【ぼく勉】 理珠 「あの日、手を貸してくれたのは」 紗和子 「あの時、背中を押してくれたのは」
- 2019年04月03日 16:10
- SS、ぼくたちは勉強ができない
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理珠 「……うぅ」
ゼェゼェゼェ……
理珠 「う、うどん屋はまだですか……」
紗和子 「マップによるとあと2キロね」
理珠 「うぅ……。なぜこんな山道にうどん屋を作るのか、理解に苦しみます……」
紗和子 (山道だからこそドライブインが必要なんだと思うんだけど……)
紗和子 (というかこの店、徒歩で向かう店ではないと思うけど……)
―――― 理珠 『関城さん、次の休日にうどん屋巡りに行くのですが一緒にどうですか?』
―――― 紗和子 『デートのお誘い!? 行くわ行くわ行くわー!!』
紗和子 (……安易に飛びつくものではないわね。まったく。こんなの軽い登山だわ)
理珠 「まったく……」 ブツブツブツ
紗和子 「……ふふ」 (まぁ、緒方理珠と一緒なら、何でも楽しいのだけれどね)
紗和子 「本当にうどんが好きねぇ」 クスクス
紗和子 「そういえば、一年の最初の登山でも、山頂の鍋焼きうどんのためにがんばってたわね」
理珠 「え?」
理珠 「……? 私、あのとき、鍋焼きうどんのこと、誰にも話してないような……」
紗和子 「へ?」 ハッ 「……あっ」
理珠 「……ん、でも、たしか、ひとりだけその話をした相手がいたような……」
理珠 (……あれは、そうです。二年前、まだ入学した頃のオリエンテーリングのとき、)
理珠 (私は、誰かとうどんの話をした……)
理珠 (……そう。あの登山で、私は……)
理珠 (誰かに、助けてもらって……)
………………
……………………
…………………………
……………………
………………二年前 春 緒方家
理珠 (明日は一ノ瀬学園入学直後のオリエンテーリングで山登り……)
ハァ
理珠 (正直、とても憂鬱です。休みたいくらいですが……)
理珠 (学校行事を休むと内申点にも響きますし、進路のことを考えると参加するしかないでしょうか)
理珠 (はぁ、本当に憂鬱です……)
親父さん 「あっ、リズたま! 明日は山登りだろう? がんばってな!」
理珠 「お父さん……」 (人の気もしらないで、まったく……)
親父さん 「明日登るのは鍋○山だろう? あそこの山頂で食べられる鍋焼きうどんは絶品だからぜひ食べておいで」
理珠 「……!? うどんが食べられるのですか!?」
理珠 「………………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!
理珠 (……俄然やる気が湧いてきました!)
紗和子 (明日はオリエンテーリングで登山……)
紗和子 (友達を作るためのイベントなんでしょうけど、私は……)
紗和子 (どうせ、中学のときと同じ。うまく友達なんか作れるわけもないし)
紗和子 (休みたい。休みたい、けど……)
―――― 『終わりました』
―――― 『おそらく全問合ってると思いますので 帰ってもいいですか』
―――― 『私 あの人と同じ高校に行く!』
紗和子 (……ひょっとしたら、あの子と友達になれるかもしれない)
紗和子 (なら……)
グッ
紗和子 「……行くしか、ないじゃない」
先生 「じゃあ、今から本格的な登山道に入るぞー」
先生 「事前に伝えた通り、このオリエンテーリングは水の運び上げの奉仕活動も兼ねている」
先生 「各自、ここで最低2Lペットボトル一本以上は運び上げるように」
先生 「体調不良やケガ、その他不測の事態があった場合はすぐに教員に伝えること。以上だ」
先生 「では、楽しい登山にしよう。出発するぞ」
理珠 「………………」 (冗談でしょう?)
理珠 (駅からここまでのハイキングコースだけでもうヘトヘトだと言うのに……)
理珠 (この後に水を2Lも運ばなければならないなんて……)
―――― 『あそこの山頂で食べられる鍋焼きうどんは絶品だからぜひ食べておいで』
理珠 「っ……」 (でも、負けるわけにはいきません……!)
理珠 (鍋焼きうどんが待っているのですから!!!)
「でさー……」 「えーっ、わかるー!」 「……ねぇねぇ、メッセ交換しよ?」
紗和子 「………………」 (周囲では着々と仲良しグループができはじめている……)
紗和子 (そんな輪の中に、もちろん私が易々と入れるわけもない……)
グスッ
紗和子 (……やっぱり、こなければよかっ――――)
理珠 「――……んっ……んんんん……!!!」
紗和子 「あっ……」 (緒方理珠、さん……?)
紗和子 (顔を真っ赤にして、リュックを背負い直しているけど……)
紗和子 (ああ、ペットボトルを積んだのね。重そうだわ)
紗和子 (……っていうか、あの体格で2kgの重量増はきついんじゃ……)
紗和子 「………………」
紗和子 (……負けてられないわ。あの子があんなにがんばっているのだから)
紗和子 (私も、がんばらないと……!!)
理珠 「………………」
ゼェゼェゼェゼェ……
理珠 (つ、つらい、です……)
理珠 (リュックがとても重たいですし、山道は想像以上にデコボコです……)
理珠 (何度も何度もこけそうになって……――)
――――カツッ
理珠 「はうあっ……!!」
理珠 (あ、危ない……! またこけるところでした……!)
………………物陰
紗和子 (だ、大丈夫かしら、緒方理珠さん……) ハラハラハラ (こけて山道をころげ落ちたりしないかしら……)
紗和子 (本当に体力がないのね。心配で目が離せないわ……)
理珠 「………………」
クタァ……
理珠 (も、もう動けません……)
理珠 (少しの休憩のつもりが、もう足が動かない、です……)
理珠 (……でも)
理珠 (鍋焼きうどんの、ために……) スッ……
フラッ……
理珠 「あっ……」
ドシャアアアッ!!
理珠 「痛っ……」
理珠 (うぅ……足に全然力が入りませんでした……)
理珠 (とにかく、立ち上がらないと……ん? あれ……?)
ハッ
理珠 (め、めがねがない!?)
紗和子 「あっ……」
紗和子 (緒方理珠さん、派手にこけてしまったわ……)
紗和子 (近くに先生はいないし、生徒の姿もないわ……)
紗和子 (ど、どどど、どうしたら……)
紗和子 「………………」
紗和子 (わ、私が……出て行っても、いいのかしら……?)
紗和子 (あの人の……緒方理珠さんに手を貸してあげても、いいのかしら……?)
紗和子 (できるのかしら。私に、そんなことが……)
―――― 『空気を読むとはどういうことですか?』
―――― 『できたのにできないフリをしろということですか? どうなのですか?』
ギリッ
紗和子 (……行かなきゃ)
紗和子 (あのとき背中を押してくれたあの人のために、行かなくちゃ……!)
理珠 (困りました……) ズーン (メガネが見当たりません)
理珠 (メガネがないと、鍋焼きうどんどころの話ではありません。下山もままならないですね……)
理珠 (さて、どうしたものか……――)
?? 「――これ、あなたのメガネでしょう?」
理珠 「へ……?」 (人……? クラスメイトでしょうか?)
理珠 (メガネがないから、顔も何も見えませんが……)
?? 「とりあえず、へたり込んだままじゃ何だから、立ち上がりなさい。ほら」
スッ
理珠 「あっ……ありがとうございます」
?? 「はい、メガネ」
理珠 「助かりました。これがないと何も見えないので……」
?? 「あっ、メガネをかけるのはちょっと待ってちょうだい」
?? 「まだ面と向かって話すのは恥ずかしいから……」
理珠 「……?」
?? 「……そして、私はあなたに、とても感謝しているの。だから……」
?? 「……あのとき、背中を押してくれて、ありがとう」
理珠 「……? すみません、顔も見えないので、あなたのことを思い出せないのですが……」
?? 「当然だわ。あなたは私のことを知らないでしょうから」
?? 「……それだけよ。時間を取らせて悪かったわね」
?? 「あと少しで頂上みたいだから、がんばりなさい」
理珠 「本当ですか!? ということは、あとすこしで鍋焼きうどんですね!!」
?? 「……ふふっ、あなたうどんが好きなのね。覚えておくわ」
理珠 「はい、家がうどん屋なのでうどんは大好きです。それから、この山の頂上の鍋焼きうどんも絶品だそうですよ?」
?? 「へぇ、そうなのね。じゃあ、私も後でいただこうかしら」
?? 「それじゃ、先に頂上で待っているわ。もうメガネをかけてもいいわよ」
理珠 「……?」 スッ 「あれ……?」
理珠 「誰もいない……?」
理珠 (一方的にお礼だけ言って去ってしまいましたが……)
理珠 (正直、改めてお礼を言いたいのはこちらなのですが……)
理珠 「………………」
ギュッ
理珠 (……温かい手と、温かい言葉)
クスッ
理珠 「……ヘンな人です。でも……」
理珠 「きっと、すごく良い人なんでしょうね」
………………
……………………
…………………………
……………………
………………現在
理珠 「………………」
紗和子 「………………」 ダラダラダラ……
理珠 「……関城さんだったんですね」
紗和子 「な、何の話かしら? 全然分からないわねー?」
理珠 「………………」 クスッ 「……今思い返してみれば、声もそっくりです。シルエットも」
理珠 「髪も今日みたいなお団子でしたね」
紗和子 「……し、知らないわっ」
紗和子 (……は、恥ずかしくて、今さら 『実は私でした』 なんて言えないわよ!)
理珠 「そうですか……」 クスッ 「じゃあ、これならいいですか?」
スッ
紗和子 「へ……? めがね、どうして外して……?」
理珠 「……あの日、手を貸してくれてありがとうございました」
紗和子 「あっ……」
カァアアアア……
紗和子 「……どっ……どういたし、まして……」
理珠 「はい」
理珠 「……では、今日も手を貸してもらえますか?」
紗和子 「?」
理珠 「手、引いてください。疲れちゃいました」
紗和子 「っ……」 ボフッ 「しっ、仕方ないわね……!!///」
ギュッ
紗和子 (お、緒方理珠と、手を繋いでいる……///)
理珠 (……あのときと同じ、温かい手。私の想像通りでした)
理珠 (やっぱり、すごく良い人でした)
紗和子 (……あの時、この子が私の背中を押してくれたから、私は今ここにいられるわ)
理珠 (そして今も、私の手を引いてくれています)
紗和子 (今だって、あなたがいるから、私はこうやって笑うことができるのよ)
理珠&紗和子 ((だから……))
理珠 「……なっ、なんですか。関城さん。顔がニヤけてますよ?」
紗和子 「そういう緒方理珠こそ。ちょっと顔が赤いんじゃないかしら?」
紗和子 「ほら、あと1キロよ! あと1キロで念願のうどんよ!」
理珠 「自動車がないから諦めていたドライブインの激うまうどん……! 楽しみです!」
理珠 (……だから、これからもどうか、ずっと、友達でいてくださいね)
紗和子 (だから、これからも、この子の友達でいられたら、私は満足だわ)
おわり
先生 「おお、緒方もしっかりと水を運んでくれたんだな。ご苦労ご苦労」
理珠 「……はい。がんばりました」 ズルズルズルズル……
先生 (すごい勢いで名物の鍋焼きうどんをすすっている……)
先生 「そうだ。緒方、あんまり写真に写ってなかっただろう?」
先生 「販売用の写真を撮るから、うどん食べながらでいいからこっちに目線をくれないか?」
理珠 「……わかりました」 ズルズルズル……
先生 「じゃあ、撮るぞー? 3,2,1……」
紗和子 「………………」 ピース
カシャッ
先生 「ん……?」 (奥の木立から突然女子生徒が現われてピースサインをしたが……)
先生 (……まぁ、いいか)
おわり
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佐倉綾音さんまだ処女(下半身の二穴)は余裕で死守出来てますわ
信じられないことにね
良くも悪くもお嬢様なんだろうね