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ごく少数の富裕層が、ほとんどの資産を所有している。これは世界的な傾向であるが、階級社会と言われるイギリスの場合、王室をはじめ裕福な貴族が地主となり多くの土地を所有しているのが現実だ。
このほど、発表された最新の調査によると、UK(英国)と称される北アイルランドとスコットランド、ウェールズを省く「イングランド」の土地半分が、人口にしてわずか1%でしかない貴族や企業などに所有されていることが明らかになったという。
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イングランドの約30%の不動産は貴族所有、18%は法人企業
イングランドの人口はおよそ5,500万人。調査によると、このうちの約25,000人が貴族と大企業の会員だという。
土地登記簿の分析と地図が示したところでは、この約25,000人がイングランドの約半分の巨大な不動産を所有理していることが明らかになった。
30%の不動産所有者となっている著名な貴族の中には、ノーサンプトンシャー州にあるブートン不動産を所有するバックル公爵や、グロスターシャー州にあるバドミントン不動産を所有するボーフォート公爵&公爵夫人、そしてウォバーン不動産所有のベッドフォード公爵などがいる。
貴族の次に不動産所有が多いのは法人企業で、全体の18%を占めている。
kev303/iStock
続いて、市の銀行家や寡頭政治家(17%)が挙げられているが、同数値となっている別の17%の土地は“未申告”のものであり、公開市場では売却されていないため、土地登記簿には記録されていないようだ。
ただし、この17%は、何世代にもわたり家族間のみで保管され、決して売却されることのなかった貴族所有の土地である可能性が高いとされている。
その他の不動産は、評議会や大学を含む公的機関所有が8.5%、民間住宅所有者が5%、ナショナルトラストを含む慈善団体所有が2%、イングランド教会所有が0.5%となっている。
王族所有の土地は1.4%
更に貴族所有の不動産とは別に英王室所有の土地が1.4%ある。
エリザベス女王をはじめとする英王室は、言うまでもなくイングランドでは最も著名な地主だ。クラウン不動産やノーフォーク州サンドリンガムにある女王の個人用不動産、王室メンバーに収入を提供するコーンウォールおよびランカスター公爵領を含む土地を所有している。
また、実業家ジェームズ・ダイソンもリンカンシャー州で広大な農地を所有しており、企業で言えば水道会社『United Utilities』も、全体における人口1%の不動産所有者に含まれている。
一握りの人が土地の大部分を所有するイギリスの現状
ガイ・シュラブソール著書の『Who Owns England?(イングランドの所有者は誰?)』の中には、このような記述がある。
イングランドの土地が人口5,500万人全体に均等に分配された場合、1人当たりが所有できる土地の大きさは、ロンドンにあるパーラメントスクエア(国会議事堂前広場)の約半分のサイズとなる1エーカー(約1,224坪もしくは約4,047平米)未満となる。
しかしこれは現実とは程遠い。著書の中でガイ氏は指摘する。
多くは、少数の人により土地が所有されていることに気付いていない。事実として、数千人の貴族や大地主らがイングランドの土地の半分を所有している。英国における土地所有は驚くほど不平等で、富と権力はほんの一握りのエリートの手中にあるといえよう。
根強いイギリスの貴族中心社会
イギリスの不動産所有者形態が、何世紀もの間まるで変化していないという結果が示されることになった今回の調査は、議会での討論を引き起こす結果になったようだ。
労働党のジョン・トリッケット議員は、
何世紀にもわたり、家族が同じ土地を所有してきた貴族や大企業が、都市や農村地域に住む人々よりも強い影響力を行使しているのは正しいこととは言えない。
調査結果は、この国の土地がほんのわずかな人数により所有されていること、つまりはこの土地はイングランドに住む多くの人々のためのものではないということを思い知らされたに他ならない。
土地は富の源であり、住宅価格に影響を与えるが、同時に食料の源でもある。何百万人もの人々に楽しみを提供することができるものなのだ。
と述べている。
また、公共政策研究所シンクタンクのチーフエコノミスト、カリス・ロバーツさんは次のような見解を口にした。
これらの調査結果は衝撃的ですが、驚くべきことではありません。何世紀もの間、国の富が非常に不平等だったこと、土地を持たない人々がより多くの収入を生み出すことを妨げられたことが、少数の人たちの不動産所有に至った大きな理由でしょう。
貴族主義が以前ほど重要ではなく、階級社会が変化したという考えを持っている人も中にはいますが、今回の調査結果では、富と財力という点においては、まだまだ貴族主義社会が生きているということを見せつけられているのです。
結局のところ、イギリスではいつの時代も多くの不動産を所有する大地主は国のほとんどを所有しているのだ。
近年、住宅地の高騰化が一層問題になっているイギリス。今後もこうした不平等な富と権力が、不動産所有者の間では庶民には計り知れないバトルの種になるのだろう。
References:theguardian / dailymail/ written by Scarlet / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
そりゃ敗戦で大規模な改革があった日本ですら
地主は昔からの旧家が多いんだから
イギリスはもっと多いに決まってるわな
2. 匿名処理班
イギリスでは、貴族制を否定するような革命が起きなかったからじゃないかね、地方豪族、大地主としての貴族が温存されてきたことで今に至るんじゃないだろうか。
貴族制を嫌った者たちはアメリカに渡ったので、国内での革命の圧力が高まらなかったのかもね。
職業選択の自由の無さとか、社会階級間の移動の少なさとか、イギリスは民主主義的な国ではないなという印象があるよ。
3. 匿名処理班
なんで土地が平等でなきゃいけないの?
4. 匿名処理班
身分ってものをどう考えるかという話だよな。
武士が支配階級だった江戸時代は、江戸の1割弱の土地に人口の9割が住んでいたと、たしか聞いたことがある。もちろんそれは武家屋敷のため。今でも古い高級住宅地は、もと武家屋敷だったとこが多い。
階級がもっと厳しいイングランドなら当然の結果だと思うけど、いろんな人が行き来する時代にこのままというわけにはいかない。だけど、これを開放したら必ず文句も出る。
5. 匿名処理班
いざ 闘わん いざ
6. 匿名処理班
こういった国有地を個人に貸す商売をリースホールドという。
一見不平等を後押しするような法律だけど、借地の分需要は少なくなるので住宅価格そのものは安く済むと言うメリットもある。
イギリスで長年住宅価格が高騰してるのは金融立国(笑)ゆえに度々起こる外国勢による投機が大きな原因。
ほかにも中国やインドネシアなんかは大半が国有地でリースホールドが盛んな国。
7. 匿名処理班
相続税は偉大やな
8. 匿名処理班
ザックリとした話だけど、日本に存在するのすべての動産と不動産は日本国の所有物。
だからそれらを使用したり使用権や使用主を他へ移すときは使用料および手数料が掛かる。
これが税金。
9. 匿名処理班
何でも努力でなんとかなると思っている人はこういう現実を知らない
10. 匿名処理班
エリザベス女王が持つ総資産額は3億4000ポンド(約620億円)とされ、多くの宮殿とイギリスの海岸線をかなりの割合で所有している。
王室が、2017/2018年のエリザベス女王の年次決算書を公表、公務や宮殿の維持管理のための金額は4280万ポンド(約62億円)から4570万ポンド(約66億円)にアップ。バッキンガム宮殿改修工事も原因のひとつで、総費用は3億6900万ポンド(約540億円)と
見られている。
まあキングだから当たり前なんだけどね、さらに海外資産は予想もつかないだろう。
11. 通りすがり
貴族と書いてるが
ロンドンの証券取引所は世界のシェア率40%とも聞く最大手
その後ろにニューヨーク20%
東京5%と連ねられている
イギリスで富裕層が集まる土地は世界の富裕層の関心事でもある
金持ちの経済力よりも世界を動かせる力が無いのが資本主義社会なのでそこにお金持ちでは無い人間がとどまる方が不自然に見えます
12. 匿名処理班
ジョージオーウェルの動物農場を思い出す
13. 匿名処理班
ロストチャイルドの本家あるしな
14. 匿名処理班
これは興味深いなぁ、実に興味深い
15. 通りすがり
>>3
中国が土地の所有権は個人にはないと大声で叫んでるからじゃ無いですか?
16. 匿名処理班
普段海外では〜って言ってる人達はこういう現実にはいつもダンマリだよね
ちなみにフランスもこれに負けず劣らずかなり酷いぞ
17. 匿名処理班
法律も上級国民のためにあるんだよな
18. 匿名処理班
なんでタケ槍で勝てると思ったんだよ…。
19. 匿名処理班
テロは大嫌いだし容認する気は全くないが、IRAがキレるのもなんとなく分かる。
20. 匿名処理班
最近は、チャイナマネーが入り込んで一部は、中華人民共和国の中国共産党が所有する土地になってる
21. 匿名処理班
日本は農地解放で無秩序な開発が進んだっていう面もあるからねえ。
相続で所有者が分散して誰が管理してるか分からないような空き家空き地がそこら中にあるし、区画整理や道路建設で調整に手間がかかるようになるし、多くの人が土地を持つことの負の側面も実は結構大きい。
22. 匿名処理班
※9
× 何でも努力でなんとかなる
○ 何でも努力でなんとかなる可能性がある
土地が全部ほしいのならヒトラーを目指して国を所有すればいい
民主主義の投票でヒトラーは上り詰めたのだから可能性はある
23. 匿名処理班
爵位は領主を表すから、広大な土地持ちじゃなかったら、そもそも貴族じゃない。
24. 匿名処理班
地価を全く考えていない…。
広さだけでいいなら、庶民でも田舎の土地を買えるでしょ。
買う価値がないから誰も買わないわけで。
25. 匿名処理班
持ち家、土地持ちだったら家賃いらないんだもんな
26. 匿名処理班
国家が土地の所有権を有する中国みたいに、国が(自治体が?)恣意的な都市計画を進めた結果『鬼城』と呼ばれるような地域が出来上がるのに比べれば、イギリスなんかは遥かにマシなんじゃないのかな。
27. 匿名処理班
尚、王族にも、貴族にも、平民にも平等に・・・
メシは不味い模様。
28. 匿名処理班
>>3
近年イギリスの金融市場にチャイナマネーが大量に流れこんでイギリス側の資産を買いまくってるからね
そこで防波堤となっているのが貴族が所有している土地だったりしてるんだ
買う側からすれば目の上のたんこぶなので、批判する世論形成の為にこういう記事を発信したりする
記事製作の裏側でいろいろ動いていたりするんだよ
29. 匿名処理班
>>17
法律は、決める側に有利になる様にできるんだよ
30. 匿名処理班
固定資産税が高い
庶民が土地を買って維持できるような税額じゃない
31.
32. 匿名処理班
そのお陰で美しい自然が保護されているという説がある。
知らんけど…
33. 匿名処理班
難しいことはよくわからないけど、今もずっと歴史が生き続けてるんだなあって思った
34. 匿名処理班
でも貴族たちは自分の大切な土地を安易に開発したりしないからこそハリポタみたいなファンタジックな自然が今でも残ってるって側面もある
35. 匿名処理班
一訪問者の勝手な感想だけど、正直こういう記事はカラパイアに期待しているものではないな…
36. 匿名処理班
日本の農地解放は占領政策の一環のように言われるけど
実は戦前から政府がやりたかったんだけど当時の上級国民に忖度して出来なかったこと
ある意味GHQに汚れ仕事を押し付けた側面もある
37. 匿名処理班
言語はフランス語だけど”ノーブレス・オブリージ”(高貴なる義務)と言う言葉があるんだけどな。
あとは”指揮官先頭”はフォークランド紛争でもしてたし、第一次世界大戦では貴族の子息の戦死率が高ったとも言われている。
今のどこぞ国とは訳が違うわな。
38. 匿名処理班
スコットランドはどうなってる?
39.