殺し屋「せっかく開業したのに客来ないから闇ハローワーク行くか」
- 2019年09月28日 21:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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殺し屋「あーあ、せっかく殺し屋を始めたのに客が一人も来ない」
殺し屋「仕方ない……闇ハローワークってのに行ってみるか」
≪闇ハローワーク≫
殺し屋「ここだ、ここだ。闇の仕事ばかり斡旋する場所だけあって、分かりづらい立地だな」
殺し屋「いい仕事もらえるといいな~」
スキンヘッド「あぁん!? もっといい仕事よこせよォ!」
ガスマスク「……」シュコーシュコー
黒マント「さて、宝石を盗みにゆくか」バサッ
殺し屋「すみません」
受付「はい」
殺し屋「仕事を探しに来たんですけど。できれば相談もしたくて」
受付「ではあちらで番号札を受け取り、しばらくお待ち下さい」
殺し屋(ここに座ろう)
若手「あ、どうも……」
殺し屋「どうも」
若手「君も……もしかして殺し屋なりたて?」
殺し屋「うん、だけど客が全然来なくてね」
若手「ボクもだよ……。憧れで始めたけど、この世界はやっぱり厳しいね」
『53番の方、相談窓口へどうぞ』
若手「あ、ボクだ。それじゃあお互い頑張ろうね!」
殺し屋「ああ!」
スキンヘッド「てめえ、新米か?」
殺し屋「ええ、そうですけど」
バキィッ!
殺し屋「ぶっ!?」
殺し屋「い、いきなり何しやがる!」
スキンヘッド「なかなかいい仕事がなくてイラついてたんだ」
スキンヘッド「ま、殺されなかっただけありがたく思えや。ここはそういう場所なんだからよ」ギロッ
殺し屋「う……」ビクッ
殺し屋(くそう、怖気づいて何もできなかった……)
殺し屋「お、やっとだ」
女職員「本日はどのようなご用件で?」
殺し屋「最近殺し屋を始めたんですけど、客が来ないので仕事を探しに……」
女職員「なるほど」カタカタ
女職員「武器は?」
殺し屋「ナイフです」
女職員「殺しのご経験は?」
殺し屋「いえ、まだです」
女職員「経験人数ゼロ、と」カタカタ
殺し屋(嫌な言い方だな)
殺し屋「やっぱりほら、かっこいいじゃないですか!」
女職員「殺しはどこでお学びに?」
殺し屋「えーと、独学で。映画なんかで」
女職員「希望条件などはございますか?」
殺し屋「えーと、なるべく楽に殺せて、なおかつお金はいっぱいもらえるような」
殺し屋「それでいてあまり血で汚れず、後味は悪くない感じの仕事を……」
女職員「あの」
殺し屋「なんでしょう?」
女職員「失礼ですが、ふざけてらっしゃるんですか?」
殺し屋「い、いえいえ! ふざけてません!」
女職員「……」カタカタ
女職員「でしたら、これしかないですね」カタカタ
殺し屋「どんな仕事ですか!?」
女職員「マンションに一人暮らしの標的です。やりますか?」
殺し屋「やりますやります! やらせて下さい!」
女職員「では手配いたしますので」
殺し屋「よーっし、標的を華麗に殺って、殺し屋デビューだ!」
<マンション>
殺し屋「この部屋だな」
殺し屋(カギは……やっぱ閉まってるか)ガチャガチャ
殺し屋(だったらピッキングで……)カチャカチャ
殺し屋(開いた!)ガチャッ
殺し屋「へへへ、このナイフで心臓を一突きしてやるぜ!」
殺し屋(背は低めの男か……あれなら殺れる! チェックメイトだ!)スタタタッ
殺し屋「覚悟ォォォォォ!!!」ダダダッ
標的「……」
――ドゴォッ!
殺し屋「ぶげぇっ!?」ドザァッ
殺し屋「いでっ……いででっ……」
標的「どこの世界に大声上げながら殺しにかかる殺し屋がいる」
標的「それと――」
標的「ピッキングどころか、外からやってくる段階でお前の気配に気づいていた」
殺し屋「そ、そんな……」
殺し屋(バレバレだったなんて……)
標的「さて……覚悟はできてるんだろうな?」
殺し屋「た、助け……」
ドカッ! バキッ! ドゴッ!
ぎゃあぁぁぁぁぁ……!
殺し屋「う、うぅ……」ボロッ…
殺し屋(いてて……殺されるところだった……)
殺し屋(俺ってやっぱり殺し屋に向いてないのかな……。足洗った方がいいんじゃ……)
殺し屋(――いや!)
殺し屋(諦めるもんか! 俺は殺し屋になるんだ!)
殺し屋(動けるようになったら、もう一度闇ハローワークに行こう!)
殺し屋「……」ボロッ
「なんだあいつ?」 「ケガしてやがるぜ」 「情けねえ……」
クスクス… ハハハ… ギャハハハ…
殺し屋(我慢だ、我慢!)
白衣女「痛みが一瞬で消えるお薬、お売りしましょうかァ?」ニタァ…
殺し屋「い、いえ、結構です!」
女職員「失敗したようですね」
殺し屋「はい……もう強くて強くて。散々殴られて蹴られて、ゴミ捨て場に捨てられちゃいました」
殺し屋「もっと易しいターゲットに変えて欲しいのですが……」
女職員「ダメです。あなたの条件ではこの仕事ぐらいしか空いておりませんので」
殺し屋「うう……」
女職員「どうしますか?」
殺し屋「わ、分かりました……。やります、やりますよ!」
殺し屋(こないだの借りを返してやる……)
殺し屋(音を立てないように、音を立てないように……)
標的「……」
殺し屋(のんきにテレビなんか見てやがる)
殺し屋(そのままあの世に行きやがれぇぇぇ!!!)シュッ
殺し屋「あっ」
標的「音はなかなか消えていた……が、まだまだだな」
標的「それと今ナイフで刺そうとした場所は急所にはならん……急所を的確に覚えろ」
標的「そらっ」ブオンッ
殺し屋「わぶっ!」ドザッ
標的「さてと……しくじったからには覚悟はいいな?」パキポキ…
殺し屋「ひ、ひいい……!」
殺し屋「……」ボロッ
女職員「また失敗ですか」
女職員「もうやめた方がいいと思いますが、どうしますか?」
殺し屋「やります……やらせて下さい!」
女職員「でしたら、そのように手配いたします」カタカタ
殺し屋「てやっ!」ビュッ
標的「軌道がまっすぐすぎる」シュッ
バキッ!
殺し屋「ぐっ!」
標的「急所を狙えとはいったが、少しはフェイントをかけるということも覚えろ」
標的「バカ正直に急所を狙うだけでは、難度の高い仕事では到底通用せんぞ」
殺し屋「まだまだァ!」ダッ
殺し屋「うぐぅ……」ガクッ
殺し屋(俺より小柄なのに、なんて強さ……)
標的「それと殺し屋たる者、いざという時頼れるのはやはり己の体だ」
標的「遠回りと思うかもしれんが、もっと体術を磨くことだ」
殺し屋「わ、分かった……」
殺し屋「腕立て伏せ!」グッグッ
殺し屋「腹筋!」グッグッ
殺し屋「スクワット!」グッグッ
殺し屋「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……もう1セットいくか!」
殺し屋「えぇと、人体の仕組みは、と……」
殺し屋「なるほど、動脈の位置は……、刺せば死に至る臓器は……」
殺し屋(ここでも耳をすませて、少しでも情報を集めるんだ……)
黒眼鏡「次の仕事は海外か……。偽造パスポートを造らねばな……」
アサシン「優れた暗殺者たる者、変装くらいこなせなくてはね」
白衣女「お仕事のお供にお薬いかがですかァ~、お薬いかがですかァ~」
掃除人「また若い奴の死体が出たか……分かった、すぐ向かう」ピッ
殺し屋(全てはあの人に勝つために!)
女職員「ずいぶんと傷だらけになりましたね」
殺し屋「ええ、おかげさまで」
女職員「で、本日のご用件は?」
殺し屋「もう一度やらせて下さい! あの標的に挑ませて下さい!」
女職員「分かりました」カタカタ
カランカラン
殺し屋(しまった! ナイフを落とした!)
標的「うろたえるな!」
殺し屋「!」
標的「殺し屋たる者、一つの武器に固執するな!」
標的「どんな手段でも相手を殺せるようになれ! 身の回りにある物でも人は殺せる!」
殺し屋「はいっ!」
殺し屋「鍛えて、鍛えて、鍛えまくって……あの人に勝つ!」シュバッ シュッ ヒュバッ
殺し屋(だが、あの人に“勝つ”ということは……)
………………
…………
……
スキンヘッド「お? いつだったかの若造じゃねえか」
殺し屋「……」
スキンヘッド「体じゅうアザだらけじゃねえか。この仕事はしょせんてめえみたいな奴にゃ無理なんだよ」
殺し屋「……」
スキンヘッド「おい、シカトしてんじゃねえぞ! コラァッ!」ブオンッ
殺し屋「……」サッ
スキンヘッド「あっ、てめえ!」
ピタッ
スキンヘッド「う……」
殺し屋「ここはこういう場所なんだよな?」
スキンヘッド「くっ……! くそっ!」バッ
スキンヘッド(俺の喉元に一瞬でナイフを……!)
スキンヘッド(こいつ、この短期間でいったい何が……!)
殺し屋(間合い!)
殺し屋「……」シュバッ
ビシュッ!
標的「!」
殺し屋(初めてかすめた!)
標的「かすめたぐらいで動きを止めるな。スキだらけだ」
ドゴォッ!
殺し屋「うげぇっ! ……おえっ! ガハッ! ゲホッ!」
標的「だが……いい攻撃だった」
殺し屋「また来ます……」
バタン…
殺し屋(また負けた……今日こそはいけると思ったのに)
殺し屋(いや、しかし……俺が今日最も気になったのはそこじゃない)
殺し屋「……」
殺し屋(あの人、頬をナイフでかすめたのに……血が出なかった……)
……
シュバッ! クルルルッ シュババッ! クルクルッ チャキッ
殺し屋「……」
殺し屋(ナイフさばきは絶好調……気持ちも水のように落ち着いてる)
殺し屋(今日俺は……あの人に勝つ)
スッ…
殺し屋「……」
標的「来たか」
殺し屋「バレていたとは流石ですね」
標的「いや……音一つ立てず、殺気の欠片も漏らさない、見事な侵入だった」
標的「最上級の警戒をしていなければ、気づかぬうちに殺られてたかもしれん」
殺し屋「ご謙遜を」
標的「さあ、始めようか」
殺し屋「――はい」
シュバァッ! ビッ!
標的「ぐ……!」
殺し屋(体を切ると血が出る……)
標的「はっ!」ヒュバッ
殺し屋「……」サッ
殺し屋(そして今まで気にも留めなかったが、この部屋――可愛らしい小物が多い)
ドムッ!
標的「ぐうっ……!」
標的「ゲホッ、ゲホッ、やるな……あのタイミングで胸に掌底を……」
殺し屋(今の感触……やはりこの人の性別は……)
殺し屋(だが、そんなことはどうでもいい)
殺し屋(この人が何者だろうと、俺がやるべきことは――)ヒュッ
標的(消えた!?)
ズダァンッ! ガキィンッ!
ガシッ!
殺し屋「押さえ込みました。チェックメイトです」チャッ
標的「……動けん」
標的「私の負けだ……完敗だ」
標的「あとは私を殺せば、君は晴れて殺し屋デビュー、というわけだな」
標的「さあ……殺すがいい」
殺し屋「……」
標的「……なぜ?」
殺し屋「あなたは……俺に殺しを教えてくれた」
殺し屋「あなたのおかげで、俺はここまで強くなれた」
殺し屋「そして、人を殺すということの恐ろしさも学べた」
殺し屋「力を手に入れるほど……俺は人を殺せるようになっていくことが怖くなった」
殺し屋「あなたのおかげだ……」
殺し屋「そんなあなたを……殺すなんてできるわけないだろうがッ!!!」
標的「……」
標的「それはつまり、殺し屋にはならないということか?」
殺し屋「ええ……」
標的「!」
殺し屋「顔をナイフがかすめても血が出ないのは、精巧なマスクをつけているからだ」
殺し屋「声も変声術か、あるいは薬品かなにかで一時的に変えているんだろう」
殺し屋「さらに……肉体的特徴やこの部屋のインテリアから判断すると、あなたは女性だ」
標的「……」
殺し屋「おそらくあなたの正体は――」
標的「もう全て察しているようですね」グッ
ベリベリッ
殺し屋「……なぜこんなマネを?」
女職員「未熟な求職者に職業訓練を施すのも闇ハローワークの業務の一部だからです」
女職員「ですから、私はあなたの前に立ちはだかりました」
殺し屋「俺を殺さずボコボコにし続けたのは、俺が裏社会に恐れをなして足を洗うか」
殺し屋「あるいは諦めずに強くなるのをずっと待ってたってわけか」
女職員「その通りです。全ては業務のためです」
殺し屋「……」
女職員「!」
殺し屋「闇ハロワが訓練してくれる? 足を洗えるようにもする?」
殺し屋「俺もあなたのおかげで洞察力はだいぶ増してる。闇ハロワはそんなに甘くない!」
殺し屋「俺が初めてここに来た時出会った若手の殺し屋……二度見かけることはなかった」
殺し屋「どこかいい組織に拾われた? 足を洗った? いいや、違う」
殺し屋「おそらくあなたではない職員に、“絶対死ぬような仕事”をあてがわれて」
殺し屋「もうこの世にはいないんだろう」
殺し屋「使えない奴はとっとと死ぬように仕向ける、それが闇ハロワのはずだ……」
女職員「……」
殺し屋「裏社会に入らないようにするために」
殺し屋「あるいは……自分を殺してくれる人を見つけるために」
女職員「……!」
殺し屋「あなたはこれからもそうやって、死に場所を探し続ける気か?」
女職員「あなたには関係のないことです」
殺し屋「いや……あるさ」
殺し屋「ただ……なんとなく想像はつく」
殺し屋「きっとあなたも闇ハロワの職員になる前、色々と血塗られた仕事をこなしてきたんだろう」
殺し屋「でなきゃ、“かっこいいから”で殺し屋になろうとしたバカをここまで強く出来るはずないからな」
殺し屋「だから……死のうとしてるんだろう?」
女職員「……」
殺し屋「――だけど俺は!」
殺し屋「俺は……あなたを死なせたくない。たとえ、あなたが何者だろうと」
殺し屋「俺は殺し屋にはなれなかったけど、あなたを生かしたい! 生かし屋になりたいんだ!」
殺し屋「もしよかったら、俺のために食器を洗ってくれないか」
女職員「あの」
殺し屋「はい」
女職員「失礼ですが、ふざけてらっしゃるんですか?」
殺し屋「い、いえいえ! ふざけてません!」
女職員「では、失礼します」クルッ
殺し屋「あっ、ちょっと待って……!」
…………
……
シュタタタタッ
元殺し屋「ただいま得意先から戻りました。商談は成立しましたよ」
上司「おお、早いね」
上司「君はいつも静かだし、体力もあるし、仕事は早くて正確だから助かるよ」
元殺し屋「ありがとうございます」
上司「では次の仕事を頼むよ」
元殺し屋「はい」シュンッ
元殺し屋(あれから俺は一念発起して、普通の会社に就職することができた)
元殺し屋(闇ハロワに通った日々は、一般社会でも役に立っている)
元殺し屋(そして――)
元殺し屋「ただいまー!」
妻「お帰りなさい」
元殺し屋「今日も食器がピカピカだね」
妻「なんたって……それがプロポーズの言葉だったんだから」
元殺し屋「懐かしいなぁ。あの時は呆れられたけど、結局振り向いてくれたもんな」
妻「あんなのが殺し文句になっちゃうなんて、私もどうかしてるわ」
元殺し屋「どうだった?」
妻「……できてたみたい」
元殺し屋「やったぁ!」
妻「あなたったら殺し屋、生かし屋の次は、産ませ屋になったわけね」
おわり
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コメント一覧 (2)
-
- 2019年09月28日 22:02
- いつもきれいにまとまってるからこの人の作品は好きですね
-
- 2019年09月28日 23:20
- なんかこの人の過去作に通じてそうな話だな
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