【ミリマス】百合子「早く迎えに来て どこなの王子様」 育「ここだよ!」
ジャラジャラ
百合子「!? 私、足枷で拘束されてる……そしてこの場所はどう考えてもファンタジーにありがちな地下牢……一体どうして?」
百合子「それにこの服装……淡い水色のドレス。綺麗な宝石がちりばめられたティアラにイヤリングに指輪……はっ! つまりこれって」
百合子「今の私は――囚われの姫君!!!」
怪人兵「おい人質! やかましいぞ!!」
百合子「ひぃ! 人の体に豚の顔面をした醜いモンスター兵士! やっぱり私の予想は当たってたのね」
怪人兵「開口一番ひとの容姿をナチュラルに貶すな! 俺こう見えてもうちの種族内では雰囲気イケメンで通ってるんだが!?」
百合子「そんなの知りませんよー!」
怪人兵「くそ……ボスからは生け捕りにしておけと言われているが、少し黙ってもらうくらいなら構わねえよな?」
百合子「い、いや……誰か、助けて……」
号令〈全兵に次ぐ! 緊急事態発生! 東門より侵入者! 既に三番隊が陥落!〉
怪人兵「な、なんだと!?」
百合子「これはもしや!」
号令〈なんとしてでもヤツを止めろ! 地下牢への進入を許すな!〉
百合子「間違いない。誰かが私を助けに来てくれたのね!」
怪人兵「おいどうなってやがる」
怪人兵後輩A「いえ、俺にも何がなんだかさっぱりで…」
怪人兵後輩B「今情報が入りました! 侵入者は一名。武器は不明。馬を連れて移動しているとのことです」
百合子「馬……やはり囚われの姫君を救い出すといえば、白馬の王子様が定番!」
怪人兵「何言ってんだこいつ。まあいい。馬に乗っているなら、来るとしたら地上からだな。ここにある武器はお前たちにすべて托す。入り口を集中的に固めておけ!」
怪人兵後輩A・B「わかりました!」ダッ
怪人兵後輩C・D「エッサホイサ」ガラガラ
百合子「えっ、待ってどこからこんな大量の武器が……」
百合子「そ、そんな……」
怪人兵「観念するんだな。ガハハハハ――グハァッ!?」
百合子「!?」
?「観念するのはお前だ」
怪人兵後輩A「侵入者だ! 下にいるぞ! 先輩がやられた!!」
怪人兵後輩B「おのれー! 覚悟しろ!」
?「何人来ようがかまわないよ。ぼくはただ、守りたい人を守る……それだけだ」
翻るマント。軽やかな身のこなし。そして何より、迷いのない紅色の瞳は彼の曇りのない心を表していて――。
怪人兵後輩C「ギャアッ」
怪人兵後輩D「は、速い……ゴフッ」
そう。彼は、私の運命の人。あの紅く燃える瞳の持ち主は、太陽の国の王子。
怪人兵後輩B「了解だz――」
?「……」ブンッ
怪人兵後輩B「な、ナイフを投げやが――グエッ」ドサッ
怪人兵後輩A「おのれよくも相棒を……だがこれでお前のナイフは一丁だけ。勝負あったな。くらえっ」ジャカッ
?「後ろだ」
怪人兵後輩A「えっ?」
ペガサス「ヒヒーン!」ドンッ
怪人兵後輩A「ギャアッ! こんなでかいヤツいつの間に」
?「呆れたね。リリー姫を捕らえておきながら、ぼくのことを調べておかなかったなんて」
怪人兵後輩A「!? ってことはお前はまさか……嘘だろ、こんなちっこいガキが!?」
?「ムッ……これを期に覚えておいてね。ぼくは子どもあつかいされるのが何よりもきらいなんだ」ザシュッ
怪人兵後輩A「ガハッ…」ドサッ
ガチャッ
百合子「あっ、あなたは……」
育「待たせたね、リリー。むかえに来たよ」
幼き王子の手を取る私は、風の国の王女リリー姫。そして彼は太陽の国のエリック王子。
運命に導かれた二人の物語の幕が、今まさに上がろうとしていた。
百合子(えっ、何このモノローグ。それよりなんで育ちゃんが王子様なの? 一体どうなっちゃってるのー!?)
杏奈「……」
P「……なんじゃこりゃ」
杏奈「……このゲームは、百合子さんの頭の中の世界……なら……仕方ない、と思う……」
P「なあ劇場……確認だけど、俺たちがこのゲームをクリアしない限り百合子は目覚めず、同じ地方公演に出演する他の7人もゲームの世界に囚われたまま――なんだな?」
亜利沙(劇場の魂)「ええ。そうなるわ」
P「しかし『ジャングル☆パーティー』のときに開いた次元の狭間への扉が閉じきってなかったのはそっちの落ち度だろう。どうにかならないのか」
亜利沙(劇場の魂)「それに関しては謝るわ。けれど開いていた次元の狭間に迷い込んだ百合子ちゃんが、まさか妄想だけで新世界を構築できるとは思わなかった」
P「それが想定外なら、対処のしようもないってことか」
亜利沙(劇場の魂)「面目ないわ。私にできるのは、こちらとあちらの世界をゲームを通じて繋ぐことだけ」
P「まあ創造主が百合子なら、ストーリーが無事エンディングを迎えれば満足して目覚めてくれるだろうけど…」
P「いくら杏奈とはいえ、この説明書も攻略マニュアルもないゲームをクリアできるのか」
P「百合子がかんがえたさいきょうのゲーム、だからな。一筋縄ではいかなさそうだ。それより、なんで主人公が育なんだ?」
杏奈「……グラフィックの感じが、育ちゃんがモーションアクターをしてるゲームに、似てるから……そのイメージが、反映されたのかも……」
P「そういうことか……後は初期武器がダガーナイフだったり、トゥインクルリズムと共通してる要素もありそうだな」
杏奈「戦闘システムは、さっきの序章で覚えた……あとは、敵キャラのレベルや弱点に合わせてアイテムを集めないと……」
P「状況から考えると残機とかなさそうだし、ゲーム内で死ぬと現実でも死んだ扱いになる的なことになりかねんからな。なにせ百合子が考えたゲームだし」
杏奈「シビアな立ち回りになりそう、だけど……みんなを助けるためだから、がんばり……ます……!」
P「頼んだぞ、杏奈……!」
育「うん。敵の追っ手もまさか空に逃げられるとは思いもしなかっただろうね。この子のおかげだよ」
ペガサス「ヒヒーン!」
百合子「ねぇ、育ちゃ――エリックは敵の目をかい潜るために地下水路から回り込んで牢に侵入したんだよね。そのときこの子はどうしてたの?」
育「もう。忘れたのかい? この子はジュエルアニマル。ふだんは宝石の姿でぼくの胸元にいるんだ」
百合子「あ……そ、そうだったね」
育「それよりリリー、ほんとうに君が無事でよかった。ぼくと君の国が突然の動乱におそわれて以来、ずっと心配だった。君が怪人にさらわれたと聞いたときは、生きた心地がしなかったよ」
育「すぐに助けに行こうと城を出ようとしたけど、家臣たちに反対されて…。しかたないよね。ぼくだってなぞの勢力に命を狙われてるんだもの」
育「だけど君のピンチに、ぼくだけが安全な場所にかくまわれてるなんて、ぜったいいやだった。それに国が大変なときにみんなのために行動できなきゃ王子じゃないと思ったし」
育「お父様たちだって、きっとわかってくれると思う。これからの道のりは大変だけど、心配しないで。ぼくがそばにいるから」
百合子「うん……ありがとう……」
百合子(エリック王子は、私のことをこんなに大切に思ってくれてるんだ。胸がきゅんとする言葉だけど、姿形が育ちゃんだから、なんだか変な感じ)
百合子(だけど……確かにこの子は育ちゃんなんだな。育ちゃんが私の王子様だったら、きっとこんな感じだと思うから)
百合子(だって本当なら私があなたを守らなきゃいけないくらいなのに、立派な大人の男性が恋人にかけるような言葉を迷いなく言うんだもの)
育「リリー、何か考えごとかい?」
百合子「ううん。何でもないの。それより見てよ。私たち今、雲と並んでるんだよ? とってもロマンチックだと思わない?」
育「うん……そうだね。君の国の町や野山がこんなに広々と見わたせるなんて、こうでもしなきゃ見られない光景だよね」
百合子「これから二人で広い世界を冒険できるなんて、なんだかわくわくするね」
育「気楽だなぁ。ぼくらは敵に命を狙われてるんだから、もっとまじめに考えてくれないと」
百合子「そ、そうだったね」
傭兵モンスター「ヒャッハー! 標的発見、撃ち落としてやるぜ!」
育「ふり切るよ。ぼくにしっかりつかまってて!」
百合子「えっ、うん!」ギュッ
ダダダダダ…
傭兵モンスター「ちっ、ちょこまかと……こっちもフルスロットルでいくぜ!」ブォーン
育「うぅ、今の装備じゃ攻撃手段がない。このままじゃ……」
百合子(どうすればいい? 私にできることなんて……!)
百合子(そうだ。今の私は風の国の王女! きっとエリック王子のように最初から使える魔法か何かがあるはず!)
杏奈「Pさん……2Pコントローラーを取って……。リリー姫にも何か初期技があるはずだから」
P「わ、わかった! えっと……“かぜおこし”と“つつく”って書いてあるぞ」
杏奈「装備と戦闘用道具は?」
P「装備は最初のドレスのままだから実質ゼロで何も付け加えられない。道具は……回復用の薬草が一つあるな」
杏奈「その薬草は、絶対使わないで……杏奈の予想だと、このイベントの直後に必要になるから……無いと、詰むかも……」
P「わかった。なら技の選択だな。どっちを使う?」
杏奈「うん……とりあえず――」
育「リリー!?」
傭兵モンスター「なんだなんだ? お姫様のお出ましか?」
百合子「果てしなき天空よ、我は風の国の王女……海原を荒らし大地を靡かすその大いなる力を、我に授けたまえ!」
傭兵モンスター「大仰な詠唱!? ま、まさか」
百合子「――かぜおこし!!!」
ヒュン…
傭兵モンスター「えぇ……」
百合子「あ、あれ?」
傭兵モンスター「舐めてんじゃねェ!」ダァン!
ペガサス「!! ヒヒーン!」
育「まずい、ペガサスの羽根が!」
杏奈「墜落よりも前に……敵に追いつかれて、撃たれてゲームオーバーだよ」
P「一体どうしたら……ん? なんかBGMが変わったぞ。この曲は――」
杏奈「……『ロケットスター☆』……!」
翼「ちょっとお兄さーん、可愛い子いじめるなんてサイテー。そんなことしてたら女の子にモテませんよー?」
百合子(えっ、なんで翼がこんなところに? なんで背中に羽根が生えてるの――って、私の夢なんだからそりゃそうか)
傭兵モンスター「は? なんだお前。俺は今仕事中なんだ。後にしてくれ」
翼「そっか。お仕事なら仕方ないですね。でも可愛い子をいじめるのが仕事だなんてダサくないですか? お兄さん自身そんな風に思うことありません?」
傭兵モンスター「テメェ、馬鹿にしてるのか!?」ジャカッ
百合子「あっ、危ない!」
翼「そんな悪いお兄さんには、お仕置きですよー☆」ブン! スパッ
傭兵モンスター「ギャアアアアア! なんだその剣は!? くそっ覚えてやがれぇ……!」ヒュゥゥゥ
育「助かりました、お嬢さん。なんとお礼すればいいか……ありがとうございます」
百合子「翼――じゃなくて、あなたとってもお強いんですね!」
翼「えへへ。ありがとうございまーす。私、面白いものを探して世界を旅してるんだけど、この辺りはなんかつまんないなーと思ってて」
百合子「は、はぁ……」
翼「そうだ! また危ない目に遭ったら大変だから……はいこの剣、二人にあげちゃいまーす」
育「えっ、いいんですか?」
翼「大丈夫ですよー。こう見えて私、とっても強いんだから。じゃあねー」
百合子「ちょ……ありがとうー! また会いましょうねー!」
育「良い旅をー!」
P「名前的にも性能的にも太陽の国の王家に代々伝わってないとおかしい感じでしょ。翼は一体何者なの?」
杏奈「そんなの……百合子さんに訊いてよ……」
亜利沙(劇場の魂)「ムービーパートが始まったわ。傷ついたペガサスを薬草で治療するみたいね」
杏奈「降り立った町は……ピスケスタウン……宿屋さんと、道具屋さんがあるみたい……」
P「二人の回復は宿屋でできるとして、道具も補充しておかないとな。夜が明けたら道具屋に寄ってみよう」
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可憐「い、いらっしゃいませ……」
育「こんにちは、旅の者です。お嬢さん、少しばかり店内を見せてもらってもよろしいですか?」
可憐「どうぞ。あ、あの……何かお探しのアイテムがあればお申し付けくださいね」
百合子「ご丁寧にありがとうございます。そうですね。回復用の薬や、魔除けの衣装とか……」
育「すごい。回復や魔除けはもちろん、味方の能力を上げたり、敵の能力を下げたりできるんですね」
可憐「じ、実はそれ、私が調合した手作りのアロマで……」
百合子「わあ、さすが可憐さ――じゃなくて、道具屋さんは素敵な技術をお持ちなんですね」
可憐「えへへ……ありがとうございます」
育「おすすめとあれば買わない理由はありません。ぜひ各種1つずつください」
可憐「は、はい。ありがとうございます。他に何かご注文はありますか」
百合子「そうですね、強力な武器などあれば嬉しいです」
可憐「でしたら取って置きのものがありますよ。こちらのサーベルです。その名も“聖刀ブルームーンハーモニー”」
百合子「とっても強そうだけど、今の所持金じゃ買えないね」
育「そうだね。とりあえず必要な装備を買いそろえたら、いったんおいとましようか。お金が貯まったら、また来ますね」
杏奈「でも……王子の剣も姫のサーベルも、専用の必殺技があるみたい……たぶん、それを習得しないと、ラスボスは倒せないと思う……」
P「だな。確かに言われてみればどっちのグループの全体曲も必殺技名っぽいし」
亜利沙(劇場の魂)「ストーリーをある程度進めれば技を習得するためのイベントが始まるかもしれないわね」
P「今はその点を頭の片隅に入れておこう。おっと、次のイベントのフラグが立ってるようだぞ」
杏奈「洞窟の先にある町で……嗅ぐと人が次々に犬に変わってしまう謎のガスが発生して、封鎖されてるみたい……」
P「またヤバそうな設定が出てきたけど、とりあえず行ってみよう。今買った魔除けのスカーフを装備すれば町に入れそうだ」
犬B「くぅーん……くぅーん……」
百合子「なんてこと……本当に町から人が消えて、代わりに犬で溢れかえってる。みんな元は人間だったのね」
育「わが国もお世話になっているハコーの町が、まさかこんな危機にひんしていたとは……」
百合子「ええ。この町の近くの鉱山で採れる鉄鉱石の質は我が国の誇りの一つだったから……」
育「採掘と製鉄・鉄工の各事業で国内外にその名を知られ、多くの人々に仕事をあたえ生活を豊かにしてきた盟主キャロル氏のおひざ元だからね」
百合子「町にはキャロル氏が営む各社で働く人たちが大勢住んでる。その人たちがみんな犬にされてしまったなら、我が国どころか世界中が大打撃を受けてしまう」
育「気になるのはピスケスタウンで耳にしたうわさだ。キャロル氏が行方不明らしいと……彼も町にいたなら犬にされてしまったはず。どこにいるんだろう」
百合子「とにかくまずはキャロル氏の邸宅を調べてみましょう。町一番の大豪邸は……ここね」
育「待って。中に誰かいるみたいだ」
星梨花「えへへ。お腹がすいたんですか? じゃあみんな、おやつの時間にしましょうね」
百合子「あれは星梨花ちゃ――じゃなくてキャロル氏のご令嬢のセリーナちゃん! 私も何度か王宮のパーティーで会ったことがあるわ(という謎の記憶がある…)」
育「なら、とりあえず一度彼女と会って話をしてみよう。何か手がかりがつかめるかもしれない」
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P「なるほど。町の有力者の娘……星梨花はこのポジションでの登場か。外気に触れない頑強な室内で暮らしていたから、町民で唯一呪縛ガスを受けずに済んだ、と……」
杏奈「一緒にいた犬たちは……セリーナの家の使用人たちだったみたい……」
P「そしてセリーナは父親の居場所を知らないどころか、土地勘さえろくにないという有様だ。まあ王族や権力者のパーティーくらいでしか外出しないなら当然だよな」
杏奈「屋敷をしらべてみたら……一応、いくつか手がかりっぽい情報が見つかった……」
P「掘り尽くされて閉山となった町外れの鉱山……ダンジョンっぽいし、まあボスがいるのはここだろうな」
魔女「だからさっきから言ってるじゃない。このカメラの前で、私に跪いて犬のように靴を舐めてくれれば、その望みを叶えてあげるって」
星梨花父「え、映像を撮ってどうするつもりなんだ? 個人の趣味で完結するようなものでもなかろう!?」
魔女「当然よ。この映像を世界中にばらまいて、あんたの名声を地に落とすのが目的なんだから」
星梨花父「くっ……やはりか。なら私はこの姿でいくら辱められようとも、君の要求を呑むことはできない」
魔女「いいのかしら? 私に刃向かって。自分さえ助かれば、かわいい娘がどんな目に遭ってもいいってことね?」
星梨花父「なっ、娘に何をする気だ!」
魔女「私の呪術で犬にされた人間は、私の言うことならなんでも聞くのよ。そして町に人間はもうあんたの娘だけ。これが何を意味するか説明しなくてもわかるわよね?」
星梨花父「む……わ、わんわん」
魔女「アハハハ! そうよ、最初からそうしておけばいいのよ。国内随一の権力者も、私にかかれば所詮こんなものよね!」
星梨花父「クゥーン、クゥーン」スリスリ
魔女「これでこの国の格差社会にもメスが入り、私は見事クライアントの要望に応えてがっぽり儲かるという寸法。すべてが完璧だわ」
育「それはどうかな?」
魔女「何っ!?」
百合子「その人を離して、今すぐみんなを元の姿に戻しなさい!」
杏奈「Pさん……ちょっと、黙ってて……」カチャカチャ
P(杏奈、目がマジだ……!)
杏奈「みんなの命運が……杏奈に、かかってる……星梨花ちゃんのお父さんまで捕まってて、責任重大……だから…」
P「ああ。それは本当に恐ろしいことだよ。彼に何かあれば、こっちの世界の経済で動乱が起きかねないからな」
杏奈「正直、手が震えるけど……育ちゃん王子と、百合子姫がいるから、きっと大丈夫。……育ちゃん、杏奈に……力を貸して……!」
カチャカチャカチャ…ターンッ!
魔女『ギャアーーーッ!』
亜利沙(劇場の魂)「すごい、変化技を多用するいやらしいボスキャラをいとも簡単に…」
杏奈「百合子さんは……ゲームでこういう戦法のボスに、苦戦しがちだから……敵はきっと百合子さんが嫌がる動きばかりすると思って……それを踏まえて、戦った……」
P「杏奈らしい見事な視点だな。アイテムを使うタイミングも絶妙だった。何はともあれこれでボスは倒せたな。キャロル氏からお礼にジュエルアニマルが贈られたようだぞ」
杏奈「ジュエルアニマルは、マーナガルム……狼だね……」
亜利沙(劇場の魂)「ただ杏奈ちゃんがエリック王子でボスを瞬殺したことで、リリー姫にあまり経験値が入らなかったわね」
P「まあ王子がかっこよく活躍したし、百合子的には万々歳なんじゃないか?」
亜利沙(劇場の魂)「だといいけど……」
育「いえ。そんなこと……でもうれしいな。ありがとうございます」
百合子「あなたもお父様も、町の人たちもみんな無事で、本当に良かったです」
星梨花「いつかわたしも、二人みたいにこの広い世界を旅してみたいな」
育「ええ。そうなるように、必ず世界に平和をもたらしてみせます。どうか見守っていてください」
星梨花「まあ。王子様、とっても素敵! 悪い魔女のことも、すぐにやっつけちゃったってパパから聞きました。お強いんですね」
百合子「……」
育「良かったね。これでハコーの町も元通りだ」
百合子「うん。そうだね。私はあんまり、力になれなかったけど」
育「そんなことないよ。君がそばにいてくれるから、ぼくはがんばれるんだよ」
百合子(はぁ。ダメだな……私、いつもこうだ。同年代の子たちとユニットを組めば、ダンスで足を引っ張ってばかりで……)
百合子(年長者として年下のメンバーのお姉さん役にならなきゃいけないのに、その役割をちゃんとこなせたことなんて、きっと一度も……)
百合子(乙女ストームのときだって、瑞希さんに頼りっぱなしだった。未来も翼も、ウィルゴの静香も……私のことなんてきっと同年代の友達くらいにしか思ってないはず)
育「リリー……? どうしたの。もしかして、泣いてるの?」
百合子「ううん、違うの。これは――」
育「だいじょうぶだよ。ぼくがそばにいるから。君が泣きたくなったなら、いつだってだきしめてあげる」
百合子「エリック……」
育「ねぇリリー、ぼくは君の太陽でありたい。そう呼ぶに値する男になりたい。君の涙がそこにあるのなら、その心の空を暖め照らしたいんだ」
百合子「ふふっ。ありがとう」
百合子(もう。育ちゃんったら、王子様になってもやっぱりおませなんだから。でも本当に元気が出たよ。ありがとう、エリック王子)
育「む……ぼくは真剣なんだよ。うそをついているように見えるなら、もっとぼくをよく見て。ほら――」
百合子「ちょっ、そんなに見つめたら――」
育「?」
百合子「な、なんでもない/// わ、私疲れちゃったから先に休むね。おやすみなさい、エリック」
育「うん。おやすみ、リリー。良い夢を……」
杏奈「……」
P「このストーリーってさ……多分、百合子の深層心理が反映されてるんだよな」
杏奈「そう……だと思う……」
P「つまり百合子の中では、育はキザな台詞言う背伸びした王子みたいな印象に映ってるってことなんだな…」
杏奈「でも、杏奈は……あながち間違ってないと……思い、ます」
P「うん。確かに育のあの芯の強さというか、気高さみたいなものをこう解釈するのは全然間違ってないと思う」
P「ただな……この台詞回しは、なんというか……やっぱり暴走してるときの百合子を感じざるを得ないというか」
杏奈「そっと、して……あげよう……?」
P「だな……体力も回復できたし、次のイベントまで進めようか」
杏奈「――快調に、4つめのダンジョンの竹林まで来たけど……隠密スキルの高い追っ手に、囲まれちゃった……」
亜利沙(劇場の魂)「しかしダンジョンを越えようとする度に追っ手がやってくるとは。敵はよほど二人のことが気に入らないみたいね」
P「確かに少し妙だな。そういえばハコーの町にいた魔女が、格差社会がどうとか言ってたな」
杏奈「ムービーが始まった……敵に囲まれた二人を、忍者が華麗に助けてくれたみたい……」
P「ああ、このアクションの見栄えを意識しての竹林だったんだな。で、忍者の正体は……エミリーじゃないか!」
育「君は、大和丸! 久しぶりだね。リリーがさらわれた一報をとどけてくれて以来だったかな」
エミリー「リリー様も……お初にお目にかかります。拙者は太陽の国で王家直属の忍をしております、大和丸と申します。にんにん」
百合子(かわいい)
エミリー「今回拙者はお二人に我々が掴んだ情報を進呈したく馳せ参じました。お二人のお命を狙う不届き者どもの正体を掴んだのです」
育「なんだって!?」
百合子「そうなんですか!? てっきり、どこかの魔王なのかと…」
エミリー「敵の正体は、太陽と風の両国の王制に叛逆せんとする民衆の勢力です」
育「国の民の皆様が、ぼくらに叛逆を……?」
エミリー「はい。一部の反抗勢力が、貧困層の不満を煽って勢力を拡大させて資金を集め、魔の者を雇って王室の皆様のお命を狙っているのです」
百合子「そんな……」
エミリー「きっかけは、些細な出来事から始まったようです」
太陽の王「なあ、めっちゃ暇じゃない?」
風の王「ああ。世の中わりかし平和すぎるもんな。なら暇を持て余した王たちの遊びでもしない?」
太陽の王「いいねえ。お、あそこにコートを着た旅人がいるじゃないか。どれ、我々であの昔話を再現してはみないか」
風の王「面白そうだな、乗ったぞ。昔話では風の負けだったが私ならどうかな。この風を受けてみよ!」ビュゥゥゥゥ!!
太陽の王「ふはは、昔話どおりだな。やはり旅人はコートを脱がぬようだ。ならば次は私だ。どうだ。ランラランって歌っちゃうくらいほんとにいいお天気だよね?」サンサン!!
風の王「ただの良いお天気程度でコートを脱ぐはずがなかろう。本気を出せ」
太陽の王「ふむ。よかろう。彼の者のコートを、ZETTAI×BREAK!!してくれようぞ」ギラギラ!!
風の王「随分と我慢強いな。私も加勢するぞ。どうだこの蒸し暑い熱風は」ゴオオオオ
太陽の王「全然ダメじゃないか」
風の王「ぐぬぬ。ドイヒーな扱いでも負けない勇敢な若者のようだ。気に入ったぞ。コートを脱がずとも旅を続ける権利をやろう」
太陽の王「いや、我らが遊ばなければ普通に旅を続けてたと思うぞ」
太陽の王・風の王「わはははははは」
旅人?の仲間「コードR、問題ない。すべて動画に収めた」
旅人?「暇つぶしに罪のない旅人をいたぶって遊ぶ二人の王……これは炎上間違いなしだ。同志よ、この戦い我々の勝利だ」
旅人?の仲間「ああ。ぶっちゃけ王制が腐ってるとかどうでもいい。ただ革命によって我々にとって都合の良い社会が新たに生み出さればそれで良いのだからな」
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P「おいおいなんだこれ。めちゃめちゃ革命前夜じゃないか」
P「ていうか王様二人ともダメでしょ。しょうもない理由でまんまと反逆者の術中にハマってるじゃん。これじゃ一転して蜂起した民衆に倒される悪徳国家だよ」
亜利沙(劇場の魂)「何にせよこれで主人公二人の命が狙われる理由がわかったわね」
P「エミリーから托されたジュエルアニマルはバロメッツ……羊か。あまり戦闘向きじゃなさそうだけど、能力はなんだ?」
杏奈「天候が晴れのときに……毛がモコモコになって……防御力が三段階上昇する……だって」
P「なんか色々混ざってるな」
亜利沙(劇場の魂)「さて、大和丸と別れたところでムービーが始まったわね」
P「ああ。ストーリーもいよいよ山場を迎えたって感じだな」
百合子「そうだね……。もしかしたら、そのうち国民みんなが私たちの敵になってしまうかもしれない…」
育「リリー……こんなことで君の命を危険にさらすことになるなんて、ぼくはどうしたらいいんだろう」
育「だけど……ぼくの決意はいつだって変わらない。たとえ千の矢が君に降り注ごうとも、ぼくが最後の一本まで振り払ってやる」
育「ぼくは太陽の国の王子だ。君のためならどんな雨だって虹に変えてみせる。だから……」
百合子「エリック……」
百合子(震えてる……怖いよね。だって、あなたはまだ10歳だもの。こんな状況、心細くて当然だよね)
ギュッ
百合子「大丈夫だよ、エリック……あなたがいつも私に寄り添ってくれるように、私もずっとあなたのそばにいるから。だから――」
育「リリー……君もぼくを子どもあつかいするのかい?」
百合子「違うよ。私、知ってるんだよ。あなたが誰よりも優しくて、誰よりも勇敢で、誰よりも私を一番に考えてくれていることを……」
育「……ダメだよ。ぼくは城を出るときに誓ったんだ。二つの国が平和になるまで、君がぼくのとなりで笑って過ごせる日が来るまで、ぜったいに泣かないって」
育「リリーこそ子どものぼくに守られるなんて、不安で当然だよね。けどぼくは子どものわがままと思われたってかまわない。どうか最後までぼくに……君をぼくに守り通させてくれ」
百合子「最後までって――」
育「そうさ。最後まで……ぼくの魂が、この空に吹く風にさらわれるそのときまで――君を守り続けたいんだ」
百合子「そ、それってつまり……」
育「ぼくのこの想いが変わることはない。いつまでも共にいよう。愛してるよ、リリー」
百合子「エリック……///」
杏奈「……///」
P「あの、百合子はさ……リリー姫だけど、百合子自身としての自我があるわけじゃん。相手がエリック王子でも見た目と性格自体は育だってことは認識できてるわけじゃん」
P「つまりだな、今の百合子はそれをわかった上でノックアウトされちゃってるわけだよ」
杏奈「現実に帰っても……もう二人のこと、まともに見れないかも……」
亜利沙(劇場の魂)「その点については安心して。前回のときと同じく私がみんなの記憶を消してから現実に戻すから」
P「そうしてくれると助かるよ。とりあえず二人の仲が深まるシナリオが入ったことで、いよいよ最終決戦も近い感が出てきたな」
杏奈「……体力も回復したし、すぐに雪山を攻略して最後の村まで移動するね」
亜利沙(劇場の魂)「……」
P「どうしたんだ? 何か腑に落ちないことでも――あっ、確かにまずいかもしれないな」
亜利沙(劇場の魂)「あなたも気づいたのね。さっきのエリック王子の台詞が若干死亡フラグっぽいことに。ラスボス戦を前にしたプロポーズは黄色信号よ」
P「でも『この戦いが終わったら祝言をあげよう』とかベタな感じではなかったし……けど、百合子の深層心理が考案したシナリオだからなぁ」
志保「武器の鍛錬がしたい?」
育「はい。この辺りに修行の場所があると聞きました。ご存じでしたら、教えていただけませんか?」
志保「そうね……あの丘の上にある閃光道場のことかしら。尤も、道場の主は大きな虎をたくさん飼ってるとかで、村の人はあまり近寄らないようにしてるけど…」
百合子「虎を飼ってる? もしかしてその虎って……」
育「うん。ジュエルアニマルかもしれない。行ってみよう」
奈緒「誰や!? 道場破りか?」
育「旅の者です。こちらで武器の鍛錬をしていただけるとうかがって参りました」
奈緒「せやな。まあ、あんたらの持ってる武器の性質によるけど」
百合子「こちらなんですけど…」
奈緒「んん!? これ、聖剣サンシャインリズムに、聖刀ブルームーンハーモニーやん! あんたら何者や?」
育「えっと……それはちょっと言えないんですけど…」
奈緒「すごい。本物なんて初めて見たで。まあこんなん持ってるってことは怪しいやつやあらへんと思うけど」
百合子(もらい物と、普通にお店で買った物だっていうのは黙っておこう…)
奈緒「よっしゃ。私にまかしとき。それじゃあ早速……この子らを倒してみぃ! ゆけっ、私のジュエルアニマル――カケフ、オカダ!!」
「「ガオォーーーッ!!」」
杏奈「師範のジュエルアニマル、かなり強いけど……ラスボスを倒すためだから、頑張る……よ…」カチャカチャ
P「どうやらここ、一度倒しても何度もチャレンジできる系のスポットみたいだな」
亜利沙(劇場の魂)「リリー姫に経験値を与えられる良い機会でもあるわね」
杏奈「ギリギリのレベルでラスボスに挑んだら……もしも、ってことも考えられるし……時間かかるけど、あとで何度か周回する、ね」
P「そうだな。リスクをかけて挑む必要もないし、着実に攻略していこう」
奈緒「私の鍛え上げたジュエルアニマルたちを撃破するとは……み、見事や! 武器の扱い方も申し分ない。よっしゃ。必殺技、教えたるで!」
育「ありがとうございます!!」
奈緒「それから、私のお気に入りのジュエルアニマルも連れて行ったってや。あんたら訳ありなんやろ? 絶対助けになると思うで」
百合子「いいんですか? ありがとう。大事にしますね!」
バース「ガオーーッ!」
奈緒「ん? なんか麓の村の方がやけに騒がしいな。何かあったんやろか」ガラッ
百合子「なっ!? これは……」
育「まずい。辺りから煙が……。ただの火事じゃなさそうだよ!」
奈緒「水は私と猛虎軍団が運び出す。あんたらは先に村に行くんや!」
育・百合子「はい!」
反抗勢力B「ツラは割れてるんだ。草の根を分けてでも探し出せ!」
志保「……私のせいで、村がめちゃくちゃに…」
陸「リジーおねえちゃん…」
志保(私のこの力を、いつか悪い奴が利用しようとする……だから人里離れた村に隠れ住めるよう、お父さんが命を賭して手解きしてくれたのに……)
志保「リチャード、よく聞いて。私が出て行けばきっとあなたは助かるわ。お母さんと一緒に、ここから逃げなさい」
陸「やだよ! ぼく、おねえちゃんといっしょにいる!」
志保「リチャード……お願い……」
百合子「大丈夫。私たちに任せて」
志保「えっ……あなたたちは……!」
育「村の人たちに手を出すな!」
百合子「全員私たちが相手になるわ! 覚悟しなさい!!」
反抗勢力D「ちょうどいい。ここでまとめてぶち殺してしまえ!」
反抗勢力E「出でよジュエルアニマル、リヴァイアサン!!」
リヴァイアサン「ギャァァァーーーーース!!」
百合子「私たちのこの希望……彼方まで風に乗れ!! ブレイブハーモニー!!!」ズバァッ!!
リヴァイアサン「ギェェェーーーーッ!!」
反抗勢力F「な、なんだと……あのリヴァイアサンを一撃で…」
反抗勢力G「くっお前ら、ここは一旦退くぞ!」
百合子「うん。けど、村の被害が……」
陸「おかあさん! しっかりして! おかあさん!」
志保の母「うぅ……」
育「まずい! 出血がひどい。がれきが頭に当たったんだ……」
志保「大丈夫。私が助ける――」パァァ…
百合子(えっ、志保の目が金色に光って…)
育「すごい。傷口がふさがっていく…」
志保の母「リチャード……エリザベス……」
志保「ええ。お母さん、私はここにいるわ。――これでもう大丈夫よ」
陸「おかあさん! よかった!」
志保「完全浄化能力です。私たちの一族は、一子相伝で受け継がれるこの能力が原因で、常に悪人にその身を狙われ続けてきました」
志保の母「だから私の夫は、私たちが安全に暮らせるようこの村に匿ったのです」
百合子「そうだったんですね。それが二つの国の混乱によって、反抗勢力に見つかってしまったと」
志保「ええ。どうやら奴らは私の力を使って世界を革命するつもりだったようです。だけど私、どんな理由があろうと私の力で人の血が流れるのは許せません」パァァ…
育「村中のけが人の傷がみんな癒えていく……ほんとにすごいですね」
志保「助けてくださってありがとうございました。お礼に、あなたに一つおまじないを授けます」
百合子「私に?」
志保「ええ。女の子だけが使える特別なおまじない――このルージュを、あなたの唇に」スッ
百合子「えっ、ちょっと…」
志保「あなたの愛する人が危険にさらされたとき、このルージュの力を使ってください。幸運を祈っています」
亜利沙(劇場の魂)「とにかくこれでいよいよラスボス戦ね。といっても、ラスボスは魔王でもなんでもなく、反抗勢力の一般市民たちだけど…」
杏奈「リヴァイアサンをワンパンできるくらい、レベル上げしたし……ボスを倒すだけなら、全然大丈夫だと、思う…」
-----
――反抗勢力アジト
反抗勢力たち「我らの血は、すべて民の未来のためにある……そのために尽くせるなら本望!」ザザッ
育「お願い。みんな、こんなバカなことやめるんだ!」
反抗勢力「馬鹿なことだと? ふざけるな! お前たち王族は、そうやっていつも上から物を言う……必ず根絶やしにしてくれる! 覚悟しろ」パァァ…
百合子「えっ、何をしてるの!?」
反抗勢力たち「我ら同志の思いはいつも一つ……たった一人だけなら王族に捨て置かれるこの身だが、幾つも集まればそれを凌駕する巨人となる!!」ゴゴゴ…
叛逆の巨人「ウオオーーーーン!!」
百合子「ええ。エリック!!」ダッ
育「さあジュエルアニマル……みんな集まって!」バッ
ジュエルアニマルたち「ガオーッ! ワンワンッ! ヒヒーン! メェーッ!」
叛逆の巨人「ウオアアーーーッ!!」ブンッ
百合子「あの攻撃は、ロケットパンチ!? どうしよう、あの大きさだと避けきれない!」
育「聖剣よ、我らを照らせ! グッデイ・サンシャイン!」カッ
バロメッツ「メェーッ」モコモコ
百合子「やった! バロメッツの特性で、ロケットパンチさえも跳ね返してる!」
百合子「私も負けていられない……吠えよマーナガルム、我が聖刀に青き月の輝きを導きたまえ!」
マーナガルム「ワォォーーーン!!」
百合子「信じてるよ。私たちなら、必ずそれができるって!」
叛逆の巨人「ウホホォォォーーーーッ!!」
育「我が剣よ、未来を照らす太陽となれ。サンリズムオーケストラ!!」
百合子「我が刃よ、未来より我らをいざなう風となれ。ブレイブハーモニー!!」
叛逆の巨人「ギャアアアーーーー!!!」ドゴオオーン!!
杏奈「えへへ……」
亜利沙(劇場の魂)「これで王子と王女は二つの国民から認められた英雄となり、国民公認の仲となった――と」
P「エンディングムービーは、平和な世の中を取り戻した二人を讃える祝典の様子だな」
杏奈「王族のパレード……二人の様子を見てると、なんだか……ドキドキしてくる、ね…」
P「ん? なんかムービーの雰囲気が急に変わったような?」
育「ああ。これからずっと君といっしょにいられるんだ。本当にうれしいよ」
百合子「も、もう……エリックったら///」
観衆の少年?「……」スッ
観衆の少年?(王族なんて認めるものか。生まれで人を差別する主義など認めない。この世は僕らのものだ。見ていてくれ。夢破れた勇気ある同志たちよ)
観衆の少年?「……覚悟しろ」シュバッ
育「――リリー! 危ないッ!」
百合子「えっ」
ドスッ!
百合子「エリック!!」
兵士「殿下に矢が!」
兵士「あそこに弓を持った男がいるぞ! すぐに捕らえろ!」
兵士「早く医者を呼べ!!」
反逆者残党の少年「やった……やったぞ! 父さん、母さん、みんな……みんなの犠牲は決して無駄じゃなかった! あはははは!!」
百合子「エリック……エリック!!!」
育「リ……リリー……泣かないで、くれ……」
百合子「やだ……やだよ……ずっと一緒にいるって、約束してくれたじゃない……!」
育「そう……ぼくらは、ずっと、いっしょだ……愛してる……」
百合子「いや! 行かないで! エリック……いやあああああ!!!」
P「やばいぞ嫌な予感的中だ。シナリオが確定死亡エンドじゃないか! 完全に百合子の悪いところが出てしまった!」
杏奈「魂ちゃん……なんとかならないの……?」
亜利沙(劇場の魂)「エンドロールはまだ流れてない。あとはこの後で操作可能な局面が来ることを祈るしか……」
P「そうはいってもムービーシーンで回復動作なんて……あっ、そういえば!」
杏奈「そっか……今のリリー姫には、あのときのアレが……」
亜利沙(劇場の魂)「なるほど、それの伏線はまだ回収されてない…!」
百合子「待っててエリック。私があなたを救ってみせる」
百合子「あなたがくれたいくつもの愛の言葉……それに釣り合うくらいのものなんて私には紡げないけど、でも想いを形にすることならできる」
百合子「愛してるわ、エリック。世界でたった一人の、私の王子様――」
永遠の微睡みにさらわれようとする幼き王子の唇に、勇敢な王女の星のルージュが触れる。
まるでおとぎ話の王子が眠れる姫の呪いを解くように。
育「ん……リリー……? 傷が治ってる。どうして」
百合子「エリック! よかった。気がついたのね! よかった……本当によかった」ギュッ
育「お父様。先ほどの彼を含めた反抗勢力のみなさんを、どうか不問にしてくれませんか」
太陽の王「なんとぉ!?」
育「今回の旅で、ぼくには言葉の通じない多くの友達ができました。ほら、こんなにも」
百合子「ジュエルアニマルのみんなね」
育「悲しいですが、人は価値観の異なる相手との距離を誤れば争いを起こす生き物です。一方でときにこうして言葉さえ通じない相手とも心を通わせることだってできます」
育「この子たちはぼくに大切なことを教えてくれました。ぼくは新たな時代の王として、誰かと心を通わせることをあきらめたくありません」
育「いつの日か世界中の人と心が通じ合う……そんなすてきな時代が訪れるよう、世に力添えをしたいのです」
太陽の王「おおエリック……立派になったな」
育「ふふっ。だってぼくは、もうおとなですから」
杏奈「これで、百合子さんが目覚めれば……みんなも、元通りだね……」
P「そうだな。……いや、その前に一つやらなきゃいけないことがある。劇場、前のときと同じく頼むぞ」
亜利沙(劇場の魂)「ええ。私もそうしたいところだけど……」
P「どうしたんだ?」
亜利沙(劇場の魂)「ごめんなさい、もう、時間みたい。これ以上内側からの力を、抑えられない……とりあえず、空間が消えれば元の劇場の倉庫に戻るから……」
P「内側? 抑えられない? って、まさか――」
亜利沙「ふおおおおおおおお!!!!! 百合子ちゃんと育ちゃんの大冒険、そして愛と感動のラスト!!! しかと目に焼き付けましたァァァ!!!」
杏奈「あ……」
P「亜利沙! まだ出てきちゃダメだ! 劇場の魂に百合子の記憶を消してもらわないと、今後の仕事に影響が…」
亜利沙「ダメですよぉ! そんなことしたらきっとありさの記憶まで消えちゃいます! ありさ、今回のストーリー心のアルバムにZETTAI残し続けますよ!!!」
P「ああ、なんてことだ。とか言ってるうちに空間が消えていくし……劇場ー! 戻ってこーい!!」
杏奈「Pさん……もう……あきらめよう?」
育「のどかわいちゃったなぁ。ジュース飲もうっと。あっ百合子さん、こんにちは」ニコッ
百合子「……」ソワソワ
育「?」
百合子「きゃっ///」ドキッ
育「百合子さん、どうしたの?」
百合子「だ、ダメ育ちゃん! そんな真っ直ぐな瞳でこっち見ないで///」ドキドキ
育「? どこか具合でもわるいの? なら、ちゃんと言わなきゃダメだよ。わたしが風花さんのところまでつれていってあげるから、さあいっしょに行こ?」
百合子「ああ、やっぱりあなたは、私の王子様……」ポワー
育「わっ!? 百合子さん、ねぇ百合子さんってばー! もう、どうしちゃったのー!?」
亜利沙「な、ななな、なんということでしょう……ムフゥ……! ムフフゥ……!」
杏奈「……ああ…」
P(劇場ー! 俺はどうしたらいいんだー!)
おわり
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