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【コラム】 やがて君になる x 安達としまむら 特集! 仲谷鳰x入間人間x柚原もけ座談会 : アキバBlog
2019年05月27日

【コラム】 やがて君になる x 安達としまむら 特集! 仲谷鳰x入間人間x柚原もけ座談会

仲谷鳰×入間人間×柚原もけ鼎談! 月刊コミック電撃大王にて『安達としまむら』のコミカライズがスタート!原作の入間人間さん、コミック担当の柚原もけさんに加えて、『やがて君になる』の仲谷鳰さんも座談会に参加。やが君外伝『佐伯沙弥香について』の裏話を始め、盛り上がった三人のトークをお送りします。(取材・構成:かーずSP
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■入間「えっ?またやるの!?」
「安達としまむら」再コミカライズが連載スタート!

───今回は『やがて君になる 7』を刊行された仲谷鳰さん。外伝ノベライズ『やがて君になる 佐伯沙弥香について 2』と『安達としまむら 8』を上梓された入間人間さん。「月刊コミック電撃大王 2019年7月号」にて、コミカライズ版『安達としまむら』を連載開始された柚原もけさん。ここにそれらの作品の担当編集も加えた、6人による豪華な座談会になります!皆さんよろしくお願いいたします!

仲谷入間柚原:よろしくお願いいします。

───『安達としまむら』8巻の発売、おめでとうございます! 帯にてテレビアニメ化が発表になりました。アニメが決まってのお気持ちは?

「安達としまむら」テレビアニメ化告知
テレビアニメ化が発表された「安達としまむら」

入間入間(以下、入間):「やったぜ!」って気持ちと、「本当にやるの?」って両方思いました。正直そんなに動きがないというか抑揚がない作品というか(笑)。「起承転結がうまくいってないこれを、アニメにして面白いの?」って疑問があるんですけど、そこはプロが何とかしてくれるんじゃないでしょうか。

仲谷鳰(以下、仲谷):安達の挙動不審な感じが、アニメでどういう絵や動きになるのか、私はすごい楽しみにしてます。

───「電撃大王」では『安達としまむら』二度目のコミカライズも決定しましたね。

入間:「えっ?またやるの!?」って思いました。「前に一回やったよそれ」って。

(一同笑)

クスノキ(「電撃大王」編集):だって『安達としまむら』やりたいじゃないですか。以前のコミックは4コマメインだったので、それならそうではない形式の漫画があってもいいのではないかと、入間さんの現在の担当編集=阿南さんとお話させていただきました。そうなったとき、一番最初にコミックをお願いする作家として頭に思い浮かんだのは、もけ先生でした。

月刊コミック電撃大王 2019年7月号で連載スタートの、コミカライズ版「安達としまむら」
コミカライズ版「安達としまむら」
漫画:柚原もけ 原作:入間人間 キャラクターデザイン:のん

───『安達としまむら』を読んだ最初の感想はどうでしたか?

柚原もけ(以下、柚原):しまむらが周囲に八方美人なところや、安達の「取り繕う友達はいらない」ってところがすごく共感できました。どちらにも感情移入しながらグイグイのめり込んだんですよ。両者が似ているようで違う部分もあって、「この二人はどうなるんだろう」って読み進めるのが止まらなかったです。

───学生時代の柚原さんは安達としまむら、どちらに似ていましたか?

柚原:しまむらタイプでした。「遊びに行こうよ」って言われると「面倒くさいな、家でゲームしたいな」って思っちゃう。でも学校で一人になるのも辛いので、浅い友達づきあいをしたり。だから、一人で行動できる安達はすごいなって憧れます。

───コミカライズに際して、原作者から要望は出されたんでしょうか?

入間:私の作品のコミカライズでは毎回、「原作と同じことはやらなくていい」とは伝えています。キャラが合っていれば展開なんか全然違ってもいいし、かめはめ波を撃ってもいいし。

仲谷:それはキャラが違います!(笑)

入間:アニメの『スクライド』が好きなんですが、あのマンガ版ってまるっきり内容が違うんですよ。「ああいうのが見たい」って話はよくしています。その方が、俺が見て楽しいんですよ。だって俺は内容を全部知ってますし(笑)。まあでも自分自身、書いた1巻の内容を忘れてる時があったりして、「俺、本当に知ってるの?」ってこともありますけどね。だから好き放題がんばってください。

柚原:はい!

クスノキ:今回のコミカライズは、原作とは始まりも変えています。再コミカライズで同じことをするよりは、見え方が変わるように構成を作り直しました。

「安達としまむら」第1話冒頭シーン
コミカライズ版「安達としまむら」 第1話の冒頭
■冒頭の制服ピンポンは「安達としまむら」らしさを出すため

柚原:クスノキさんに「一話はドーナツをやろう」と言われた時に、「えっ! 制服ピンポンじゃないの!?」って驚きました。

クスノキ:マンガの第一話ってめちゃくちゃ大事で、「このマンガはこういうマンガです」ってことをいかに読者に示せるかが勝負なんです。『安達としまむら』では、それはドーナツのエピソードから始めるべきだと考えました。制服ピンポンだと、どういう作品なのか読者に伝わらないままフワッと終わってしまうように思ったんです。だからドーナツのエピソードに体育館の二階で出会うシーンを加えることで、『安達としまむら』がどういうマンガか、伝わりやすい内容になったんじゃないかと思います。

柚原:二人の紹介部分をドーナッツのシーンに落とし込む部分が、ネームで一番苦労しました。

───小説をマンガにそのまま起こしても、分かりづらい所が出てきてしまうんですね。

クスノキ:小説とマンガの違いってそこなんです。小説は一冊一気に読めるので、一冊単位で物語を考えることができます。マンガも最終的には単行本一冊単位で考えているんですけど、雑誌に連載している作品だとそうもいきません。小説とマンガの違いを意識して、一話単位でどう作品を伝えていくのか。コミカライズを手がける時には、そこに気をつけています。

■「安達としまむら 1」刊行当時、電撃文庫で百合は珍しかった

阿南(電撃文庫 編集):もう一点、今回のコミカライズで大きな変更点といえば、ヤシロの出番があるはずのところにありません。

───それは大胆な改変ですね。

入間:いいんじゃないですか。さっきも言いましたが、小説と同じことをやらなくてもいいんです。ヤシロがいなくても物語は書けますし。

柚原:私はヤシロが可愛くて好きだったから、出番が減ることが決まった時はちょっとショックでした。でも確かにヤシロが出てくると、安達としまむら、二人の関係がちょっと遠回りになるんですよね。

───そもそも原作でヤシロを出したきっかけは何だったんでしょうか?

入間:ん〜なんでだったかなあ。「あの社長」に聞いたほうが早いです。

───ストレートエッジの三木一馬社長のことですね(笑)。

入間:1巻の後書きにも書いたんですが、最初「『ゆるゆり』みたいのを書いて」って言われて、四人組にしたのもその名残だったんですよ。それと当時、ヤシロみたいなキャラが部活をやる企画も持ち上がっていて、その名残もあった感じです。

───電撃文庫で百合ジャンルは珍しいと思ったのですが。

小野寺(電撃文庫 編集):当時、電撃文庫に百合好きの読者さんはほとんどいないと思われていました。なので『安達としまむら』は、まずは入間さんのファンに向けたところがあります。

阿南:『安達としまむら』は、初動よりは後から口コミでジワジワと伸びた作品だったんです。最初は入間さんのファンが読んでくださって、だんだん百合ファンに届いていった感じがします。結果、入間さんの作品の中では、読者層の違う作品になったように思います。

■「友達の友達が来た時の気まずさ」から生まれた
「安達としまむら」誕生秘話

───1巻で好きなシーンはどこですか?

柚原:しまむら視点から安達視点に変わった時の、「安達ってしまむらのことが……!?」って。安達の目線に変わった時のスピード感がとても印象に残ります。

入間:もともと第一巻の「制服ピンポン」は読み切りで書いた話で、続編の予定もなく雑誌(「電撃文庫MAGAZINE」)に載せたものなんですよ。だから正直な話、キャラクターが今とは違います。読み切りの時は先のことは考えずに、ただ「学生時代に仲がいい友達がいて、他の友達が来ると微妙な空気になるじゃん」ってことを書いたんですよ。

柚原:入間さんも、こう思われる方なのかな?ってくらいリアルな感情が伝わってきて、そこが気になってました。

入間:ほら、友達の友達が来た時って対応しづらいでしょ。あの気まずい感じですよ。

柚原:そのシーンの舞台になっていたショッピングモール、私も一時期、岐阜に住んでいたので親近感が湧きながら読んでました。

入間:モレラ?

柚原:そうですそうです、あそこ行ってました(笑)。岐阜に住んでいた頃を思い出しながら、グーグルマップで背景の資料を探したりして。

入間:あの辺りの若者はあそこしか行くところがないんですよ。田舎の人がみんなイオンに行くみたいなアレです。

───コミカライズ第一話で「ここを見てほしい」というポイントがあれば教えてください。

柚原:安達の気持ちが途中まで隠れているところでしょうか。ほとんどほっぺを赤らめていない安達なんですけど、いきなり安達の感情が出てくるシーンがあります。そこを見て欲しいです。

───連載に対する意気込みをお願いします。

柚原:原作が好きな方はそれぞれ、『安達としまむら』への想いがあると思います。その人たちの期待を超えるために、私だけの『安達としまむら』にしないで、いろんな方が読まれている『安達としまむら』にすることを心がけています。初めて『安達としまむら』に触れる方には、原作でもクスッとくるような安達としまむらのゆるいやりとり、二人がゆるーくくっついていく感じを楽しんでもらえたらなって思います!

■「やがて君になる」小説の沙弥香が「解釈の一致」を得て、
さらに沙弥香への理解が深まった

───ここからは「やがて君になる」になります。6巻のラストがああいう形で「続く」となって、焦らされていた単行本派の読者も多いと思います。

仲谷:6巻をあそこで区切るのは意図的で、お待たせしていた人を7巻の表紙でさらにいじめるみたいなことをした気もしますが…。

───この表紙で追い打ちをかけているような(笑)。

仲谷:単行本では常に、次を楽しみにしてもらえるように区切りをつけています。7巻は明るい方向で待ってもらえる結びにしていますので、引き続き楽しんでもらえたら嬉しいです。

───入間さんの書かれた外伝ノベライズ「佐伯沙弥香について」から影響を受けたりといったことはありましたか?

外伝ノベライズ「佐伯沙弥香について」
外伝ノベライズ「やがて君になる 佐伯沙弥香について」1巻
著:入間人間 原作・イラスト:仲谷鳰

仲谷:例えば7巻84ページ、「手のひらが熱い」「心臓」ってワードは小説版から拾わせていただきました。次の見開きにある「燈子のことは誰が見ても」から始まるモノローグも、小説の言葉を直接お借りしたわけではないのですが、沙弥香の語り方に影響を受けていると思います。

「やがて君になる」7巻より、84ページ
「やがて君になる」7巻84ページ

入間:あ、そうだったんだ? それは大変光栄でございます。(お辞儀をしながら)

仲谷:この場を借りて、入間さんに許可を得るっていう(笑)。もちろん、自分の中で沙弥香の解釈がブレたということでは全然ありません。入間さんの書かれた小説の沙弥香が「解釈の一致」って感じだったんです。自分の向いていた方向へ、さらに沙弥香への理解が深まった感覚といいますか。

クスノキ:確かに入間さんが書いているはずなのに、しっかり『やがて君になる』なのがとにかくすごいんですよ。「沙弥香ってこういう人生を辿っていたんだな」って、解像度が上がってクッキリと見えた感じがします。そうそう、確かに水泳やってたって(笑)。あと言葉選びがすごくて……。小学生の頃に起こった、自分では得体の知れない感情を持ってしまった感覚。これを「心臓にヒビが入った」って言い方をします?この一文が好きすぎて……。入間さんの言葉選びに痺れます。もう、素人みたいな感想しか出てきません。

入間:マンガを繰り返し読みながら、「こうかな?」って細かいところからけっこう拾いました。沙弥香の家の外見が2コマくらいチラッと出てきたのを凝視したり。

仲谷:資料が少なくてすいません(笑)。

■仲谷「三角関係で残った子が気になる派なので、
沙弥香を入間さんに書いて頂けるなら完璧」

───外伝ノベライズ「やがて君になる」のオファーが来たときはどうだったんですか?

入間:有名どころの仕事が来てすごいなって。

仲谷:ええーっ! いや、それ逆ですよね!?(笑) 私の方こそ「いいんですか?」って恐縮しながらノベライズをお願いする気持ちでした。

入間:「俺が読んでるマンガのノベライズが来たぞ、珍しいな」って思いながら仕事を請けました。

仲谷:私こそ『安達としまむら』はもちろん、大学の頃に『みーまー』(『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』)も読んでいた大好きな作家さんなので、企画が来たときには二つ返事で即答でした。

───沙弥香の話を選んだ理由はなぜでしょうか?

クスノキ:スピンオフを入間さんに書いていただけることになったときに、「沙弥香でいいよね……?」って仲谷さんに聞いたら、「沙弥香でしょ」って即決でした。

仲谷:まず侑と燈子は本編で書ききるという理由があります。あとこれは百合に限らないんですが、私は三角関係で残った子が気になる派で、入間さんの『少女妄想中。』もすごくツボだったんです。沙弥香を入間さんに書いていただけるなら完璧じゃんって。で、実際上がってきた原稿を読ませていただいたら、口を出すところがないくらい完璧でした。

クスノキ:こちらとしては中学時代の沙弥香をオーダーしていたんですが、小学校時代がこんな濃密に書かれるとは思ってなくてビックリしました。

入間:中学校時代だけでは一冊分は書けないかもってことと、設定資料に「習い事をいっぱいやっている」って書いてあったので、そこから広げました。

───中学生編も、原作でチラッと出てきた千枝先輩を、かなり膨らませていました。千枝先輩の造形について教えてください。

入間:そこは隣にいる原作者に訊いてください。俺が語って隣から「違う」って言われたら辛いです。

仲谷:千枝先輩の造形は入間さんの手で具体的にしていただきました。「千枝先輩がこういう人だから、沙弥香はこうなったんだ」って私も納得しています!

───入間さんが「佐伯沙弥香について」の執筆で苦労した点はありますか?

入間:そりゃ厳密には自分のタイトルじゃないので、全体的に気を使いましたよ。自分の作品みたいに、ふざけたセリフとか言わせられないじゃないですか(笑)。あまり硬くなりすぎないようにしつつ、崩さないようにしないとなって、さじ加減は意識しました。

■侑の表現に「沼」という言葉を使っていたのが、
分かりみがあって好き

───最新巻「佐伯沙弥香について 2」が5月10日に発売されました。おすすめポイントはありますか?

入間:表紙を見てね!

仲谷:いやいやいや(笑)。

入間:本屋さんがマンガの表紙と並べて置いておけば、「マンガの別作品かな?」って勘違いしたりして、一緒に買ってくれると嬉しいです。原作者がチェックして大丈夫って言ってるんだから、内容的には大丈夫なはず。仲谷さんの「名作保証」ってシールに貼っといてもいいくらい。だから安心して買ってね。

仲谷:1年生時代の燈子と沙弥香の話がメインなんですが、侑と沙弥香の絡みもけっこう書いていただいたのが意外でした。

阿南:入間さんのマンガの一コマ一コマからの情報の拾い方がすごく丁寧で、小説2巻は原作に繋がる細かいネタが多いです。

仲谷:個人的にあえて本筋とあまり関係ない好きなポイントを挙げると、沙弥香がお弁当を食べるシーンで「お金持ちになっても卵焼きは入れたい」って言っていたのが可愛いなって(笑)。それと侑を表現するのに「沼」って言葉を使っていたのが、分かりみがあって好きです。

クスノキ:原作に繋がる話なので結末は分かっているんですけど、より納得感が強まる内容になっています。

仲谷:原作を読んでから手に取ってくれている方が多いと思います。なので、この作品が7巻のあのシーンにたどり着くんだなって気持ちで読んでいただきたいです。心臓にきながら読む感じ、切なくなる感じを楽しんで頂けたら嬉しいです。

───2巻の最後の告知で驚かれた方も多いと思います。

クスノキ:はい、3巻が決まっています! ありがたいことに皆さんのご支援があったおかげで、沙弥香の大学生編が書かれることが決定しました。

仲谷:『やがて君になる』のキャラクターで一番長い期間にわたる物語を描かれるキャラクターになりそうです。

■沙弥香は待ちすぎたのか?
燈子と結ばれる可能性は存在したのか?

───コミックス7巻で沙弥香が燈子に告るのは修学旅行先って決めていたんでしょうか?

仲谷:はい、ずいぶん前から決めていました。ただ展開やセリフはものすごく修正を繰り返しました。7巻の後半から40話(8巻部分の最初)のプレッシャーは強かったです。

───沙弥香は待ちすぎたから、出遅れたんでしょうか?

仲谷:沙弥香は自虐を込めて「待ちすぎた」って言ってますけど、実際に沙弥香が行けたタイミングがあったかというと、無かったんですよね。沙弥香は一年の時から常に最善の選択をしてきました。そのあたりはノベライズの『佐伯沙弥香について』2巻を読んでいただけるとわかると思います。「待ちすぎた」のではなく、この形しかなかったんです。

阿南:『佐伯沙弥香について2』を読んでいて改めて考えたのですが、沙弥香のどこが絶対に燈子とくっつかないポイントなんでしょう? 逆になぜ侑だったらくっつくことができたのでしょうか?

仲谷:燈子が相手の言うことを信じがちで、侑は最初に「誰のことも特別に思わない」って言い切りましたよね。あれが燈子の中ですごく大きくて、その言葉を信じたからこそ、燈子は侑を好きになれたんです。

1巻43ページより。特別に思わない侑

仲谷:もしも沙弥香が「燈子を特別に何も感じない、興味がない」という素振りができていたら、沙弥香にも可能性があったかもしれません。でも沙弥香は一目惚れですし、「友情としては特別に思っている」態度が出ちゃっていました。だから沙弥香が勝てるルートはなくなってしまったんです。

阿南:沙弥香の好意を燈子が受け入れる/受け入れないのポイントは、どこなんでしょう?

クスノキ:自分の解釈としては、燈子に対する好意ってすり抜けるんです。とにかく燈子には「自分」がなくて、全部お姉ちゃんになるために演じているもの。だから燈子にとっては、好意を向けてくる人ってプレッシャーになって辛い。そういう意味では、沙弥香も燈子にとっては辛い存在ではあります。

仲谷:燈子にとって沙弥香は、警戒対象だとも言えます。最後の一歩のところで沙弥香もそれを感じ取っているから、好意をぶつけない。だから側にいることを許されているところがあります。

クスノキ:二人は親友にはなれるけど、沙弥香の好意が一歩を踏み越えて燈子の前に出た瞬間、燈子は沙弥香の元を離れなきゃいけない。対して侑には「好き」がないから、燈子に対して何も期待していない。燈子に必要以上の好意を持たない上に、優しくて甘えさせてくれる。いくら寄り添っても燈子に「好き」をぶつけてこない。

仲谷:普通の人は、燈子みたいな美人が寄り添ったら惚れちゃうし、その瞬間から燈子にとって辛い人間になっちゃうんです。でも侑に甘えても好意を向けてこない。そういう部分で侑は燈子にとって特別な存在なんです。
だから沙弥香が無理だったというよりは、侑だからいけたと言えます。

クスノキ:生徒会劇を通して、燈子は「自分を好きになっていいんだ」って知ることができました。その時から、燈子は他人の好意を受け入れられるように変化しています。仮に生徒会劇の後に侑との関係が完全に終わっていたら、沙弥香は告白した時点で燈子と付き合えていたかもしれません。「人から好きだと言ってもらえて、嬉しいと思えたのは…初めてだった」って言えるくらいまで燈子は変わっているので。

7巻125ページより

仲谷:でも侑がいなかったら、そもそも燈子は変わっていないので厳しいんです。侑が最初から関わらない場合は、生徒会劇は無難に、微妙に成功。燈子は目標を見失い、屈折したりしつつも、それでも沙弥香はきっとそばにいるんじゃないかな。そこからゆっくりと時間をかけて、燈子が自分自身を形成していった後に結ばれる……みたいなルートはあったかもしれない。でも、燈子は侑と出会いましたから。

阿南:ではやはり侑が現れる前の一年生の頃に、沙弥香が燈子に想いを伝えるチャンスがあったのかどうか、という問題ではなかったんですね。

仲谷:そうしたら燈子が沙弥香から距離を置いたと思いますので、沙弥香が取れる行動ってああするしかなかったです。最善を選び続けた結果がこれだったってことです。

■侑の迷いは変化の現れ、辛いけど良い兆候ではある

───燈子は1巻から「侑が好き」という感情がブレないまま、他人の好意を受け入れられるように変わりました。他所(※)で話されていた「光と闇の百合」の喩えでいうと、闇から解放されましたね。

コミスペ!掲載のインタビュー(2018年11月)

仲谷:それは侑がやってきたことの成果が出た感じです。燈子が侑の事はずっと好きなのは、それが燈子にとって最後の砦で、そこだけは絶対ブレちゃいけないところなんだろうなと。

───一方、7巻の侑は迷いに入ったように見えます。

仲谷:確かに迷っちゃってるんですけど、これまでの侑は燈子に対して、器の大きさや包容力が表に出ていました。ですが侑の今まで出てこなかった内面───子供っぽい素の部分とか、ちょっと拗ねている内面が表に出てきているのは、侑の変化の表れです。侑が前に進むために必要なことなので、今は辛いけど良い兆候ではあるのかなって思います。

■入間「良い文章を書いている時は、
触り心地の良い、青い布を触っている感触がある」

───7巻の後書きにあった、創作に関するイデア的解釈が面白かったです。「やがて君になる」はどこかに本物の原型の世界があって、侑や燈子たちは動いて生きている。それを覗きながら、正しく紙の上に起こしているって考え方です。

7巻の後書き

仲谷:もちろんオリジナルなので自分で考えて描いているんですけど、正解がどこかにあって、その正解になるべく近づけて描かないといけない感覚といいますか。自分が「決める」というよりは「知る」という感覚です。

───「その原型の世界が自分の中にあると思っていたんだけど、アニメスタッフたちも同じ世界を見ている。なのでローカル保存じゃなくてクラウド保存だった」ともおっしゃってますよね。

クスノキ:『佐伯沙弥香について』が、まさに入間さんにも同じ世界を見てもらったのかなって。

入間:感覚自体はわかります。でも自分のオリジナルを執筆する時に、そんなことを考えていたっけな……んー難しいな、自分で書く時に俺は何を考えているんだ?

(一同笑)

仲谷:話の展開的にはこっちの行動をしてくれた方がやりやすいけど、このキャラはこうは動かないよなあ、みたいな。

入間:それはありますね。

───入間さんが執筆される時、脳内に浮かんだ映像を見ながら書き起こす派なのか、あくまでも文字情報だけで執筆されているのか。どちらなんでしょうか?

入間:文字情報だけですね。ただ、書く時に手触りがあって、良い文章を書いていると、触り心地の良い、青い布を触っている感じになります。

仲谷:布ですか?

入間:布ですね。それが、あまり良くない文章だとゴツゴツしたのを触っている感じになる……って、こんなことを書くと電波女っぽくて、天才みたいで俺カッコ悪いんですけど。

仲谷:いえ、カッコいいです。いま描いているものが良いか悪いか知りたいので、その感覚がほしいです

入間:良い文章を書いている時は、青とか白い色が見える感覚があるんだよなあ。調子が良くない時は手触りが悪くて、ぶつ切りみたいで気持ちよくない。単に仕事したくないだけかも知れないけど。

仲谷:あはは(笑)。私は描きながら、「たぶん良いような気がする?」くらいまでしかわからなくて。他人から反応を貰えるまでは、これでいいのかな?って自信が持てないです。

■ノベライズ、アニメ、舞台を経た「やがて君になる」、
いよいよ完結へ向けて

───アニメを振り返って、今の率直な気持ちは?

仲谷:本当に率直に言うと「2期をください」です、アニメの続きが見たくてしかたがないです(笑)。ちょっとでも会話の間や仕草がズレちゃうと違和感が出る作風なのですが、アニメはそこを大切にしていただきました。歩き方一つとっても演出と噛み合っていて、アニメ6話で侑と燈子が喋っているだけのBパートも、間延びせずに緊張感があったり。加藤誠監督が細かい修正まで入れてくださったおかげで、繊細さの統一感がしっかりしていて、一つの作品として良いものにしていただきました。

柚原:一原作ファンとして、この子達って動くんだなって不思議な感じがしました(笑)

仲谷:分かります、とりあえず最初に「すごい動いてる、喋ってる」ってファン目線になりましたね(笑)。

───「やがて君になる」の舞台も行われました。

仲谷:侑と燈子の物語に必要なエッセンスを抽出して、パズルのように6巻までを2時間で再構成していただきました。ドキドキしたりニヤリとしたり、観ていて自分の感情の動きが激しかったです。

クスノキ:例えば水族館も体育祭もないんですけど、そこで出てきた重要な会話は再構成した中にしっかりと出てきます。必要な要素が過不足なく入っているんです。

───次が完結8巻とのことで、ラストにかける意気込みをお願いします。

仲谷:恋愛って付き合い始めたところがゴールじゃありません。何をもって終わりにするかは難しいんですが、「これで侑と燈子はもう大丈夫だね」って安心してもらえる終わり方にするつもりです。二人の物語で、「見るべきところまでちゃんと見れた」と安心して終われるような最終8巻にしたいです。ちゃんとやれるかな? やりますのでよろしくお願いします!

───今日の鼎談を終えてみて、いかがでしたか?

仲谷:入間さんとは『少女妄想中。』『佐伯沙弥香について』でお仕事をご一緒させていただいたのですが、これまでお会いする機会がありませんでした。なので今回、お会いできてすごく嬉しいです。入間さんはこういう場にあまり出られないレアな方と伺っていました。貴重な機会をいただけて、すごく楽しかったです!

柚原:私も普段聞けないようなお話がたくさんできて、すごく参考になりました。原作の入間さんにお会いできて「ああ、この方が!」みたいな実感が湧いてきました、お会いできてよかったです。

入間:本当ですか? ホントに?

柚原:ホントです(笑)。

入間:私も本当に久しぶりに家の外に出て、人と話しました。楽しかったです。

───本日はありがとうございました。

(取材・文:かーずSP

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