有効期限を1日〜2日、もしくは3日ほど過ぎた食べ物を口にしたことがあるという人は、結構いるだろう。
しかし、賞味期限を4500年過ぎた原料を信頼し、口にする勇気のある人はほとんどいないのではないだろうか。
今回、Xbox開発者でもあるアメリカの物理学者シェーマス・ブラックリー氏は、美術館に保存されていた古代エジプトの陶器から採取した酵母を使ってパンを焼き、試食した。
ブラックリー氏は、そのプロセスを8月4日と5日に自身のツイッターで公開し、「香りは驚くほど新しく濃厚で、信じられないほど美味」と述べ、古代のパン作りを成功させた感動を露わにした。
古代エジプトの陶器から、休止状態の酵母(イースト)菌を採取
シェーマス・ブラックリー氏は、2週間ほど前にエジプト学者のセレーナ・ラヴ博士と、微生物学者のリチャード・ボウマン博士の協力のもと、ボストンの博物館とハーバード大付属ピーボディ考古学・民族博物館へ出向いた。
目的は、博物館に展示されている古代エジプトの陶器から酵母を採取することだ。ブラックリー氏たちは、4500年前の当時にビールやパンを作るために使用されたと思われる陶器のセラミック細孔の内部から、休止状態の酵母が存在すると考えたのだ。
Using a nondestructive process and careful sterile technique, we believe we can actually capture dormant yeasts and bacteria from inside the ceramic pores of ancient pots. We sampled beer- and bread-making objects which had actually been in regular use in the Old Kingdom. pic.twitter.com/9FahMRjJBU
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
そこで、陶器に損傷を与えることなく慎重な滅菌技術を使用して、酵母や細菌を採取。今回、多くの酵母サンプルが調査のため研究室に送られたが、ブラックリー氏は一部を自宅へ持ち帰り、古代のパン作りにチャレンジすることにした。
We took many samples and will continue to build our sample library over the next year or so. This is important as we need to learn which microorganisms are old and which are modern contaminants. Samples go to @rbowman1234 for rigorous analysis EXCEPT I was naughty and kept one... pic.twitter.com/cAIGmGcIJO
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
3種から構成される小麦粉を使って、古代のパンの再生を試みる
8月4日に自身のツイッターで、古代のパン作りのプロセスを公開したブラックリー氏は、アイデアとして4500年前と同じ成分で生地を作ることを明かした。
Two weeks ago, with the help of Egyptologist @drserenalove and Microbiologist @rbowman1234, I went to Boston’s MFA and @Harvard’s @peabodymuseum to attempt collecting 4,500 year old yeast from Ancient Egyptian pottery. Today, I baked with some of it... pic.twitter.com/143aKe6M3b
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
いずれにしても現代の小麦粉は古代のものと異なることから、同氏は大麦とヒトツブコムギ、カムート小麦というオーガニックで新鮮な3種の穀物を使用。
Using careful technique, UV sterilizers, autoclaved tools and containers, and sterilized, freshly milled Barley and Einkorn flour, I awoke and fed the sample organisms. Although this sample surely contains contaminants, it also likely contains actual ancient yeast strains. pic.twitter.com/hJQ8M2U2yS
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
更に、パン作りに使う道具や容器などをオートクレーブ処理で殺菌し、UV滅菌器も使って慎重に慎重を重ね、採取したサンプルを小麦粉に加えた。
Today, after a week of feeding and careful culling, the sample was bubbly and ready to try baking with. All the grains used here are ancient, organic and milled fresh: barley and Einkorn and Kamut. Modern wheat was invented long after these organisms went to sleep. pic.twitter.com/8RBqxIbruH
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
その後、1週間にわたって酵母の様子を見ると、サンプルが発泡しているのを発見。ブラックリー氏は、パンを焼く準備ができたとみて、次のプロセスに進んだ。
焼くプロセスのみ、現代のようにオーブンへ
発酵種を水とオリーブオイルを混ぜたものの中に加えるプロセスでは、ブラックリー氏は「この酵母の香りは、私が経験したものとは異なる」と5日のツイッターに綴っている。
Here is a large batch of starter, carefully made from the Old Kingdom sample, added to water and some unfiltered olive oil. The idea is to make a dough with identical ingredients to what the yeast ate 4,500 years ago. The aroma of this yeast is unlike anything I’ve experienced. pic.twitter.com/vf6QwKZmFi
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
やがて、古代の生地は発酵した後、見事に美しく立ち上がったようだ。
This crazy ancient dough fermented and rose beautifully. Here it is in the basket, just before being turned out to bake. The ancient Egyptians didn’t bake like this- you’ll see- but I need to get a feel for all this so I’m going conventional for now. pic.twitter.com/lcGnOsaT9n
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
左側の丸い大皿に入れられたものが焼く前の状態だが、美味しそうにふっくらと膨らんでいるのがわかる。
古代エジプトの人々はパンを焼くのにオーブンは使っていないが、ブラックリー氏は焼くプロセスでは現代のようにオーブンで行ったことを明かした。
「香りは新しく、信じられないほど美味」と感動
And here is the result. The scoring is the Hieroglyph representing the “T” sound (Gardiner X1) which is a loaf of bread. The aroma is AMAZING and NEW. It’s much sweeter and more rich than the sourdough we are used to. It’s a big difference. After this cools we will taste! pic.twitter.com/sYCJ8uP1oj
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
エジプトの象形文字であるヒエログリフの「T」を表面に象った、古代のパンを焼き上げた結果をツイッターで公開したブラックリー氏は、次のように綴っている。
香りは驚くほど新しく、普段食べているサワードウよりもずっと甘くて濃厚だ。100%古代の穀物にしては、軽くて風通しがいい。食感は、私たちが普段食べ慣れているパンとは大きく異なり、パン通でなくともその違いは容易に見分けがつくだろう。
しかし、これはあくまでもテスト用だ。今度は、エジプト人のような焼き方で実際に焼いてみる必要がある。
The crumb is light and airy, especially for a 100% ancient grain loaf. The aroma and flavor are incredible. I’m emotional. It’s really different, and you can easily tell even if you’re not a bread nerd. This is incredibly exciting, and I’m so amazed that it worked. pic.twitter.com/qGRmi2Yg8Y
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
ただし、この酵母が本当に4500年前のものかどうかというサンプル分析の結果はまだ出ておらず、確証には裏付けが必要であるとのこと。
Finally, I need to say again, this was just for practice. @rbowman1234 needs to isolate and characterize the samples before we know for sure this is real. @drserenalove and I need to teach ourselves to actually bake like Egyptians. BUT ITS NOT A BAD START! Good Night! pic.twitter.com/ZkgeTqvloC
— Seamus Blackley (@SeamusBlackley) August 5, 2019
ブラックリー氏は最後に、今回の実験が信じられないほどの成功となり、かなりの感動を覚えたと綴っている。
古代のパンにツイッターは大反響
古代エジプトの酵母を使って焼いたパンは大反響となり、ツイッターユーザーらは次のようなコメントをしている。
・なんてクールで興味深いんだ。
・4500年前の酵母を使ってパンを焼くのはともかく、食べてみたというのが驚きだ。
・きっと原因不明の病で倒れてしまう前に素早くツイートしたんだろうな。
・これで、店頭に4500年前の古代エジプトの酵母が並ぶ日も近いな…。
・1億ドル積まれても、私なら食べるのは無理。
・自分だったら食べてみたい!そんな古代のパンなんてワクワクするよ。
・この後の彼の更新ツイートがないけど、無事なんだろうね?
・見たところ、グルテンフリーのパンに似てなくもないね。大昔の小麦粉で作ったパンは、もしかしたらグルテンの量も少なかったのかもね。どっちにしてもすっごくクールだわ!
・写真で見ても、しっとり感があるわね。結構美味しそうに焼けてるよね。
・ただただ素晴らしい!面白いツイートをシェアしてくれてありがとう。こんな実験をしたあなたが羨ましい。
・科学…その味も匂いも、実は素晴らしいものだったんだな。
※追記(2019/08/10):本文を一部修正して再送します。
References:geek.comなど / written by Scarlet / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
食べてみたいぞ
2. 匿名処理班
これ売ろうよ
3. 匿名処理班
>Xbox開発者でもあるアメリカの物理学者シェーマス・ブラックリー氏は、美術館に保存されていた古代エジプトの陶器から採取した酵母を使ってパンを焼き、試食
これもう(専攻が何だか)わかんねぇな
4. 匿名処理班
美味そうだ…ぜひ一切れ…
5. 匿名処理班
発砲してたら怖い…
6. 匿名処理班
発砲は誤り、正しくは発泡。
7. 匿名処理班
実際はそれほどおいしくないに1000ペリカ
8. 匿名処理班
ホラー映画なら、この後
このパンを食べた人々が次々にモンスター化するのですが。
9. 匿名処理班
この酵母を増やして作ったパンを売ればピラミッド御殿が建つんじゃないか?
10. 匿名処理班
正直、酵母より小麦とか塩とか水とか発酵時間とか温度とか練り方の方が味を決めるよ
11. 匿名処理班
レインボーパンにして売りそう
お前にレインボ一発
12. 匿名処理班
オリーブオイルで焼き上げたパン
日本でもやって欲しい。
ポテトチップスでも最近オリーブオイルで揚げたのが出始めてるが、クドクなくて、美味い。
13. 匿名処理班
賞味期限
別に切れてないよね…
14. 匿名処理班
研究用のサンプルくすねて自宅で利用するって…
考古学のラボならいいのか?
15. 匿名処理班
食べてみたい!!
16. 匿名処理班
使った小麦粉やオリーブオイルが古代のものだったらそりゃ絶対食べたくないけど、滅菌しつつ採取した酵母を使うのは別に何ともないよね?
美味しかったのは、酵母のせいというよりはオーガニックの材料で丁寧に発酵させて焼いたからだと思うよ
17. 匿名処理班
サワー種なんだね
濃くすっぱいパン好きとしては断面のミッシュっぽさやどの方向に深みがあるのかとても試してみたい
無濾過オリーブオイル使用だとそれにも香りは引っ張られるでしょうからリーンなパンも是非
んで今年イスラエルでお披露目されたという約3000年前のイーストのビール(エール)や蜂蜜酒と共にいつかいただきたいです
18. 匿名処理班
面白かった!
食べてみたいし、4500年前の人達の食を再現するとか、素敵な化学研究だねぇ。
19. 匿名処理班
日本で売ったら馬鹿売れだ。
食べてみたい。
20. 匿名処理班
死者復活を信じた古代エジプト…復活したのは美味しいパンだったかw
量産して古代パンとして売ったらめちゃくちゃ売れそうじゃない?
一度は食ってみたい
21. 匿名処理班
別に普通に酵母使って焼いたパンって話だった
22.
23. 匿名処理班
半端ない味 パンだけに
24.
25.
26. 匿名処理班
同じ材料を使って現代の酵母でも作らないと意味なくね?w
大麦とヒトツブコムギ、カムート小麦というオーガニックで新鮮な3種の穀物←これがやたら美味かっただけかもしれんじゃん
27. 匿名処理班
興味深い
というか発酵に5日もかかるのが驚いた
その土地の気候で大きく風味が変わりそう
28. 匿名処理班
使った小麦粉や水や塩が賞味期限切れじゃ無いなら別に問題なくない??
29. 匿名処理班
こんな風に食レポされたら、食べたくなっちゃうな
売り出さないかな〜
「ツタンカーメンのえんどう豆」みたいに遺跡から出土したもの由来のやつとして...
30. 匿名処理班
現在、普通に流通している小麦粉は遺伝子組み換えの産物だからな〜。
古代小麦を使ったのは正解。
31. 匿名処理班
古代の酵母菌って勝手に研究室からもちだして大丈夫なんかいな。持ち出したのが酵母菌だけならいいんだが。
32. 匿名処理班
4500年前の土器についていた自然酵母のパンだろ?
密閉されてた容器じゃないなら細菌なんて入れ替わり放題
多分その辺から自然酵母採取して同じ材料で作ったらなんも変わらんかと
33. 匿名処理班
キリストの食べていたかもしれないパン、なんてのも、イスラエルの情勢次第だが、同様の手法でできたらいいねえ。魚と一緒に食べてみたい。
34. 匿名処理班
「ここの4500年間で最上の味」
「4500年前に勝るとも劣らぬ出来ばえ」
「昨年より風味で勝る」
35. 匿名処理班
食べてみてえええ
売ってくれえええ
いや、売って下さい。お願いします。
36.
37. 匿名処理班
ファラオ「4500年後には、もっと美味いものがあると思ったのだが。未だにパンを食べてビールを飲んでおるだと?」