ヤムチャ「ここがハンター試験会場か……!」
人造人間との戦いまであと二年を切っていた。
ヤムチャは悟空たちと別に修行を重ねていたが、
自分の力の限界を感じていた。
フリーザより強いとされる人造人間……。
正直ついていける気はしなかったが、もう足手まといになるのもこりごりだった。
ヤムチャは悩みぬいた末、一つの決断を下した。
ドラゴンボールを集め、神龍を召還したのだ。
神龍「さぁ願いを言え……。どんな願いも一つだけかなえてやろう……」
ヤムチャ「お、オレでも満足に修行できる場所に送ってくれ!!」
神龍「それがお前の願いか……?」
プーアル「ヤムチャさま! ボクもご一緒させてください!!」
ヤムチャ「ああ! 神龍! オレとプーアルを、だ。
オレだってもっと強くなりたい……!! 頼む! 神龍!!」
神龍「わかった……」
神龍の目が光り、フッ、とヤムチャとプーアルの姿が消える。
その瞬間、ヤムチャとプーアルは地球から消えた。
ビーンズ「はい、次はあなたですね。これがプレートです」
ヤムチャ「えっ? はっ! ここは……?」
ヤムチャが周りを見渡すと、そこは地下道のようだった。
何百人と言う男たちが目をぎらつかせている。
ヤムチャ「やったぞプーアル! 成功だ!! ここがオレの修行場だ!!」
プーアル「はい! やりましたねヤムチャさま!!」
ビーンズ「あの~、どうでもいいけど早く受け取ってください」
ヤムチャは訳も分からないまま、『406』と書かれたプレートを受け取った。
ヤムチャ「それにしてもここはどこで、なんなんだろうな?」
ヤムチャは再度、周りを見渡した。
ヤムチャ(結構な人がいるが……たいした奴はいなさそうだ)
ヒソカ「……」ズキュウゥゥゥン
トンパ「やぁ、そこの兄ちゃん。さっきからきょろきょろして、
もしかしてハンター試験は初めてか?」
ヤムチャ「ああ、そうだ。ハンター試験って……?」
プーアル(ヤムチャさま! もしかして神龍がヤムチャさまにふさわしい修行の場として
強さを競う試験の場に送ってくれたんじゃないですか?)
ヤムチャ(おお、そうか! 神龍も気が利いてるじゃないか~)
ヤムチャ「そうだそうだ! オレはハンター試験を受けに来たんだ、はは……!」
トンパ「なんだがしゃっきりしねぇ兄ちゃんだな。
ま、そういうことなら俺にまかせときな」
トンパ「なにせ俺はもう35回も試験を受けてるからな」
ヤムチャ「35回!? す、すげーなアンタ……」
それからヤムチャはとトンパにいろいろ話をしてもらい……。
トンパ「お、そうだ。よかったらこれ飲みな。お近づきのしるしだ」
ヤムチャ「お、ジュースか! ありがとうトンパ」
プーアル「やさしいんですね」
トンパ「へへっ、まぁな……」
ヤムチャは遠慮なくジュースを飲んだ。
トンパはニヤニヤ薄ら笑いを浮かべていた。
ジリリリリリリリリリリリリ!!
サトツ「ただいまを持ちまして、受付時間を終了とさせていただきます。
同時に第287期ハンター試験、一次試験を開始いたします」
プーアル「あ、はじまるみたいですよ、ヤムチャさま」
ヤムチャ「あ……ああ……!!」
プーアル「ヤムチャさま……?」
ヤムチャはかつてないほどの腹痛に襲われていた。
足をぴょこぴょこさせ、前かがみになり、便意と戦っていた。
サトツ「申し遅れましたが私、一次試験官のサトツと申します。
それでは皆様を会場までご案内いたします」
ヤムチャ「あの……! ちょっと!!」
サトツ「はい? なんでしょうか?」
ヤムチャ「ここ、トイレってあります……?」(震え声
爆笑が湧き起こった。
モブB「おい誰だよこんなやつ会場まで通したバカは?」
モブC「お兄ちゃんぽんぽんいたいんでちゅね~?」
ギャハハハハアハハハアハハ!!!!!!!
ヤムチャ「くっ……」プルプル
サトツ「みなさんお静かに。残念ですがここにトイレはありません。
試験をやめて地上に戻るなら、案内も可能ですが……」
サトツ「どうされます?」
ヤムチャ(ぐっ……! なんてこった!!)
ヤムチャ(せっかく修行に来たのに何もせずに帰れるかよ!!)
ヤムチャ「わかりました……このままうけます……」
サトツ「よろしい。ならば参りましょう」
レオリオ「おいあんた大丈夫か?」
レオリオ「まさかトンパのジュースを飲んだんじゃねェだろうな?」
ヤムチャ「な、なぜ……それを……?」
レオリオ「俺たちも騙されかけたからな。ほら、これ胃薬だ。
効くかは微妙だが、飲んどきな」
ヤムチャ「あ、ありが……」
ヤムチャ(ハッ! 待てよ……)
ヤムチャ(この男も騙そうとしてるんじゃ……)
ヤムチャ(この男がトンパとグルって可能性もある……)
ヤムチャ「だ、だまされねーぞ! もう騙されてたまるか……!」
レオリオ「あ、オイ待てよ! 俺はあいつとはちげーぞ!! オイ!!」
レオリオ「ったくもう知らねーぞ下痢ピー野郎が!」
サトツの先導する一団は走り続けた。
途中、これが一次試験であると告げられた受験生たちは、
いつ終わるかわからないマラソンを強いられることになる。
そして6時間が経過した……。
ヤムチャ「うぉっ、うお……うぉぉぉおぉ!!!」
ゴン「お兄さん大丈夫?」
ヤムチャ「ああ、だいじょうぶ……さ。こん……なの……
なんて……こと、ないんだぜ……」
プーアル「ヤムチャさまファイトー! がんばってください!!」
ゴン「キミは喋れるの? すごいね!」
プーアル「はい! ボクはプーアルと言います。
ヤムチャさまのパートナーです」
ゴン(この子にすごく慕われてるんだな。
このヤムチャって人は良い人だ)
キルア「やめろよゴン。う○こくさいのがうつっちまうぜ」
ゴン「もう、キルアダメだよ! そんなこと言っちゃ」
ヤムチャ「そう……だ。まだ……漏らしてな……い」
ゴン「頑張れ! ヤムチャさん」
レオリオ「あぁん? なんだって……ぜぇ……はぁ……!」
クラピカの視線をレオリオが追うと、そこにはヤムチャがいた。
レオリオ「あンの下痢ピー野郎がどうしたんだ?
つーかアイツまだ落ちてなかったのか……はぁ、ゼェ」
クラピカ「そこだ、レオリオ。気付かないのか」
レオリオ「?」
クラピカ「彼は……おそらく下剤を飲まされ腹を下し、
コンディションは最悪のはずだ」
クラピカ「にも拘らず、ここまでの道のりで全くペースを落とさず走り続け、
それどころか、先頭におどりでてしまっている……」
レオリオ「あ! そ、そういやそうだ……」
クラピカ「レオリオ、おまえならできるか? コンディションが最悪の状態で、
ゴールもわからない。あとどれだけ走ればいいか分からない。
そんな地獄のマラソンで先頭で走り続けることができるか?」
レオリオ「……!!」
クラピカ(ヤムチャ、と言うらしいが……)
クラピカ(一体何者なんだ……?)
そこでいきなり、『自分が試験官である、その男はニセモノだ!』
と言い張る男が現れた。
だがそんなこと今のヤムチャには関係なかった。
ヤムチャ「お……い、あんた……」
レオリオ「なんだよ……」
ヤムチャ「やっぱさっきの胃薬わけてくんない? もう限界で……」
レオリオ「だーっ! やめろここで漏らすな!
ほらこれだよさっさと飲め!!」
ヤムチャ「す、すまん」(ゴクリ
ぐぎゅ~っ
ヤムチャ(ウッ! 薬を飲んで安心したら腹が……)
ヤムチャ(も、もうガマンできない……)
ヤムチャは一行からコッソリ離れ、草葉の陰で用を致した。
ヤムチャ「すっかりはぐれちまったな」
ヤムチャ「幸い腹の調子はそこそこマシになったけど……」
プーアル「みんなどっちにいったんでしょうね?」
ヤムチャ「あっちで大勢の気が動いてる。あっちだな」
ヤムチャは軽快に走りだした。
残ったのは三人。クラピカ、レオリオ、チェリー。
ヒソカ「残るはキミたち3人だけだねぇ。どうする?♦」
チェリー(おい、俺が合図したら一斉に逃げるぞ……)
ヒソカ「ん?♦ 逃げるのかい?♠」
レオリオ「………!」(ギリッ
クラピカ(よせレオリオ! 私たちでは奴には勝てない!)
ヤムチャ「あれ? これどういう状況?」
三人「!!?」
ヒソカ「あっ、キミは……♦」
ヤムチャは周囲を一瞥し、状況を理解した。
ヤムチャ「なるほど、おいお前たち、逃げたほうがいいぞ!」
ヤムチャ「コイツの相手はオレがしてやる」
三人「!!?」
ヒソカ「……!!」ビンッ!!ビンッ!!
ヤムチャ「いいから任せろって。アンタには薬の恩があるからな」
クラピカ「レオリオ、ここは彼の言葉を聞こう!」
レオリオ「クラピカ! アイツを見捨てるってのか!?」
チェリー「いや、確かに一人囮になってくれれば
俺たちの助かる確率はハネ上がる……」
クラピカ「レオリオ!」
レオリオ「……くっ!」
三人は立ち去り、霧の中にヒソカとヤムチャだけが残った。
ヤムチャ「ふん。おまえ最初っからオレが狙いだったんだろう?」
ヤムチャ「あの地下道の時から妙に視線を感じてたんだ」
ヤムチャ「あれはおまえだろう?」
プーアル「そうなんですか?」
ヒソカ「……! ちょっと熱視線送りすぎてたかな?♠」
一拍の間。ヒソカが動いた。
どこからか取り出した複数枚のトランプを投げる。
トランプはナイフのように鋭く、まっすぐにヤムチャへと伸びた。
しかし、ヤムチャは一歩も動くことなく
トランプをすべて叩き落とした。
ヤムチャ「おい、こんなもんか?」
ヒソカ(ゾクゾクゾクッ!!!
ヤムチャ「じゃあ今度はこっちから行くぜ!」
ヤムチャが腰だめに構えるとともに、気を解放する。
それはヒソカの目に巨大な炎となって現れた。
山をも焼き尽くすほどに、巨大な炎に見えた。
ヒソカ(素晴らしい……!!!)ズキュゥゥゥゥンン!!!!!!
ヒソカはがっくりと腰を落とした。ヤムチャとは違って
膝の力が抜けた落ち方だった。
ヒソカ「鎮めなきゃ、抑えなきゃ……」
ヤムチャ「おいどうした?(急に震えだしたぞ。どうしたんだ?)」
ヒソカは目線を戻すと、にこやかな笑顔だった。
ヒソカ「うん! やめとく❤」
ヤムチャ「はぁ?」
プーアル「ええ!?」
ヒソカ(たぶん今やりあうと、抑えられなくなっちゃしね♠)
ヒソカ「じゃあね、良いハンターになりなよ♦」
霧の中へ消えていくヒソカ。
ヤムチャはすっかりぽかんとしていた。
レオリオ「やっぱりアイツ一人に任せられねェ!! 大丈夫かおい!!」
レオリオ「ってあれ?」
クラピカ「待てレオリオ……。これは……?」
ヤムチャ「あいつ、なんだったんだ……?」
クラピカ「ど、どういうことだ?
ヒソカを無傷で撃退したというのか……?」
ヤムチャ「いや、あいつなんか勝手にどっか行っちまった」
レオリオ「なに? かーっ! 試験官ごっことか言ってやがった癖に!
なんて自分勝手なヤローだ!!」
クラピカ(ヒソカが自ら退いた……なぜだ?)
クラピカ(さっき一瞬……おそらく、ここから発せられた
『異様な気配』と何か関係があるのか……?)
レオリオ「ゴンか! この通り無事だぜ!」
ゴン「よかった~。ヒソカが暴れるって聞いたから、心配したんだよ」
クラピカ「……」
レオリオ「にしてもだいぶ離れちまったな。追いつけっかな?」
ゴン「それなら大丈夫だよ、オレの……」
ヤムチャ「ん? みんななら多分向こうだぞ?」
ゴン「」
レオリオ「なんでそんなはっきり言えんだよ」
ヤムチャ「だって向こう側が、一番大勢の気が動いてるからな」
クラピカ「気……? 気配のことか?」
ヤムチャ「まぁそんなとこさ。行こうぜ」
クラピカ「……」
ゴン「」
そこでの試験は料理を作ることだった。
一つ目の試験、豚の丸焼きは難なくこなした受験生たちであったが、
二つ目の試験。『スシ』がヤムチャたちの前に立ちはだかる……。
ヤムチャ「ニギリズシか……。まいったな~ブルマんちでよく食べてたけど、
作り方まではわかんねーよ」
プーアル「ただお刺身を乗せるだけじゃないんですか?」
ヤムチャ「たぶん、それだけじゃうまい寿司は作れないんだ」
ハンゾー(くそっ、なんであいつスシのこと知ってんだ?)
ゴン「ライスだけで作るのかな?」
ヤムチャ「いや、違うぜゴン。
寿司ってのは刺身にした魚を握った米の上に乗せるんだ」
レオリオ「なんだヤムチャ? 知ってんのかよ!?」
クラピカ「なるほど、魚か!」
ヤムチャが漏らした情報により、受験生たちはいっせいに魚を取り、
思い思いに刺身にし、スシを作った。しかし、誰一人として
二次試験官――メンチの舌を唸らせることはできなかった!
このまま合格者0人になると思われた矢先、
ハンター協会会長のネテロが現れた。
ネテロの提案により、クモワシの卵をとってくること、に
試験が変えられ、ヤムチャたちはなんなく試験を突破したのだった。
ゴン「ヤムチャさん……? え? 飛んでる!!?」
クラピカ「…………!!」
レオリオ「うそだろ? ひ、人が飛ぶなんて……
と、トリックか?」
ヤムチャ「トリックじゃねーよ。種も仕掛けもない」
キルア(……うそだろ?)
ゴン達はヤムチャに先ほどの技――舞空術について、
ひっきりなしに聞いていた。
ヤムチャ「だから、舞空術は気をある程度扱えたら
誰でもできるんだって……」
レオリオ「だからその”気”ってやつは何なんだよ!? 俺は医者の勉強してきたが、
どの本にも人間の体にそんなスゲーパワーがあるなんて書いてなかったぜ!?」
ゴン「ねぇヤムチャさん! 俺にもできるかな!?
空……飛べるかな?」
ヤムチャ「はは、修行すればできるさ」
キルア「……つまんねーの、ちやほやされやがって」
クラピカ「…………」
キルア「っていうか第三試験こっから降りるんだぜ?
そのおっさんだけラクショーじゃねぇか!」
キルア「ズルだよ! そんなのズルだ!!」
レオリオ「最初スケボーにのってた奴がそれ言うか……」
クラピカ「人数が減っている。どうやら隠し扉があるようだな」
オレだったらあんな怪鳥やっつけれるし」
レオリオ「おおっ! そりゃあいいぜ!!
第三試験合格第一号になれるな!!」
ゴン「……いや、俺はいいかな」
ヤムチャ「ゴン?」
ゴン「なんていうか、ハンター試験は、自分の力でやらなきゃ
ダメだと思うんだ。ハンターって資格は、ちゃんと試験を
乗り越えた人がもらえるモノだと思うから……」
ヤムチャ「……」
ゴン「あ、でもヤムチャさんは降りていいと思うよ!
そのブクージュツは、ヤムチャさんの力で間違いないし!」
ヤムチャ「いや、オレもまっとうに降りることにするぜ」
ヤムチャ「考えてみたら、オレはここに修行に来たんだ」
ヤムチャ「楽をしちゃ修行にならねーからな、はは」
プーアル「さすがヤムチャさまです~!」
5人はトリックタワーを進む。
『どっちに行く? 右⇒○ 左⇒×』
レオリオ「ちっ、決まってんだろこ……」
ヤムチャ「右だな。多数の気が感じられる」
クラピカ「その気とやらは、遠くの気配まで探れるのか?」
ヤムチャ「ん? まぁこのタワー全域ぐらいならわけないぜ」
レオリオ「便利だなー気ってやつは」
ベンドット「ここから先、一対一の勝負で我々5人を倒さねば
先へは進めない」
ベンドット「一人につき一度しか戦えない。
受けるなら○、受けないなら×だ」
クラピカ「当然受けるとして、一番手は誰が行く?」
ヤムチャ「まずオレから行かせてもらうぜ」
レオリオ「いいのか、ヤムチャ?」
ヤムチャ「ああ、連中の腕がどのくらいか試してやるさ」
ヤムチャ(とはいっても、
あの中にもたいした奴はいなさそうだけどな……)
ベンドット「じゃあ一番手は俺……」
???「オレが行く……。もうガマンできそうにない……」
ベンドット「……ッ! わかった、お前に先鋒は譲ろう」
???「」ニィ
ゴンとレオリオの背筋は凍った。
ゴン「……」ゾクッ
レオリオ「なっ……! やめろヤムチャ! 戻れ!
俺たちの負けでいい!!」
ヤムチャ「何言ってんだレオリオ。まだ始まってすらないんだぞ!」
レオリオ「いいから棄権するんだ! ヤツは……!!」
ジョネス「久しぶりに……シャバの肉をつかめる……」
ザパン市史上最悪の大量殺人鬼。146人の命を奪った男だと。
ヤムチャ「なるほど極悪人ってわけか……」
レオリオ「わかっただろ!? だから棄権……!!」
ヤムチャ「構わない、はじめてくれ」
レオリオ「お、おい……!」
クラピカ「よせレオリオ。既にリングに降りている。
勝負は成立したとみなされているんだ」
レオリオ「でもよ……!」
ゴン「……ヤムチャさんなら大丈夫だよ」
キルア(さて、ヤムチャのお手並み拝見だぜ……)
ジョネス「くっくっくっ? 悔いるだと? 何をだ?
オレはただ肉をつまんで千切って捨てる。
ただそれだけのことをしているだけだ……」
ヤムチャ「……」
ジョネス「これから行われるのは一方的な虐殺さ。
試験も恩赦もオレには興味がない。
おまえは――――……」
ぱん
それは空気が超高速で炸裂し、音が後から来た故の現象だった。
最初に気付いたのはキルアだった。
ヤムチャがジョネスに裏拳を打ち込んだのだ。
だが撃った瞬間が見えたわけではない。撃ち終わりの姿勢を見て、
そう判断できただけだ。
次に気づいたのはゴンだった。
ものすごい勢いでジョネスが壁にぶつかっていた。
そのまま壁を砕き、奥へと吹き飛んで行った。
吹き飛んだジョネスが壁を突き抜けた音を、ようやくクラピカは察した。
たった一撃で終わったのだと。
たった一撃で、この男は勝ったのだと。
受刑者たち「……………………………!!???」
ヤムチャ「おい! オレの勝ちだろう? さっさと次、降りてきやがれ」
レオリオ「えっ? 何が起きたんだよ!? なんでジョネスがいないんだ……??」
クラピカ「ヤムチャがタワーの外に……吹き飛ばしたのだ……」
ゴン「…………!」
キルア(ウソだろ……全く、全く見えなかった……)
ベンドット「い、いや確かに君の勝ちだが、これは勝ち抜きじゃない。
そちらも交代してもらわなければ……」
マジタニ「おいなんなんだよ!? あんな化け物の相手なんて、お、
オレはごめんだぜ!?」
セドカン「お、落ち着きなよ。も、もうあいつの出番は終わったから……」
レルート「こりゃあ、なめてかかったらヤバそうね」
レオリオ「ヤムチャ……お前実はとんでもねーやつなのか……?」
クラピカ「今のも気の力なのか……?」
ヤムチャ「一片に話しかけないでくれよ。みんなの話はタワーを降りて
暇なときに答えるからさ……」
ゴン「んー! なんかオレもやれそうな気がしてきた!!
じゃあ二番手オレがいくね!!」
ヤムチャの一撃で士気の上がったメンバーは次々と勝ちを重ねた。
ゴンは蝋燭を一気に噴き上げて瞬殺。
クラピカは蜘蛛の入れ墨をみて激怒しマジタニを瞬殺。
キルアは……。
ベンドット「悪いが子供相手でも容赦はしない」
キルア「……っ……な」
ベンドット「ん?」
キルア「うっせーよ。御託はいいから早くきやがれ」
ゴン「キルア……?」
キルア(なんだよ! ゴンはせっかくできたオレの……オレの……)
キルア(なのに、ヤムチャヤムチャって……)
キルア(クラピカもレオリオもだ。あんなやつ……)
キルア(オレだって……!!)
リングに転がるベンドットの、さらに両肩の筋肉を切断した。
動けなくなったベンドットを、キルアは殴り続けた。
キルア(オレだって……オレだって……!!)
レオリオ「うえっ……もうやめろキルア! そいつもう意識ねーぞ!!」
キルア「…………」
クラピカ「聞こえていないのか?」
ヤムチャ「ヤバいぞ、あっちの男はもう死にかけだ」
ゴン「キルア―!!!!!」
キルア「!」ピクッ
ゴン「……どうしたの、もういいんだよ」
キルア「……」
キルア、動かなくなったベンドットを撃ち捨て、リングを降りた。
ゴン「キルア……」
キルア「悪いゴン、ちょっと放っておいてくれ……」
ゴン「キルア……!!」
「せっかくだから全勝しようぜ!」というレオリオの提案で
レオリオ対レルートが行われ、レオリオ惨敗。
ヤムチャたちは50時間のロスを食う羽目になった。
クラピカ「ヤムチャ……」
ヤムチャ「ん? どうしたクラピカ?
わっ? なんだよ!? 頭なんか下げて……」
クラピカ「私に気を教えてほしい!」
ヤムチャ「え?」
クラピカ「ぶしつけな頼みなのは承知だ……だが、
どうか頼む……!」
ゴン「あ、ずるいクラピカ! ねぇヤムチャさん! オレにも教えて!」
レオリオ「そういや気ってのは、誰でも覚えられるんだろ?
オレにも教えてくれよ!」
ゴン「キルアも一緒に……」
キルア「オレは……今はいいよ……」
ゴン「キルア……」
自分は滅ぼされたクルタ族の生き残りであり、
クルタ族を滅ぼした『幻影旅団』を倒すためにハンターを
目指している。
気の力を身につけることは旅団打倒に近づくカギだと。
ヤムチャ「復讐、か……」
クラピカ「常識から考えて、復讐など目指すものに、
力を授けられないというのはわかる……」
クラピカ「だが、私には力が必要なんだ……!!」
ヤムチャ「……いいぜ。教えてやるよ」
クラピカ「本当か!」
ヤムチャ「ああ、ただし……」
ヤムチャ「気の……身につけた力を悪いことに使うのはなしだ。
あくまでその旅団とかいうのを倒すためだけに使ってくれ!」
クラピカ「誓おう……」
ヤムチャ「よし、じゃあ教えるよ。もっとこっちに……」
ヤムチャ「だめだめ。レオリオはもっと心を落ち着かせて……
最初は落ち着かないと、気を引き出せないぞ」
レオリオ「うぐぐ、難しいぞ全然わからねェ……」
ゴン「あっ! ねぇヤムチャさんこれ……?」
ヤムチャ「おっ! そうだゴン。その小さな光の玉が
おまえの気の集まりだ! うまいぞ」
クラピカ「……!」
ヤムチャ「クラピカはもっと肩の力を抜いた方がいいな」
クラピカ「そうか」
~~~~
ゴン「す、すごいよクラピカ! ちょっと浮いてるよ!!」
クラピカ「しっ、静かに、ゴン。集中させてくれ……」
レオリオ「くっそー! まだ俺だけ何もできてねーぜ」
~~~~~~
そしてあっという間に50時間が流れた。
キルア(……ヤムチャ!)
ヤムチャ「なんかハンター試験ってやつも大したことないな~」
プーアル「そうですね……ヤムチャさまにはちょっと物足りないですよね」
ヤムチャ「神龍もなんでこんなとこにオレを送ったんだろな?」
キルア(ふざけやがって……! オレだって……オレだって……)
キルア、自信の手を鋭く変化させる。
キルア(オレだって……!!)
ヤムチャ「そう殺気立たれたら地球の裏側にいてもわかるぞ」
キルア「!?」
もう一度振り返ると、そこにヤムチャはいない。
キルア(そんな……オレに全く気付かれずに背後にまわったのか……
ウソだ……! 全く見えないなんて……そんなこと……!)
キルア「さ、さすがに速いんだね……」
ヤムチャ「ん、まぁな」
ヤムチャ「それよりまぁ座れよ。話そうぜ」
ヤムチャはキルアと並んで座った。
キルア「……あんたのせいだよ」
ヤムチャ「ああ、やっぱりか」
キルア「オレは……暗殺一家で生まれ育った。物心つく前から人を殺す技ばかり学んできた。
自慢にもならないけどさ……これでも結構自信あったんだぜ」
キルア「でも、やっぱりオレ。普通に友達作りたかったんだ……。
同じ年の友達作って……普通に遊んだりバカなことで笑ったり……」
キルア「そういうことをしたかったんだ……」
ヤムチャ「……」
ヤムチャ「なるほど、友達に自慢できる唯一の特技すらこのオレに敵わない。
ゴンはオレのことを見てくれない。だからどうしたらいいかわからない、
ってとこか」
キルア「……!」
ヤムチャ「オレの技はあくまで武術だってーの」
ヤムチャ「敵と戦う術ではあるけど、殺しを目的とした技じゃねー」
キルア「それでも、同じさ」
ヤムチャ「それに、ゴンはお前のこと見限ってなんかいねーよ」
キルア「……!」
ヤムチャ「それどころか、キルアが心配だって、オレたちにしきりに
相談してきたんだぜ? おまえは心を閉ざしてたから
気付かなかったかもしれないが」
キルア「……そう、なの……?」
ヤムチャ「オレも、もといた場所じゃ。戦力としては微妙扱いだからな……」
キルア「えー……。それはウソだろ!」
ヤムチャ「ウソじゃないんだよなぁ……。オレがハンター試験受けてるのも
修行としてももっと強くなるためだし……」
キルア「じゃあ期待外れだったんじゃない?」
ヤムチャ「うん、正直……」
キルア「……ねぇ、ヤムチャの話を聞かせてよ」
ヤムチャ「ん、いいぞ(恥ずかしい部分は省いとくけどな……)」
ヤムチャはキルアにこれまでの戦いを話し始めた。
天下一武道会、ピッコロ大魔王、マジュニア、サイヤ人……。
まるで作り話のような、おとぎ話のような冒険譚に、キルアは聞き入った。
キルア「じゃあ、ヤムチャはもう何回も世界を救う戦いに参加してんだね」
ヤムチャ「はは、まぁな……大した力にはなれなかったけど。
っていうか、信じるのか? オレの話」
キルア「あんなとんでもない力を見せられた後だしね」
キルア「信じるしかねーよ」
キルア「……なぁヤムチャ」
ヤムチャ「ん?」
キルア「やっぱり、俺にも気を教えてくれないか」
ヤムチャ「……」
キルア「やっぱりだめ?」
キルア「えっ……」
ヤムチャ「友達に散々心配かけてたんだ。まず謝りに行くのが
スジってもんだ!」
キルア「友達……オレが、ゴンと……」
ヤムチャ「さ、いって……」
ゴン「あっ! ヤムチャさーん! キルア!!」
ネテロ「ホッホッホッ。キミは確かヤムチャくんだったの」
キルア「なにしてんだ、ゴン」
ゴン「今ね、ネテロさんとゲームしようって話になったんだ。
それでキルアも誘おうと思って探してたんだよ!」
キルア「オレを……探してくれたのか」
ゴン「あったりまえじゃん。友達だもん!」
キルア「ゴン……」
ネテロ「ほっほっほっ、青春じゃの~」
プーアル「よかったですね、キルアくん」
ヤムチャ「あ、オレはいいです。二人の邪魔したくないし……」
ネテロ「……そうか、では行こうかの」
ゴン「ほら、キルアこっちだよ」
キルア「あっ、待てよゴン!」
キルア、立ち去る前に一度振り返る。
キルア「あの……ヤムチャ……ありがと……」
ヤムチャは笑顔で二人を見送った。
ネテロ(ヤムチャ……か。クックックッ、震えが止まらねーぜ……)ブルブルッ
広大な島でターゲットを探すのさえ苦労するものだが、
気で気配を探り、舞空術で接近できるヤムチャには関係なかった。
ヤムチャ「さて、プレートも得点分集めたし、
時間までぶらぶらするか」
第四次試験はヤムチャにしてみればかつてないほどに簡単であった。
ヒソカ「くっくっくっ……どうしたんだい? 短期間でまるで見違えたよ♦」
ゴン(見える……ヒソカのオーラが! ヒソカも気の使い手だったんだ……!)
ヒソカ「ヤムチャ、彼に教えてもらったんだね? やはり彼も素晴らしい……❤」
ヒソカ「プレートは返してあげる♦
キミがボクに一撃返せるようになったら、改めて受け取るよ♠」
ゴン(今のオレじゃ勝てない……くやしいな……)
ネテロ「10人中7人ルーキーか! 今年は豊作じゃのう!」
メンチ(な、なんか会長妙にテンション高くない?)
ブハラ(ホラ、アレだよ406番……)
ネテロ「みんな誰に注目しとるかね?」
メンチ「あたしは294番(ハンゾー)ですかねー」
ブハラ(スシ知ってたしね)
ブハラ「オレは44番(ヒソカ)かなー。やっぱうん。別格だと思うよ」
サトツ「私は将来性を見て99番(キルア)ですかね。
あの歳であの隙のなさは中々ですよ」
ネテロ「ふむふむ。確かに皆の意見ももっともじゃな」
リッポー「おまえらわかってないな。一番ヤバいのは406番だよ」
サトツ「私は彼はどうかと思いますが……念能力者としては大したものだと思いますが、
ハンターとしてはどうかと……」
リッポー「おまえらはトリックタワーでのアイツを見てないから、
そんなことが言えるんだよ」
ブハラ「でも、実際何者なんだろうなぁ」
サトツ「底の見えないオーラ量。よどみないオーラの流れ。おそらく強化系でしょうが、
あれほどの使い手はプロハンター、賞金首の世界でもそうそういないと思います」
ネテロ「うん、ていうかあいつ多分わしより強いぞ」
試験官たち「!!?」
メンチ「さ、さすがにそれはないでしょ……」
サトツ「ま、まさかプロ資格もない、名前も知られていない者の中に、
会長より強い念能力者など……」
ネテロ「ま、すぐにわかるさ」ニィイ
ブハラ(あ、会長が悪い顔してる……)
ネテロ「まぁ座りなされ」
ネテロ「最終試験前に、2,3質問させてもらうぞ」
ヤムチャ「はぁ……」
ネテロ「よし、ズバリ聞くけどよ。ヤムチャくんって何者?」
ヤムチャ「え? なんすかその質問……?」
ネテロ「これ見えるじゃろ?」
ネテロ、オーラで人差し指の先に塊をつくる。
ネテロ(気? こいつは念だが……)
ネテロ「ヤムチャくん。キミも同じ力が使えるなら」
ネテロ「ちょっと見せてくれんかの?」
ヤムチャ「いいですよ」
ヤムチャ、立ち上がり手を腰だめに構える。
ヤムチャ「ハッ!」
グ ア ッ !!!
クラピカ「!」
レオリオ「!」
キルア「!」(ゴンに気を教えてもらってる所
ヒソカ「!!」(バラバラ(トランプタワーが崩れる。
試験管たち「!!!!」
クラピカ「なっ、なんだこの恐ろしい気は……!!」
ゴン「ヤムチャさんだ! ヤムチャさんの気だよ!!」
レオリオ「ヤムチャの……ウソだろ?
と、トンデモねーデカさじゃねーか!!」
キルア(……! じ、次元が違う……!!)
ヒソカ「」ズギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!
ヤムチャ「えっ、わかりました」
ネテロ「……ん。ありがとうよ。さがってくれ」
ヤムチャ「えっ? もういんすか?」
ネテロ「……ああ」
ヤムチャ、退室する。
ネテロ「…………」
ネテロの両腕は震えていた。
それはヤムチャの気に圧倒された故であり――
ネテロ「」ニヤリ(ブルブル
かつて見たこともない強大な相手に対する武者震いであった。
サトツ「ネテロ会長。入ってもよろしいですか?」
ネテロ「いや、入らんでくれるか? 要件はここで聞く」
サトツ「会長のおっしゃる通りにトーナメント表が完成しましたので、
報告を……」
ネテロ「ああ、センキュ」
サトツ「会長……本気ですか?」
ネテロ「……」
サトツ(応接を終えてから、会長は部屋にこもりきり……)
サトツ(会長は本気だ……)
ボドロ「負けあがりトーナメントとはな……」
ポックル「ってことは、不合格は一人か、へへ。運がめぐってきたぜ」
ネテロ「ルールは単純。相手に負けを認めさせたら勝ち!
武器OK反則ナシ! ただし相手を死に至らしめたら失格。
その時点で残りの者が合格となる」
ヤムチャ「あの~ネテロさん」
ネテロ「なんじゃ、ヤムチャくん?」
ヤムチャ「トーナメント表に、オレの番号がないんですが……」
ネテロ「ああ、すまんの。ヤムチャくんだけはちょっと
別の最終試験を受けてもらうことにした」
ヤムチャ「ええ? まじすか!?」
ネテロ「うん」
ハンゾー(どうでもいいけどなんでじーさんはTシャツ短パンなんだよ?)
そして始まった。
接戦の果てに、技術の差でハンゾーが勝利しかけるも、
負けを認めないゴンに根負けし、ハンゾーが勝ちを譲る。
二回戦。ハンゾー対ポックルはハンゾーが瞬殺した。
三回戦。問題はここでおこった。
イルミ「やぁキル」
キルア「あ、兄貴……」
ヤムチャ「え? キルアの兄ちゃんか!?」
レオリオ「つーか骨格から変わってんじゃねーか……おえッ」
イルミ「オレも次の仕事で資格が必要でさー。
奇遇だね、キルも試験を受けに来てるなんて」
キルア「お、オレは……」
イルミ「ダメだよ、キル。おまえの天職は殺し屋なんだから」
イルミ「オレと親父にそういう風に育てられたんだ」
イルミ「おまえは闇人形。何も欲しがらないし、何も望まない」
イルミ「だろう?」
キルア「……!」
キルア「違う……」
キルア「ゲームとかしたり……お菓子食べたり……」
キルア「友達もできたんだ……」
イルミ「それはあのゴンって子かい?」
イルミ「それは錯覚だよ、キル」
イルミ「おまえは人間を殺せるか殺せないかでしか見れない」
イルミ「今はゴンのことをはかりきれてないだけだ」
イルミ「そのうちおまえはゴンを殺したくなるよ」
キルア「……殺せるか殺せないか、か……」
キルア「はは、兄貴も鈍いんだね」
イルミ「?」
キルア達はまるで他人事のように話をつづける。
キルア「オレは知ったんだ。
たぶんオレが死ぬ気で修行しても、勝てない奴らがいるってことを」
キルア「暗殺一家? 殺人鬼のエリート? ははっ、ちっちぇよ。兄貴」
イルミ「キル……?」
キルア「ゴンはオレの友達だ。あいつに何かしようってんなら!
兄貴だろうと、親父だろうと! オレが相手になってやる!!!」
イルミ「……!!」
レオリオ「よく言ったぞキルア!! そん時はオレも加勢するぜ!!!」
イルミ「……キル」
キルア「さぁこいよ兄貴! 兄弟げんかだ!」
結果として、キルアはイルミに惨敗した。
しかしその負け顔は晴れ晴れとしたものだった。
一方、イルミの方は苦渋に歪んだ顔だった。
ヒソカ「子供の成長は早いよねぇ♦」
イルミ「ヒソカ、今冗談を言える空気かな?」
ヒソカ(あらあら♠ 内心相当ショックを受けてるね♦)
こうして最終戦まで終えた。不合格はポックルであった。
ネテロ「さて、これで一通りおわったの」
ヤムチャ「ちょっと待てよ! まだオレが……」
ネテロ「ヤムチャくん、外でよか?」
外に出た一行。ネテロが遠くを指さした。
ネテロ「こっから30kmぐらいいったとこに
広ーい荒野がある。そこでやろうや」
ヤムチャ「え? どういうことっすか?」
ネテロ「鈍いねェ。おまえの相手はオレがするって意味だよ」
ネテロ「ん?」
クラピカ「その試合、我々も観に行ってもいいだろうか」
ネテロ「まぁ構わねェよ。自信なくさねェならな」
ネテロ「さて、行こうか。ついてこれるか?」
ヤムチャ「ああ、そういうことか。いいっすよ!」
そういうと、ヤムチャとネテロはものすごい速さで駆け出した。
一瞬で視界から消えた二人に、クラピカ達は見呆けていた。
クラピカ「し、しまった! 急いで追いかけるぞ!!」
ネテロ「流石だな、余裕でついてきやがった」
ヤムチャ「ひどいぜネテロさん。これじゃオレ以外
誰もついてこれないだろ」
ネテロ「へっ、ギャラリーがいなきゃ本気出せねぇか?」
ヤムチャ「そういうわけじゃないけどさぁ」
サトツ「はぁ……はぁ……ではこの試合は私が立ち会いを務めさせていただきます」
ネテロ「おーサトツか。よく追いついたもんだ」
サトツ「ええ……はぁ……正直見失うかと思いました……ぜぇ……」
ネテロ「んじゃー立会人もきたとこで……」
ネテロ「やりますか」
そして放たれる、一撃。
『百式観音・壱乃掌』
それはヤムチャに上方から激突し、地面に大きな裂け目を造った。
ネテロ(――――硬ぇな、さすがに……)
ヤムチャ「おお、すげぇや全然見えなかった……」
ヤムチャは何事もなかったかのように立ち上がった。
ネテロ(ま、そうこなくちゃよ)
ネテロは再び手を合わせた。同時にヤムチャも駆けだした。
その戦いの、あまりの別次元っぷりに。
クラピカ(速――? 上? いや下?
いや今のは右から……もうあそこまで移動している……)
レオリオ(か、会長の攻撃も、ヤムチャがどう動いてるかも全く見えねェ……
な、なんなんだこりゃ……何が起こってんだ……)
ハンゾー(おいおいウソだろ……こいつら人間じゃねー……)
クラピカ「レオリオ。見えるか? 会長の後ろ……」
レオリオ「気を感じれるから、見えるッちゃ見えるが。
何がどうなってんのかさっぱりだ……」
キルア(やっぱり、あの話マジだったんだな……)
ヤムチャ「くっ!」
ネテロの攻撃はヤムチャに一切ダメージを与えていない。
しかし、ヤムチャは驚いていた。
おそらく戦闘力だけならネテロはヤムチャの1/1000にも満たない。
事実、スピードもパワーも耐久力も、ヤムチャの方が遥かに上である。
しかし、ヤムチャには百式観音の初動が見えなかった。
ヤムチャ(どういうことなんだよ? オレの方が速く動いてる。
間違いなくネテロさんの攻撃より、オレがネテロさんの
懐に入る方が速いはずなのに……!)
何度跳びかかっても、ヤムチャのスピードより、ネテロが手を合わせる速度が速い。
そこから繰り出される攻撃は、攻撃の気の気配も全くないため
どの方向から飛んでくるかを予測することすらできない。
ヤムチャ「くっ……」
ネテロ(こんだけ撃ってダメージなしかよ……全く、嬉しいぜ!!)
矢継ぎ早に飛びかかって来るヤムチャ。
ネテロは歓喜していた。万分の一秒でも気を抜けば、消し飛ばされるこの感覚。
分かっている。このまま観音で攻撃し続けても大した効果はない。
ジリ貧だ。しかし、だからこそ意味がある。
だからこそ喜びがある。
敗色濃い難敵に、全身全霊を持って挑む――それこそ、
アイザック=ネテロが求めてやまないモノだからだ。
ネテロ(感謝するぜ! おまえと出会えた、これまでのすべてに……!!)
ネテロの打撃が、やがてヤムチャを包むように繰り出される。
ネテロ(百式観音――)
観音像の口が開く、そこから恒星をも思わせるまばゆい輝きが漏れる。
サトツ(会長、まさか零を――!?)
ネテロ(零乃――……!?)
凄まじいオーラが発せられている。
ネテロの観音の零を、恒星の光と例えるなら、
ヤムチャの発するそれは巨大な惑星そのものが凝縮したようなエネルギー。
ヤムチャ「かめはめ波ー!!」
ネテロ「――零乃掌!!」
ヤムチャから打ち出された気弾は、零の咆哮を容易く掻き消し、
観音像の右手全般を根こそぎ消しとばし――
背後の小山に炸裂し、その存在をまとめて消し飛ばした。
クラピカ「……!!?」
サトツ(ば、バカな今のは……強化系だけでなく……。
ま、まさか放出系も100%極めているというのですか……!!?)
ヤムチャ「やべ、やり過ぎた」
サトツ(会長の観音の右半分が消し飛んだ……。
それはつまり、会長があの念弾を受けた際にイメージした
ダメージということ。アレが直撃していれば……)
ネテロ(……零が全く通じねェだと……まいったぜ、
ちょっとは通ると思ったんだがな……)ゼェハァ
勝敗は誰の目にも見えていた。
疲弊しきったネテロと、今だ衰えのないヤムチャ。
ネテロはそれでも構えを、手を合わせようとした。
ヤムチャ「参った。降参です」
ネテロ「!?」
見物人たち「!!?」
サトツ「な、なんですと……?」
ヤムチャ「悪いけど、オレにはネテロさんの技を、
殺さずに突破する方法が思いつかねーんだわ」
ヤムチャ「だから、降参します」
ネテロ「ま、まてよ……まだ……!」
ヤムチャ「いったん不合格になったら、取り消しは効かないんでしょ?」
サトツ「は、はぁまあそうですが……しかし」
ヤムチャ「ありがとうございました。ネテロさん。勉強になりました」
ネテロ「……」
ネテロ(参ったゼ……完敗だ……)
キルア「ああ。勝手に家でてきちまったからな。けじめはつけないと」
ゴン「オレはキルアについていくよ!」
レオリオ「オレはこれから勉強だ。医大受験にむけてな!」
クラピカ「私は……ヤムチャについていってもいいだろうか?」
ヤムチャ「オレに? なんで?」
クラピカ「会長との戦いで、私は確信したのだ」
クラピカ「気の力を極めれば、旅団を倒せると」
ヤムチャ「んー。まぁいいけど。ま、オレも一から修行し直すし、
せったくだからつき合ってくれよな!」
クラピカ「もちろんだ。よろしくヤムチャ」
プーアル「ボクも忘れないでくださいよ~」
クラピカ「プーアルもよろしく」
ヤムチャ(オレは、いやオレたちは戦闘力って奴に、縛られてたんだ)
ヤムチャ(武術を極めたら、戦闘力が足りなくても、戦っていける)
ヤムチャ(悟空たちと同じ道を進んだって、かないっこないんだ)
ヤムチャ(オレはオレの道を行くぜ……!)
ヤムチャ(神龍はそれを学ぶ場として、ハンター試験を受けさせてくれたのかもな)
クラピカ「ヤムチャ、どうしたボーっとして。おいてくぞ」
プーアル「ヤムチャさま~。はやくはやく~!」
ヤムチャ「ああ、今いくよ!」
こうして、ヤムチャは自らの道を見定め、
それを極める修行を開始するのだった。
サトツ「会長、本気ですか?」
ネテロ「うん。もう決めたことじゃ」
ネテロ「わし会長止めるから」
メンチ「ちょっと会長!」
ネテロ「次の会長は十二支んから選んでもいいし、
選挙で決めてもいい。あいつらに任せるわい」
ネテロ「わしちょっと山にこもるから」
ネテロ「そんじゃな」
そういってネテロは協会を後にした。
その顔は童心に帰ったように若々しく、そして清々しい顔をしていたそうだ。
つづく?
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コメント一覧 (23)
-
- 2019年04月10日 20:50
- >まぁこのタワー全域ぐらいならわけないぜ
やっぱりドラゴンボールの気を探る能力はピトーレベルなのか
-
- 2019年04月10日 21:00
- ドラゴンボールとは桁が違うからなー
チャオズでも無双できる
-
- 2019年04月10日 21:01
- なかなか面白かった
-
- 2019年04月10日 21:12
- よく纏まってたと思うわ
-
- 2019年04月10日 21:42
- 確かに身勝手の極意とかは戦闘力の問題じゃないしな
武術極めればサイヤ人に対抗できるはあってると思う
-
- 2019年04月10日 21:48
- ええやん
-
- 2019年04月10日 22:04
- ナッパレベルですら街1つを指クイッで消滅させられるからな
フリーザ辺りは星破壊出来るし
-
- 2019年04月10日 22:14
- いいね!
-
- 2019年04月10日 22:27
- 久々にss最後まで見てしまった
-
- 2019年04月10日 22:34
- ※2
悟空がそもそも地球から界王星の界王神様の気を察知できるからな・・・
-
- 2019年04月10日 22:43
- 良作とのコラボはやっぱ面白いな
書き手の文も読みやすいし続きがあるといいんだが・・・
-
- 2019年04月10日 22:58
- ドラゴンボールにおける「気の察知」とハンターの「円」は全くの別物だと思う。気の察知では人造人間や非生物の気配はわからないけど、円は対象が動いていれば非生物でも察知できるし。キルアが修行中のネテロやアルカを狙うイルミの殺気に気付いたのが気の察知に近いのかな?
-
- 2019年04月10日 23:00
- こんなにカッコイイヤムチャは初めてで感動した。
でもヤムチャの戦闘力が人造人間戦の頃で多めに見積もって10万としても、
ネテロが1/1000以下だとMAX戦闘力100もないってことになるんだけど。さすがにそれは弱すぎでは?
-
- 2019年04月10日 23:05
-
ただ単にヤムチャがツエーするだけじゃないのが良いね
-
- 2019年04月10日 23:09
- 恰好いいヤムチャはスト2キャラとプロレスするSSでもみられるけど、途中で作者かかなくなったのは残念
相当長編で続いていたのに
-
- 2019年04月10日 23:11
- うん普通につまらん
-
- 2019年04月10日 23:16
- ポックル生存ルートか
-
- 2019年04月10日 23:20
- ヤムチャだってその気になれば地球くらい簡単に破壊できるだろうし
これくらいの強さなんだろうな
-
- 2019年04月10日 23:33
- ※14
月を破壊した(少なくとも公転から外した)亀仙人の戦闘力が200もないって世界観だからな
-
- 2019年04月10日 23:41
- ヒソカがDBの世界に行ってZ戦士達を見たら、アへ顔ダブルピースしながらテクノブレイクを迎えるだろうな
-
- 2019年04月11日 00:01
- ヤムチャさん…盗賊時代のことはキルアにはたぶん話してないんだろうな
-
- 2019年04月11日 00:05
- 確かにハンターハンターの世界だとヤムチャさんは強化系も放出系も使えるってことになるな。操気弾は放出と操作って具合だろうか
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これを上手く終わらせられたら大したもんだと思う