涼太には人には言えない秘密があった。
それは女装趣味。中学生の頃から母親の化粧品に興味をひき、
不在中に化粧や衣服の着用に手を出すようになっていった。
高校1年生となったとき、バイトを始めた。もちろん目的は、女装道具を調達するための資金。化粧品、ウィッグ、そして洋服類は通販で購入した。インターネットを色々調べると、局留めが使える『そういう趣味』用の通販サイトがあったのだ。
そして一通り揃えると、完全に女装することが楽しみになった。
夜中家族が寝静まってから、こっそりと部屋で女装をする。
ポーズを決めてデジカメで写真を撮ったりして楽しんでいた。
流石に外出することは出来ないが、いつか外を歩きまわってみたいという願望は抱いていた。
火曜日、涼太はバイトの最中も終始ニヤニヤしていた。
今度の週末が待ちきれないからだ。
店長「どうした、気持ち悪いな?すっげぇご機嫌だな?」
涼太「あ、はい、実は、今度の週末、家族が用事で田舎へ帰るんです。」
店長「え、お前も?」
涼太「いや、もちろん日曜日はシフト入ってますから、家で留守番ですよぉ。」
店長「あ、そうか、家で一人になれるから、彼女でも連れ込む気なんだろ?」
涼太「いや、そんなんじゃないですけどぉ・・・。」
店長「いいなぁ、若いやつは。」
涼太「いやぁ、どこも出かけず、家で一人でゴロゴロしてるだけですよぉ?」
家族がいなくなり、家ですき放題出来ると言う点はあっていた。
ただ、彼女を連れ込むのではなく、ある意味自分が「彼女」だった。
週末は気兼ねなく女装できる、
なんだったらちょっと冒険して夜中に外へ出てみるのもいいかもしれない。
そんな理由で涼太の気持ちは、すっかり週末の楽しみに向いていた。
バイトの終わる時間に、同じシフトの絵里が話しかけてきた。
絵里「涼太、ねぇちょっと。」
涼太「はい、なんですか?」
絵里「ごめんね、相談があるんだけど・・・。」
涼太「は、はい。」
絵里「実は、今度の週末、彩香たちと鍋パーティーをするんだけど。」
涼太「はぁ、それはそれは・・・」
絵里「メンバーは、彩香と、美咲と、千尋と、私の4人。」
涼太「はぁ・・・それで・・・」
絵里「涼太もお誘いしようかなぁって、ね?いいでしょ?」
涼太「えっ、今週末ってのは・・・」
そこへ次のシフトの千尋が姿を現して涼太に迫った。
千尋「いいわよね?涼太くぅん?お姉さんたちと一緒に飲みましょ?」
涼太「えっと、その、週末はちょっと予定が・・・」
絵里が冷たく言い放った。
絵里「さっき、家で一人でゴロゴロしてるだけっていってたじゃん!」
涼太「えっ?!」
絵里「店長との会話聞いちゃった、ごめんね。だからお誘いしたんだ♪」
千尋「なら、決まりよねぇ?」
涼太は必死にお断りの言い訳を考えた。
せっかく女装を存分に楽しむ千載一遇のチャンスなのに、
どうしてバイトの先輩たちと過ごさなければならないんだろう。
涼太「でも、僕ほら、未成年ですし・・・飲み会は・・・」
絵里「私だって、あんたの1個上だし!高校生だってお酒くらい良いじゃん!」
千尋「うん、OK、OK、わたしも高校生の時は連日連夜飲みまくっていたんだから!」
涼太「あ、その・・・」
何故自分が誘われたのか分からなかったが次の絵里の言葉に納得した。
絵里「それでぇ・・・もういっこお願いがあってさ・・・」
涼太「な、なんでしょう?」
絵里「開催場所は、涼太の家でってことで♪」
涼太「えええっ?!」
千尋「いいわよね?」
涼太「あの、いや、それは・・・!」
絵里「だって、おうちに誰もいないんだもんね?」
涼太「そ、それは・・・」
千尋「本当は舞の家でやる予定だったんだけど、舞が都合悪くなっちゃって。」
涼太「じゃあ千尋さんちや絵里さんちとか・・・」
千尋「他の4人はみんな実家なのよ、思う存分楽しめないの」
絵里「開催場所に困ってたところだったんだ。ね?いいでしょ?」
千尋「おねがい。ね、涼太くん。」
涼太「う・・・あ・・・」