image credit:Pixabay
大勢の人が当たり前に知っている事実だったはずなのに、全部デタラメだったという経験はあるだろうか?
例えば、映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場するC-3POは銀色(本当は金色)という思い込みや、白雪姫の王妃のセリフは「鏡よ、鏡(Mirror, mirror on the wall)」であるといった思い込みだ(英語では本来「魔法の鏡よ / magic mirror on the wall」)。
これをマンデラ効果と呼ぶそうだ。
この効果が初めて知られるようになったのは2010年のこと。南アフリカの指導者ネルソン・マンデラは1990年代に釈放され、2013年に亡くなった。
それなのに当時、なぜか彼が1980年代に獄中死したと思い込んでいる人間が大勢いたのだという。
この集団的な誤解を説明するために、超常現象の研究家であったフィオナ・ブルームが提唱した概念がマンデラ効果なのだという。
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マンデラ効果の原因は多次元宇宙かタイムトラベラーか黒魔術か?
提唱者であるブルームの理論は単なる疑似科学で、マンデラ効果の原因は多次元宇宙の影響であるとしている。
彼女はまた、アメリカのSFテレビドラマシリーズ「スタートレック」に登場するホロデッキの例えも用いている。
ホロデッキとは超リアルな仮想現実を作り出す架空の装置のことなのだが、彼女によると、記憶の齟齬(そご)はソフトウェアのバグによるものなのだそうだ。
ほかにもタイムトラベラーによって歴史が改変された証拠だとする陰謀論的な説や、サタンや黒魔術による攻撃によって生じた歪みだとする説もある。
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心理学者によると「記憶の誤り」と「社会的な作用」に原因あり
一方、心理学者は、記憶の誤りと社会的な作用によってマンデラ効果を説明しようとする。
たとえば、記憶障害のひとつに「作話」という症状がある。
これは、起きてもいない出来事や経験を誤って思い出してしまう症状で、この症状が現れている本人には嘘をついているつもりはないのだが、話している内容は正しくない。
このような偽の記憶の形成は、日常生活の中では比較的一般的なことで、色々なやり方で作り出される。
そのひとつに「ディーズ-ローディガー=マクダーモット・パラダイム(Deese-Roediger and McDermott paradigm)」がある。
これは関係性の高い単語を含む単語リストを暗記しようとすると、そこになかったはずの単語まで記憶されてしまうというものだ。
”ベッド”や”枕”といった単語が記載されたリストを暗記しようとすると、リストにはなかった”睡眠”という単語が含まれていたと勘違いするのだ。
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現実と想像を区別できない「ソース・モニタリング・エラー」
記憶の不正確さは「ソース・モニタリング・エラー(source monitoring error)」でも生じる。
これは現実と想像を区別できない現象で、心理学者のジム・コーンが「ショッピングモールの迷子」という方法で実証した。
コーンは自分の家族に子供の頃の出来事をいくつか話した。その内のひとつは、兄弟がショッピングモールで迷子になったというものだったのだが、じつはこれは作り話だった。
それなのに、これを聞いた彼の兄弟は実際にあったと信じたばかりか、さらに細かい内容まで付け足して語ったのだ。
認知心理学者のエリザベス・ロフタスがこれをより大きな集団に対して実施してみたところ、被験者の25パーセントが偽の出来事を事実であると思い込んだという結果が得られている。
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親しみのない事柄を省略してしまうスキーマによる認知の歪み
だがマンデラ効果については、多くの事例が「スキーマ動因エラー(schema driven error)」によるものだろう。
「スキーマ」とは、認知心理学の先駆者の一人であるフレデリック・バートレットが提唱した概念で、知識や経験の集合体のことだ。それは物事の理解を楽にするのだが、同時に歪みをも作り出す。
バートレットは「幽霊の戦争」というカナダに伝わる伝承を被験者に読み聞かせるという実験を行なった。すると被験者はあまり親しみのない事柄については省略し、情報をもっと理解しやすいものに変えることに気がついた。
このプロセスは「意味の後の努力(effort after meaning)」と呼ばれるもので、現実の状況でも起きている。
例えば、心理学者の研究室の中にあるものを思い出してもらう実験では、大抵は記憶されているもの(本棚など)とほとんど無視されてしまうもの(ピクニックのバスケットなど)があることがわかっている。
また被験者に記憶の中の時計を描いてもらうと、ローマ数字の 4 の部分が IIII ではなく IV と描かれる傾向にあるが、これもスキーマによる認知の歪みだ(時計では見栄えがいいために IIII と書かれていることが多い)。
あるいはモノポリーのマスコットキャラが単眼鏡を着けているといったことや、お菓子のキットカットの綴りにはハイフン(Kit-Kat)が入るといったよくある勘違いもマンデラ効果の一例だ(なお、後者は単なる綴りの過度な一般化かもしれない)。
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記憶の誤りは広範囲に流布されることでよりリアルなものに
よくある間違いは、集団の中におけるリアルになる。だが、それがネットによってより広範囲に流布されるようになると、誤解はいっそうリアルなものとなる。
たとえば、1997年に亡くなったダイアナ妃の自動車事故のシミュレーションは、折々で本物の映像であると誤解されてきた。
このようにマンデラ効果の多くは、記憶の誤りと社会的な誤情報とが組み合わさって作り出されている。
ちなみに誤りの多くが些細なことであるという事実は、それが選択的注意や欠陥ある推論によるものであることを示唆しているだろう。
もちろん、多元宇宙によって説明できるものでないことはいうまでもない。
確かに多元宇宙は量子物理学者の研究結果と一致しているのかもしれないが、もうひとつの宇宙がきちんと発見されるまでは、さしあたり心理学の理論で説明した方が納得できるのではなかろうか?
追記(2019/08/26)本文を一部修正して再送します。
References:Inverse / The conversationなど / written by hiroching / edited by usagi
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コメント
1. 匿名処理班
宮崎映画の幻のエンディングのことか
2. 匿名処理班
ベッドをベット、バッグをバックと言ったり書いたりする人は結構多くいるが、そういうのも広い意味ではマンデラ効果なの?
3. 匿名処理班
千と千尋の神隠しのエンディングが最たるものじゃないか?
4. 匿名処理班
大声で連呼しているマスゴミも原因の一つではないかと思う
5. 匿名処理班
「高橋名人が逮捕された」なんてまさにマンデラ効果だな
さらに広く考えれば都市伝説とかもこの類になるのかね
6. 匿名処理班
偽物でもいいから楽しかった記憶が欲しいなぁ
7. 匿名処理班
※2
それは日本語に「っ」の後に濁音になる言葉がないから、音が清音になったりするだけだぞ
8. 匿名処理班
C-3POの足はだいたい銀だよね?
9. 匿名処理班
同窓会とかでよくある
あの時誰々が居て(実際には話の中の場面には居なかった)とか
否定すると場が白けて面倒だから話合わせるだけで大抵は違和感に気づいてると思うよ
10. 匿名処理班
AVGNでもやっていたな。
11. 匿名処理班
「小さい頃ファンタ・ゴールデンアップルを飲んだ記憶」とか有名じゃない?
12. 匿名処理班
モノポリーのおじさんは片眼鏡をかけてると思ってたのに違う?!
何で勘違いしてたんだろう
13.
14. 匿名処理班
「鏡よ、鏡」というフレーズを信じていたのは私にも当てはまりますね。
ただ訳者が誤って書いたものをそのまま受け入れていた可能性はあるかもしれませんが。
また、性犯罪の被害者が思い込みによる犯人像を警察に話した結果、無実である別人が
逮捕されてしまったという恐ろしいケースもあったそうです。
近年では歴史修正主義者や、或は戦争被害者の主張もまたそういう事になっているのかも
しれませんね。
15. 匿名処理班
夕飯食べたのもマンデラ効果だな。
よしこさん、ご飯はまだかな。
16. 匿名処理班
>C-3POの片足は銀色という思い込み
じゃなくって「C-3POは全身金色で銀の部分はなかった」というのが間違った記憶
とはいえ、EP3では全身金色だけど
17. 匿名処理班
※7
ッ←これもよくある間違い
ℊはくぐもらせる表現でむりやり文字に起こすとグになるがそもそも言ってない
good boy(よくできました) グ ボォィ
dog ドォ
bedroom ベ ルゥム
いやいやグッボーイやろベッルームやろいいたいやろけどその発音はイタリア語に寄ってしまう
日本人には考えられん位置にッはいってるやろ?
英語でそういう違和感になる
18.
19. 匿名処理班
「大田区は太田区だった」ってマンデラ効果の典型例があるんだけど大田区民としてはそんな記憶ないんでちょっと複雑な気分になる
20. 匿名処理班
記憶にあるエンディングとはまったく違うドラマや映画がたくさんある
21. 匿名処理班
フォルクスワーゲンのロゴのVとWは繋がってる
ピカチュウのしっぽの先っぽは黒い
フォードのロゴのFはくるっとなってない
この辺が一例よね
22. 匿名処理班
ググったけどC-3POの片足は銀だよ
それとも灰色ってこと?それだとしたらもうそれは個人の感性としか
23.
24. 匿名処理班
>>19
大田区........なの?
25. 匿名処理班
>>22
だよね
全身金のときもあったけど片足は銀色のときもあったよね
26. 匿名処理班
マンデラとモーガン・フリーマンが同一人物と勘違いしていることだと思った。
27. 匿名処理班
※2
「ベットと習った」「バックって聞いた」っていう複数人の共通の記憶体験が無いとダメなんじゃない多分だけど
28.
29. 匿名処理班
かゆいうま→かゆうまもか
30. 匿名処理班
うろ覚えをうる覚えと言っちゃうのも?
31. 匿名処理班
まずはオーストラリアだろ
歴史も変わってるし
32. 匿名処理班
>>1
飛べない豚と飛ばない豚の方が有名では?
33. 匿名処理班
オーストラリアの位置は本当に納得いかない
日本の真下?いいやもっと右下だったはずなんだ…
34. 匿名処理班
日本だと男の性犯罪系の情報が男に都合良いように捻じ曲げられて流布してる事が多いな。
美人「私はどこでもいいです」
←昔痴漢に遭ったから自分が車両変えるのは痴漢に負けたことになるから変えません
おばさん「安心です」
←「娘がいるので、安心です」が本当
など。あとAEDのデマと
「それでもやってない」云々の映画、実際は映画の中で被害者がいるのになぜか示談金目当ての女がでっちあげたことになっているアレ。
35.
36. 匿名処理班
小さい頃痴漢にあった記憶が本当なのかいまだにわからない
風邪ひいて目眩も酷かったから頭が勘違いしたのかもしれない。
抽象的で衝撃的な一部分しか覚えてないから
普通はそのあとの出来事も記憶にあるはず、、
実際記憶の改ざんが結構あった
37. 匿名処理班
オーストラリアやニュージーランドの位置が微妙に違ってる気がするやつだ
38. 匿名処理班
しずかちゃんのお父さんと
飼い犬が見るたびに変わってる
気がするけど気のせいだよね…。
39. 匿名処理班
マンデラ効果って心理学から提唱されたのかと思ってたが
超常現象研究家の説だったのか……
なーんだってかんじだわ
40. 匿名処理班
古くはアニメ版アルプスの少女ハイジで車椅子を壊したペーター(アニメではクララがミスって壊した)、最近ではラピュタや千と千尋のラスト…って、3つともパヤオ関連!?
41. 匿名処理班
マンデラ効果って彼の追悼式でインチキ手話が本物だと思われた現象のことかと思ったじゃないか
42. 匿名処理班
※11
マンデラ効果云々はトンデモ話として、あれは偽記憶の典型例で興味深い例だね
曖昧な記憶が偽情報(他者の話や偽情報)によって、偽記憶として固着化する。
だから「実はこうなんだよ」と言われても納得が出来なく、大騒ぎになった。
偽記憶は本当の記憶と区別が付かなく、偽記憶は当人にとっては真実の記憶になってしまっているからね。
この話は、私達はこの世界を「記憶」によって多くの事を認識しているという事を示している。更に言えば、私達は「私たちの中に記憶によって作られた、現実世界のコピーの世界に生きている」とも言える。コピーの世界に生きている訳だから、コピーにエラーが生じれば、エラーが発生したコピーされた世界が、当人の世界になる。
ゴールデンアップルの話に当てはめれば、あったとした人達は「彼らの中にだけにある、ゴールデンアップルが存在したという、コピーエラーが発生した世界に生きていた」と言える。
現実を認識したり理解するという事の曖昧さと難しさを表す例として、とても興味深い事例。ただ、心理学方面できちんとした話をすると一本どころか何本も論文を書けるような話で、色んな考え方を持つ研究者も居たりして、主観や客観、主体や客体という物にも絡み、認識論、存在論にも波及する、とても難しい問題で、理解するのが凄くややこしい。
43. 匿名処理班
※26
うーん・・・、だいたい合ってる。
44. 匿名処理班
なんか、オーストラリアについて言及してる人が多いな。
ひょっとして、世界線がほんとに変わってるのかもね。
ただ、「ww2で枢軸国が勝った」的な、「大きな違い」がないからほとんどの人が気づかないだけで。
あと、※38しずかちゃんお父さんの件は気のせいじゃなくって、実際に何度も変わってるみたいだよ。
45. 匿名処理班
※19
ホンマこれ!ずっと東京近郊に住んでいたにもかかわらず、大人になって郵便送るようになってから、え?あれ?ええ!???ってなった。