image credit:Pixabay
アメリカ、アイダホ州西部にあるクーパーズ・フェリー遺跡で発掘された遺物から、コロンビア河川流域には1万6000年前に人が住んでいたことが明らかにされた。
その時代は氷が解けて、ベーリング地峡から南へ向かうルートが開通するかなり前のことだ。このことは、かつて人類が太平洋沿岸に沿って南に移住してきた可能性を示している。
そして、この遺跡で発見された石器から示唆されているのは、日本人と最初のアメリカ人に関係があるかもしれないということだ。
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北アメリカ大陸最初の定住者は?
放射性炭素年代測定法によれば、遺物が発掘された堆積物の最下層から見つかった木炭は、1万5945年から1万5335年前のものだ。
さらに古代の囲炉裏跡からは1万4075年から1万5195年前の木炭や、1万4000年から1万5500年前の範囲の年代を示した骨や木炭も発見された。
より最近の地層からは、一番新しいもので8000年前の骨と木炭が見つかっている。
こうした痕跡は、クーパーズ・フェリー遺跡が随分前から人間によって使われ続けていたことをはっきりと告げている。
はっきりしないのは、そうした人々がずっとそこで暮らしていたのか、それとも行ったり来たりしていたのかということだ。
米オレゴン州立大学の考古学者ローレン・デイビス氏は
遺跡全体を発掘したわけではないので、1万6000年前から人が定住していたのかどうかはわからない。私の予想では、季節に応じて使われていたのではと思う。狩猟や漁業のベースキャンプのような感じでね
と話す。
image credit:Loren Davis
いずれにせよ、ニミプー(ネズ・パース族)の人々は、その遺跡がある地域のことをニペヘ(Nipehe)と呼んでいる。
デイビス氏らは、統計モデルを利用して、遺跡内の遺物が出土している層の中で一番古い地層の年代を算出した。
その結果、ニぺへで一番古い遺物は、おそらく1万6560〜1万5280年前のものであろうことがわかった。
ということは、更新世の間、大陸を覆っていた氷床が消え始めるよりも2000〜1500年ほど前の時代だということになる。
氷床が解けたことで、ベーリング地橋の南へと通じている、コルディエラ氷床とローレンタイド氷床が両脇にそびえ立つ回廊が開通した。
コンピューターシミュレーションによれば、回廊は少なくとも1万4800年頃までは閉じており、数kmもある氷の下に埋もれていた。
このことは、人類がアメリカ大陸に最初に足を踏み降ろした時期と方法について重要なことを示唆している。
image credit:Loren Davis
通説より早くアメリカ大陸に人類が到達していた?
もし氷の回廊が開通していなかったのだとすれば、一番端の部分さえ厚さ4kmもあった氷が届かなかった太平洋の海岸あるいは沿岸を徒歩か船で迂回するのが、氷床の南に到達する唯一のルートとなる。
今日では、巨大な氷河が解けたことが主な理由で、氷河期の海岸線の大半は海の底に沈んでいる。
しかしここ最近、アメリカ大陸に渡った最初の人類はこれまで考えられていたよりもずっと早く、海岸沿いに南へ移動した人々だという考古学的な発見がいくつかあった。
遺伝子の突然変異が起きる確率を利用して人口グループがどのくらい前に分離したのか推定した遺伝学的証拠は、1万7500年から1万4600年前のどこかの時点で、くだんの氷床の南で暮らす人たちがそれぞれ北と南へ向かった2つの大きなグループに分かれたことを示唆する。
これはニペヘの年代とぴったり一致している。
image credit:Loren Davis
どんなルートで北アメリカに到達したのか?
現時点において、クローヴィス文化(かつてアメリカ最古とされていた器具や武器を残した文化)が興る前に、南北アメリカ大陸に人類が到達していたのか否かについてそれほど大きな議論はない。
クローヴィス文化が始まったのはおよそ1万3250年前のことであるから、いくつかの集団はそれよりも早くそこにたどり着いていたことは明らかなのだ。
よって現在の議論の大半は、そうしたより早期の人々が、どのルートを辿って北アメリカに到達したかということだ。
デイビス氏らは、ニぺへは沿岸ルートの強力な証拠だと主張する。
『Science』(8月30日付)に掲載された論文では、
古ゲノミクスによって示唆されている通り、それより後の時代に氷の回廊を通ってやってきた人間がいたということを否定するものではないが、そうした人口移動が南北アメリカへの最初の移住を意味しているわけでもない
と述べられている。
image credit:Loren Davis
ニペヘの石器は同時期に北海道で出土したものとそっくり!
ニペヘの氷河期の地層からは、動物の骨と石器(両面石器、石刃、薄片石器、尖頭器の破片)が見つかっている。こうしたものはクローヴィス文化に特徴的な樋状(といじょう)の尖頭器とは違うものだ。
クローヴィス尖頭器は、石の基部の片面か両面に硬いものを叩きつけて、表面を剥離させて作られている。こうして小さな溝(樋)を作り、槍や矢の柄にうまく取り付けやすくするのだ。
しかしニペヘや他の先クローヴィス文化の場合、反対のやり方が採用されている。溝を作るのではなく、尖頭器の基部を尖らせるように加工(有舌尖頭器)し、柄に取り付けるのだ。
ニペヘには、クローヴィス文化とほぼ同じ年代の新しい石器もあるが、それらも明らかに別の技術が用いられている。
image credit:Loren Davis
有舌尖頭器は考古学的な基準で言っても最近の技術ではなく、5万年前までにはアフリカ、アジア、レバントで発明されている。
しかし石に舌を作る方法にはいくつかあり、ニペヘの尖頭器は北東アジアのそれに恐ろしいほど似ている。
とりわけそっくりなのが北海道で出土した1万6000〜1万3000年前のもの。面白いことにカムチャッカの遺跡で発掘された1万3500年前の有舌尖頭器は、はっきりと別の技法で作られている。
ニペヘの石器には他にも、同時代かほんの少し前の時代に北海道で使用されていたものとの類似点がある。
デイビス氏らは、こうした類似は偶然ではないと主張する。彼らがいうには、石器の技術的類似は、初期アメリカ人(氷の回廊ができる前に太平洋を渡った人々)と北東アジア人とに文化的つながりがある証拠である。
クーパーズ・フェリー尖頭器と、北海道上白滝遺跡で発掘された更新世末期の有舌尖頭器との比較。(A) LU3で発掘された有舌尖頭器の柄の断片 (B)上白滝2で発掘された日本後期旧石器時代の尖頭器のイラスト (C) LU3で発掘された尖頭器の刃の断片 (D) LU3で発見された有舌尖頭器の柄の断片 (E)上白滝2で発掘された日本後期旧石器時代の尖頭器のイラスト。CとDが復元された場合の比較事例として (F) PFA2から発掘された有舌尖頭器 (G) PFA2から発掘された有舌尖頭器 (H) PFA2から発掘された有舌尖頭器 (I、J、K)上白滝2で発掘された日本後期旧石器時代の尖頭器のイラスト
image credit:Davis et al. 2019
日本で興った文化が遠く離れた北アメリカに広まった可能性あり
年代の点では矛盾がない。有舌尖頭器が見つかっている北海道の遺跡の多くは、ニペヘよりも古く、それ以外のものも同時代だ。
このことは、日本で興った文化が北アメリカに広まった可能性を示唆している。
もちろん遠く離れたふたつの文化で同時に同じ技法が発明されたという可能性だってないわけではない。
しかし、デイビス氏はその可能性は低いと考えている。いずれにせよ、さらなる研究が待たれる興味深いテーマだ。
References:Science / Ars technicaなど / written by hiroching / edited by usagi
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コメント
1. 匿名処理班
位置的に太平洋渡って来たんだろうし知ってた
2. 匿名処理班
まあ途中に日本あるしね
3. 匿名処理班
逆もまた然り。私のdnaのタイプは北カナダかららしい。
4. 匿名処理班
まあ、現代のメジャーな北海道民とメジャーなアメリカ人との間には、たぶん関係ないだろうとは思う
5. 匿名処理班
「アメリカ人」って表現はアメリカ大陸だから当然なんだけど、なんかやだねw
北米インディアンと日本人の共通点は昔から指摘されてて、文化的価値観がとても似てるし、顔立ちも似てる、DNAも日本人と近いんだと。
それの根拠がこれなのかな?
北米インディアンはアイヌやエスキモーとの文化や信仰とも共通点が多いから、北東アジアからベーリング地峡を通って南へっていうのもうなずける。
もっともっと解明していってほしい!
6.
7.
8. 匿名処理班
昔、一万年の旅路?とか言う本で
大昔、今のロシアの北岸からアメリカ大陸北岸に渡ったのがネイティブアメリカンって説を見た
彼らの一部は日本にも流れ
モンゴロイドは南アメリカまで到達
大昔は今より海岸線が低くて、大陸と日本は一部つながってて日本海は湖だったとか
祖先が繋がってるんだね
9. 匿名処理班
コロンブスの価値がまた下がった
10. 匿名処理班
これで日本にダビデの星やキリストの墓がある理由が説明つ・・・かねーな!
11. 匿名処理班
ニッポンからニペヘへ…
ニペヘの言いづらさよ
12.
13. 匿名処理班
遠い昔の出来事を垣間見るような発見は、いつでもワクワクするねぇ。
14.
15. 匿名処理班
アイヌの血統なんだけど、アラスカの原住民族が多く通う高校に短期留学した時、現地生徒と顔の系統似すぎてて最初の頃めっちゃ現地人と間違われたの思い出した。
ルームメイトと撮ったプリクラを帰国後にクラスの子が見て、妹さん?って言ったくらい、日本人から見ても私と彼らは似てたみたい。
16. 匿名処理班
1万年以上前の話だから何人とか何族とか言われてもピンとこない…
17. 匿名処理班
「おはいお」とか「ワイを見んぐ」とか日本語の地名も残ってるしなぁ
18. 匿名処理班
人類発祥の地は日本だから当然の結果と言えるでしょう
19. 匿名処理班
実は一万年前の氷河期時代から既にMade in japanはアメリカに輸出されてたとか?
???「やっぱ石器はEZOがサイコーだぜ!HAHAHA!!」とかねー
20. 匿名処理班
「当時のアイヌが移動中の狩猟民に矢じりや武器を売って肉と交換していた」と、なぜ考えないんだろう?武器や猟具は定住していないと質の高いものを作れない。故に交易があったと考えた方が自然。最近、海外から来るYOUたちが大阪へ日本の質が高い包丁を買いに来てるのと変わらないと思う。
21. 安房守
タイトルに疑問がある。北海道民は明治以降移住で代を重ねて定住した結果が現在。(TBSアナウンサー安住伸一郎さんは北海道の帯広市育ち。ご先祖は鳥取から渡ってきて放棄された屯田兵村を失敬して開拓民として定住したと。)アイヌ人と最初のアメリカ人言うならわかるが。
今は海だが凍結した広大な氷原を通過する際。凍死者や病死者をかなり出したと想像できるが、野心や探究心に駆られ、若しくは安住の地を求めて、人々が新天地を求めていくのは大いにあり得る。どの時代にもいる所謂突拍子もない行動や考えをする人が先頭にアジア大陸からアメリカ大陸へ。
秋田県人に白い肌が多いのを調べた際。DNAで言うと欧州人と共通点が多いと言う。それとともに秋田犬を調べると、北欧方面の犬が持つウイルスを、保有していると言うルーツを探る番組がずいぶん前にやってた。この事柄も日本人と初のアメリカ人に関係するのかもしれない。
良く言われる日本人とフィンランド人。言語的には印欧諸語ではなくアルタイ諸語に。似た言葉が多い。昔付き合っていたフィンランドとスウェーデンのハーフの人が、日本語をフィンランド語に訳そうとすると、似た言葉が多くて混乱すると言ってました。
言語的に言うと、フィンランド人とモンゴル人と日本人は兄弟。遺伝子的に言うとハンガリー人(マジャール人)とモンゴル人と日本人は兄弟。
そういう視点で世界を考古学や歴史を見ると実に面白いもの。
22. 匿名処理班
アイヌとエスキモーのお話だよね?
23. 匿名処理班
最近の… っていうかここ数十年の考古学の世界では陸路の文化・人の伝播より海岸線の移動の方が楽なのではという認識があるよね。
何世代も移住と定住を繰り返して人が広まっていくんよ。
今回の発見は、そういったケースとして考えられる説だと思うよ。
※8
それが今までの説だけど、その日本からも更に移動する集団がいたんだろうってのが今回の説。
南方から朝鮮半島から北方から人々が流れ込んできた日本の地で、北海道ではベーリング海沿いに更に東へ移動した集団が出てもおかしくはない。