彼は千紗の胸元にするするっと、何気ない、慣れた夫婦の夫が妻の身体に触れるかのようにして手を滑らせた。
彼は彼女の胸元を掴み、指先に乳首を押し当てる。
やがて2本の指でそれをつまんで、少し持ち上げてようにして、咄嗟の事に身を硬くしていた千紗の反応を待った。
ーーー
水曜日の最終ターム、16:30からの回は塚崎の回と決まっていた。
彼は千紗の専任講師で、期末の試験まではこの時間を彼女の為に割り当てている。
千紗としては水曜日、大学の講義としては午前中だけの予定しかないため、水曜日の最終時間まで拘束されることは本意では無かった。
ただ、塚崎の指導力は校内でも評判であった。
だから、その彼の時間を確保できたことは試験突破への大きな手助けになると自分自身を納得させていた。
「あのー...」
千紗は前回の指導と同様に課題曲の譜面を開き、彼の指示を待った。
右斜め後ろに首を曲げ、視線に捉える。
前回は「初めから〜」とだけ指示され、後は何点かのコメントが出ただけ。
2回目の今日は、より詳細な、的確な指示を貰えるものと想像をしていた。
「前と同じようにーー」
塚崎がつっけんとした口調で言葉を発した。
そして、譜面に指先を当てて、
「ここを気をつけて...」
と加える。
千紗は言われた通り、目の前の譜面に向き直り、息を吸って居住まいを正し、鍵盤に手を当てて弾き始めた。