Image by ZU_09/iStock
人類の歴史を通して、世界中の多くの場所で、無実の者に対する非常に理不尽な処罰や弾圧が長いこと行われてきたのは周知の事実である。
そしてそれは形を変えながらも現代まで続いている。ネット上の正義という大義名分を得た匿名者の言論による私刑(制裁)だ。事実確認がなされないまま、断片的な情報だけが拡散され、知らない間に犯人にされてしまう。いつ誰が被害者になってもおかしくない状況だ。
これはかつて行われていた「魔女狩り」と同じ原理が働いているのだろう。かつて魔女狩りのターゲットにされていたのは、災いや死、不幸や不和を招く魔術を使ったと言いがかりをつけられた人たちだ。
実際には政治的な動機や、特定の人間に対する個人的な怨恨があったのかもしれない。だが、「魔術で人を陥れた悪」という大義名分のもと、結果的に大勢の罪もない人たちが殺されていったのだ。
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魔女狩りの歴史
魔術を使ったと疑われる者を裁いたり制裁を加えることは古代から行われていた。ヨーロッパ中世末の15世紀には、悪魔と契約して社会の破壊を企む背教者という「魔女」の概念が生まれた。
更に16世紀後半から17世紀になると、大迫害時代とも呼ばれる魔女裁判の最盛期が到来した。魔女狩りのターゲットにされたら最後、火あぶりなどの厳しい処刑が待っていたのだ。
ターゲットにされた人はたまったものではない。ほとんどは正式な裁判もなく、弁明の余地も与えらない。無実の罪を着せられたまま、歴史の闇に埋もれてしまった人は数知れない。
ある日突然魔女認定され、事実確認もなされないまま火あぶりにされた犠牲者の無念は計り知れないものがある。
今では、歴史上の魔女狩りの事例の多くは、無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象であったと考えられている。
魔女裁判で処刑され、数百年後に無罪が判明した奇妙なケース
ところが近年、数百年前に火刑になった魔女だと言われた女性のケースが覆された奇妙な出来事があったことがわかった。
処刑後ずいぶんたってから彼女は無罪だったと公式に認められ、その汚名を晴らすことができたのだ。彼女はこんなにも時間がたってからやっと平穏な眠りを手にいれたのだ。
地域から信頼されていた女性が魔女の汚名をきせられるまで
この奇妙な話の発端は、1600年代のこと。ドイツのケルンにある平穏な村でのことだった。ここに、カタリーナ・ヘノットという若い女性が住んでいた。
町の郵便局長をやっていて、ドイツ史上初の女性郵便局長だったことが広く知られている。カタリーナは影響力のある高潔な人物だと皆に思われていて、父から受け継いだ郵便局を、兄のハーガーと共に経営していた。
ふたりともは地域社会の信頼の柱だとされていて、愛され尊敬されていた。しかし、それもタクシスの伯爵レオンハルト二世が、郵便制度を改革して国全体で統一された中央郵便局をひとつ設立しようと圧力をかけ始めるまでのことだった。
これにカタリーナは反対していて、この対立が、彼女とその家族にふりかかることになる災難の元凶となったようだ。
1626年の始め、ケルン一帯は大規模な魔女パニックに襲われた。突如として、これまで闇に隠れていた超自然の力が、無実の者を餌食にし始めたというのだ。
人々は、魔女や魔法使いが夜さまよい歩いていると信じ込むようになり、誰が魔女なのかという噂が飛び交った。
ヴュルツブルグの魔女裁判にかけられる
1626年から1631年、ヴュルツブルグの魔女裁判の悲劇が始まった。この間に今度は地元の修道院のある尼僧が憑依されたと言い出して、人々を闇の魔術の驚異にさらした。
どういうわけか、カタリーナとハーガーが、闇の魔術でケルンのその修道院に病気や不幸をもたらした張本人たちだと、後ろ指をさされるようになった。
ふたりのきょうだいは大司教の命令で逮捕され、裁判や陪審もなく監禁、魔女だとされて過酷な拷問を受けて自白を強要された。
罪を認めなかったことが「魔術の証拠」とみなされ処刑
しかし、カタリーナは身に覚えのない嫌疑をすべて否定し続け、ハーガーは宮廷に訴えようとしたが、これが却って、魔術を使った証拠とみなされてしまった。
当時、カタリーナと同じような立場にある影響力のある人たちの多くが、黒魔術を使ったという同じ疑いをかけられ、手あたり次第に逮捕された。
兄のハーガーは、有罪を宣告される前に釈放されたが、カタリーナへの情け容赦ない拷問は続き、右手がまったく使えなくなってしまった。
それでも、彼女は決して屈しなかった。いっさい罪状を認めなかったにもかかわらず、カタリーナは町中を引き回され、群衆からやじられ唾を吐きかけられたあげく、1627年に火あぶりになった。
ドイツで1500年から1782年の間に、魔女の疑いをかけられて死に追いやられた2万5000人のひとり
となった。
ヴュルツブルグの魔女裁判だけで900人以上が死んだのだ。その中には、老若関係なく、あらゆる信仰、職業の人が含まれていたが、これらの人たちのほとんどが世間から忘れ去られ、いまだに公には有罪だとされている。
しかし、近年になってようやく、カタリーナへの嫌疑が変わったのだ。
数百年たった後、事件が見直され無実が証明される
驚いたことに、2012年になってこの事件が見直されて、何世紀も前に生きていたカタリーナの嫌疑が晴れた。処刑されてから既に400年近く経過している。
かなりの時間がたっているにもかかわらず、ただ権力側と反対の立場だったというだけで、まったくの無実の女性に対して、あまりにも理不尽な不正が行われたと考える人がいたのだ。
福音司祭で宗教教育の教師でもあるハートムート・ヘゲラーは、ケルンの評議会に再審請求をした。
授業で魔女裁判についてとりあげていて、生徒たちから、カタリーナ・ヘノットに対する裁きは無効にできるのかどうかと訊かれました。
ノーと答えるしかありませんでした。カタリーナは尊敬に値する評判の人でした。さぞかし、いわれのない汚名を晴らしたいと思ったことでしょう。
キリスト教徒として、無実の人々が処刑されたことは、捨て置けないことだと思いました。それがたとえ、何世紀も前のことであろうと
ヘゲラーは、カタリーナの生存している子孫を実際に探し当てることから始め、遅まきながら彼女の汚名を晴らすための活動に道筋をつけることができた。
カタリーナの処刑はまったくの不正によるものだったこと、政治的な対立や無分別によってたきつけられたものであったこと、彼女の死は政治的な怨恨によるものだったことなどの証拠を公にした。
皮肉なことに、かつてカタリーナを逮捕、起訴した評議会の末裔である現代のケルン評議会が、彼女が誤まって死に追いやられたことを認めるのにそれほど時間はかからなかった。
結果、カタリーナ・ヘノットは、完全に汚名を晴らし、死後恩赦されただけでなく、町の尊敬も回復することになった。
不正を許さない不屈の象徴として記念像が立てられる
カタリーナ・ヘノットの話は、ドイツ国内では書物や歌でとてもよく知られている。
ケルンの市庁舎の外には、火あぶりになりながらも、断固と抵抗して手を掲げている彼女の像があり、"このような不正が再び起こることを消して許さない"というシンボルになっている。
ケルンにあるカタリーナ・ヘノットの像(右)、左側は魔術の裁判の反対者として知られるドイツの聖職者、フリードリッヒ・シュピー
image credit:commons wikimedia
カタリーナのケースは非常に稀有な例だ。
いまだに多くの人が法的に魔女だとされ、公にはその汚名は晴れていない現代社会ではまれなことだ。カトリーナ・ヘノットがやっと正義を勝ち取り、ゆっくり休むことができるだろうことは、せめてもの救いだろう。
References:The Strange Tale of a Witch Found Innocent Over 300 Years After Her Execution | Mysterious Universe/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ネットの炎上も無くなったらいいのになあ
2. 匿名処理班
「あの女気に入らないわ、魔女にしてやろう」ってケースもあったんだろうね…。
3. 匿名処理班
他の方の無罪証明は出来ないのだろうか
大概が偏見ややっかみ、強迫観念からでしょうに
4.
5. 匿名処理班
全部無罪ですよこんなの
6. 匿名処理班
※2
オレを振ったから魔女だと噂を立ててやるって話は、
ドイツだけでなく色んな国であったみたいよ
7.
8. 匿名処理班
そもそも魔術なんて無いのだから魔女裁判は全員無罪でしょう
9. 匿名処理班
今も香港で似たようなこと起きてる
10. 匿名処理班
魔女なんぞいねーんだから25000人まとめて無罪にしろや
11. 匿名処理班
だから国民教育は重要
一人一人が何が正しいのかを自分で判断できる知識がないと
狂気と迷信が支配する世の中になる
12. 匿名処理班
※2
むしろそれが、ほぼ100%だったと思うよ?例えば…、
犯罪ばかりしていて、生きているに値しない様な人で
魔女裁判に掛けられた人の方が、遥かに少ない気がする
だって普通の犯罪者であれば、別に魔女裁判に掛けなくても
普通の法律で裁けたと思うから。
13. 匿名処理班
政治的に気に食わない相手を陥れるのに魔女はうってつけだったんだよね
今も形を変えて受け継がれているという悲しみ
14. 匿名処理班
まあ今ネットで暴れてるような奴らが中世で魔女狩りしてたんだろうと思うよ
15. 匿名処理班
いや〜、俺も喰らったけどさ、
あいつらもう、猿みたいにしか
見えなくなったな
16. 匿名処理班
こいつ魔女だ!って見知らぬ人間が連れてこられて
そのままなんだって魔女!?吊るせ!って投獄数日で超スピードで有罪判決処刑されたけど
後々よく考えたらあの時見知らぬ人を連れて来たの泥棒や詐欺の前科で有名な奴だった
なんでそいつの言う事なんか真に受けたんだろう…って判事以下関係者全員後悔したというケースも記録がある
17. 匿名処理班
たまに云われる
嫌われてこそ一人前の男
ってもの?
18. 匿名処理班
※14
悪意を無責任に撒き散らすような輩は魔女狩りするような野蛮な人間と同類だってことに永遠に気づかないんだろうね
19. 匿名処理班
形は違えど現代でも似たような事がチラホラと
20. 匿名処理班
史記は誰が黒幕かわかるのに、ヨーロッパはずっと隠し通すイメージだったけど、これは素晴らしい事だ!
21. 匿名処理班
同時代ならともかく何百年も経ってからそんなこと言うことに何の意味があるのか
今の常識でアステカの人身御供を野蛮で残虐と非難するのと同じ
今は理解しがたいが当時は魔女とされる人々を焼き殺すことが必要だったのだ
22. 匿名処理班
根拠もなく「あいつは悪人だ!」って誰かが叫んでみんながそれに追従する現象。
現代でもあるよなあ。
23. 匿名処理班
>数百年以上たってから無実が判明した中世の魔女の奇妙な物語
本文中にも15世紀を「中世末」と書いてあるけど、
>16世紀後半から17世紀になると、大迫害時代とも呼ばれる魔女裁判の最盛期が到来した。
これは「中世」じゃなくて「近世」なんだよね。
魔女狩りは、中世の暗黒時代じゃなくて
ルネサンスや宗教改革後の、近代前夜で起こった狂乱。
24. 匿名処理班
そもそも中世の裁判って熱湯に手を突っ込んで火傷の治りが速い方が神の御加護の証で無罪とか、有力者の弁護が多いほうが勝ちとかそんなレベルだったりするから真面目に裁判しても変わらなかった可能性が……
16世紀頃なら近世で都市化も進んで裁判制度もまともになってるだろうけど、HRRの宗教混乱があるから、秩序の維持の為に必要な大粛清って面も多少はあったのかな
25. 匿名処理班
魔女狩りは男もターゲットにされたんだってねぇ。
昔観た魔女狩りをテーマにした映画で、
イケメンの牧師が次々と町中の女を惑わし妊娠させまくり
最後に、嫉妬した連中に魔術を使ったという嫌疑をかけられて火あぶりにされたんだが、
「イケメン牧師」がどうみてもインド映画に出てくるようなちっちゃい小太りのおっさんで、
凄く納得がゆかなかったです。
26.
27. 匿名処理班
※21
こんな時代だからこそかねぇ。歴史の闇を解き明かすのは大事
抜け落ちていい歴史なんかないけど、繰り返してはならない悲劇だよ。あんなの肯定してたらまた繰り返すよ
28. 匿名処理班
今も昔も、人間のやっている事は大して変わっていないのかも?
現代では主にマスコミの報道や警察権力から濡れ衣を着せられて
さんざん犯人扱いされた挙句に『証拠不充分で無罪です』
なんて判決が出される例も結構と見るからね。
現代では余程の凶悪犯とでも見なされない限りは
命までは取られないと思うが、中には殺人事件の濡れ衣を
着せられて、無実のまま〇〇という例だって有るものね?
こういうのは、何も数百年前の話ではないと個人的には思うよ?