再び消えた死体
昭和13年1月12日
「村一番の美人」と評判の吉川ハナ(仮名)が肺の病気のため24歳で亡くなった。ハナは頭が良く地元の女子青年団の会長を務めたほか、苦しい家計を助けるため鎌倉のカフェーで女給をし家計を助けけていた誰しもが憧れる女性であった。そんなハナの死を村中の人が悲しみ、彼女の葬儀には大勢の友人・知人が訪れた。
そして葬儀から3日後の1月15日、ハナの墓参りに訪れた両親は墓の
土の盛り上がり方が、昨日と少し様子が違うのに気が付いた。ハナの父親は地元の組合に「どうも気になることがある」と
事情を話し、墓を掘り返してみることにした。
そして、掘り返された棺を開けてみると、やはり父親の予感通り、
ハナの死体はきれいさっぱり消えてしまっていた。
「娘の死体は……どこだ!」
村の大人や警察は一生懸命、消えたハナの死体を捜索。しばらくして
墓から150メートル離れた杉林で全裸の女の死体が発見された。
両親・知人が死体を確認しにいくと、それはやはりハナの死体であり、彼女は葬儀の時に着用していた
死装束は脱がされ、仰向けに倒されたうえ、腹部からは内臓がドロリと露出していた。
「死んだ娘になんと酷いことを……」
ハナの両親は、死んだ娘の変わり果てた姿に思わず泣き崩れた。
犯人はやはり……
「ハナの死体がイタズラされた」のニュースは、すぐに村中に広まり、
容疑者としてひとりの若者が浮かび上がってきた。
その人物こそ、昨年1月、赤ん坊の死体を掘り返した少年A(仮名)であった。Aは当時未成年であったため、自宅にて厳重注意処分となっていた。
警察署は事情を聞くためAの家庭を再び訪れ任意同行した。するとAは昨年の事件発覚と同じように刑事達へ真実を語りだした。
Aは昨年の赤ん坊の遺体盗み事件から「
人間の死体」に更なる興味を抱いてしまっており、寝ても覚めても
彼の頭の中は「人間の死体」でいっぱいだったのである。
月下の死体解剖
そして年が明けた1月13日、Aが密かに想いを抱いていたハナが病気で亡くなったことを聞いた。Aは処分中の身であるため、葬儀に参加することは許されなかったが、彼は
「一度でいいからハナさんの死体を見てみたい」の一心で、13日午後8時ごろ、家を抜け出し、土工用のスコップ片手にハナの墓を暴いた。
棺を開けると、白い顔のハナさんの眠っているかのように月明かりに照らされており、興奮したAはハナの死体を裏庭へ持ち運ぼうとした。
しかし、ハナはAより年上で背も高かったため、持ち運ぶことはできなかった。そこで、Aは
死体を乗ってきた自転車の荷台に荒縄で縛りつけ、近くの杉林へとハナさんを運び込み、
持参した荒縄で杉の木に縛りつけた。
この日は、月が煌々と光を放っており、Aは一点の曇りのない月光の下、死装束を剥がし、生前は触れる事さえ叶わなかったハナの白く冷たい感触を存分に楽しんだ。
そして、Aは包丁を手にし「
この綺麗なハナさんの体の中はどうなっているのだろう」と、左乳房から右腹へ縦一文字に切り裂き、臓物を掴み出し自分の鼻へと近づけて、血の臭い、臓物の臭気を心行くまで楽しんだ。
欲情に溺れた
少年による残虐な「死体弄り」は小一時間に渡り行われたという。
上記A少年の自供は、当時の新聞資料や警察資料にも同様のことが記されているため、多少の誇張はあれど、ほぼ実話とみて間違いないだろう。
犯人のその後
さて、二度目の「墓荒らし」を行ったAはついに裁判にかけられることになり、Aの生い立ちなどが改めて調べられた。
公判でAは両親の年齢を尋ねられると、「母親は17歳だ。父の年齢は知らない」と意味不明なことを供述したほか、小学生の頃は成績が悪く落第寸前だったなど、
知的障害があるのかと疑われたが、犯行時に棺に指紋が残らないよう手袋を使ったり、荒らした墓は元通りにする、人目に付かないよう夜に行動する、など
いくつかの隠ぺい工作を行っていた痕跡が見られたため、
善悪の判断が付かないという訳ではなかったようだ。なお、少年の起こした事件ということもあり、その後Aがどのような人生を辿ったのかは明らかになっていない(生きていれば現在100歳を超えているはずである)。
なお、この地域だが古くから戦前の途中まで土葬が続けられており、葬儀を村人全体が世話をするという風習もあったため、「人間の死」は幼少のころから非常に身近なものだったという。現在、この地域では土葬の習慣は廃れており、この事件は古くからこの地に住む老人たちだけが辛うじて覚えているという。
参考文献:読売新聞縮刷版、神奈川県警察史、ほか神奈川県の民俗資料
文:
穂積昭雪(昭和ロマンライター /
山口敏太郎タートルカンパニー /
Atlas編集部)
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