【モバマス】夢見りあむ「チョロいなオタク!!」
それが聞こえた時、頭の中が真っ白になった。
どう言えばいいのか分からない、もやもやした感情が広がった。
歓声が起こるでもなく、かといってブーイングされるでもなく。
少なくとも歓迎はされていない。
当然だろう。
彼女は活動を始めて僅か3ヶ月。
こんなぽっと出のド新人が、しかもアイドルを舐めきったような
発言を繰り返しているような小娘が、誰もが夢見るシンデレラガール総選挙第3位に選ばれたのだ。
震える手でマイクを受け取り、彼女は初めて顔を上げた。
大勢のアイドルファンが一斉に彼女を見つめている。
前列に並ぶ男性客と目が合った。
見世物小屋の猿でも眺めるような、気味の悪い笑みを浮かべていた。
思わず目を逸らした先で、女性客と目が合った。
悪鬼をも思わせる表情で、涙を流し彼女を睨んでいた。
数百、数千の瞳に囲まれ、彼女はアイドルになる前の事を思い出していた。
本当のシンデレラのようにキラキラと輝く彼女たちを、齧り付くように眺めていた。
LIVE会場にも足を運ぶようになった。
生で見るアイドルは美しく、可愛く、尊かった。
生きるのがどれだけ辛くても、アイドルがいれば少し幸せになれる。
彼女の憧れ・・・いや、憧れることすらおこがましいと思っていた。
自分がそのアイドルにスカウトされた時は心の底から驚いたものだ。
催促をされ、「あっうっ」と小さく声を漏らす。
大丈夫だ、誰が何と言おうと、ぼくはぼくの実力でこの順位を勝ち取ったんだ。
運も実力の内。炎上も話題の内。何も気にする必要なんかない。
ぼくが、ぼくなんかが、第3位だよ!?ザマミロ今までぼくをバカにしてきたやつら!
感謝でも、なんでも、率直な感想を言ってやろう!
そう思い、深く息を吸い、口を開いた。
昔、彼女が推していた地下アイドルを。
本当に努力をしていた事を知っていた。だから大好きだった。
どれだけ応援しても人気が出ず、
消えてしまったあのアイドルを。
「チョロいなオタク!!」
会場が静まりかえった。
彼女自身、自分が何を言っているのか分からなかった。
頭の中は真っ白で、体の芯が熱い。
何に対してなのか分からない怒りで涙が溢れてきた。
「ぼく頑張ったか!?」
彼女は彼女なりに頑張った。それは間違いない。
だけど先輩達は、そしてあのアイドルは、彼女の何倍、何十倍もの期間
努力を重ねていた。あの時彼女があれほど憎んだ、努力が報われないという
理不尽が彼女自身に降りかかったのだ。
「努力なんてムダムダの無じゃん!?」
面白がってのし上げられた悔しさ、理不尽を体現してしまった自身への怒り、
先輩達への申し訳なさが膨れ上がり、ブレーキが効かない。
なんだったんだよ。あの子の努力は、ぼくの努力は。
なんでなんだよ。なんでこうなっちゃったんだよ。
アイドルっていうのは、キラキラして、みんなを幸せにして、
辛い世界を明るくして・・・・・・
耐えがたい感情が駆け巡り、ぼろぼろと涙を零す。
マイクを両手で掴み、思い切り叫んだ。
「アイドルってなんなんだよぅ!!」
思いの丈をぶちまけた彼女は舞台から逃げ出し、楽屋に駆け込んだ。
始めの数分は後悔と自己嫌悪で震えていたが
今はスマホをいじり、乾いた笑い声を上げている。
「はー・・・めっちゃやむ」
そう呟いた瞬間、「バコン」という音とともに脳天に激痛が走った。
「あいだぁっ!?」
慌てて振り向くと、プロデューサーが拳を握りしめ立っていた。
「ちょっとPサマ!?傷心中の乙女に何してんの!しかも第3位に!暴力反対!!」
「お前なあ・・・」
呆れた顔をして見つめる。彼女は思わず目を逸らす。
プロデューサーはため息をつき、彼女の隣に座った。
「何であんなこと言ったんだ。怒らないからいってみろ」
「それ絶対怒るやつ・・・やむ・・・・・・」
「なるほどな・・・そんな事を思ってたのか。調子に乗って皆を煽ったのかと」
「Pサマひどくない!?そんな事しないし!やむ!」
「冗談だ。だがお前の言い方だと大多数は悪意しか感じないぞ」
「Pサマがひどい・・・めっちゃやむ・・・」
りあむはうつむいて小さく呟く。
「あんなことしちゃって・・・もう皆に会えない・・・」
プロデューサーはため息をつき、口を開く。
「大多数は、って言ったろ。分かってる奴は分かってるさ」
彼女は勢いよく立ち上がり、目を輝かせた。
「ほんと!?ねえねえPサマほんと!?皆分かってくれてる!?」
「お前・・・」
煽りにしか聞こえないコメントをぶちまけた挙げ句逃げ出したのだ。
当然騒ぎになりかけたが、スタッフ、そしてアイドル達の努力の甲斐あって
暴動や事故も起こらず、無事総選挙は終了した。
「数年かけて築き上げた対応力と人望だ。バカにできないもんだろ?」
りあむは黙って話を聞いていた。
「だがな、皆見てるもんだ。努力を続けてたら、きっとついてくる。力も、人もな」
りあむがその言葉に反応し、口を開く。
「でも、たいして頑張ってないぼくが3位だよ?」
「あー?・・・お前も頑張ってただろ。いつも見てたぞ」
「そんなの!ぼくの努力なんて、皆に比べたら・・・」
「皆が、じゃない。お前がお前で頑張ってたら、それで十分だろうが」
「鼻水垂らしてレッスンやってたじゃねえか。やむやむ言いながら最後までやりきったじゃねえか」
「お客さん皆嘲ってたり怒ってた?本当か?」
「俺にはそう見えなかったぞ?」
そう言われ、彼女は思い出す。
気味の悪いにやけ面を浮かべる男。
その横で、屈託のない笑顔を浮かべる男。
涙を流し睨み付ける女。
その横で、涙を流し喜ぶ女。
「あれ・・・・・・」
「余計な事気にしすぎなんだよ、ザコメンタル」
ぽんぽんと軽く頭を叩く。
「ぼくが・・・ぼくが、3位・・・・・・ふへ、ふへへひ・・・・・・ズビッ」
「うぅ~わかったよぅ・・・」
うつむきながら呟くと、楽屋の外から足音が聞こえてきた。
「うわっ帰ってきた!無理無理無理無理絶対許してもらえないいい!!」
「分かったっつったばっかりだろお前」
りあむが涙目で振り返ると、未央が立っていた。
「ほれ」
「あうっ」
背中を押され、二人が向かい合う。
「あっあのっその・・・迷惑かけて、いや、煽って、いや、煽ったわけじゃなくて・・・」
「りあむん3位おめでとー!!」
未央はりあむの手を握り、笑った。
「初参加で3位って凄すぎない!?いやー超大型新人登場だね!」
「私もうかうかしてられないな。抜かれないように頑張らなきゃ」
「・・・・・・すごい・・・・・・おめでとう・・・・・・・・・」
「ふわぁー・・・まけちゃった・・・おめでとう・・・」
横から加蓮、雪美、こずえが顔を出し、りあむに声をかけた。
「りあむん?あ、このあだ名嫌だった?」
未央の顔を眺め、りあむは口を開いた。
「尊い」
「え?」
りあむはそう小さく呟くと、うめき声を上げて泣き出した。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛い゛い゛い゛い゛!゛!゛」
おわり
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コメント一覧 (1)
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- 2019年05月20日 23:57
- 俺達のコメント欄はこれからだ! どんっ!
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