米国防総省に籍を置き、ランド研究所の戦略分析担当者だったダニエル・エルズバーグ(現経済学者)は、米軍が所有する核兵器を破壊するために、ソ連が核兵器で奇襲をしかけてくるのではという懸念への対策として空軍から提案されたアイデアを評価するよう依頼された。
「レトロ計画」と題されたその提案は、すでに空軍の各部局で閲覧されており、軍の研究開発・科学技術部門によって推進されているらしかった。
エルズバーグは、その突拍子もないアイデアに驚いた。
提案書によると、当時最大のロケットエンジンであるアトラスエンジンを1000基並べて、地球の自転と逆方向に噴射するというのだ。
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ソ連の核弾頭ミサイル発射された場合、一時的に地球の自転を止める
この提案は、ソ連が核弾頭ミサイルを発射した場合に備えたものだ。
もしも、ソ連から発射された核弾頭ミサイルが米軍のミサイル発射場めがけて発射され、それが、北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)に弾道ミサイル早期警戒システムのレーダー検出・表示された場合、配置された1000基のアトラスエンジンは可能な限り一斉に点火され、つかの間だけ地球の自転を止める。
すると、ソ連軍のミサイルには慣性の法則により、本来の標的にはあたらず、飛び越えてしまうという。
米軍の地上に配備された戦力は温存され、事態が落ち着き、自転が再び正常に戻ったときに、ソ連領の都市や脆弱な軍事目標(ミサイルは強固なサイロからすでに撃たれたあとだ)に対して、報復攻撃を行うことができるという寸法だという。
image credit:youtube
提案の明白な欠点
エルズバーグは、天才じゃなくとも、この提案の欠点に気づくだろうと述べている。
「一切のきちんと固定されていないものはおろか、されているもののほとんどもまた、風とともに去るだろう。それ自体が、あらゆる場所で一斉に吹き荒れる超大型台風の力で飛行するようなものなのだ。」
「海が陸地に場所を鞍替えし、(沿岸部の都市)が巨大な津波によってさらわれるのは間違いない」と。
1000基のエンジンで自転は止まるのか?
しかし自転を一瞬止めたことによる破壊的な影響は別にしても、この提案を支える科学はつじつまが合うのだろうか?
はたして1000基の大型ロケットエンジンで、地球の回転を止めるだけの力を生み出せるのだろうか?
ある動画で紹介されている計算によれば、そうはいかないようだ。
Can You Change Earth's Rotation With Rockets - Project Retro
人間の目には壮観な光景が広がるだろうが、それによって生じるのは、地球の自転の距離が原子ほんの数個分変化する程度のことでしかないらしい。
提案者の目論見どおりのことを実現するには、1000兆個のロケットエンジンが必要になるそうだ。所有する核兵器を温存するにしては、少々割りに合わないリソースが必要になることだろう。
しかもこんなオチまでついている――。
計算によれば、約2.6×1021キログラムの推進剤に相当する。つまり、地球をおおう大気の質量のおよそ500倍だ。
だから、仮にそれだけたくさんのエンジンを作れるのだとしても、自転を変化させるため、それらを一度に噴射したら、大気にはその500倍ものガスが放出されるということになる。
しかも、こいつはとんでもなく熱い燃焼生成物だ。ターゲットを核攻撃から守ることができたとしても、地球に撒き散らされる排ガスのせいで、全員が消し炭になってしまうだろう。
ダニエル・エルズバーグの2017年の著書、『The Doomsday Machine: Confessions of a Nuclear War Planner(人類を滅亡に誘う兵器:ある核戦争立案者の告白)』にランズ計画に関する全貌が書かれている。
References:That Time the U.S. Air Force Proposed Using Rockets to Stop the Earth's Rotation - The Daily Grail/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
こんな小学生が考えるようなことを本気で考えてたのか?w
2.
3. 匿名処理班
もはやギャグ漫画だな…
ちなみに桜多吾作版の『マジンガーZ』では、日本中の火山を一斉に噴火させる「自転停止計画」が行われ、世界中に甚大な被害を与える様子が描かれていたっけ
4. 匿名処理班
・・・よ、妖星ゴラス(ボソッ)
5. 匿名処理班
この記事で思い出したけどドゥーズミーユで亜高速になったり止められたりした地球が無事だったのは何でなんだぜ?
6. 匿名処理班
なぜ考えるまでもなく無理だと判断できないのか
7. 匿名処理班
ネズミをやっつけるために地球破壊爆弾を持ち出したドラえもんを思い出した…
8. 匿名処理班
自転止めてしまったら、人間はみんな吹っ飛んでミンチになってしまうがなw
物理エンジンの動画でも見たら良いと思うよw
9. 匿名処理班
ロケットを並べるというと、妖星ゴラスを思い出すw
10. 匿名処理班
こんな突拍子もない計画をアメリカ有数の大学院を出て博士号を取得してる人間が考えたりするんだよな
そして、計画を提出された側は、アハハハwと笑いながらも、いや、でも、あの大学院出て博士号を取得してるあの研究者が真面目に提出してるんだし、他の学者もこの計画書に名を連ねている
予算つけてやらせてみるか
と、突拍子もない計画に膨大な予算がつくことになる
11. 匿名処理班
よくアメリカ国防高等研究計画局(DAPPA)は、アメリカを守るために地球を滅ぼす計画を立てるからな。
12. 匿名処理班
荒唐無稽とはこのことで。
13. 匿名処理班
1000基のロケットエンジンで?
地球なめんな
14. 匿名処理班
逆に考えれば、たった100兆個のロケットエンジンで自転を止める事が出来るという驚き。
そう言えば、アルキメデスが「私に十分な長さの棒と、確かな足場、そして支点を用意してくれれば地球を動かしてみせよう」って言った伝説があるな。
不思議の国のアリスのクイーンの言葉にこんなのがあったな。
「〜、ときには朝食前に不可能な事を6つも信じたほどです」
15. 匿名処理班
神の杖みたいに滑稽な計画だな
神の杖は運動エネルギーを位置エネルギーに変換したら数億倍に増幅される計画だし
16. 匿名処理班
1000兆個とか500倍とかよくわざわざ計算したなwww
仕事が暇だったのか?
17. 匿名処理班
思いついたことは全て検討せずにはいられない、米国面の鑑。
こういう下らなさを許容するのも科学技術の発展を促した一要因ではあるのだけれど・・・
ロケット1000基でどうにかなると思ったのは何故なのか、まずそこから突っ込みたい
18. 匿名処理班
こんな明らかにイカれてるアイデア
19. 匿名処理班
やってみる価値はありますぜ!
20. 匿名処理班
今の世界人口の総重量の倍を一斉に地球へぶつけても
地球が数センチ動く程度で元の軌道に戻る位には頑丈だからな
21. 匿名処理班
軍の研究開発・科学技術部門は当然理科系の優秀な研究者で構成されていたろうに、なんでこんなアイディアを?
22. 匿名処理班
どっかの軍人が適当に言ったトンデモ論を検討するよう押し付けられたモノと思われ
23. 匿名処理班
この「レトロ計画」実は予算化されてましてね、でも皆さんご指摘のように、「こんなヨタ話誰が信じるんだよ」と言う代物でして、実際「レトロ計画」についてはボルト一本発注されちゃいません、動いたお金はエルズバーグ先生への依頼料だけなんですよ。
でもね、その予算は返納されたりしてないんですよ・・・。
つまり、他の「もっと良からぬ事」に使っちゃったんです、世の中「すぐに見破れる罠の裏には、もっと悪辣な何かが隠されている」と言うことです。
24. 匿名処理班
ロケットで地球の自転を止められるとして・・・
自転が停止する前に、ミサイルが着弾してしまうよね?
それに、自転を止めても地球内部のマントル対流は止まらないので、巨大地震が起こったりプレートが破壊されたりするんじゃないの?
ミサイルは避けられても、地球が壊滅してりゃ世話ないね。
25. 匿名処理班
パンジャドラムみたいなもん、何でもあまりにも馬鹿らしくとも、とりあえず検討して研究してみる。
そこで別の方面に繋がる新技術が生まれる時もある、だから馬鹿にしちゃいけない。
でもロケットで地球の自転止めるって…
ロケットじゃ小惑星すら押しとどめられないんだからさ。
26. 匿名処理班
地球が静止する日
27. 匿名処理班
いやいやいやw
「つかの間だけ」自転止められたとしたって、再開するときは逆に噴射するんかい!
46億年ひたむきに回ってるモノを、人間のケンカごときで一旦停止させんでくれ!
でも面白いww
28. 匿名処理班
発言力があるほどの権力を持った中でも、こんなバカがいることを前提じゃないと本当にやっちゃうからね
29. 匿名処理班
核をかわすために核よりヤバイものを噴射してどうするんw
30. 匿名処理班
一瞬自転を止めた後、また自然に元の事典スピードに戻るかのような記述があるが、それはどういう理屈なんだ。
31. 匿名処理班
「ザ・コア」かと思った
あれは地球の中心に核爆弾打ち込んでたけど
32. 匿名処理班
でもさ、「考える」こと自体は意義があるよね。
ロケットの夢もヴェルヌの小説のもとで育まれたし(軍事などの要因は承知)。
33. 匿名処理班
>>16
その計算するため当時の最高速計算機とか使われたんだよ
34. 匿名処理班
こういうのは、超有名大学の学者が適当に計画書を書いて出したら、審査する側が学歴で採用して予算をつけるので、まさか採用されるわけねーよなwwwって笑っていた申請者側が膨大な予算がついてしまったのでやらざるおえなくなるんじゃない
35. 匿名処理班
仮にジェットエンジン1基が直径1mだとして、1000個並べてもたった1kmで終わる。
1000兆個並べたところで、地球2500万周で済む話。
国境に壁なんか作ってないで、これやってみよーぜ!
36. 匿名処理班
最後の、「計算によれば、約2.6×1021キログラムの推進剤に相当する。つまり、地球をおおう大気の質量のおよそ500倍だ。」ってどういうこと?
37. 匿名処理班
小学校の工作レベルみたいで、逆に微笑ましいかも。
遠い将来、核以上にもっと強力なエネルギーを利用するとして
ロケット10000機とかでリベンジするなよ!って感じ
38. 匿名処理班
※19
冷静に見ると作戦成功の見通しは同じようなもんだな
39. 匿名処理班
ドラえもんで、地球の自転から逃れる=地球から降りる 道具があったね。
40. 匿名処理班
電車が急停車した時すっごい引っ張られるけど、地球の自転止めるなんて吹っ飛ばされるどころか一瞬のうちに「ひでぶっ」てスプラッタになるよね慣性の法則
41. 匿名処理班
>>36
それだけの料の燃料が必要なんだよ