喪黒福造「このバランスボールを使えば、短期間で確実に痩せることができますよ」 グルメリポーター「話がうま過ぎますね」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
輝之丞(52) グルメリポーター
【痩せたい男】
ホーッホッホッホ……。」
3人の真ん中にいる男・輝之丞。彼は3人の中で特に太っていて、まるで風船のような身体をしている。
テロップ「輝之丞(52) 元アイドル・グルメリポーター 本名は吉松輝彦」
温泉旅館。大浴場で、温泉につかる3人。
石村「いやぁ~~。いい湯だなぁ~~!」
テロップ「石村常人(56) お笑い芸人・グルメリポーター」
輝之丞「ほんと、気持ちいいなぁ~~!」
都築「ここに来てよかったよ!」
テロップ「パッション都築(52) ダンサー・振付師・タレント」
輝之丞「極楽!極楽!」
汗だくになり、苦しそうな表情の輝之丞。どう見ても、彼は温泉を気持ちよく感じているようには見えない。
勢いよく、料理を頬張る3人。満足そうな表情を浮かべ、おいしさを表現する輝之丞。
輝之丞「この海鮮鍋は、具材のオールスター戦やぁ!!」
夜。とある居酒屋。店の奥にある液晶テレビには、グルメ番組に出演する3人の姿が映っている。
カウンター席に座り、客たちとともにテレビを見つめる喪黒福造。テレビの画面に、輝之丞の顔がアップで映る。
客A「輝之丞の奴、太り過ぎだよ。こいつの激太りが気になって、食レポに集中できん」
客B「ああ。あの太り方は極端すぎる。食欲をそそるどころか、見てるだけで心配になってくる」
客C「輝之丞の身体が心配だな。顔もどす黒いし……。そろそろ休んで、痩せるべきだよ」
喪黒「…………」
どうやら、喪黒はまたしても何かの企みを思いついたようだ。
輝之丞「ハアッ……、ハアッ……、ハアッ……」
辛そうな顔をし、歩くだけでも一苦労の輝之丞。歩き続ける輝之丞の前に、喪黒が姿を現す。
喪黒「あのぅ……。もしかして、あなた……。グルメリポーターで有名な輝之丞さんではないですか!?」
輝之丞「そ、そうですよ……。僕があの輝之丞ですよ」
喪黒「犬の散歩は、いい気晴らしになるでしょう?」
輝之丞「ええ、まあ……。でも、僕にとって犬の散歩は気晴らしのためだけじゃないですよ」
「もっと切実な理由があってやってるんです」
喪黒「切実な理由……とは?」
輝之丞「ダイエットのためです。僕の身体を見れば分かるでしょう」
喪黒「なるほど……。輝之丞さんの心にもスキマがおありのようですねぇ」
輝之丞「ココロのスキマ、お埋めします?ハハーン……。もしかしてあなた、ダイエット業界のセールスマンでしょ」
喪黒「いいえ、私は心を扱うセールスマンです。ボランティアでやっていますから、お金は一銭もいただきません」
輝之丞「そうなんですか……。珍しいお仕事ですね」
喪黒「いい店を知っていますから、そこでしばらく一休みでもしましょう」
BAR「魔の巣」。喪黒と輝之丞が席に腰掛けている。輝之丞の椅子の下には、彼の飼い犬がいる。
喪黒「それにしても、輝之丞さんも思い切った決断をしましたねぇ。ダイエット宣言とは……」
輝之丞「仕事のために、追い込まれてダイエットを決意したんですよ」
「なぜなら僕は……。あまりにも太り過ぎたせいで、グルメ番組の仕事が減り始めたんです」
喪黒「無理もありませんよ。今のあなたの太り方は、健康的と呼ぶには程遠いものですから……」
「見ているだけで、身体の具合は大丈夫なのかと心配にさえなりますよ」
「むしろ、不健康な姿にさえ見えてしまう。テレビの視聴者はちゃんと見ていますからね……」
喪黒「それだけではありません。アイドル時代の輝之丞さんは、美男子として有名でしたから……」
「あの時代と比べると、その後のあなたの太り方には痛々しささえ感じますよ」
輝之丞「……でしょうね。ちなみに今の僕は、体重が120キロありますよ」
喪黒「120キロ……、いくら何でも太り過ぎです!下手をすれば命にさえ関わりますよ」
輝之丞「そうですよね……。まあ、ここ数年何回かダイエットをしたことはあるんですけど……」
喪黒「そのたびに、少し痩せてはまたリバウンドするを繰り返してきたのでしょうねぇ」
輝之丞「その通りです。でも、今回は仕事がかかっているから本気で痩せるつもりです。ですが……」
喪黒「今まであなたが試してきたダイエット法では、痩せる見込みはなさそうですから……」
輝之丞「そうです。でも、何とかして体重100キロは切りたいですよ……」
喪黒は鞄から、ビニールの布と空気入れを取り出す。
輝之丞「何ですか、これ?」
喪黒「見ていてください」
席を立ち、空気入れを使ってビニールの布を膨らませる喪黒。ビニールの平たい布は、次第に球体へ変化していく。
喪黒「できましたよ」
ビニールのボールを持ち、再び席に戻る喪黒。
輝之丞「これ、もしかしてバランスボールですか?」
喪黒「そうです。バランスボールを使ったダイエットなら、あなたでもできるはずです」
輝之丞「確かに……。これなら家の中でも手軽に使えますし、太った僕でも軽めの運動ができますからね……」
喪黒「それだけではありません。このバランスボールには、特殊な効果があるのです」
輝之丞「特殊な効果?」
「だから、これを使っていれば、食事量を変えなくても手軽にダイエットができます」
輝之丞「……ということは」
喪黒「このバランスボールを使えば、短期間で確実に痩せることができますよ」
輝之丞「話がうま過ぎますね。その効果が本物なら、まるで夢のような商品じゃないですか!」
喪黒「もちろん、効果は本物です。だから、私はこのバランスボールを輝之丞さんにプレゼントしますよ」
輝之丞「えっ、これをですか!?」
喪黒「ええ。これは、あなたのダイエットの成功を願う私からの気持ちですよ」
輝之丞「そ、そうですか……。人の好意を断るのは悪いから、これ貰っておきますよ」
喪黒「どうも……。使ってみれば、効果が分かりますよ」
「場合によっては、アイドル時代の体形に戻ることだって夢ではないでしょう」
輝之丞「アイドル時代の体形に戻る……。ハハハ、あなたもジョークがうまいですね!」
輝之丞「ヨッ……、ハッ……」
バランスボールの上に乗ったまま、両手を上へ伸ばす輝之丞。
輝之丞「ウ…………ン」
仰向けに寝転び、バランスボールの上に脚を乗せる輝之丞。
輝之丞「クッ……」
バランスボールを背中と壁で挟む輝之丞。
輝之丞「ヌッ……」
(確かに、いい運動になっているな……。でも、こんなことで僕は本当に痩せるんだろうか?)
とある食堂チェーン店。野菜炒め定食を食べる輝之丞。
輝之丞(やっぱり、ダイエットのためには野菜を積極的に食べる必要があるな)
輝之丞(それにしても、運動をした後はお腹がすくなぁ……)
夜。輝之丞の自宅、浴室。風呂上がりの輝之丞が、体重計の上に立っている。
輝之丞(118キロ……。2キロ痩せてる……)
輝之丞の頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「このバランスボールを使えば、短期間で確実に痩せることができますよ」)
輝之丞(まさか……。今日使い始めたばかりで、いきなり2キロ痩せるってのはあり得ないよな)
その後――。輝之丞は、自宅でバランスボールを使った運動を続けていく。
立った状態で、バランスボールを両肘で抱える輝之丞。バランスボールに座り、身体を左右に動かす輝之丞。
うつ伏せになり、バランスボールを腹に当てる輝之丞。バランスボールの上で腹筋運動をする輝之丞。
東京。とある地下街。トークイベントに集まる芸能人たち。芸能人たちを観衆が見つめる。
ある男も、トークイベントに加わっている。彼は中年だが整った顔立ちをしており、すらりとした身体をしている。
司会者「そういえば、輝之丞さんがまだ到着していませんが……」
輝之丞「僕ならここにいますよ」
中年の男――輝之丞が、あの聞き慣れた声で司会者に話しかける。
司会者「えっ!?」
輝之丞「僕ですよ、僕!!僕が輝之丞ですよ!!声を聞いて分かりませんか!?」
司会者「何ですって!?」
芸能人「あなた輝之丞さんですか!?てっきり、別の人かと……」
観衆「エーーーーーーッ!!」
ネット掲示板「このイケメン誰?」「もはや面影さえない」「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」「別人になってる」「こんなの輝之丞じゃねーよ」
「グルメリポーターの仕事に影響ないのか」「また俳優をやれるな」「前の太り方は病的だから痩せて良かったな」
喪黒「どうやら、あなたのダイエットは大成功だったようですねぇ」
輝之丞「はい。あのバランスボールを使ってから、僕は急激に痩せていきました」
「120キロだった体重が、1か月で60キロになったんです」
喪黒「よかったですねぇ、輝之丞さん。痩せることができた今のあなたは、なかなかの男前ですよ」
輝之丞「ど、どうも……。実は僕も、現在のこの身体を気にいってるんですよ」
「だから、毎日欠かさずバランスボールを使って筋トレをしてるんです。今の体形を維持するために……」
喪黒「そうですか……。だったら、輝之丞さん。あなたには、私と約束していただきたいことがあります」
輝之丞「約束!?」
喪黒「はい。あのバランスボールは、あくまでもダイエットで痩せるためのものです」
「だから、平均的な体重になれた時点で、バランスボールの使用はやめるべきなのです」
輝之丞「ど、どうしてですか!?」
喪黒「あのバランスボールの効果は非常に強力です。あなたがあれを使い続けたならば、どうなるか想像してください」
喪黒「輝之丞さん。バランスボールの使用は、ほどほどのところでやめてください。いいですね、約束ですよ!?」
輝之丞「わ、分かりました……。喪黒さん」
とある音楽番組。アイドル時代の仲間たちとともに、ステージの上で熱唱する輝之丞。彼らは歌を歌いながら、軽やかにダンスをこなす。
ネット掲示板「かっけーー」「若いころの輝之丞が帰ってきた」「輝之丞△」「やればできるじゃん輝之丞」「そうそうこういうのでいいんだよ」
とあるレストラン。テーブルで熱心に食事をする輝之丞。彼のいるテーブルをよく見ると……。
スパゲッティが2皿、サラダが2皿、ピザが2皿、スープが2皿、パンが2皿……。痩せた輝之丞は、2人分の食事を1度に食べているようだ。
夜の街を歩く輝之丞。
輝之丞(身体は痩せたのに食欲は旺盛で、食べる量は太っていたころのまま……。実に不思議だ)
(まあ、いい……。食べても太らない体質になれたってことか)
バランスボールの上に寝転がり、上半身を左右に反転させる輝之丞。バランスボールの上につま先を立て、腕立てをする輝之丞。
仰向けで横になり、両足でバランスボールを抱える輝之丞。バランスボールを両手で持ったまま、スクワットを行う輝之丞。
輝之丞(バランスボールさえあれば、僕はどんなに食べても太らずに済む。なぜならこれは、身体の余計な肉を吸い取ってくれるから……)
とある回転寿司屋。タレントたちとともに寿司の大食い競争を行う輝之丞。彼らの姿をテレビカメラマンが撮影している。
実況「優勝は、輝之丞!!」
ガッツポーズをする輝之丞。しかし、彼はきょとんとした表情をしている。
輝之丞(おかしいな……。あれだけ食べたのに、全然満腹感を感じない)
とあるかつ丼屋。かつ丼を食べる輝之丞。しかし、よく見ると……。彼が食べているかつ丼は3皿、漬物も3皿、みそ汁も3皿のようだ。
輝之丞(僕は猛烈に腹が減っている。でも、食べても食べても満腹にならない……。どうしてだ……)
かつ丼屋を出て、道を歩く輝之丞。しばらくした後、彼の腹の虫が鳴り出す。
焼き肉屋で、焼き肉料理を大量に頬張る輝之丞。彼の表情は、やや暗そうになっている。
輝之丞(食欲が止まらない……。しかも、太るのが怖い……。これじゃあ、バランスボールの使用を続けるしかない……)
とある住宅街、輝之丞の自宅。やはり彼は、いつも通りバランスボールを使って運動をしている。
うつ伏せでバランスボールに乗り、ストレッチポールを持って体操をする輝之丞。
バランスボールの上に座り、ダンベル体操を行う輝之丞。バランスボールを両手で持ちながら、腕立て伏せをする輝之丞。
とあるスーパー銭湯。サウナ室の中に、たった1人の状態でいる輝之丞。喪黒が部屋に入り、輝之丞の隣に座る。
喪黒「あれから、お身体の具合はどうなっていますか?」
輝之丞「痩せることができたのはいいんですが……。僕の身体は、普通の肉体でなくなってしまいました」
喪黒「おや、何か問題でも?」
輝之丞「はい……。異常な食欲に肉体を支配されて、食べても食べても満腹にならないんです!!」
「僕の身体はどうなってしまったんですか!?」
輝之丞「ぼ、僕はその……」
喪黒「私は言ったはずですよ。バランスボールの使用は、ほどほどのところでやめておけ……と」
「にも関わらず、あなたは限度を超えてバランスボールを使用しましたねぇ!」
輝之丞「そ、それはあくまでも僕の今の体形を維持するためです……。あれを使えば太らなくて済みますから……」
喪黒「限度を超えてバランスボールを使用すると、身体に副作用が起きるんですよ。なぜなら、あれの効果は強力ですから……」
輝之丞「そ、そんな……!!」
喪黒「もはや手遅れです。あなたはこれから、もっともっと痩せていくのですよ!!行き着くところまで……」
喪黒は輝之丞に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
輝之丞「ギャアアアアアアアアア!!!」
シャワーを浴び、水風呂につかる輝之丞。次第に、彼の全身がみるみる煙で覆われていく。
ゆっくりと水風呂から上がる輝之丞。彼の身体は煙に包まれているものの、徐々にその実態が現れ出す。
煙から現れた輝之丞は、全身が白骨になっている。骸骨と化した状態で、浴室の中を歩く輝之丞。
白骨化した輝之丞を見て、恐怖の表情を浮かべる客たち。客たちはパニックを起こし、風呂場から一目散に逃げ出していく。
輝之丞を除き、客が全くいなくなった浴室。白骨化した輝之丞が、大浴場に入浴しながら鼻歌を歌っている。
輝之丞「ほんと、気持ちいいなぁ~~!極楽!極楽!」
スーパー銭湯の前にいる喪黒。
喪黒「ここ数十年来、日本ではダイエットブームが続いており……。世間では、様々なダイエット法が生まれてきました」
「そもそも、太り過ぎは健康に関わりますし……。肥満から痩せるためのダイエットなら、必要な処置でもあります」
「しかし、忘れてはならないのは……。ダイエットで痩せる目的とは、健康な肉体を手に入れるためということです」
「従って……。健康という目的が抜け、痩せることだけが目的となったダイエットは、有害無益なものでしかありません」
「痩せることも行き着くと、骨だけになってしまいますから……。ダイエットのやり過ぎは避けるべきですよ。ねぇ、輝之丞さん」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
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喪黒福造「このバランスボールを使えば、短期間で確実に痩せることができますよ」 グルメリポーター「話がうま過ぎますね」
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喪黒福造「このバランスボールを使えば、短期間で確実に痩せることができますよ」 グルメリポーター「話がうま過ぎますね」
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コメント一覧 (4)
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- 2019年03月31日 20:45
- 久々や
-
- 2019年03月31日 22:11
- どうしてこうなった(´・_・`)
-
- 2019年03月31日 22:43
- ハッピーエンドは少ないんですかね
-
- 2019年03月31日 23:38
- 悪くない
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