ペプシ・コーラを知らない人はいないだろう。アメリカのペプシコ社が所有する、全世界で展開されているソフトドリンクブランドだ。だがかつて、ペプシコ社が海軍を所有していたという事実はそこまで知られてはいないだろう。
ソ連崩壊直前の1989年、アメリカのペプシ社はときの最高指導者ミハイル・ゴルバチョフと取引をした。その結果、ソ連軍で実際に使われていた軍用艦を引き継ぐことになり、ペプシコ社は一時的に、世界第6位の巨大な海軍をもつ企業となったのだ。
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Pepsi was once the 6th Biggest Military in the World
1950年代、冷戦時代の緊張を和らげるための米ソ文化交流
1950年代、アメリカとソ連の間で冷戦が激しくなりつつあった時代、その緊張を和らげるために、両国は文化交流を行うことに同意した。
1959年夏、その一環として、ソ連はニューヨークでちょっとした博覧会を開催して、ソ連文化を披露した。そのお返しに、アメリカもモスクワのソコリニキ公園で、アメリカ博覧会を開催した。
ここにはIBM、ディズニー、ペプシなどのさまざまなアメリカ企業がスポンサーになったブースが設けられた。アメリカの郊外住宅をフルサイズで展示するコーナーもあった。
7月24日、ソ連共産党第一書記のニキータ・フルシチョフがこの展示会を訪れ、当時、米副大統領だったリチャード・ニクソンと会った。
ふたりはアメリカのモデルハウスを見てまわり、互いに辛辣な政治的やりとりを交し始めた。この応酬は、いわゆる「キッチン討論」として知られている。
フルシチョフは知る由もなかったが、彼はその後、アメリカ資本主義の別の一面、昔ながらの商魂たくましい売り込み攻勢を目の当たりにすることになる。
ペプシのしたたかな販売戦略がはじまる
ニクソンとフルシチョフが会う前夜、ペプシの重役ドナルド・M・ケンドールは、モスクワのアメリカ大使館にニクソンを訪ねた。
ケンドールはニクソンの長年の友人で支持者でもあり、ペプシの販売部門を担当していて、ニクソンの助力をとりつけようとしていた。
社内では反対されていたが、ケンドールにはペプシの海外市場を広げようという野心があり、博覧会のブースのスポンサーになることに賛成していた。そこで、アメリカの水と地元ソ連の水で瓶詰めした2種のペプシコーラを提供したのだ。
大々的にペプシコーラを宣伝できる可能性を直感したケンドールは、友人のニクソンに自社のコーラがフルシチョフの手に渡るように根回しして欲しいと頼んだ。この思惑はうまくいった。時期は7月で、モスクワは暑かった。
ニクソンはフルシチョフと博覧会を歩き回りながら、ペプシのブースに導いた。そこで待っていたケンドールが冷たくておいしいペプシコーラをフルシチョフに手渡した。
報道陣のカメラのフラッシュが一斉にたかれたとき、フルシチョフはアメリカバージョンとソ連バージョンのペプシを飲み比べた。そして、すぐにモスクワの水で作られたペプシのほうがおいしいと発言した。
共産主義者のフルシチョフが資本主義者のペプシを飲んでいる写真が、全世界に配信され、ペプシコーラの宣伝に大いに貢献することになった。
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ソ連に市場を開拓することに成功
1972年には、アメリカ大統領になったニクソンとペプシのCEOになっていたケンドールの思惑がまたしても重なった。
冷戦の緊張緩和政策の一環として、ニクソンはソ連との商取引を拡大しようとしていた。一方のケンドールは、コカコーラ社を出し抜くチャンスとして、ソ連を新たな巨大市場ととらえていた。
先のフルシチョフとニクソンの宣伝効果に乗じて、今度は当時最高指導者だったソ連のレオニード・ブレジネフと交渉した。結果的に、ブレジネフはペプシコにソ連内での販売独占権を与えた。
ペプシは、生のペプシコーラ原液を、ロシア国内の20の瓶詰工場に輸送し、そこで炭酸ガスと地元ソ連の水を入れて、瓶詰・販売することになった。
取引にあたっての問題のひとつは、通貨だった。当時、ソ連の通貨ルーブルは外貨に交換することができず、ソ連国外では使えなかった。ソ連は支払うことができる米ドルを手に入れることができなかったので、手の込んだプロセスがとられ、それが功を奏した。
アメリカ側は、ペプシの製品を同等のストリチナヤ・ウォッカ(ソ連政府が生産していた)と事実上、物々交換したのだ。ペプシコはアメリカでこのウォッカを独占的に販売する権利を得た。
ペプシはソ連国内で製造販売される世界初の資本主義消費財に
1974年、ソ連のノヴォロシースクで、初のペプシの瓶詰工場が操業を開始した。ペプシは、ソ連国内で製造販売された世界初の資本主義消費財となったのだ。
ペプシコにとって大きかったのは、ライバルのコカコーラをロシア市場から完全に締め出したことだった。
そうこうするうちに、ペプシがアメリカに輸入して、配給業者を通じて販売したストリチナヤ・ウォッカは、全米第2位のウォッカブランドになった。
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ソ連の状況が劇的に変化。ペプシにソ連が提供したものは...
だが、契約が切れる予定の1989年までに、ソ連の状況が劇的に変わった。今度はミハイル・ゴルバチョフが、ソ連の最高指導者になり、グラスノスチ(情報公開)やペレストロイカ(改革)などの全面的な国内改革を導入し、激動する超大国を守るために、アメリカとの一連の軍縮協定を結んだ。
ゴルバチョフは、新たな消費財を呼び込んで、ソビエト経済や生活水準を向上させようとした。
その間にも、ペプシはソ連国内で年間3億ルーブル相当のコーラを売り上げていて、ソ連での事業拡大を目指して、さらに26の工場を増設し、30億ドル以上の売上げを見込んだ(例えば、ピザハットのような傘下ブランドにもソ連国内で新展開させようとしていた)。
しかし、またしても障害が立ちはだかった。ソ連のルーブルは国際市場でまだ価値が低く、ストリチナヤ・ウォッカの物々交換では、会社が売ろうとしているペプシの量をカバーするには不十分だった。
取引を機能させるために、ソ連側はペプシコが国際市場で売ることができるなにか別の商品を提供しなくてはならなくなった。
そこでとられた解決策は、控えめにいってもかなり奇抜なものだった。経済状態が不安定なソ連には、西側でうまいこと売れそうな消費財は多くなかった。
だが、ひとつだけ例外があった。冷戦時代の莫大な軍事予算のおかげで、軍隊のための過剰な装備が余っていたのだ。
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ソ連海軍の軍用艦が引き渡され、ペプシは世界第6位の海軍に
これまで契約署名された中でもっとも奇妙な商業協定のひとつに違いないが、ゴルバチェフは、かつてソ連海軍で使用されていた、もはや時代遅れのディーゼル式攻撃型潜水艦17隻、お役御免になった巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦、さらには新品の民間オイルタンカーを、ペプシに引き渡すことに同意したのだ。
たちまち、ペプシは世界第6位の海軍を持つことになった。オイルタンカーはノルウェーに売り飛ばされ、退役軍用艦や潜水艦はスクラップにするためにスウェーデンの造船所に売られた。
あるとき、ペプシの役員会でケンドールは、ブッシュ政権の国家安全保障担当補佐官ブレント・スコウクロフトに冗談めかして言った。「わたしたちのほうがあなた方よりも早くソ連に武装解除させていますよ」
ペプシとコカ・コーラのコーラ戦争の行方は?
ペプシが心底気にかけていた戦争は、もちろんコカコーラとのコーラ戦争だった。新たな協定によって、またしてもペプシがソ連市場を独占できることになり、ペプシ傘下のピザハットが2店舗、モスクワにオープンした。さらに計画は膨れ上がり、ペプシにとってすべてがうまくいくように思えた。
だがそれも、ソ連が崩壊した1991年に終わりを告げた。ソ連崩壊と同時にペプシコの独占契約も終わったのだ。旧ソ連体制との契約はあまりに不公平だとみなされ、ソ連国内でのペプシの人気も落ち目になった。すぐにコカコーラが、新しい市場を支配しようと乗り出してきたのも当然だろう。
References:When Pepsi Had a Navy | Hidden History/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
こち亀の中川のお父さんみたいな社長が本当にいるんだな。
2. 匿名処理班
炭酸飲料は始祖にして王者であるドクターペッパーなので、コカコーラもペプシもいくら争っても勝てない運命。
3. 匿名処理班
これは良い記事。面白かった。
4. 匿名処理班
それで現在の両社のロシアでのシェアはどうなっているのだろう?
5. 匿名処理班
興味深く面白い話でした
けど 前説長いw
6. 匿名処理班
ペプシを渡してウォッカと軍艦もらうっつー米露の奇妙な付き合いが良いよね
7. 匿名処理班
こういう歴史記事めちゃくちゃ面白いです
8. 匿名処理班
ロシアといえばバイカルというコーラもどきがあります。
飲んだ友人によると、ヨモギを齧りながら飲むコーラの
ような味。とのこと
9. 匿名処理班
ペプシだろうがコカ・コーラだろうが、ウォッカで割るんだからどっちでもいいのさw
10. 匿名処理班
※9
いや 割らないぞ!ガキでもヴォトカがぶ飲みだぞ!
(まあ勝手な想像なら別にいいけどな)。
あ! メッコール好きか?ごめんよ言葉悪くて。
11. 匿名処理班
われわれは、ここに独立国「ペプシ」を宣言する!