【SS】少女「なにしてるの?」おじさん「なにも、ただこうやって座っているのさ」
おじさん「このベンチ懐かしいなぁ、私が子供の頃からあったっけ…この公園も変わらないなぁ」
おじさん「俺も老けたがお前も古くなったもんだ」
少女「なにしてるの?」
おじさん「なにも、ただこうやって座っているのさ」
少女「ふーん、そっか…私も座っていいかな?」
おじさん「かまわないよ」
少女「よいしょ…」
おじさん「…」
おじさん「お仕事かぁ…思い出したくもないなぁ、逃げ出してきたんだ」
おじさん「いろいろ辛くってさ」
少女「お仕事辛いの?嫌いだったの?」
おじさん「嫌いではなかったよ、でもね、好きだから続けられるって訳でもないんだ」
少女「ふーん、むつかしいね」
おじさん「お嬢ちゃんは学校は?」
少女「逃げ出してきた」
おじさん「そうかー、私と一緒か。公園に二人きり。世界が終わりそうなくらい静かだ」
少女「田舎だからね、静かなんでしょ」
おじさん「はは、味気ないなぁ」
少女「味?味はしないよ」
おじさん「塩対応ってやつだ」
少女「あー、きいたことある」
少女「ところでおじさんは何で怒らないの?」
おじさん「怒らない?」
少女「私、抜け出してきてるんだよ? ダメなことでしょ?」
おじさん「ふむ、なるほど。でも答えは簡単だ」
少女「簡単なの?なに?」
おじさん「子供には子供の事情がある」
少女「ふふ、そうだね」
少女「まやかし?」
おじさん「そうだ、人が作り出した物に過ぎないってわけさ。大人はみんな子供でいたいのに子供でいられない理由をわざわざ探すのさ」
少女「なんで?」
おじさん「なんでだろうなぁ、いつからだろう。答えがわからない私もまやかしに過ぎないのだろうね」
少女「おじさんはここにいるじゃん」
おじさん「本当に?」
少女「見えるよ」
おじさん「君の脳が作り出した幻かもしれないよ?」
少女「でも、加齢臭がするもん」
おじさん「なら、私はここにいるね。すこし消えたくなったけど」
少女「よくわからないおじさんだね」
おじさん「おじさんだってわからないことはある。気がついたらおじさんになっていたんだ」
少女「怖い話?」
おじさん「怖い話じゃない、いやそうだな、怖い話だ」
少女「私も気がついたらおじさんになるの?」
おじさん「君が望むならね」
少女「すごく嫌な気持ちになった」
おじさん「すまない」
おじさん「うーん、なにもしたくないなぁ。なにもやる気が起きないんだ。このまま死ぬのを待つのも悪くはないかな」
少女「へー、おじさん大人なのにお金に興味ないの?」
おじさん「私の場合、お金は手段であって本質ではなかったね、何より仕事が好きだったから」
少女「逃げてきたのに?」
おじさん「逃げてきたのに~だ!」
少女「おかしなの」
おじさん「もう、戻ることはできないだろうなぁ。そう思うと懐かしさを覚える気もする」
少女「謝ればいいじゃん、シャチョーに」
おじさん「はは、私はシャチョーに雇われてる仕事でもなかったんだが、そうだね。謝るべきなのか…でも最後まで謝らないほうが多くの人が悲しまないで済むんだよ、きっと」
少女「それはまた、なにかの例えなの?」
おじさん「そのままの意味さ」
少女「おじさんは何言ってるのかよく分からないって言われない?」
おじさん「しょっちゅう言われてきたからもうなれたよ!」
少女「あはは!そうだろうと思った!」
少女「じゃあさ、イケメンになるってのは?どう?」
おじさん「さっきの話の続きか?いまさらイケメンになってもなぁ…この歳でってのもあるが…もう遊べないし」
少女「ん?遊べばいいじゃん」
おじさん「まったまった、別のはなしにしよう」
少女「お金だめ、イケメンだめ、じゃあお嫁さんは?」
おじさん「あぁ、それなら一度は結婚してみたかったなぁ…天涯孤独って私にはそれほど堪えるものでもなかったが、どうせならば人生を謳歌してみたかったものだ」
おじさん「残念ながら全てが遅すぎたんだ、仕方ないだろう」
少女「遅すぎるってことはないと思うけどなぁ、明日地球が滅ぶとしても、今日リンゴの木を埋めるような人が素敵だと思う」
おじさん「それはそういう状況になった人だけがわかることさ、それにリンゴの木だって死ぬのがわかってて植えられたくないかもしれないだろう?」
少女「それだってリンゴの木にしか分からないじゃん」
おじさん「…一本とられた」
少女「じゃあ、お願い事なにもないの?」
おじさん「うーん、君はなんでもできるのかい?」
少女「だいたいなんでもできるよ!最近はオムレツも作れるようになったんだ!」
おじさん「はは、すごいじゃないか。きっと君のような娘か世界を救うのかもしれない」
少女「オーバーすぎぃ…誇大妄想ってやつ?」
おじさん「おいおい、手厳しいなぁ」
少女「やだ」
おじさん「なんでだい?」
少女「おじさんだって帰らないじゃん」
おじさん「私は家族はいないんだ、君は迎えてくれる家族がいるだろう?」
少女「うーん、まぁ家族っちゃ家族はいる。でもむかつくやつらもいる」
おじさん「子供の事情か」
少女「ねぇ、家出したいからおじさんの家に泊めてよ」
おじさん「それは出来ない。だっておじさんはもうすぐ死ぬからね」
少女「なんで?」
おじさん「驚かないのかい、それともおじさんに興味がないのか、どちらにせよすこし悲しい気持ちになったよ」
少女「お仕事したくないから?」
おじさん「できればもう一度したいね」
少女「じゃあ嫌なことあった?」
おじさん「いいや、幸せだったよ、子供の頃から今まで。趣味の天体観測が仕事になったんだから」
おじさん「星を眺めているだけで幸せな気持ちに満たされた。それは本当に本当さ」
少女「じゃあ病気なの?」
おじさん「これでも健康だ、臭いけどね」
少女「じゃあ、もうわかんない。なんで死ぬの?」
おじさん「教えられないね、絶対に」
少女「なんで?」
おじさん「君が悲しむから」
おじさん「そんなことはちっぽけな事に感じるぐらい悲しむよ?」
少女「それ以上の事なんてない!」
おじさん「今日一で嬉しい、なんだか生きる希望がわいてきた」
少女「本当に?」
おじさん「でも、どうしようもない。やはり死ぬんだ」
少女「もう!教えてよ!!私の秘密も教えるからさ!!」
おじさん「君の秘密は凄いのかい?」
少女「すごいよ!知ればおじさんはもうビックリしておしっこ漏らすくらい!!」
おじさん「じゃあ知りたかないよ」
少女「ひど!?そういうことじゃないでしょ!」
おじさん「ははは、でもおしっこ漏らすくらいの事なんだろう?」
少女「それはまやかしだよ、本当に漏らしたかなんて重要じゃないでしょ?」
おじさん「たしかに、いまの私にはさして重要でもない。君も冗談だと思って聞いてくれるかい?」
少女「うん、いいよ」
おじさん「その代わり秘密は教えてよ?」
少女「わかってるって!」
少女「え!?」
おじさん「私はね、世界でも有数の天体物理学者なんだ、でもね。この事実は世界中が隠している。混乱した世界の終わりなんて美しくないだろう。人道的な判断だってさ」
少女「このままだとみんな、死んじゃうの?」
おじさん「私は最後の最後まで奇跡を信じて巨大隕石を観測する仕事を受けたんだが…どうせ死ぬのにパソコンとにらめっこなんてやってられないだろ?」
おじさん「最後はこの公園で、隕石を生で見たくなったんだ。」
少女「それで逃げ出してきたんだ?」
おじさん「はは、良くできた嘘だろう?本当はリストラされた冴えないサラリーマン…いや、もとサラリーマンだ」
少女「…」
おじさん「ね、悲しくなったろう?こんな悲しい生き物なかなかいない。明日からどうしようも無いんだからね」
少女「うそ」
おじさん「ん?」
少女「うそはよくないよ?」
おじさん「すまない、そんなヨタ話も楽しいかと思って」
少女「そうじゃないよ!くるんでしょ!隕石!!」
おじさん「そっちかい!?こないよ!?」
少女「じゃあ、なんで…」
おじさん「?」
少女「じゃあなんで泣いてるの?」
おじさん「!!」
おじさん「ご、ごめんよ、なんだか、作り話にのめり込んだみたいだ!!それに本当に隕石が来るとして、止める手段はなにもないんだ。どうすることも出来ないんだ。誰かに教えても悲しませるか笑われるかが落ちなんだ」
おじさん「政府は宇宙に逃げたり地下シェルターに入ったりしてるらしいが、もう生命の根絶は避けられないレベルの隕石なんだ」
おじさん「それがおじさんの秘密さ」
少女「じゃあ、次は私ね」
おじさん「味気ないなぁ」
おじさん「へ?」
少女「本当は研究機関から逃げてきたの、追手もすぐに来るかもしれない」
少女「私に出来ないことは何もないんだって、極極秘裏な研究だから政府機関も知らないんだ」
おじさん「あはは、そうなのか」
少女「だからさ、おじさんみたいな人と話すのも初めてなんだ、今日が」
少女「怒らない大人も初めて」
おじさん「おじさんは怒らないいい人じゃなくて甲斐性のないダメ親父って気もするが」
少女「それはわかってる」
おじさん「あ、そう?」
少女「だからね、私も世界には飽き飽きしてるんだ、こんな人生にも。だからね、私のお父さんになってよ」
おじさん「わかった。どこか誰も知らない自然豊かな所で二人で住もう。暖かい地域がいいなぁ、南の方へ行こうか」
少女「い、いいの?」
おじさん「おじさんは死ぬ運命だ、だが、だからこそだ。だからこそどんなことでも受け入れられるし、約束だって絶対守れる気がするんだ。少なくとも今はそう思ってる。」
おじさん「それに、君のなんでもできる?能力があれば生活には困らないだろう」
少女「そうだね、困らないよ…でも心は普通の女の子だよ?大丈夫?」
おじさん「なぁに、はじめての娘だ。一緒に成長しようじゃないか。そうだ、天体望遠鏡も持っていこう。ここくらい田舎なら凄く星が綺麗だよ。南の島ならもっと綺麗だ!星の名前もたくさん教えてあげるよ」
少女「それ、約束だよ?」
おじさん「約束だ」
少女「すごーい。綺麗」
おじさん「月が2つ。でも一つはまやかしだ。なにも心配するな。あるかもしれないしないかもしれない。」
おじさん「目をつぶっていればいい、大丈夫だから。」
少女「もう一度聞かせてね、今の望みは?」
おじさん「…君と二人で暮らしてみたいな。だからこのまやかしを消してくれないか…」
少女「お安い御用だよ」
月は砕け散り散りに、波風に舞う砂のように煌めいた。
少女は笑いながら言う。
『今日、リンゴの木を植えようね』
今日も地球はなにも変わらず、何事も無かったかのように回っている。
南の島にひとつの明かりがあった。天を仰ぐ望遠鏡を大切そうに覗く2つの影。
きっとこれはまやかしではない。形ある幸せだ。
~~fin××
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先々週
コメント一覧 (4)
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- 2019年07月03日 12:17
- 俺は好きだぞ
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- 2019年07月03日 13:05
- Siriとかカップラーメンの続きかな?
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- 2019年07月03日 13:06
- 良かった
途中でギャグマンガ日和がチラついたけど
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- 2019年07月03日 17:22
- ~~fin××の人、久々に見た気がする
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