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図らずもドイツ軍に庇護され、その生息数を増やし始めたオオカミ(ドイツ) : カラパイア

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pixabay

 人とオオカミとの緊張は大昔から続いてきた。伝説や神話では、オオカミが恐ろしい獣として描かれており、それゆえにヨーロッパに生息していた彼らは駆逐され、大きく数を減らすことになった。

 1960年代、ヨーロッパに生息するオオカミの数は記録的なまでに激減し、まさに絶滅の淵へと向かおうとしていた。

 だが、最近のドイツでは、オオカミがだんだんと生息数を回復させつつある――その背後にはドイツ軍という意外な庇護者がいたのである。
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ドイツ軍の敷地内にオオカミが定住


 ドイツ軍からの庇護は意図されたものではない。

 ドイツでは今、オオカミ(タイリクオオカミ/ハイイロオオカミ)が毎年36パーセントずつ増加している。だが、そこには、80〜90年代にかけて施行された野生動物保護法や、ヨーロッパ各地で有蹄動物が増え、オオカミのエサが増加したといった、いくつかの要因がある。

 それでもなお、興味深い相関がある、とLUPUSドイツ狼モニタリング・研究センター(LUPUS German Institute of Wolf monitoring and research)のイルカ・ラインハルト氏は話す。

 オオカミが移住してまず定住するのは、例外なくドイツ軍の訓練区域なのだ。

 最初にフェンスなどで囲われていない訓練区域に移住してから、周辺地域へと移動し始める。ところが、軍区域から離れすぎてしまうと、またもや戻ってきてそこに縄張りを作る。

 オオカミの保護区域がほかにあるのに、そちらではなく軍の敷地のほうが好まれるのは不思議としか言いようがなかった。

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pixabay

軍の敷地だからこその意外な庇護


 そこでラインハルト氏らが調査を行うと、軍の敷地では、保護区域よりも人間に殺される割合が低いことが判明した。

 軍の敷地では密猟が少なく、一般の区域に比べると、そのせいで死んでしまうオオカミの数が少なかったのだ。

 軍用区域と保護区域などのほかの区域との大きな違いは、狩猟制度にある。

 ドイツにおいて、軍用区域での狩猟は当局によって監視され、広い範囲で管理されている。

 ところが保護区域は、最小75〜100ヘクタールほどの私有の狩猟場に区分されているのが普通だ。

 このためにオオカミの群れは100名以上ものハンターと縄張りを共有することになり、その結果として、密猟のターゲットになってしまう。

 軍訓練区域では、人間によって支配されてしまった地域から動物たちが難民として逃げてきて、繁殖する傾向にあることが、きちんと記録されている。

 しかし今回判明したように、軍訓練区域を拠点にしてオオカミが周辺に広まることは盲点であった。

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pixabay

生態系で大切な役割を果たすオオカミ


 恐ろしいイメージがあるオオカミであるが、付近の生態系にとって総じてみれば好ましい影響を与える。

 たとえば、アメリカのイエローストーン国立公園では、オオカミが帰還したことで、野生のヘラジカが過剰に増加していた地域でのバランスが回復した。

・オオカミってやっぱすごい!ほんの少数のオオカミの群れが自然に奇跡をもたらすまで(米イエローストーン国立公園) : カラパイア

 その反対に、「パンド」というアメリカヤマナラシが群生している森では、ツーリストを守るためにオオカミを駆除したことで、草食動物が増えすぎてしまい、木々がその食害に遭うようになってしまった。

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pixabay

適切な庇護があれば野生動物は再び帰ってきてくれる


 ドイツでは、オオカミにとって追い風が吹いている。

 最新のデータによれば、現在73のオオカミの群れと60のつがいが確認されており、19世紀以来初めて野生のオオカミの子供が確認された2001年に比べると、状況は大幅に改善している。

 こうした中、軍の訓練区域が果たす役割は注目すべきである。万が一、こうした土地が一般用途に転換されたような場合は、この動物たちの避難先としての機能が維持されるよう気をつけねばならないと研究は述べている。

 だがとにかく嬉しいことは、今回の事例が、野生生物をきちんと守れば、ちゃんと帰ってきてくれるのだということを実証していることだろう。

 この研究は『Conversation Letters』に掲載された。

References:Wolves in Germany Are Making a Comeback, And The Military Is Weirdly Helping/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 20:45
  • ID:AK7C2J.Q0 #

沖縄でも米軍の訓練区域で立ち入り禁止になってた場所のほうが自然が残って、絶滅したと思われてた生物が生きてたって話もあるし、動植物にとってなにが良い結果になるかわからないね

2

2. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 20:45
  • ID:seaUdLBb0 #

韓国と北朝鮮の間も渡り鳥のサンクチュアリだと新聞で読んだ事がある。
残って欲しいな。

3

3. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 21:02
  • ID:dMwfXDax0 #

ラインハルト、あの金髪の小僧か。

4

4. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 21:14
  • ID:yrtu76oq0 #

朝鮮半島の38度線も南北2kmずつ長さ250kmにわたって50年以上無人地帯で
貴重な動植物の生息域になっているそうな。

5

5. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 21:21
  • ID:Fk3eDHWv0 #

野生動物にとって人間こそが最大の悪

6

6. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 21:42
  • ID:iVJT.r0t0 #

なぜ野生動物を保護する必要があるのか
人を含めた自然によって淘汰されるのが究極の自然と言えるのではないか

こういう議論がよく起きる
人が長い間生き延びるには多様性が必要であり
その多様性を少なからず支えるのは人以外の動植物の多様性なのだ
人の寿命は80年
たった80年では生物の多様性が人の生存に重要なことがわかりにくい

7

7. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 21:44
  • ID:fOdXcViQ0 #

だからといって絶滅しちゃった日本オオカミの代わりに大陸のオオカミを山に放とうとする案は危険だよね。

8

8. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 21:58
  • ID:rJOe75uN0 #

>軍の敷地では密猟が少なく

軍の敷地内に侵入してまで密猟する人たちがいるのに驚きだよ

9

9. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 22:02
  • ID:c2HaAEUr0 #

殺戮しておいて庇護というのは人間の上から目線だ

人類が絶滅するだけで問題は解決できる

10

10. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 22:06
  • ID:Jx2FBXwn0 #

ノルウェーがオオカミゾーンのオオカミまでころそうとしてるけどね
目標100頭だって

11

11. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 22:34
  • ID:xkpVh5Kn0 #

人の踏みいらぬチェルノブイリも野生動物の楽園になっているという
放射能より怖いのは人間

12

12. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 22:40
  • ID:NJXEqyVq0 #

ニホンオオカミが絶滅してシカやイノシシが増えて毎年けが人が出てまれに死者も出てる
熊の子供なら襲うやろうから熊の天敵にもなる
農作物の被害も大きいし貴重な植物も食べられる事を考えるとありかもしれんけどね

13

13. 匿名処理班

  • 2019年02月22日 22:58
  • ID:1FNvkH0B0 #

人間が居なくなって減ったりする野生動物ってあるのかな
家畜とかペットは世話されなければ死んじゃうのもいるだろうけど

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