Image by Thomas Budach from Pixabay
地球軌道にロケットを打ち上げるのは莫大な費用がかかるし、何かと大変だ。ならば大気圏を突き抜けるくらいの長いエレベーターで宇宙に行っちゃおうよ、というのが宇宙エレベーター構想というやつだ。
そして今、この構想に再び注目が集まっている。逆転の発想をすることで、少なくとも理論上は既存の技術でも可能だと提唱する科学者らが現れたのだ。
ケンブリッジ大学とコロンビア大学の宇宙物理学者2人が提唱するのは、地球からエレベータを伸ばすのではなく、月面から地球に向けてケーブルでタワーをだらりと垂らす方法である。通称「スペースライン」構想だ。
スポンサードリンク
月にぶら下がるエレベーター、スペースライン構想
英ケンブリッジ大学のゼファー・ペノヤー氏と米コロンビア大学のエミリー・サンドフォード氏の計算によれば、この方法なら技術的にも経済的にも現在すでに存在する道具と素材で作ることができるそうだ。
たとえば、宇宙エレベーターには超強靭な素材が必要不可欠だが、有機系繊維として最高クラスの引張強度・弾性率を誇る「ザイロン」など、その候補はすでに存在している。
月から垂らす方式の一般的な宇宙エレベーターと比べたときの利点は、月の公転周期が一月にたったの一度だけなので、遠心力からくる負荷が少なくて済むということだ。
そいつはご丁寧に地球の地面まで垂らされることはなく、地上42000キロの静止軌道に垂れ下げられるような感じになるらしい。
そこから乗り込んで、さらに上空にある宇宙を目指すことになる。エレベーターというよりも、湖なんかに渡されたジップラインのような感覚だ。
「月に固定したラインを伸ばして、地球という重力源の深くへと伸ばせば、地球周辺から月面への自由な移動に使える、安定的で横断可能なケーブルを建設することができる。」と論文で解説されている。
これを使えば、月面へたどり着くために必要な燃料を現在の3分の1にまで削減できるのだそうだ。
Image by Penoyre&Sandford、arXiv.org、2019
ラグランジュポイントで新しい実験
地球や月といった天体と天体の重力が釣り合い安定する点のことを「ラグランジュ点」という。ペノヤー氏らは、このラグランジュ点ならば運用する上で十分な安定性を確保できると考えている。
そして、ここは一種の「ベースキャンプ」として利用できると言う。
望遠鏡、粒子加速器、重力波検出器、ビバリウム、発電、太陽系ミッションの出発地点など――かかるベースキャンプでは、新しい世代の宇宙実験の建設・維持が可能になる。
ベースキャンプのカウンターウェイトは、長いケーブルを固定し安定させるうえでも都合がいい。実現可能とはいえ、何しろ、そいつは30万キロも伸ばさなければならないのだから、こうした工夫が効いてくる。
ついでに隕石のような宇宙空間を漂う物体にケーブルが衝突するリスクは低いし、仮に衝突したとしても、ちょっとした衝撃なら耐えられるように作ることができるはずなので、心配無用であるらしい。
実現へ向けた第一歩
じつは月からケーブルを伸ばすというアイデア自体はこれまでにもあった。今回の研究は、それがコスト面や実用面で実現可能であると示したところが一歩進んでいる。
が、あくまで概念実証の段階で、『arXiv.org』(8月25日付)で公開されている論文もまだ査読を受けていないようだ。
つまりはその建設にすぐゴーサインが出ることはない。
それでも、これまでの宇宙エレベーターよりも低コストな代替案がよりはっきりと目に見えるようになったし、少なくとも数学的にきちんと確認されたわけである。
「宇宙ラインにかかる張力やストレスを計算し、現代の素材があれば、素材の基本的限界の範囲内で建設することが可能だろうことを示した。」というのが論文の結論だ。
References:Astrophysicists Say One Space Elevator Concept Is Possible With Today's Technology/ written by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
ロシアが月面基地を作りロボットのアバターを用いて月を探査する計画を発表
史上初の月面着陸をしたアポロ11号は宇宙人の活動拠点を見つけていた?音声テープに残されていた不可解な記録
時は満ちた。中国が10年後を目処に月に研究施設を建設することを発表
エレベーターに乗って宇宙へ、「宇宙エレベーター建設構想」2050年に実現予定(大林組)
不思議な魅力にあふれているから妄想が加速する。月に関する10の陰謀説
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「自然・廃墟・宇宙」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 10080 points | 大好きなアメフトチームのTシャツを自作した少年がいじめられていることを知ったチーム、そのデザインを公式Tシャツに | |
2位 2231 points | ショッピングカート置き場に駐車した迷惑ドライバーに従業員が報復。カートで車を完全包囲網(アルゼンチン) | |
3位 1805 points | 1つの瞳に2つの色。ダブルオッドアイの猫、オリーブの魅力にズームイン!(イギリス) | |
4位 1794 points | 秘術、錬金術、カバラ教・・・世界最大のオカルト図書館が更に充実度をアップさせオンライン無料公開中! | |
5位 1598 points | 子供の頃飼っていた愛犬と泣く泣く別れた女性。7年後に引き取った老犬が同じ犬だったことの奇跡(アメリカ) |
スポンサードリンク
コメント
1. 匿名処理班
はっはーん
アレをこうしてナニするとできるわけだ
2. 匿名処理班
月が地球に引っ張られる割合がかなり変わりそうだけど大丈夫なのかな。
上空なら気候に影響ないんだろうか。
あと万が一壊れたら地球に落ちて大災害になりそう・・・。
3. 匿名処理班
ロマン溢れる記事だな。
しかし、月からケーブルを垂らすというのは、クラークさんはどう思うのかな。
まあ彼の死語20年は経つはずだから、今更な気もするけど。
4. 匿名処理班
先端が静止軌道ならどこの国の領空にもならないから利権云々の問題も解決しやすそうだね
5. 匿名処理班
エレベーターというより、地球/月間エクスプレスって感じだな。
〜今、万感の思いを込めて汽笛が鳴る。
〜今、万感の思いを込めて汽車がゆく。
6. 匿名処理班
軌道エレベーターも未だに実現できていないのに、
月エレベーターですか?もちろん、考える事は重要ですがね
(考えないと実現できません)でも何年後になるやら(溜息)
7. 匿名処理班
「ゴロリ ! 」
「ワクワクさん ! 」
「できるかな ? じゃねぇよ。こんなことやってどうすんだ、って話だよ」
「はい」
「すいませんでした」
8. 匿名処理班
宇宙エレベーターの記事を見るといつも不思議というか心配になる事がある。
回転椅子に座ったままくるくる自転して…
腕を縮めると速く回り
伸ばすとゆっくり回るじゃない?
宇宙エレベーターを作ったら地球の自転がゆっくりになってしまわないかしら?
いろいろ調べてみてるのだけどこれといった答えが見つからない。
誰が教えて偉い人
9. 匿名処理班
あー、むり。
軌道エレベーターですらカーボンナノチューブ単分子繊維で可能かどうかといわれている。月まで繋げばそれ以上に引っ張り強度が必要なのに、ぜんぜん足りてない。
Wikipediaより引用
カーボンナノチューブ(不確実) 62000 MPa
ザイロン 5800 MPa
10. 匿名処理班
月まで資材を運ぶのが大変やろ・・
11. 匿名処理班
あんまり使いすぎると月が減速して落ちてくると思う。
12. 匿名処理班
地球と月との距離って予想以上にあるんだけど・・・
(地球の直径の約30倍)
それだけの資材を調達、運搬するだけで途方もない労力だよね
13. 匿名処理班
銃夢で見たよ
14. 匿名処理班
ツキがある
15. 匿名処理班
そもそも従来言われてるのも地球から立てるんじゃなくてISSとかから垂らすやり方じゃなかったっけ?
それにこの記事だと月から静止軌道上までって書いてるけど、その静止軌道まで行くのはスペースシャトルってことなの?
むしろ地球から静止軌道までを軌道エレベーターで繋ぐのがまず初めの第一段階なのでは。
いきなり月から始める方が安くすむんだろうか。
16. 匿名処理班
地上42000kmに行くのにさえ苦労するのに。
17. 全温度チアー
前にここでも話題になってた大林組の「宇宙エレベーター建設構想」は、その後どうなったんだろう?
18. 匿名処理班
※9
地球〜静止軌道を結ぶんじゃなくて、静止軌道〜月を結ぶのであれば
必要な引っ張り強度が小さくて済む、というのがこの話の主題ですよ
19. 匿名処理班
てことは銀河鉄道が開通するのも近い?
20. 匿名処理班
デブリ衝突で落下してきそう