【艦これ】 鳳翔無宿
多くの艦娘が暮らすこの場所はすべての者を受け入れるわけではない
それぞれに兵装を整え、食事をさせ実弾での訓練をさせる
相応の金がかかることだからして当然のこと
だから争わなくてはならない
武力・魅力・整備力など己の価値をアピールしなくてはならない
自分が野良艦娘となるか
鎮守府所属の艦娘となれるか
生涯の分かれ目なのだから…
名を鳳翔
流れの艦娘である
彼女もまた 所属する鎮守府を探していた
無論、ただ探しているわけではない
自らの特技
『料理』を生かしてくれる鎮守府を探していた
この物語は己の腕一本に人生を賭けた女の
汗と涙 そして愛の物語である…
鳳翔「パラオ第三地区 十二分隊…と」
今回建造にて配属命令があった鎮守府はかなり南方
「これは生の物を出すわけにはいきませんね」
などと呟きながら門を潜る
すると第一声 言われた言葉は
「解体」 「悪いが荷物をまとめてくれないか?」
こちらはまだ己の特技すら披露していないのに
よくあることだ
相手をコモンと侮って腕前さえも見ようともしない提督
風貌を見るに砲や銃のみで戦争をすると思っているタイプであり
料理における士気管理などに目が向くようには見えない
いいでしょう
こんな鎮守府は私のほうからお断り 「ほ、鳳翔はん!」
ん?
はて こんな駆逐が知り合いにいたかしら
龍驤「駆逐艦ちゃうわ!」
ああ、思い出した
龍驤「助けてーな この鎮守府は この鎮守府には…魔物がおるんや」
龍驤「広島焼きとお好み焼きを同じにするような怪物がな」
鳳翔「いえ、そういうローカルな話には興味がございませんので」
龍驤「ちゃうねん ほら、見ればわかる」
そう言って彼女が指さした先には何人かの駆逐艦
あまり見おぼえの無い子たち 皆、龍驤と変わらないくらいの小さい……!!!!?
龍驤「えらいことや アレ 潮 浜風 村雨 夕雲やで」
なんてやせ細った…っ
「食糧難なのですか」と尋ねると甲板は無言で首を振る
甲板「物資の供給は滞りない だけどな。ここの秘書艦が…」
「この私が何か?」
龍驤「で、出たぁ」
振り返ると黒髪でほっそりとした体躯の美少女が1人
龍驤「そいつがここの秘書艦にして料理長 磯風 諸悪の根源や!」
磯風「諸悪… どういうことだ?」
磯風「私の料理になんの不満がある」
龍驤「こいつときたら広島焼きでもお好み焼きでも全部混ぜて ぐっちゃぐちゃのこげこげにしてまう」
磯風「南方の調理 基本は火 食中毒を防ぐために当然だろう」
龍驤「料理にはその料理なりの」
磯風「いらんいらん そういうのは内地でやれ」
理念は理解した だが潮 浜風 村雨 夕雲 龍驤 やせ細った彼女らをこのまま見過ごすわけには…いかない!
鳳翔「包丁を取りなさい 料理人として…勝負を挑みます」
磯風「なんだ貴様は まぁいいこれから司令の夕食を作る」
磯風「勝負には応じよう だが食材を浪費することは許さん自前で用意しろ」
龍驤「現地調達? そな殺生な」
鳳翔「いいでしょう」
龍驤「無茶や あと数時間で用意できる食材なんて」
龍驤「しかも相手は本土から届いた高級将官用の高級食材を使用 なんぼなんでも…」
鳳翔「確かに厳しい条件 だけれども私の予想が確かならば…」
磯風「では勝負を開始しよう」
磯風「…ふっ タロ芋程度しか用意できなかったか」
磯風「2時間あればマングローブ蟹か魚程度は用意できると思っていたのだがね」
磯風「その程度の食材では蒸かした芋程度しかできまい」
鳳翔「それはどうでしょうか?」
磯風「なにぃ?」
シュババババババッ
龍驤「な、なんて包丁捌きや手元が見えへん」
磯風「蒸かし芋に包丁?」
龍驤「一度蒸かした芋を捌いとる」
磯風「ば、ばかな なんの意味が」
鳳翔「できました」
鳳翔「これは貴方のぶんだけではございません」
鳳翔「そこの貴女たちも」
潮「潮…たちも?」
潮「…はむ」
潮「!!!!!?」
提督「…なんだこの甘みはっ」
提督「これはただの蒸かし芋ではない ケーキ ケーキだ」
龍驤「包丁を使い細かくすることで食感を残しつつもなめらかやでぇ!」
潮「ああっ なんだか 体が 熱いっ」
ボインッ
磯風「な、なにぃ」
磯風「突然胸が膨らむなど貴様なにを入れた」
鳳翔「単に砂糖を多めに入れただけ」
鳳翔「彼女たちは十分な栄養を取れていなかった…」
潮「はうわぁ おいしい おいしいですぅ」パクパク
鳳翔「彼女たちのポテンシャルを抑えつけていた程度の料理 味わうまでもなくあなたの負けです!!
提督「磯風 これはいかにお前といえども」
磯風「くっくっくっ」
提督「磯風?」
磯風「……わかっておらぬ」
磯風「お前らはわかっておらぬ」
磯風「料理漫画の法則 先に出したほうが負けるとなぁ」
磯風「味わうがよい この磯風の料理を!」
提督「……っこれは!?」
・
・
・
提督「炭っ」
提督「勝利 鳳翔!」
提督「どうか この鎮守府の料理人として末永く」
潮「お願いしますぅ」
提督「どうか」
鳳翔「…ありがたいお話ですが 今回は」
提督「なぜ!」
鳳翔「あなたが解体命令出し終わっているから」
提督「あっ」
提督「これから俺たちはどうすれば…」
磯風「余計なバルジがついてしまった」タユン
龍驤「解体にキャンセルはなく成長した娘が戻ることはないんや」
惜しむ声を聴きながら鳳翔は立ち去る
自らの居場所を求めて…
帰省したら本棚にあった漫画
マジ面白い。超お勧め
一話完結であと5,6話続ける
暁「頑張って作ったのよ! どうかな どうかな?」
提督「……」
提督「おいしいよ」
暁(って司令官はいつも私の頭を撫でる)
暁(でもわかるんだ。本当は美味しいなんておもっていないこと)
暁(頭なでなでなんて子供扱いしちゃって 本当のことを言ったら暁が傷つくと思ってるのね!)
暁「ぷんすか!」
暁「毎回毎回子ども扱い」
暁「暁は立派に秘書艦として働いているもんね!」
暁「えーと 今日着任するのは…鳳翔? ああ、あの料理で有名……!?」
暁「ひらめいちゃった!!」
電「指定リストにない艦はまた着任即解体に回すのです」
暁「たんまー たんまたんま」
電「?」
暁「今すぐ連れてきて!」
一歩踏み入れただけでソレを理解する
誰もがある経験だろう
女性下着売り場に入り込んでしまったサラリーマン
アダルトコーナーに迷い込んでしまった小学生低学年
ふと入った飲食店が常連だらけ
鳳翔はそれを感じていた
具体的には
鳳翔(…えっ ここ駆逐艦と海防艦しかいない)
ヤバさを感じていた
即座に荷物をまとめ
電「ではキッチンに来て下さいなのです」
遅かった
だがロリコ…幼女を愛でるタイプの提督が自分になんの用があるのだろう
たまには目先を変えようとでもいうのか
嫌だ嫌だ そんな箸休めのような扱われ方は
暁「あのー こんにちわ」
牛丼で言うと紅ショウガ
お寿司で言うとガリ
フレンチだとパン
暁「おーい もしもーし?」
そのパンを主食にしている人もいるんですよこれだから上流階級の口が奢った方は
暁「…こっちむいてよー!」
いでででで
私の頬を引っ張るのはどなたでしょうあら可愛いちっちゃい女の子
暁「ちっちゃい言うな! 暁はここの秘書艦をも務める立派なレディなんだから!」
…ああ
暁「ちょちょちょ 逃げないでよ!」
鳳翔「いやいやいや ガリ役は御免こうむりますので」
暁「ガリってなぁに?」
暁「暁は料理を教えてほしいだけなんだけど…」
鳳翔「料理?」
暁「かくかくしかじか」
鳳翔「なるほど」
鳳翔「つまり暁ちゃんは日頃お世話になっている提督のためにお料理の技術を高めたいと…」
暁「…うん」
そのお味は単調で平凡。決して食べられなくはないが美味しくはない
子供の初めて手料理補正があるうちはよいだろうが毎食だと
暁「……どうかな?」
上目使いで
探るように訪ねてくる幼女
この愛らしさの前で提督は「美味しい」と言わざるを得なかったのだろう
しかしこの鳳翔にはプライドがある意地がある
ことや料理にかけては…
鳳翔「美味しくありません!!」
だからいい切った
その言葉を聞き
暁は肩を震わせ、顔を伏せ、涙を拭うと… 「お料理を教えてください!」
また顔を上げて叫んだ
鳳翔「ワックスをかける ワックスをとる」
鳳翔「ジャケットを着る ジャケットを脱ぐ」
鳳翔「猫耳をつける にゃーと鳴く」
暁「にゃ~」
暁「…これなにか意味あるんですか?」
鳳翔「いいから」
腱鞘炎を起こしかけるまでの熾烈な特訓の果て
暁「暁が一番…むにゃむにゃ」
疲れ果て膝の上で眠る幼子と女性ホルモンがあふれ出ている鳳翔
その光景を見るだけでも二人が大切な何かを分かち合ったのは明白
暁(美味しいお料理で 司令官のほっぺを落っことしてあげるわ!)
鳳翔(手に職をつけさせてこの子がここから逃げ出しても大丈夫なように)
((美味しい料理を 作れるように!!))
暁「どうぞ 白魚の握りです」
提督「このちっちゃなおててで握りにくい白魚を!?」
提督「海苔を使わずに巻く…だと?」
暁「そして次はこちら」
提督「細工寿司…っ」
鳳翔「純粋で真っ白な子 まるで乾いたタオルが水を吸うように技術を身に着けてくれました」
鳳翔「既にこの子は一人前の職人」
提督「料亭の味だ…」
鳳翔「あんなに素直に育っている暁ちゃん」
鳳翔「教えたことを全部吸い込む真っ白な心」
鳳翔「私が想像していたような醜悪な鎮守府ではなかったのですね、申し訳ありません」
深くお詫びをすると
提督はそっと私の肩に手をかけて
提督「Yesロリータ Noタッチ」
彼はとてもいい顔でサムズアップを決めた
暁「大成功ね!」
暁「おか…じゃなかった鳳翔さんのおかげ!」
暁「えっと…ね。あの」
暁「もし…その…よかったらこれからもこの鎮守府で一緒に」
言葉の途中
人差し指をお口に当てて静止させる
鳳翔「いいえ これからは貴方の役目」
鳳翔「大切な提督さんといっしょに頑張って二人の味を作りなさい」
暁ちゃんはしばらく無言で
そして精いっぱいキリっとした顔を作って「はい」と答える
まだまだ拙く、だけれども可能性を感じる味を噛みしめて鳳翔は旅立った
鎮守府を背にして
脳裏に浮かぶ提督のサムズアップから意識を逸らして
肩を消毒用のアルコールで拭いて
しばらく夢に出てきた
キモかった
次の着任地は最前線
銃撃飛び交い、ゆっくりと食事を楽しむような環境ではないと思われる
おにぎり…サンドイッチ…クレープ
夏の陽気に耐えつつも、手にもって食べられる料理を主としなければいけませんね
などと思いながら着任手続き…おや なにか大騒ぎ
はて 料理対決が?
川内「ふっ、ありあわせのものでちゃちゃっと2,3品…っと」
川内「実は女子力高い私なんだよね~ ここみたいに忙しい鎮守府の花形は」
川内「同じ軽巡のよしみで見逃してもいいよ?」
夕張「…ふっ」
親潮「どこまで太刀打ちできるものでしょうか」
如月「うふふ 知らないってことは幸せね?」
初風・親潮「え?」
如月「あの方の技術力がどれほどものかを知らないなんて 貴女達ここが初鎮守府?」
川内「承知! 夜戦の花形 ラーメンでこの川内さんに挑むなんて馬鹿だねぇ!」
川内「さぁ どうだ!」
初風「すごい手さばき! 普段料理やってる人の手!」
親潮「私にはわかります。料理しているどころじゃない 『日常的に』料理している人の手!」
川内「きゃはははははは! どうよ、普段川内型のご飯は私が作ってるんだよね!」
川内「神通が持ってくるご飯って私製だもんね! 長女だもんね見えなくても」
川内「さぁ この手さばきについてこれ…… っ???」
川内の高笑いが…止まる
ガラガラガラ
夕張が持ち出したもの
キッチンにはそぐわないものを見て
…止まる
川内「洗濯…機?」
川内「洗濯機に熱湯と麺を……入れた……?」
回り出す
回り出す洗濯機
200人前の麺と共にっ!!
川内「えっ えっ ええっ? りょ、料理対決だよね? なに? なになに?」
夕張「あらかじめ丼200杯に固形スープを入れて」
川内「いやいやいやいやいやいやいや」
夕張「さーて皆さんお味はどう?」
「「「うめぇー」」」
川内「うそぉーーーー?」
川内「あっ えと まだ 10杯しか ああっ もう冷めちゃった」
夕張「冷めたラーメン その味は?」
川内「…」
川内「私……負けた?」
初風「嘘っ…?」
親潮「信じられない…」
如月「これが最前線の実務」
膝から崩れ落ちる川内
誇らしげに胸を張る夕張
そしてそれを舌なめずりして見つめる鳳翔
戦いの火ぶたは 今 ここに
夕張「カーッカッカッカガ 川内破れたり」
川内「畜生…畜生…」
夕張「さぁこれでこの鎮守府の料理長は私 文句のある奴はいる?」
夕張「いないようね! なら「お待ちなさい」
鳳翔「お相手…願いますか?」
夕張「…品目は?」
鳳翔「そうですね さすが最前線 ほぼすべての艦娘が所属している様子」
鳳翔「よって大多数。お子様駆逐艦海防艦大好き焼肉などいかがですか?」
夕張「おう!」
如月「いかがですか解説の」
初風・親潮「えっ?」
如月「ノリ悪~い」
如月「さて、夕張さんが取り出したのは……ハープ?」
如月「あの音楽を奏でるハープでなにをしようというのかおおっと牛も連れてきた」
如月「そして 牛ちゃんを 丸ごと オーブンに 入れたーーーー!」
如月「ファラリスの雄牛で牛を丸焼き さらにさらに焼きあがった牛を牛を」
如月「ハープの横に置いて……倒して…切ったーーーーーーー!!」
夕張「名付けて牛 一頭焼き」
夕張「さぁ駆逐艦・海防艦の皆さん ご賞味あれ!」
如月「なんだかわからないがとにかくすごい 駆逐艦海防艦たちは貪るように焼肉を食べています」
如月「ってちょっと待って さっきラーメン食べたのに焼肉なんて食べたら」
夕立「げぷっ お腹いっぱいっぽい!」
島風「出てくるのはやーい やったー」
如月「どの子もおなかいっぱいに これはもう勝負あったわね」
初風・親潮「いやいやいや」
如月「さて鳳翔さんはこの絶望的な状況からどうするのか」
鳳翔「全員~ 右向けー右」
如月「?」
鳳翔「艤装つけて~ あの島まで往復 競争開始!! 」
夕張「ふっ 運動させて少しでも満腹感を高めようと?」
夕張「だけど甘い 私のデータによると水面をホバリングするアニメ式移動の消費カロリーはマラソンの5分の1」
夕張「所詮動くのは艤装 大してお腹がすくほどカロリーは」
島風「いっちばーん」
夕張「はやっ」
鳳翔「では連装砲ちゃんを貸して下さい」
島風「? はい」
鳳翔「ううん、いい温度 はいお肉は切っておきました」
夕張「ええっ?」
如月「はぁはぁはぁ 53番 旧型だから運動は苦手だわ…」
如月「うん? この香ばしい香りは」
山雲「腕の魚雷でジュ~ジュ~ 焼きやす~い」
涼風「ちきしょう 艤装がちっちゃくて肉が焼けねぇぜべらぼうめぇ」
如月「え? なにこれ」
鳳翔「さぁさぁさぁ皆さん お肉はたーっぷりありますから」
如月「全力での稼動 熱された艤装で焼肉を!?」
如月「夏場、艤装は目玉焼きができるほどの温度となる そこに目を付けたのね!」
夕張「ばかな… 私以上のアイディアなんて…」
初風・親潮「いやいやいや」
初風「はっきり言ってそこまで熱くならないでしょ」
親潮「これは…大丈…夫? なのでしょうか?」
如月「ふっ… 長くいて補正を身に着けていないなんてそんなんじゃ」
鳳翔「は~い 皆さん召し上がれ~」
如月「勝者…鳳翔!!」
夕張「…くっ」
如月「味は甲乙つけがたい しかし自分で焼き加減を選べる自由度の差遊び心の差」
如月「それが…料理人としての差」
如月「あと一歩でしたね…」
夕張「次…こそは」
如月「さて勝者を称え……? 鳳翔さんは?」
如月「二人とも探してきてくれる?」
初風「あ、ちょっと待ってお腹痛い」
親潮「いったぁ…いたた うううぅ」
如月「…あら?」
それを鳳翔は分かっていた だから走った
風の如く走った!
保健所から逃げるため
己の調理師免許を守るため
夕張は遅かった。捕まった
速吸「十二番卓 上がり!」
妖精さん「リョウリチョー デキター」
妖精さん「ヘイオマチー」
「とっても美味しい!」
「おかわり!」
「こっちも!」
帰ってくる生の声
嬉しそうな顔
素直な感想
今日も皆さん大満足。速吸ちゃん大勝利やったね!
鎮守府内食堂は今日も大盛況
どやどや~
専門的に学んだわけではないけれど比較的得意なお料理
その特技をいっぱいに生かせる
戦えない艦娘 速吸
燃費も悪けりゃ武力もない
いったい何のためにここにいるのか…
着任後数か月間未出撃のまま
アイデンティティを見失っていた時に取り組み始めたのが裏方の道すなわち料理
うひひ、ここまで喜んでくれるなんて実にやりがいのある仕事です!
お、速吸を任命してくれた恩人が
提督「今日の夕飯は性のつくもので頼むよ」
と、中年特有の下卑た笑みでリクエスト
…また誰かを自室に招いているのだろう
恩人なんだけどあの脂ぎった手で触られるのはちょっと
こないだなんて卑猥な誘いを…
断ったら素直に諦めたからいいいんだけれど
提督「あ、そうそう」
提督「明日から鳳翔さんが着任するから仲良く頼むな」
・
・
・
「えっ?」
案内した板場で手さばきを見せられ理解した
…勝てない
職人の世界で実力差を見せつけられたらどうすればいいか
ああ、そうだ。ここは弟子入りするべき場面
大人しく料理長の座を譲って自分はサポートに回るのがあるべき姿
回るべき…
回るべき…
これまでの人生、自分はいつもそうだった
競技者への希望は潰えマネージャーに
前線での戦闘を望み、補給艦に
そして今。料理長の座を得たのにも関わらず自分から下働きへの異動を考えている
なんで己はいつも脇役なのだろう
「縁の下の力持ち?」
違う、ただ負けただけだ
自分を曲げただけだ
だからと言ってぶつかって勝てる見込みもなく
ただただ不甲斐なさと現実との間で俯くばかり
どうすればいいのか考えていると
水無月「うん、すっごかった 次はリクエストとか…できる?」
駆逐艦が愛らしい表情でまとわりついてきた
文月「フレンチ~ フレンチトースト~」
水無月「シュークリームー」
長月「……その 宇治金時一つ」
文月&水無月「渋っ」
両側から頬を突かれて必死に虚勢を作る彼女を見て思う
ただの下働きになったらこんなたわいもない会話をする機会もなくなるのだろう
ただ主役の料理を褒め称えるモブになってしまうのだから
それは嫌だった
瞬間的に湧き上がってきた感情は『勝ちたい』 その単語だけだった
そのためにはなんだって…できる!!
だったらどうすればいいか。
一晩考え、出た結論を元に鳳翔さんへ勝負を挑んだ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
着任二日目で対決を挑まれる
よくあることだ
ここの料理長は速吸ちゃん。
純朴そうな子で楽しい勝負ができそうです!
勝負開始!
さぁ下ごしらえをして渾身の料理を……… はて、自分から挑んでおいて対面の調理場には誰もいない
速吸ちゃんはどこに?
妖精さん「リョウリチョウガトウチャクシマシター」
あ、きたきた
ドアが開くとカートに『乗せられた』速吸ちゃんが入場…し…
…えっ?
重力に負けず上を向く乳房は円を描くようにエビで包まれ、中心にはt突起を覆うネギトロ
締まった下腹はタイやヒラメが切り身で舞い踊り
へそは醤油刺し
若い肌に弾かれた黒褐色の液体は脇腹に重ねられたガリへとたどり着く
小皿に載せられるのはすりおろされた本わさび!
国産最高級品の根本だけを丹念に細かく手摺りしたと見え、清々しい香りが周囲を包む
さらに注目の陰部はモザイク柄のいくら等魚卵で覆い隠されており
スプーンで掬う楽しみが用意
イクラより赤いのではないかと思えるほど上気した肌と顔はその少女の初心さを物語っていて
そこに生み出される罪深さと背徳感が
提督「うへへ、うへ」
提督「ゲヘヘへへ」
提督「ゲヘヘへへヘヘ!!」
鳳翔の料理になど目もくれず提督は吠える
そして満面の笑みで脇に置かれた日本酒を一口…
「楽しい勝負ができそう」
甘かった。考えが甘かった。勝負なのだからして求めるのは楽しさではなく勝利
心のどこかで相手を格下と見下げ、油断していたのだろう。
そこを突く全てをかなぐり捨てた一撃
速吸の一撃は見事大金星を得る、痛恨の一撃になったのである。
第四話 鳳翔……女体盛りの前に…敗れる!!
第五話 ジャンプ定番 打ち切り前の唐突な修行編&トーナメント戦
久しぶりの屈辱…
まさかこの鳳翔が一敗地にまみれるとは
あんな若い子に…っ
いやまぁ料理の腕で負けたわけではないけれど
だが一度自分を見つめなおすのもいい機会かも
さてどこで訓練を
「郵便でーす」
ん?
「第一回 艦娘料理選手権 案内について」
これだ!!
サーモン海北方への船に乗り込むと感じる殺気
周囲の艦娘たちも目的地は同一のよう
「休憩中のところ悪いのだけれど」
「あいさつくらい良い?」
同じことを思ったのだろう、一人が率先して声をかけてくる。
足柄「私は 足柄 『胸焼けの油分』の二つ名で通っているわ よろしくね 鳳翔…さん」ニヤリ
私のことを知られている!??
足柄「有名よ貴方 だけどほら、この大会はそう簡単に勝ち上がれるものではない ほら」
ずらずらと並ぶモブの中で色彩がついている人物が幾人か
美人で料理上手なお姉ちゃん 陽炎
名誉若妻 昼下がりの料理 大鯨
挟めないサンドイッチウーマン 熊野
足柄「こんな強者たちが揃っているのだから」
……その変な枕詞いるんですかね?
鳳翔「ま、まぁ 大体話はわかりました 確かに腕に覚えがありそうな方々……っ!?」
その中に一人
ひときわ背の高い女がいた
足柄「お、お前は 無限の物量とレパートリーを誇るという 『大和ホテル』!!」
足柄「あの赤城を満足させたという 偉業の」
大和「料理とはそれを食す空間のプロデュースだと思うんです」
足柄「含蓄深いぃいいいい」
大和「貴女と会ったころの幼い私はもういない」
大和「今日は三ツ星のビュッフェをお見せします!」
強敵揃い…
ふっ、これでこそ鍛錬。さぁ、私達のトーナメントはこれからだ!!
大和「準決勝たこ焼き対決 これは! 岩海苔 岩海苔を生地に練り込んであります」
足柄「くぅぅ 阪神カラーに揚げるだけではなくこんな工夫を!!」
黒潮「ふっ 『ありゃ、よく見ると姉さん相当美人やん。なんでタコ焼きなんか焼いてんの?よしゃおいちゃん今日から通うわ』の名は伊達やないで~」
黒潮「これがナニワのたこ焼き!」
瑞鳳「それに対する鳳翔さんのたこ焼きは……鮮やかな黄色 卵たっぷりぃぃぃぃ」
陽炎「口の中でふんわりとろけりゅううううううう」
大鯨「お出汁が優しい味ですぅ」
熊野「小手先に走ることなく基本を貫き通したタコ焼き 勝者は…鳳翔さんですわ」
黒潮「なんやて!?」
相手の得意なお題での決勝進出
順調な展開
ただ一つ釈然としない事は
鳳翔「なぜ全員審査側」
大和「…私はビジネスホテルだった」
瑞鳳「卵以外がお題は無理だよぉ」
陽炎「も~ぉ、パックに入ってない魚とか捌けないしぃ」
大鯨「不得意お題は辛いですねぇー」
熊野「ふっ 下ごしらえ前の原型など食材と認めませんわ」
←初戦敗退×5
足柄「だが油断しては駄目 決勝の相手は私足柄を準決勝で破った春雨」
大和「壮絶…モリモリムキッvsモエモエエキュン」
鳳翔「ああ うん はい」
春雨「はい! 頑張ります!」
春雨「えっと あの その」
春雨「うううぅ お魚さんがこっち見てますぅ…」
春雨は一匹単位で渡されたサーモンを三枚おろしにできなくてリタイア不戦勝。
鳳翔「最近の若い子は…」ハァ
「では先生 どうぞ」
決勝戦なのにやってTRY的な料理講座になった
鳳翔「まずはうろこを…」
陽炎・春雨・熊野「ふむふむ」
不本意ながら後進の指導に尽力せざるをえなく
鳳翔! 不完全! 燃焼!!
皐月「お腹空いたなー」
五十鈴「…言わなくてもわかるでしょ」
日向「…まぁそうなるな」
鳳翔「…くっ」
4人、仲良く膝を抱えて孤島暮らし
着任後、珍しく命じられた出撃は
鎮守府近海警備のはずが突然の暴風雨
気がつけばどこか見知らぬ島
そうなんです遭難しました
携帯食は残り少し
日向「このままだと」
「お前… 自分の胸…食ったのか!?」ドン!
日向「ということになるな」
皐月「…ボクにも一口」
五十鈴「ならないわよ!」
「だってよ…五十鈴… 胸が!!」ドン!
日向「のほうがいいか?」
五十鈴「そこから離れろ!」
鳳翔「そうですね、幸い切り立った崖の上というわけでもなし魚を釣ります」
鳳翔「餌に脂身を少しいただけると」
五十鈴「がるるるる」
鳳翔「…冗談ですよ」
鳳翔「引いてる引いてる フィッシュ!」
つイ級
鳳翔「さてどう食べましょうか」
五十鈴「ヤダーッ!!」
五十鈴「やだやだ絶対やだ」
鳳翔「大丈夫ですよ、キチンと調理すれば」
鳳翔「ふふふふふ 理論を実践に移す時が来た」
皐月「鳳翔さんってまさか…」
鳳翔「ずっと思っていました」
鳳翔「いくら倒しても倒しても無限に湧き出る憎い敵」
鳳翔「どう戦えばいいか どうすれば減らせるか そして思いつきました」
鳳翔「ブラックバス理論です食材として活用する可能性を」
日向「サイコパスだな」
日向「ほう、油が乗ったいい体だ」
鳳翔「この鮮度なら生食も」
日向「そういう考え方もあるな」
五十鈴「い! や! だ!!!」
皐月「ひぇぇ ボクも生はちょっと」
日向「食わず嫌いはよくないぞ」
五十鈴「そういう問題じゃない!!」
鳳翔「大丈夫 可食部は被っているクラゲ部分」
鳳翔「水分をよく取り、刺し身で頂きましょうね」
ヲ級「ボウシカエシテ…」
日向「ふむ、いい匂いだ」
皐月「早く早く!」
鳳翔「はいはい ではどうぞ」
皿に取り分けて手渡しする。
皐月たちはガツガツと日向はその様子を見た後にゆっくりと食す。
そして皿を遠ざけていた五十鈴も我慢しきれずに…
五十鈴「あ、固いだけで思ったより普通」モグモグ
五十鈴「これどこの肉?」
鳳翔「ト級の歯茎ですね」
五十鈴「」
五十鈴は食べた
泣きながら食べた
イ級やト級の肉はコールタールのような味がして調理しきれなかったからである
せめて可食できた歯茎も素材としては3流
このような食事しか提供できない己を恥じて泣いていた
皐月「共食い大丈夫なの?」
ヲ級「サカナ トモグイ アタリマエ」
日向「深海棲艦は魚類だったのか…」
ヲ級「タマゴ イッパイウム」
五十鈴「どうりで倒しても倒しても減らないはずね」
ヲ級「ワレワレヲ ヘラシタケレバ チュウゴクジンモッテコイ」
鳳翔「サンマやマグロはもう…」
皐月「ボクらの漁獲量なんてかわいいもんだね」
鳳翔「…ところで 魚類なら可食部は」
日向「まぁ そうなるな」
ヲ級「ヲ?」
そして遭難2年後……とまではいかなく45日後
決して
決して語らないことを
自分たちがなにを食していたか
数年後 その誓いを破ろうとした五十鈴がサメに襲われるのはまた別のお話
「艦隊これくしょん」カテゴリのおすすめ
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