image credit:Pixabay
チリ・アンデス山脈の麓にある古代インカの村、イグレシア・コロラダの遺跡はどこかおかしかった。
かつてのゴミ捨て場に残されていた残飯やら土器の破片やらに紛れて、4つの頭蓋骨が発見されたのだが、体がない。埋葬された様子も、あの世へ持っていく装飾品の類もない。ただ頭蓋骨だけが発見されたのだ。
一体なぜ、そんなところに?
それらが発見されたのは2003年のこと。以来、考古学者は謎めいた頭蓋骨に首を傾げてきた。
だが、このほどチリの国立自然史博物館の研究者が新しい仮説を提唱している。それは住人への見せしめとする晒し首で、インカ帝国の恐怖政治を示すものだというのだ。
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南アメリカ動乱の時代にゆっくりと拡大しつつあったインカ帝国
1400年代後半から1500年代前半まで、南アメリカの大半は動乱の時代だった。
アンデスの渓谷の各地には昔から文明が存在したが、インカはほとんどの間孤立していた、と研究共著者のフランシスコ・ガリード氏は話す。
だがその時代、インカ帝国はアンデス全土にゆっくりとその版図を拡大しつつあった。
おそらく特に抵抗することもなくインカ帝国に恭順した文明もあった。が、インカ帝国に併呑されることを潔しとせず、頑なに抵抗した文明もあった。
image credit:チリ国立自然史博物館
孔が穿たれて顎にこすりつけたかのような痕のある奇妙な頭蓋骨
ガリード氏とカタリーナ・モラレス氏は、そうした事例のひとつがイグレシア・コロラダだっただろうと『Latine American Antiquity』(8月7日付)に掲載された研究論文で論じている。
この村にはきちんと墓地がある。木材によって保護された環状の墓が整然と配置され、そこに埋葬されている遺体には頭蓋骨も体もあるし、土器や装飾品も見つかっている。
したがってゴミ捨て場から頭蓋骨だけが発見されるなど、普通ではないことが一目で見てとれた。
また頭蓋骨にはどれも似たような痕跡があった。孔が穿たれており、顎の周囲にはまるでこすりつけたかのような奇妙な痕があった。
image credit:チリ国立自然史博物館
村人への見せしめに晒し首にされロープで吊された女性や子供たち
ガリード氏によると、頭蓋骨の孔はロープで吊るされていたことを示唆しているという。村人への見せしめとするためだ。
また、こすったような痕は、晒し首にする前に皮膚を剥ぎ取られた印だという。おそらくは、見た目をいっそうおぞましいものにするためだろう。
4つの頭蓋骨のうち、3つは若い女性、1つは子供のものだ。骨の密度から判断すると、全員が栄養失調の状態にあったことがうかがえるそうだ。
ガリード氏の話では、
村のリーダーを狙ったわけではないようだ。その理由は、おそらく健康で若い男性は、労働者や兵士、あるいは税金を取り立てる対象として、帝国にとって利用価値があったからではないか
とのこと。
image credit:Pixabay
イグレシア・コロラダの統治に問題が生じていたインカ帝国の事情
しかし、この恐怖で支配するやり方は帝国の全土で行われていたわけではなく、この村だけのものであるようだ。
それはイグレシア・コロラダの抵抗がとりわけ激しかったという理由からだけではなく、もしかしたら実務上の理由もあったかもしれない。
というのも、この村はインカ帝国の首都クスコから遠く、世界一乾燥したアタカマ砂漠にあるのだ。
帝国としては、そのような過酷な気候で、しかも地理にも不案内な辺境のイグレシア・コロラダに、そう簡単に人的・物的リソースを投入できなかっただろう。
そのために村の統治に問題が生じていたのかもしれない。
一方、気骨ある村の住人は、当然ながら厳しい環境を生きる知恵を持っている。そのために侵略者に対して有利な立場に立つことができた。
村人は大人しく従おうとしないというのに、まともな対策を行うことも困難。そこでインカ帝国は、少々強引なやり方に出るよりなく、頭蓋骨を見せしめとして晒したと見られている。
References:Latine American Antiquity / Live scienceなど / written by hiroching / edited by usagi
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コメント
1.
2. 匿名処理班
そんなことしていいんか帝国
3.
4. 匿名処理班
日本では打ち首、さらし首は時代劇でもよく出てくるし、道中は魔除け(強盗除け?)のために生首をもって歩いたそうだし(だから漢字が "道" )
ま、恐怖政治っちゃ恐怖政治なんだろうけど。
案外、警察権力も十分でない世の中(もちろん監視カメラもない)での一般的な自衛、統治手段なのかもね
5. 匿名処理班
で、そのインカもスペイン他に略奪されて消滅と。
因果応報っていうのかね
6. 匿名処理班
おわあ、悍ましく、怖い……。
7. 匿名処理班
コンキスタドール「俺らに比べりゃまだまださ。HAHAHA!」
8. 匿名処理班
西ヨーロッパだと犯罪者を鉄の檻に入れて
餓死するまで都市の城門に晒す。
東ヨーロッパには死体を串刺しにして街道
沿いに晒した君主もいましたね。
中国だと死刑後、路上に晒す。
日本だと獄門台に晒す。
大して変わりないと思いますけどね。
9.
10. 匿名処理班
民主主義というのもなかなか理想どおりにできないけれど、すくなくともこういう方法で支配することを成立させないためには機能しているのだろうね。
11. 匿名処理班
※5
インカの奴隷は時に生贄にされることもあったから逃れようと スペイン人が侵略してきたときには 寝返って内通したりした
12. 匿名処理班
>ゴミ捨て場に残されていた残飯やら土器の破片やらに紛れて
>頭蓋骨には〜孔が穿たれており、
>顎の周囲にはまるでこすりつけたかのような奇妙な痕
>4つの頭蓋骨のうち、3つは若い女性、1つは子供
>骨の密度から判断すると、全員が栄養失調
ここらへんから一番素直に考えたら、
単に飢饉の村で、弱っている者を殺して
解体し、脳ミソすすったりしただけではないの…?
13. 匿名処理班
仮説だからな〜
好きに話を作れそうだが
14. 匿名処理班
てっきりスペイン人がインカ人の首を晒したのかと…。
確かにインカ帝国も残虐な風習有ったもんなあ。
15. 匿名処理班
インカって食料が乏しく特に肉がなかったので
奴隷を宗教であぼーんさせた後は貴重な肉として
食っちまったという恐ろしい説もあるぞ
今回の場合も・・・こえーよ
16. 匿名処理班
中南米ではスポーツみたいな競技での生贄は男性だが、ピラミッドや墓に埋める人身御供は女性か子供が多かった気がする。DNAを調べたら今の仮説が変わったりするかも。
17. 匿名処理班
※2
残酷な記事との落差にやられた(´・ω・`)
18. 匿名処理班
最後の画像が怖い…
19. 匿名処理班
舞台を現代日本に移したら、洒落怖やホラゲにありそうな話。
恐ろしい風習の隠された村っていう話は、いつの時代や土地にもあるものなんだろうか。
20. 匿名処理班
死んでも歴史の晒し者
21. 匿名処理班
個人的に、南米の翡翠の仮面が不気味。
皮膚剥がされた顔に見える。