ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」【後半】
関連記事:ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」【前半】ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」【後半】
のび太「あんな大した事の無い相手に負けるなんてな……カッコつけずにみんなの協力を得ていれば良かったよ………」
それはのび太も意識しない内に
喉から不意にでた言葉だった
のび太〈何を言っているんだ僕は……〉
今、圧倒的な能力で追い詰められているにも関わらず
相手を下に見てしまったのだ……
相手は大した事がない
どうしてそう思えたのだろうか…
のび太〈そう遠くない……さっき……ほんのさっきだ……大佐に『違和感』を覚えたんだ……〉
のび太〈あんな圧倒的な実力の相手にも関わらず……こう、何というか……〉
――――――あえて言うならば、『虚勢』
三度目の滑空
大佐の大きな手はのび太の急所を完全に捉えた……!!
大佐「…!?」
しかしどうしたものか
のび太に直撃する筈であったその手を逸らした事によって
大佐はバランスを崩し、大地に激突する形となった…!
のび太「…………」
大佐〈……私の方が『反射的』に身を逸らしてしまった……!〉
大佐〈それもただの反射行動では無い…!何か……奴を『本能的』に危ないと感じた……!〉
大佐〈今、奴は一体何をッ!?……私に対し、何を『投げた』のだ…!?〉
のび太「………思った通りだ…」
のび太は振り向き
地に伏せている大佐を見下ろしながら言った……
のび太「僕は終始圧倒されっぱなしだった……だからこそ『違和感』を感じたんだ……」
大佐「……!?」
のび太「圧倒的優位な立場である君の言葉から…信じられない『違和感』を抱いた……」
のび太「エリマキトカゲの威嚇行動にも似た……『虚勢』を感じたんだ……」
大佐「私が………エリマキトカゲだと……?」
のび太「君は自身の事を……あらゆる障害や環境を克服した究極の生命体であるかのように自負していた……」
のび太「にも関わらず、ある一点において君は保守に回った……!」
大佐「……!」
のび太「君はあれだけ間髪をいれず攻撃してきたのに『下水道』まで逃げた僕を追い詰める事はしなかった……!」
大佐「ッ!!」
のび太「先程の音を利用した攻撃から察するに、君は暗闇に適した特性を得ているはず……」
のび太「ならば何故、ワニの遊泳能力やコウモリ等の特性を利用し、僕に追い討ちを仕掛けなかったのか……」
のび太「下水道に僕以上の天敵がいたとは考え辛い……ならば答えはひとつ……!!」
のび太「君は……本能的に『水辺』を恐れていたんだ……ッ!」
大佐「何を『投げた』……!?」
のび太「……君は急降下した時、『さっきの物体』に触れたようだね……」
大佐「何を『投げた』かと聞いているんだッ!!」
のび太「そろそろ兆候が現れるはずだ……!」
大佐「ウプッ………!!」
突如、大佐の身体に変化が訪れる…!
顔はブクブクに膨れ上がり
鎖骨から首周りに駆けて徐々に皮膚が裂けていったのである
のび太「僕が感じた違和感は……君があらゆる動物の長所を取り入れたにも関わらず……!」
のび太「水中で呼吸する為の『エラ』が無かった事だ!」
大佐「貴様……ッ!この私に『魚』を投げつけたのか…ッ!?」
のび太「急降下する寸前の君から取り寄せバッグで『合体のり』を奪い…続いて取り寄せたマンボウに合体のりを垂らした……ッ!」
大佐「マンボウ……だと……ッ!?」
のび太「君が何故、魚類を取り込まなかったのか……それは肉体にあると僕は考えた」
のび太「以前の様に脳で考え行動する以上、君は『哺乳類』である人間に近い形で肉体の機能を維持しなければならない」
のび太「君が恐れたのは『肺呼吸』と『エラ呼吸』の両立、そして……」
大佐「ガハ……ッ!?」
のび太「魚の体内にいる寄生虫だ……ッ!」
のび太「マンボウは数十種類もの虫に寄生されている……そのほとんどが人体に影響は無いが…」
のび太「中には『シュードテラノーバ』の様に人体の胃や腸を食い破る虫がいる……ッ!!」
のび太「『人間』がベースの君にマンボウをそのまま取り入れたら……寄生虫は瞬く間に全身を駆け巡るッ!!」
倒れていた大佐が鞭で打たれた様にもがき始める…!
地に何度も頭を打ちつけながら身を捩じらせ、胸を掻きむしる…
慣れない肉体へと変化した事で呼吸すらままならないのか
その口からは泡を吹き出していた……
のび太「『合体のり』で取り込んだ動物も、僅かながら意思や習性が残っている……」
のび太「寄生虫を送り込まれた事で危機を察知した動物達が統制から逃げたがり、肉体が意思に反している様だね……」
大佐「こんな……こんな事が許されていいのかッ!?」
のび太「『非人道的』と言いたいのだろうけど……君はもう『人間』ではないしそれだけの事をしてきた…」
のび太「それに……君を裁くのは僕じゃない………ッ!」
のび太は取り寄せバッグから
ひとつのペンを取り出した……
大佐「……何を……する気だ……ッ!?」
のび太「今朝、留置所から逃げ出すとき僕は銃で撃たれた……君が学校で起こしたテロ事件の被害者の親にね……」
大佐「………?」
のび太「『ブラックホールペン』で描いた円に物を投げ込むと、物が吸い込まれて消える……」
のび太「後で『ホワイトホールペン』を使って同じように円を描くと、その円から吸い込まれた物が飛び出す……ッ!」
大佐「ま……まさか………」
のび太は取り出した白いペンで手の平に丸を描き込むと、大佐の頭に向けた……!
のび太「これが……お前が傷つけた人達の痛みだ……!!」
――――――――――――…
ー夕刻、動物園ー
部下A「警部!?お体の方は大丈夫なんですか!?」
警部「ああ、心配ない……現場に呼ばれたからには寝込んではおれんよ……」
部下B「それより聞きましたか!?テロ事件の首謀者と思われる男、第二班の我々が着いた頃には既に銃殺された後だったとか……」
警部「ああ、その事でちょっと、な…………」
部下A「しかしあの怪物のような男を誰が仕留めたんでしょうね……」
警部「………神様が…天罰をお下しになったのかもしれんな………」
部下A「警部?どうかしました?」
警部「いや何でもない!引き続き現場に当たってくれ。」
長い戦いの一日は幕を閉じ
戦士達はそれぞれの帰路に着いた……
――――――――――…
しずか「のび太さん、明日は家に誰もいないわ……」
のび太「明日だね……わかった。」
のび太はそう言い終えると
電話を切った……
思春期のカップルが交わすような
やましい会話ではない
大佐でさえ公共施設に壊滅的な被害を与えたのだ
残る少将や中将がもたらす被害規模は恐らくそれ以上…
ドラえもんと戦う為、そして自分達の身を守るために
今一度みんなで作戦会議を開くことにした
――8月1日、朝――――――…
ーしずか宅ー
ジャイアン「さて、今日はみんなに集まってもらったわけだが…」
スネ夫「ちょ……ジャイアン、ここはしずちゃん家だし…ややこしいからのび太に仕切らせた方が……」
ジャイアン「お、おう…そうだったな……」
しずか「戸締り終わったわ…」
のび太「じゃあ始めるよ」
とうとう強敵の候補である『大佐』まで仕留めた
残る部下の内、脅威なのは『少将』と『中将』である
のび太はこれまでの記憶をもとに
相手が持っているであろう道具を分析し、今後の対策を練ろうと提案した
しかし……
ジャイアン「ちょっと待てよ!」
ジャイアンがのび太の話に割り込む
スネ夫「ちょ……ジャイアン……話はまだ始まったばっかりだよ……」
ジャイアン「のび太、俺達が聞きたいのはそういう話じゃねぇ……」
のび太「……?」
ジャイアン「出木杉が今どうなっちまっているのか!!まずはそこだぜ!!」
しずか「出木杉さんが……この戦いに巻き込まれているの!?」
スネ夫「そういえば、しずちゃんは知らないんだっけ……僕らは一度『階級ワッペン』を貼られてしまったのさ」
ジャイアン「ニュースで動物園の惨状を見たけどよ……あれは人を何とも思ってないような奴が暴れたとしか思えねぇ酷い有様だったぞ……!!」
ジャイアン「もし出木杉までああなっちまってたら……元に戻す手立てはあるのかよ!?」
のび太「それについては心配ない…」
三人「!?」
のび太「………………と思う」
スネ夫「なんじゃそりゃ」
のび太「いや、根拠が無いわけじゃない。ワッペン以外にも道具で洗脳しているとすればそれは『桃太郎印のきび団子』……」
ジャイアン「だから!それを出木杉が食っちまってたら……!」
のび太「君たちはワッペンを貼られた時、ドラえもんに直接会ったかい?きび団子は食べた?」
スネ夫「そういえば団子どころか………」
ジャイアン「ドラえもんにすら会ってねぇなあ……」
のび太「そう。君たちはワッペンを貼られた後すぐに、支給係から道具を貰いそのまま僕を倒しに来たんだ。」
スネ夫、ジャイアン「………?」
のび太「つまり准士官程度にワッペンを貼られた出木杉は放置プレイ状態!大した事ないってことさ!」
ジャイアン、スネ夫「……………根拠になってない!!」
しずか〈のび太さんは出木杉さんの事、嫌いなのかしら……?〉
スネ夫「あれから20日近く経ってるんだぞ?流石にドラえもんも全員の部下を召集して『きび団子』を食わせているんじゃ……」
のび太「それは無いよ。2日前、僕は中尉や大尉と一戦交えたけど…彼らは既に自分達でワッペンを破いて、ドラえもんへの忠誠すら無かった。」
スネ夫「ドラえもんも随分とずさんな管理体制だなぁ……」
のび太「そこだよ。色々思い返してみると道具もワッペンも下の階級に行くほど部下にまかせっきり……」
しずか「そこまで部下には期待していないのかしら?」
のび太「沢山戦わせて僕にいくつか道具を消費させるのが目的なんだと思う……だからドラえもんにとって下の階級の者は捨て駒みたいなものなんだ。」
ジャイアン「酷ぇ話だな……」
のび太「そこでさっきの話に戻るけど……現在、僕は見事に敵の術中にはまってしまっている訳だ……」
のび太「相手の持っている道具をとことん悪用すれば恐らく、大勢の人達が被害に巻き込まれる事になる……」
三人「!?」
のび太「起死回生の道具が底を尽きた今の僕には人命救助が出来ない……だからこの道具を君たちに渡しておく」
のび太「この…『テキオー灯』で君達は人命救助に専念して貰いたい……!」
スネ夫「……てことは、のび太は今まで通り一対一で敵に挑むのかい!?」
しずか「そんな…!危ないわ!」
のび太「わかっておくれよ……そりゃあ四人で敵を迎え撃ちたいけど…そうすれば無関係の人達に被害が及んでしまうんだ……」
ジャイアン「わかったぜ!のび太の心意気、確かに受け取った…!」
スネ夫「ジャイアン…!?」
しずか「たけしさん……?」
ジャイアン「街の人達の救助は俺達に任せて、お前はお前の成すべき事をやりな!」
のび太「……ありがとう、ジャイアン!」
しずか「たけしさん……でも……」
ジャイアン「しずちゃん、そりゃあ俺達も協力してぇ……けど、俺達に出来るのはこいつの邪魔をしない事だけだぜ……!」
しずか「そ……そうね………少しこの場を外すわ……お手洗いに行ってくる……」タッタッタ…
のび太「なんだか具合悪そうだね…大丈夫かな……」
ジャイアン「これはひょっとすると…!」
スネ夫「しずちゃんはのび太の事が……!」
のび太「え?え?ええ!?」
スネ夫「おいおい耳まで赤くなっちゃって!」
ジャイアン「ほんとわかり易い奴!」
キャ――――z___ッ!!
三人の笑い声が
突如、悲鳴によって掻き消える…!
スネ夫「今の悲鳴は……!」
のび太「しずちゃん!?」
ジャイアン「……行くぜ!のび太、スネ夫!!」
のび太「こっちからだ!!」ガチャッ!
しずか「いやーーーまだ入っちゃだめーーーー!」 ドコ!バキ!グシャッ!!
のび太「……っ」
ジャイアン・スネ夫「oh……」
のび太〈こんな時に風呂に入ろうとするやつがあるかっ……!!〉
しずか「……着替えたわ…これ見て…」
しずかは浴室へ三人を案内し
浴槽に浮いている物体を指差した……
しずか「お風呂に入ろうと覗いてみたら既に……」
のび太「これは……『瞬間移動潜水艦』!!」
スネ夫「潜水艦って……なんでそんなものがここに?」
のび太「ただの潜水艦じゃない……これは中のスイッチを押せば水場から他の水場へワープできる……」
ジャイアン「てことはよぉ、つまり……」
しずか「誰かがこの『瞬間移動潜水艦』を使って……この家に侵入したって事…?」
のび太「……恐らく」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・
スネ夫「じ……冗談じゃないやい!今も僕らの様子を伺っているかも知れないなんて……」
のび太「待った!単独行動は危険だ…!少なくとも四人で固まっている内は大丈夫だと思う」
ジャイアン「確かに……始めから俺達を倒せるならこんな回りくどい方法で襲ってはこねぇ…!」
しずか「でも……この家へ侵入しているのなら、放っておくわけにはいかないわ」
スネ夫・ジャイアン「…………」
のび太「ひとまず部屋に戻ろう。もし家の排気口を使って移動していたら…『換気扇』があるこの場所は危険だ……」
ーリビングー
ジャイアン「おい……こりゃあ……!」
スネ夫「しずちゃん家ってこんなに広かったっけ……?」
しずか「どうなっているの……!?」
四人がリビングへ移動すると
そこは野球場がすっぽり収まるほどの巨大な空間となっていた…!
のび太「家具の位置や大きさはそのまま……部屋の幅だけが異様に大きくなっている…!」
ジャイアン「こんだけ広いと移動にも一苦労だぜ……」
スネ夫「……あの……ちょっと今、言いにくいんだけど……」モジモジ…
ジャイアン「どうしたスネ夫?」
スネ夫「その……こんな時になんだけど……トイレ貸してくれないかな……」
しずか「トイレならここの扉を戻って、さっきのお風呂場の隣の部屋よ」
スネ夫「はいはいさっきのとこね…」ガチャ
ジャイアン「何だ?忘れ物か?」
スネ夫「あれ?あれ?」
スネ夫「い…いや何でもない……」ガチャ
しずか「?」
スネ夫「あれ?」
ジャイアン「どうしたんだ?扉を出たり入ったりして………」
のび太「い……いや…これは………」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
スネ夫「なんで今、僕は部屋から出たのに……またこの部屋に戻ってくるんだ!?」
のび太「扉の先がこの部屋に繋がっているという事か……なら、秘密道具によるものだ……!」
ジャイアン「すると何だ?敵の攻撃は既に始まってるっていうのか!?」
しずか「一体どういう事……?」
スネ夫「それより、このままじゃ僕はトイレに行けない!!」
のび太「『無生物催眠メガホン』ッ!ここはトイレ前の廊下!」
のび太がメガホンで叫ぶと
のび太達のいたリビングの景色がうねり
廊下へと姿を変えた…!
スネ夫「うぉ!トイレ前に移動した!サンキュー、のび太!」ガチャ!
のび太「とりあえずこれで移動はできるけど……!」
ジャイアン「な…なぁ……この廊下も広くなってないか……?」
ジャイアンの言う通り
先程まで普通だった廊下の横幅は
電車が二台収まるほどの広さに達していた
スネ夫「お待たせ………何だか家中変になってるみたいだね……」
しずか「自分の家じゃないような気がして……気味が悪いわ……」
のび太「一旦外へ出よう!『無生物催眠メガホン』ッ!ここは玄関!」
のび太達は玄関の扉を開けた…!
スネ夫「ねぇ……これって……」
ジャイアン「外へ出たと思ったら………しずちゃん家の玄関に戻っちまった!!」
しずか「それに私の家の玄関……こんなに広くないわよ……」
のび太「これじゃあまるで大型ビルのエントランスだ……!」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
スネ夫「ど……ど……どうなってるんだよのび太!」
のび太「……潜水艦で侵入した奴が道具を使って家の中を複雑にしているんだと思う……!」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
しずか「電話が鳴ってるわ……どうしようかしら……」
のび太「取らないほうがいい……!今、鳴り響いている電話の着信音が途切れれば敵に位置を知らせるようなものだ……」
ジャイアン「こんな状況で宅配や何かに来られても出迎えようが無いしな……」
スネ夫「電話の音……!そうか!それだよのび太!」
のび太「?」
スネ夫「僕が電話に出る…!敵をおびき出してみんなで倒すんだ!」
のび太「!!」
しずか「そんな……危ないわ…!」
スネ夫「どうせ敵は隠れてコソコソしてる様な奴さ……!この一本道の広い廊下に誘き出せば逆にこっちが有利だよ!」
ジャイアン「よっしゃ!そんなら俺が…!」
スネ夫「駄目だよ…!ジャイアンこそ敵をやっつける役目じゃないと僕は安心して囮になれない!」
ジャイアン「スネ夫……!」
スネ夫「別に立派な事じゃあない……僕が怖いから……この状況をさっさと終わらしたいからやるんだぜ……!」
スネ夫「さぁのび太!そのメガホンで三人とも移動して身を潜めてくれよ!合図は僕が出す!」
廊下にスネ夫を残し
三人は付近の部屋へと移動し、身を潜めた……
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
スネ夫「さ……さぁ取るぞ……!どこからでもかかって来い!」 ガチャ!
スネ夫「はいもしもし!こちら源ですが――――――――」
スネ夫は警戒を強めつつ、相手の出方を考える……
自分が敵ならこの状況をどこから覗いているだろうか―――――
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・
スネ夫「――――――――ッ!?」
しずか「遅いわね……何かあったのかしら……?」
ジャイアン「もう敵が出てきていてもおかしくねぇ!のび太!」
のび太「『無生物催眠メガホン』ッ!ここは電話前の廊下!」
――――――…
ジャイアン「な……なんてこった……!」
三人が援護に駆けつけるも
既にスネ夫の姿は無かった…!
ジャイアン「どこ行っちまったんだーーー!!スネ夫ーーーーッ!」
のび太「どういう事だ…!?『取り寄せバッグ』でもスネ夫を掴む事が出来ない…!!」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
ジャイアン「また電話がかかってきた……話してる途中で襲われたのか…!?」
しずか「今度は囮になるわ…!」
のび太「そんな……!!」
しずか「のび太さん、私なら大丈夫。私ならどこから襲われようと、この『バリヤーポイント』が守ってくれるわ。」
のび太「いや……今度は三人だ……三人で迎え撃つ……!!」
しずか「大丈夫よ!私でも戦える!」
ジャイアン「い……いや得策だぜ…このまま得体の知れない敵に一人ずつ襲われたらそれこそ絶望的だ……!」
のび太「そういう事、三人でも敵わないんじゃ、どの道勝てっこない相手だってことさ……!!」
しずか「…そうね……ごめんなさい……強がっちゃって……」
のび太「いいさ…!!さぁ、しずちゃん!受話器を取って!」
しずか「ええ……!」 ガチャ!
しずか「はい、こちら源静香ですけど…」
宅配屋『ああ~、そちら源さんのお宅ですか?…アマゾン様から宅配物が届いております。今からお伺いしても―――――』
ジャイアン「さぁ……出て来い……!」
のび太「……!」
ジャイアンがリビングへと通じる扉を
のび太が玄関へと
それぞれ廊下の先を見据えて構える……!
ジャイアン「あーーーーーーーーー!お前はーーーーー!!?」
のび太「!?」
ジャイアンが叫ぶ!
その視線の先には少し開いた扉から顔を覗かせる出木杉の姿があった…!
ジャイアン「見たかのび太!!今のは出木杉……!!」
のび太「じゃ……ジャイアン、それより……!!」
ジャイアン「あ……あれ……!?」
二人が顔を見合わせ気付く!
しずちゃんの姿がない……!!
のび太「しずちゃんがいなくなった!!いつ攻撃されたッ!?」
ジャイアン「で……出木杉が逃げていくぜ!?どうする!?」
のび太「逃がさないッ!!」
稲妻ソックスによる踏み込みからの突進!
のび太は瞬く間に扉の向こう側まで駆け抜け
出木杉目掛けて体当たりした!
ジャイアン「す…すげぇ……ラグビー選手も真っ青だぜ……」
のび太「捕まえたぞ…ッ!!」
出木杉「は……離せぇ!!」
ジャイアン「ワッペンのついた上着を脱がすぜ!!」
ジャイアン「脱がしたぜ……どうだ!?」
のび太は嘘発見器を取り出し
出木杉に向けた
のび太「君は今もドラえもんに忠誠を誓っているのかい!?」
出木杉「ぼ……僕はもう正常だよ……離して……!!」
のび太〈反応無し……洗脳されていない!〉
出木杉「ふぅ……二人ともすごい形相で……殺されるかと思ったよ……!!」
ジャイアン「ワッペンを貼られる以外に何かされなかったのか?」
出木杉「何かされるどころか、ドラえもんはここ最近全然連絡を取り合ってくれなかったんだ……」
のび太「?」
出木杉「僕だけじゃない、他の幹部にものび太君達を抹殺する日程を指示してそれっきりみたいだよ」
ジャイアン「なるほど……通りで最近平和だったわけだ……」
のび太「それで君は今日襲って来たわけだ。」
出木杉「そう。以前、准士官に渡されたこの道具を使ってね……」
出木杉は手に持っている
『引き伸ばしローラー』と『空間ひん曲げテープ』を見せた
出木杉「非力なもんだよ。『ひき伸ばしローラー』で各部屋の幅を大きくして『空間ひん曲げテープ』で扉の先をごちゃごちゃにかき回すしか手が無かった」
ジャイアン「戦闘用じゃあねーな……」
のび太〈うーん、あの頭の良い出木杉がこんな手段しか使ってこないなんて……いや、この道具でよくここまでやったと言うべきか……〉
ジャイアン「それじゃあ、スネ夫やしずちゃんはどうやって消したんだ?」
のび太「そうだった…!二人はどこへ…!?」
出木杉「それが……言いにくいんだけど……」
ジャイアン・のび太「『中佐』と協力関係!?」
出木杉「ごめん!この程度の道具しか貰えなかった『上等兵』の僕じゃあ君達に負けてしまうから……上の階級の人に協力してもらったんだ………」
ジャイアン「や……やってくれるぜ………二人がいなくなっちまったのは『中佐』の攻撃ってわけか…!」
のび太〈やっぱり出木杉は敵にすると面倒くさい奴だなぁ……〉
出木杉「僕の役割は中佐から貰った『瞬間移動潜水艦』でここへ侵入し、君達を引っ掻き回して分断させる役割………」
ジャイアン「思惑通りじゃねーか……むしろ出来杉が戦闘用の道具を渡されてなくて良かったよ。」
のび太「まったくだよ。ところでその肝心の中佐は…?」
出木杉「それが……中佐の道具までは教えてもらえなかった。こういうケースも想定しているだろうね……」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
ジャイアン「で……電話だ……!」
のび太「待ってジャイアン!その電話……何かおかしい……!」
ジャイアン・出木杉「………?」
のび太「スネ夫もしずちゃんもその受話器を取ってから行方を暗ましたんだ……!」
のび太「特にしずちゃんは『バリヤーポイント』があるにも関わらず行方を暗ました……」
のび太「『バリヤーポイント』は許可無き物を絶対に通さない……例外があるとすれば、その『受話器』……!」
ジャイアン「受話器から……攻撃したっつーのか!?」
のび太「それしか考えられない……」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
出木杉「敵の攻撃を見極める方法ならあるんだけど……言いにくいなぁ……」
ジャイアン「本当か!?」
のび太「一人目の犠牲で攻撃を見極める……更に敵が二人目を仕留め油断したスキに、三人目が反撃をする……」
出木杉「そう!だけど言い換えれば犠牲は二人必要で、最後の一人は必ず勝たなければならない………」
ジャイアン「じゃあ俺が囮で、ラストはのび太でいいんじゃないか?」
のび太「元部下の出木杉が最後のほうが相手も油断するかも……」
出木杉「いや、僕は二人目の囮になるよ。道具はのび太君のほうが使い慣れているし、僕も信用を取り戻したいからね」
のび太・ジャイアン「出木杉……」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
ジャイアン「じゃあ……受話器をとるぜ……!」
のび太・出木杉「うん……!」
ジャイアン「はいもしもし、こちら源ですが……!」ガチャ
宅配屋『ああ~やっと繋がった。さっきから電話が途切れてしまいまして……』
ジャイアン「え…ええちょっとゴタゴタで……!」
出木杉「のび太君……この電話の声……!」ヒソヒソ
のび太「……!!」
出木杉「『中佐』の声だ……!」
その時である……!
受話器の送話口から突如、手が飛び出し
ジャイアンに対しビー玉の様な物が投げつけられた!
ジャイアン「――――――――――――ッ!」
のび太〈ジャイアンが…!!〉
出木杉〈地面に沈んでいく!?〉
受話器から生えた手はその身を動かし
電話を元の位置へと戻すと、姿を消した
出木杉「送話口から手が生えた……!これって昔、僕が悩まされたイタズラ電話の犯人を捕まえる為に君が使ったっていう……!」
のび太「『物体電送アダプター』ッ!!あの道具で受話器から手を伸ばして『しずめ玉』をジャイアンに投げつけたんだ……!」
※しずめ玉
当たると身体が地に沈む。沈んだ後は意識が無くなり気絶した状態になる
出木杉「じゃあ、他のみんなもこの地面の下に沈んでいるんじゃ……?」
のび太「そうだろうね……みんなを戻すには沈んだ場所に『うかび玉』を投げつけるしか方法は無い…!」
ジリリリリリリ・・・・ジリリリリリリ・・・・・
のび太〈取り寄せバッグで『うかび玉』を奪いたいけど……掴むのに失敗したら奴は二度と電話をかけてこないだろう……これが最後のチャンス!〉
出木杉「準備はいいかい……取るよ……!」ガチャ!
宅配屋『お荷物が届いているんですが今からお伺いしてもよろしいでしょうか?』
出木杉「…………」
宅配屋『もしも~し?聴こえてますか~?』
出木杉「はい!!」
再び受話器から手が飛び出し
出木杉に『しずめ玉』が投げつけられる!
出木杉「のび太君!今――――――――――――ッ!」
のび太は受話器から伸びている手を掴み
向こう側へと移動した!
ーとある家ー
中佐「う……うわああああああッ!?」
のび太「お前が中佐か……!!」
中佐「ここまで伝って来たのか!?」
のび太〈今だッ!!〉
のび太は取り寄せバッグに手を突っ込んだ!
のび太「痛ッ……!!」
中佐「……君の狙いは僕のポケットに入っている『うかべ玉』という訳か……!」
のび太〈こいつ……カッターナイフを忍ばせていたのか……!!〉
中佐が床に散らばってある漫画を踏みつけると
その身体が徐々に沈んでいった…!
中佐「『絵本入りこみ靴』はそこにもう一足揃えてある……君も、ついて来るよな……?」
のび太〈何の漫画かわからないけど……奴を追わないと『うかび玉』は回収できないぞ……!〉
ー漫画の中の世界ー
のび太「どこにいったんだ……?」キョロキョロ
のび太は漫画に入り込むと
学校のグラウンドのような場所に飛び出した
のび太〈あそこにいるのは…中佐か!?何をやっているんだ!?〉
中佐〈ついて来たか……馬鹿め!〉
中佐「君の名前は……『野比のび太』……そう、『野比のび太』だ……」
のび太「……?」
中佐〈……校舎まで思ったより距離があるのが気に入らないが……まぁいいだろう!〉
中佐は校庭に落ちている黒いノートを拾うと
何かを記入し始めた…
のび太「そ……そのノートは……!?」
中佐〈いくら僕でも『稲妻ソックス』とやらを持つ相手に逃げ続けることは出来ない……だからここでケリをつけるッ!!〉
秘密道具には無い得体の知れないノート…
追い詰められたこの場で使うからには攻撃手段に違いない…!
のび太は中佐の行動を阻止する為
勢い良く前方に飛び出す!
しかし…!
のび太「うわ!?か……身体が…沈むッ!?」
中佐〈かかったッ!〉
中佐がニヤリと笑う…!
のび太がこの世界に潜り込むまでに
『しずめ玉』を地面にばら撒いていたのだ…!
中佐「これで君はゲームオーバー………だが念の為、『死の状況』も記載しておくッ!僕の完全勝利の為に!」
中佐「ぐッ!?」
中佐にとって想定外の出来事が襲う…!
ノートに筆を走らせた瞬間
衝撃波がその手を貫いたのだ!
のび太〈漫画の中に入る直前、『空気ピストルの元』を手に塗っておいたのが功を奏した……!〉
中佐「指先から何かを飛ばしたのか!?……それはともかく、まだ地中に沈んでいないだとォ……ッ!?」
のび太は下半身こそ地に埋もれてしまっているものの
しずめ玉の効力に対し懸命に抗っていた
のび太「タ……タケコプターの持ち上げる力よりも強いのか……このままでは沈んでしまうのも時間の問題だ……!」
中佐〈『状況』だ……このまま待っても奴は死ぬが……筆を拾い『死の状況』を記載して奴の動きを完全に封じなければ……ッ!〉
のび太「筆を拾おうとしている……や、やっぱりあの黒いノートはこの世界にある特有の物だ……恐らく僕を抹殺する為の……!」
のび太は再び空気ピストルの弾を発射し
中佐の両足を貫く!
中佐〈くそッ!!気付かれたか!?だが、名前は書いたんだ……残り30秒で奴は死ぬ…ッ!〉
のび太〈スネ夫から聞いた事あるぞ……ノートに名前を書かれたら40秒で死んでしまう漫画の話……!〉
のび太は取り寄せバッグからフリスビーのような円盤を取り出し
中佐の近くへ放り投げた
中佐「何を投げた……あれは……『的』!?」
のび太「『はこび矢』……この矢は僕ごと『的』の真ん中へと飛んでくれる……!」
中佐「!!」
のび太は『はこび矢』を真上へ放つ
のび太〈この浮力でかろうじて身体が持ち上がる程度か……だけど、矢は着実に中佐の近くに向かって前進している……!〉
中佐〈23……22……21……20……19……〉
のび太〈かなり近づいたぞ……後はこの『N・Sワッペン』を空気ピストルで弾いて奴の額に命中させるッ…!〉
ビシィッ!!
中佐「何を……くそッ!剥がれないッ!?」
のび太「『N・Sワッペン』だ……君の額に張られたNワッペンと僕の持つSワッペンが磁石の様にお互いの体を引き合わせる……ッ!」
しずめ玉の効力に抗うので精一杯ののび太が
今更近づいてきたところで何が出来るというのだろうか…
しかし中佐の頭の中に巡ったのは慢心とは真逆に位置する考えであった…
中佐〈コイツは近づいた以上『何かする気』だ……そう考えて挑まなければ……!〉
中佐はかろうじて動かせる片腕で
胸ポケットからライターを取り出すと黒いノートに火をつけた
のび太「ッ!?」
中佐「君が『ノートの内容を消す』道具を持っていないとも限らない……可能性は潰しておかなきゃな……!」
のび太〈ノートが燃えても記載した事実は取り消されないのか……!!〉
中佐は腕時計を確認し
不敵に微笑む…!
中佐「残り8秒だ……!」
ノートの内容が変えられる可能性も潰えた…
中佐は嬉々として絶望へのカウントダウンを始めた…!
中佐「5……4……3……!」
のび太「うおおおおおおおおおおおッ!!」
中佐「!?」
のび太は雄叫びを上げながら中佐に飛びかかり
その足首を掴んだ…!
中佐「必死に飛び掛ったところで僕にダメージは与えられず……悪あがきも空しく終わったな!これで僕の勝ちだッ!!」
のび太「――――――ッ!?」
ドクン!!
中佐「………」
のび太「………」
中佐「………」ヨロ…
のび太「おっと!」
地面に崩れ落ちる中佐を
支えるように抱え上げるのび太
のび太「……まず『うかび玉』を回収しなくちゃな……」ゴソゴソ…
のび太「あとはNSワッペンを剥がして……これで良し、と………」
のび太が両腕を放すと
中佐のその身は地の底へと沈んでいった……
のび太「『しずめ玉』は対象が地中に沈み気絶する事で初めて効果が発動したと言える……」
のび太「その黒いノートも君の秒読みが完了する事で本来の効果が発動する物なのだろう……」
のび太「効果が完全に発動する前なら『タッチ手ぶくろ』で全て君に押し付ける事が出来る……」
のび太「…………」
のび太「正当防衛とはいえ……後味の悪い結末だ………」
ーしずか宅ー
のび太「みんな……大丈夫かい…!?」
ジャイアン「どうやら終わったみてぇだな……」
回収した『うかび玉』を使った事により四人を救出する事に成功したのび太
四人は歓喜……というより落胆の気持ちの方がやや強い様子である…
スネ夫「……のび太の言う通り人命救助に専念するよ……早々離脱するようじゃこの戦いについていけそうもない……」
しずか「そうね……それより出木杉さん。広くなった家を元に戻せないかしら?」
出木杉「今から戻すけど……それよりテレビで確認したい事があるんだ……」
のび太「……?」
ーリビングー
出木杉「思ったとおりだ……ほら、このニュース……!」
映し出した映像は一局を除き
ほぼ全てのチャンネルが臨時中継へと繋がっていた…!
ジャイアン「ま……町の人たちが……!」
スネ夫「道路で溺れている!?」
しずか「水も無いのにどうして!?」
出木杉「本日強襲を指示されていたのは僕や中佐だけでは無かったってことさ……!」
のび太「先手を取られたわけか……けどやる事は変わらないんだ!!みんな、今すぐ都心部へ行こう!!」
ー都心部ー
しずか「着いたわね……」
スネ夫「それにしてもあっという間だなぁ」
のび太「タケコプターは時速80キロ近く出るからね……みんな、テキオー灯は浴びたかい?」
ジャイアン「おう!バッチリだ!」
出木杉「僕らはさっそく救援活動にあたろう……!のび太くん、無理をしちゃ駄目だよ!」
のび太「わかってるさ!みんな頼んだよ!」
ジャイアン「遠慮無くぶちのめしてこいよ!」
※ドンブラ粉
この粉を体に付けると体の触れている床、地面、壁などが水のようになり
床や地面で泳いだり、壁を泳いで突き抜けることができる
一般市民が地面に溺れる状況があるとすれば
それは『ドンブラ粉』によるものであろう…
のび太〈ドンブラ粉を散布しているとすれば……『高所』……!!〉
のび太〈そして風向きだ……この都心部に風が入り込む場所にそびえる建物……!!〉
のび太「あそこか……!!」
のび太は高層ビルの連なる一帯に向かい
屋上を見上げた…!
のび太「ここを上れば恐らく……!!」
のび太「―――うおッ!?」
タケコプターで屋上へ向かう途中…
ビルの側面からクレーンのアームの様な小型の二又銛が飛び出し
のび太の腕に深く食い込んだ!
のび太「これは……!?どんどん突き進んで来るッ!?」
二又銛はのび太の腕の中を伝い
胴体に達しようとしていた…!
のび太「こ……このままじゃあ心臓に達してしまう……チャンバラ刀で腕を切り離すッ!!」ブチン!!
切り離された腕が
ビルの屋上へとぐんぐん引き寄せられていく…!
のび太「……あれは釣り竿なのかッ!?ビルの壁から襲って来たって事は……『地中つりざお』か……!」
釣り上げられている腕を追っていけば屋上にいる敵
恐らく『少将』と対峙する事になるであろう……
のび太「あの腕に気を取られた一瞬がチャンス……奇襲だ…!」
のび太はがん錠を服用し
更にタケコプターのスピードを上げて上昇した
ー高層ビル、屋上ー
謎の男「釣り上げたぜェェーーーッ!!………『腕』ッ!?」
のび太「かかったなッ!」
謎の男「えッ!?」
背後から飛び掛ったのび太が男の顔を勢い良く殴りつける
謎の男はそのまま高層ビルの屋上から放り出される形となった
謎の男「う、うわァァァァーーーッ!何をしやがるんだァーーーーーッ!!!」
のび太「この高さから落ちたら即死だ……」
謎の男「オレが墜ちてもいいのかァァァーーーーーッ!オメーの腕はオレがァーーーーッ!!」
のび太「君が釣り上げていたこれかい?釣竿が緩んでいたから取り寄せバッグで返してもらったよ」
謎の男「そんな…うわァァーーーーーーーーーー……」ヒューン・・・
のび太「さてと『タイム風呂敷』で腕を治して………」キョロキョロ…
のび太「あった!『ドンブラ粉』…やはりここから散布したのか……」
のび太「……全て散布されてしまった……僕もみんなと一緒に救助して回らなければ……!!」
のび太「――――――…!?」
謎の男「よくも突き落としてくれたなッ!?」
のび太「コイツは……ッ!!空をとべるのかッ!?」
男はのび太が身構えるより先に胴体に組みかかり
ビルの屋上から飛び降りた!
謎の男「オメーもオレと同じ苦しみを味わえッ!!」
のび太「うわァッ!!」
のび太〈――――僕ごと急降下して地面に叩きつけるつもりか……ッ!〉
謎の男「うおァァーーーーーーッ!!」
のび太「この体勢のまま地面に衝突したらお前もタダじゃあ済まないぞ……って聴こえてないか……ッ!」
のび太は腰に組まれた腕を無理やり引き剥がし
立て続けに拳を振り下ろした!
のび太「このォッ!」ゴシャア!
謎の男「げぇーーーーーーッ!!」ゴキベキバキッ!
のび太「一人で墜ちてろッ!」ボコォ!
謎の男「か…カハ………」ヒューン・・・
のび太「ハァー……ハァー……体勢をとって……タケコプターで上昇を……ッ!」
タケコプターを装着し
上昇を試みようとしたその時である…
謎の男「うおおおおおーーーーーーッ!!」ギュォォォォ!!
下に叩き落されたはずの男は
再び上昇しのび太に掴みかかった…!
謎の男「へへへ……逃がさねェーーーーーーーッ!!」ガシッ
のび太〈ま……また組みかかってきた……!〉
謎の男「いい加減一緒に墜ちやがれェェーーーッ!!」
再びのび太を下にして両者は落下する
途中、男の口元が不意に緩む…!
のび太〈何だ……奴の表情……一瞬だけど『自信』に満ちた…勝利を確信したような顔だった……!〉
のび太「落下方向に何かあるのか……?」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・
のび太「うぉぉぉぉぉーーーッ!!?」
謎の男「へっへっへ……このあたりはビルが密集してるからなァーーーッ!!」
のび太が振り返った先に見えたのは
高層ビルの側面であった…!
のび太〈い……いくら僕の体が鉄の硬度でも…この落下速度でビルの側面に叩きつけられたらタダじゃあすまないぞ…!!〉
のび太〈だが奴はなんだ…!?同じ状況の中、生身のくせに嬉々として突っ込もうとしている…!!〉
のび太〈とにかくパワーは僕の方が上なんだ……!奴だけビルに叩きつけて身を逸らすッ!!〉ギギギ…
謎の男「い、痛ぇッ!?さっきから腕のロックをほどく力が尋常じゃあ無いッ!?」
のび太「お前だけ壁に抱きついてろーーーッ!!」ドギャァ!!
謎の男「うわァァァァーーーッ!!」
ザバァァァン!!
のび太「何だ――――――…!?」
本来なら渾身の力で殴られた事により
男は壁に叩きつけられるはずであった
しかし男は側面に激突すると
水面へ飛び込む様にビルの内部へと沈んでいったのである
のび太「ビルの壁が……まるで水のように奴を吸収した……!」
のび太「『ドンブラ粉』を自身にも塗っていたのか………!?」
謎の男「少ォ~し違うんだなァこれが……!!」ユラァ~…
男がビルの側面から顔を覗かせる…!
謎の男「いつでも地の中を泳げる様にオレは『潜地服』を着ている……!!」
のび太〈『潜地服』か……では空を飛んだ道具は…………!〉
謎の男「そして……オレは『ソーナル錠』っていう道具も服用している……ッ!!」
のび太「…!!」
※ソーナル錠
一錠飲めば思い込んだとおりになる
服用者のみに効果があらわれる為、
竜巻等を発生させても現実の人々には一切影響が無い
謎の男「そういや……その頭のやつで空を飛んでいるのか?」
のび太「……」
謎の男「そんな竹とんぼみたいな道具で空を飛べるんだから相当の馬力だろうなぁ……」
謎の男〈ならオレはジェット機だ……鋼鉄の……ジャンボジェット機……!〉
キィィ―――z___ン・・・
のび太「……!!!」
ビルから超高速で発射された男の肉体は
一瞬でのび太の右腕ごと肩の周囲部分をもぎ取って行った……!
のび太「あぐぅ………!!!」ドバッ…
謎の男「オレの傷は治る……オレの骨は治る」シュウウウウ…
のび太〈……即死さえしなければ傷は治せるけど……こんなの何発も喰らいたくないね……!〉
謎の男「このままどんどん突っ込んでいくぜーーーーッ!!」
のび太「奴は結構遠くまで飛んだようだがあのスピードならすぐ戻ってくるだろう……移動するなら今しかない……!!」
のび太〈空中戦に持ち込まれたら勝ち目は無い……かといって地上で戦えば『潜地服』を着ている奴に分がある……!!!〉
のび太「奴が逃げられず…尚且つあの突進攻撃の道筋が予測出来る絶好の場所は………!!!」キョロキョロ
のび太は遥か後方から走ってくる物体目掛けて
高度を落とした…
謎の男「あいつがどんどん下降していく……あれは……ッ!」
ブロオオオオオオオ・・・・・・
謎の男「新幹線ッ!通り過ぎようとしている新幹線に乗り込むつもりなのかッ!!」
のび太「『通り抜けフープ』……おじゃまするよッ!!!」
ー新幹線、内部ー
のび太「都心部からどんどん離れていくけど……奴の目的は僕をおびき出して抹殺する事だ。嫌でも追跡してくるに違いない…!!」
のび太「この地の利を活かせばそのうち倒せるチャンスがやってくる……奴に一撃をぶち込むチャンスが……!!」
のび太「奴を捉えるには速度だ……速度を計算しなければ……!!」
のび太「新幹線のスピードを時速300キロとして……後ろから追って来る奴のスピードが時速800キロとすると……」
のび太「ここから目視する奴のスピードは……足し算すると時速1100キロ!!」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・
のび太「奴は…マッハを超えるのか……!?」
のび太「い……いや、何を言ってるんだ僕は……奴は追いかける、僕は逃げる。単純に引き算じゃあないか……」
のび太「新幹線のスピードを時速300キロとして……外から追って来る奴のスピードが時速800キロとすると……」
えーん!えーん!
のび太〈いや………60で割って1分間に進む距離を割り出さないと……そしてこの新幹線の全長も……〉
うわああああん!
のび太「ええい!泣き声がうるさくて集中できない……」
のび太「新幹線の速度だけじゃなだめだな……内部で稲妻ソックスを着用した僕も走らないと……その場合、目視できる奴のスピードは……」
うわああああん!うわああああん!
のび太「さっきから……子供にしてはやけに声が低いと思ったら大人も叫んでるのか……?」
のび太の視線の先には
駅員が四つん這いで床を這うように歩いていた
のび太「何だあの駅員………コンタクトでも落としたのか……?」
駅員「あー……」
のび太「………!?」
のび太〈油断しすぎだよなぁ僕も……!〉
のび太はタイム風呂敷で頭を包んだ
のび太「……通りで簡単な計算にも頭が回らないわけだ……!」
駅員だけでは無い…!
のび太が席を見回すと
大人の者とは思えない振る舞いの乗客で溢れ返っていた……!
ある者は窓に顔を擦り付け、涎を垂らし
ある者は大声で泣き喚き、食べ散らかし…
乗客がまるで幼児の様に戯れているのである
のび太〈始めに赤ん坊の泣き声がした席は………この車両の先頭付近……!〉ダッ!
のび太は先頭の乗車席に駆け寄り
席を覗き込む…!
のび太「やっぱりだ……赤ちゃんに『ハンディキャップ』が被せてある…………!」
※ハンディキャップ
周囲の人の知力および体力がこの帽子を被った者と同じレベルになる
のび太「はやく外さないと……周りの乗客にお漏らしまでされたらシャレにならないぞ……!」
赤ん坊のキャップに手をかけようとしたその時…
のび太はその隣に座る乗客に殴りかかった!
のび太「『ハンディキャップ』の効果範囲は四方5メートル外からッ!!つまり5メートル内に唯一いるお前が仕掛けた事になるッ!!」
?「油断した隙に襲うつもりが……このトラップまで見破るとはやはり頭がいいな……だけどよォ……」
のび太の拳が乗車席に座る男の頬を捉える!
しかし…!
のび太「き……効いていない……それどころかこっちの拳が……!」ミシミシミシ…
?「オレの身に着けている『安全カバー』はあらゆる攻撃を無効化するッ!」
のび太「くっ……!」
のび太は連結部分の貫通扉を開き、乗客のいない隣の車両へ移ると
とりよせバッグでハンディキャップを奪った…!
?「そんな道具まであんのか……」ガララララ・・・・
のび太「その手首に貼られたワッペン……もしかしてお前が『少将』なのか……!?」
少将「どうした?さっきまで外で戦っていた相手が少将だと勘違いでもしたのか?」
のび太「……!」
少将「残念だがアイツは『少尉』……お前がこの新幹線へ辿り着いたのも全てオレの計算の内ってわけだッ!」
ガラララララ・・・
のび太〈貫通扉が開いた……あれは―――!〉
少尉「兄貴ィッ!計画通りだねッ!やっぱり兄貴はスゲェーやッ!」
少将「!?…ば…バカ野郎ッ!手筈が違…!」
少尉の突然の乱入により少将の気が紛れる…
のび太はその油断を逃さなかった!
のび太「ここはマグマの底!!」
少尉「マグマの……底…?」
『ソーナル錠』により
服用者に思い込みの効果があらわれる……!
少尉「ギャアアァーーーーッ!!」ジュワアアア・・・・
少将「!?」
のび太〈今だッ!!〉ズァァ・・・!
視線を外した一瞬……!
のび太は少将に近づき、自身の掌を押し付けた…!
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・
少将〈何だ……ッ!?奴は手袋を外して……オレに何を塗った…ッ!?〉
のび太は再び『安全カバー』で身を包んでいる
少将に殴りかかる……!
のび太「……終わりだ!」ボコォッ!!
少将「おぅふッ!?」
ズシャァァ―――z___ッ!!
少尉「え?え?」
のび太の痛烈な一撃…!
少将は乗車席をいくつもなぎ倒し
壁に激突する形となった……!
少将「……ガハ……ッ!」
少尉「あ……兄貴は『安全カバー』で身を守っているのに何で……ッ!?」
のび太「この、全てが逆効果になる『あべこべクリーム』を塗ってやれば『無敵の鎧』は『最弱の鎧』へと成り下がる…!」
のび太「後は取り寄せバッグで海水を取り寄せ、僕の手についた『あべこべクリーム』を洗い落とせば……!」
のび太「今まで通りスーパー手袋を着用して存分に戦う事が出来る……!」
少尉「そ……そんなァァーー兄貴ーーッ!!」
少将〈まさか少尉がここまで頭の回らない奴だったとは……プラン変更だ……ッ!〉
少尉「……オレが気を取らせちまったばっかりにッ!!こうなったら奴はオレが……!!」
少将「それ以上言うんじゃねーーッ!!」
少尉「ひ……ッ!」ビクッ!
のび太「……?」
少将「少尉よ……そういう言葉はオレたちの世界にねーんだぜ……そんな弱虫の使う言葉はな……」
少将「なぜなら、その言葉を頭に思い浮かべた時にはッ!」
少将「その時すでに行動は終わっているからだッ!!」
のび太「え――――――――――――」
少将は『独裁スイッチ』を押した…!
※どくさいスイッチ
任意の人物を消すことができる
消された人物は最初から世界にいなかったことになる
少尉「……あいつが……消えた…ッ!?」
少将「………みたいだな」
少尉「は…ははは!やったね兄貴ッ!!」
少将「それよりよォー……なんでオメー直接ここへ来たんだ」
少尉「え?い、いや……下手に外から突撃して兄貴の『ハンディキャップ』作戦に巻き込まれたら俺まで溺れちまうかもしれないし……!」
少将「そうならねー様に『ソーナル錠』で思い込めばいいだろーがよォーーーッ!!」ドゴォ!
少尉「痛いッ!!何で殴るんだよォー兄貴ッ!もう戦いは終わって……!」
少将「これで本当に終わっていたらなッ!」
少尉「え……?」
ゴトンゴトン・・・
少尉「ど……どういう事だよ兄貴……」
少将「……ボスとのび太って奴は以前に一度殺り合ったって言うぜ。妙じゃあねえか?」
少将「相手をボタンひとつで抹消するってんならよォー…最初に殺り合った時点でこの『独裁スイッチ』を押せば勝敗は決したもんだろ?」
少尉「ボスは自分の手で抹殺したかったとかじゃあ……」
少将は車内の手洗い場へ向かい
安全カバーに染み付いた『あべこべクリーム』を全て洗い流した…
少尉「もう戦いは終わったんだ……考えすぎですぜ兄貴……」
少将「いーや、まだ油断できねーな……今まで俺たち組織を引っ掻き回した相手が一瞬で、こんな簡単に事が運ぶわけがねぇ」
少尉「でも…ターゲットは消滅しちまいやしたぜ?」
少将「………」
少将〈とりあえず……奴の落とした『あべこべクリーム』のケースの中身も全部水道に流しておくか………〉ジャー
駅員「すいませーん、切符拝見させてもらってよろしいですかー」
少尉「やべぇ…ど…どうする兄貴……」ヒソヒソ…
少将「おかしいなァー?切符ならさっき見せた筈なんだがなァー」
少尉「そ…そうだぞ!オレも見せたッ!」
駅員「そうですか……」
駅員「嘘ついたら………針千本飲む事になりますよ」
少尉・少将「ッ!!?」
少尉「あ……あがが…………」ズブズブズブ……
少将「おいバカ野郎ッ!!思い込むなよッ!?」
少尉「 」ブシュウウウ…
少将「……!!」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・
駅員は少将に対し
不敵に微笑みながら告げた…!
駅員「さぁ……戦いの続きだ……!」
少将〈新手がいやがったのか――――ッ!!〉
駅員が帽子を脱ぎ、身構える…!
少将「……おめぇー…見たところ野比のび太の仲間だな……残念だが奴は抹消したぜッ!」
多目「……何を言っている?お前達は僕以外にも他の誰かを敵に回していたのか……?」
少将「あいつの仲間じゃあねーのか…ッ!?」
多目「僕は多目〈ため〉だ……とっくにご存知の筈だと思ったんだがな……!」
多目は取り寄せバッグから
舞台用の照明を取り寄せた…!
少将〈あれはッ!さっき奴が『ハンディキャップ』を回収した時の能力じゃあ……ッ!?〉
多目「ライトアップッ!!」ガシャンッ!!
ピカァァァァァァーーーーーッ!!
少将〈むッ!眩しい―――――ッ!?〉
少将の目が眩んでいる内に
追い討ちをかけるように多目が襲い掛かる!
少将「目暗ましをしたところで……『あべこべクリーム』の中身は全部捨てたッ!オメーにはオレを攻撃する術は無ぇーーッ!!」
多目「そうかい…ッ!」
少将は多目の一撃をかわすと
大きく間合いを取った
少将「く……ッ!?」ミシミシミシ……!
多目「骨の軋む音が聴こえた……やはり通じる……!」
少将〈野郎……何をしやがったッ!?オレは『安全カバー』を着用しているし……今の攻撃もかわした筈だ……!〉
少将〈だがオレはダメージを受けた……奴が攻撃した先にあるのは………!〉
少将「……………ま……まさか……オレの影を攻撃して……ッ!?」
多目「さぁね………」
※影ふみオイル
このオイルを影に垂らし危害を加えると、影の持ち主に同様の痛みが伝わる
少将〈この多目って野郎……完全に道具を使いこなしていやがるッ!!〉
少将〈そして読めてきたぞ……『独裁スイッチ』のデメリットッ!!〉
少将〈こいつは対象者の存在を完全に抹消するが……誰かがその人物の代わりを埋め合わせる事になるんだ…ッ!!〉
少将〈生易しいデメリットじゃあねーな……消したと思ったら見ず知らずの敵に不意撃ちを許し、少尉を犠牲にしちまった……!〉
少将「……ボスは自分でスイッチを使う事を恐れ、部下を使って道具を試したかった、という事か……」ジョキジョキジョキジョキ…
少将がハサミを取り出し自身の影を切り取り始める……
切り取られた影はムクムク膨れ上がると人間の様に動き始め、隣の車両へと駆け抜けて行った…!
少将「こうやってオレの影を他の車両へ逃がしてやれば……その間、オレは無敵ってわけだッ!」
多目「『影切りばさみ』か……やはり少将相手となると一筋縄ではいかないようだ……!!」
※影切りばさみ
人間の影をはさみで切り取ると、影の分身が出来る。分身は30分間だけ命令を聞いてくれる
少将「これで『安全カバー』の弱点は消えた……さぁどうするよ…!」
多目「解決策は無くもないさ……!!」
少将「ならよォー……やってみやがれーーーッ!!」
多目の腹部を目掛けて
少将の拳が放たれた!
多目「へっへっへー…残念でしたー!」ジャ――z___ン!
少将「そ…その手にあるのは……ッ!?」
少将の繰り出した拳は
取り寄せバッグから覗かせている黒い物体に触れていた…
多目「『取り寄せバッグ』で君が隠している『影とり餅』を奪い、続いて逃げ出した君の影分身をとりよせた……!!」
少将「ま……まさかこれ程のやり手とは……ッ!!」
多目「君はこの影に触れた……よって影は再び君の元に戻る…ッ!!」
少将「うおおおおおおおおッ!?」ズズズズズズ・・・・・・
多目「せっかく逃がした影分身も空しく……これでお前には再び弱点が出来たわけだ……」
少将「や…やろォ~…!」
多目「車内に照りつける太陽がお前の弱点を浮き彫りにしている内にケリを着ける……ッ!!」
少将「………どうやら現実はもっと残酷だった様だな……!」
多目「……!?」
多目の大きな誤算…!
新幹線がトンネルに入ってしまったのだ…!
少将「照りつける日差しも無くなったッ!蛍光灯だらけの車内に影は出来ないッ!!」
多目「くッ…!!」
多目〈ならば『空気ピストル』で蛍光灯の一部を射る………!!〉
少将「先に言っておくけどよォー…蛍光灯は割れねーぜッ!!」
多目「!?」
少将「元々は『潜地服』を着た少尉が外から猛スピードで突っ込んでターゲットを車内で潰しちまう作戦だったんだぜ……?」
少将「この新幹線に乗り込んだ時から既にッ!!『材質変換機』でこの新幹線の壁や天井を限りなく硬い材質に変えてあるッ!!」
多目「くっ……!」
少将「楽しい鬼ごっこの始まりだぜ……今度はテメーが逃げる番だけどよォーッ!!」
少将「オラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
少将の怒涛のラッシュ…!
多目も負けじと反撃を繰り出すも、少将の『安全カバー』は全てのダメージを遮断し
多目は徐々に車両の隅へと追い詰められていった…!
少将「追い詰めたぜェーーーーーッ!!死ねッ!!」
ゴシャアアッ!!
多目「……殴ったな……?」
少将の一撃が腹部に命中した瞬間……!
多目は真後ろにある貫通扉のノブを引き、もう片方の手でメガホンを構えて叫んだ
多目「『無生物催眠メガホン』ッ!この扉はホームドアッ!!」
ドガァン!
少将「な…何ィィィッ!?」
多目が後ろの扉を開けたことにより
二人は新幹線からほの暗いトンネルに投げ出される形となった
多目「新幹線の中じゃあ明るすぎるから……トンネルに出ることにしたよ……!!」
多目「自分自身の影を良く見てみろッ!!」
少将「!?」
トンネルの僅かな照明によって映し出される少将の影…
その頭部分を新幹線の車輪が次々と轢いていく…!
少将「 」ブシュウウウウウウ・・・・・
多目「僕の……勝ちだ………」ドサッ・・・
命を賭した最後の攻撃…!
多目はとうとう少将を撃破した
しかし、時速数百キロの乗り物から放り出され、地に叩きつけられた衝撃は
多目の肉体に深刻なダメージを与えていた…
多目〈おそらく僕はもう………助からない………〉
これまでの日々が走馬灯の様に頭の中をよぎる…
薄れゆく意識の中、最後に多目が思うこと
それは何も言わずに別れてきた両親のことではなかった
多目〈奴は……『野比のび太』を抹消したと言っていた………〉
多目〈存在を抹消する道具………独裁者を………懲らしめる道具…………〉
多目「もう腕もあがらないけど……バッグに手を突っ込むぐらいなら……」
ゴトンゴトン・・・
のび太「―――――――――――……!?」
のび太は新幹線の中で意識を取り戻した…
のび太〈二人はどこへ行った…?いやそれよりも僕は確か………〉
バッグからデジタル時計を取り寄せ
のび太は時刻を確かめる……
のび太〈今日の日付は……8月5日……ッ!?〉
多目は自分以外にも戦っている者の存在……
つまり自身がその人物の埋め合わせである可能性に気付き
死の直前、『上げ下げくり』を使う事で『独裁スイッチ』の効力が切れる頃まで日付を進めた…
自身が死に、本来戦っていた者が不在の間
敵組織に数日の猶予を与える結果になってしまうのを避けたかったからだ
多目の最期の抵抗…
それは、もう一人の戦う者に対するささやかな優しさであった
のび太〈戻ったときに襲われなかった点から察するに……少将は恐らく『僕の埋め合わせ』に敗れたと見ていいだろう…………〉
のび太〈僕は4日も無駄にしたのか……この4日間は埋め合わせが頑張ってくれていたのだろうか……………?〉
のび太〈それより…みんなは無事だろうか……ちゃんと家へ帰る事が出来たんだろうか……心配だ……〉
のび太は新幹線から抜け出し
タケコプターで都心部へ戻る事にした…
歯車がひとつ欠けたまま全ては元に戻り……
孤独な戦士は人知れず永い眠りにつく……
別の車両にいた乗客も、戦っていたのび太にも
勇敢な決断をした彼の事を知る由も無いのであろう
だが、のび太にバトンを繋いだ彼は確かに存在したのだ……
――8月5日、昼――――――…
瞼の痙攣
そんな日は必ずと言っていいほど良くない事が起こる……
のび太「今日のは特に……嫌な感じだ……」
時刻は昼を回り、のび太が都心部付近に着いた頃
向こうから見覚えのある二人がこちらに近づいて来た……!
出木杉「のび太君!!」
ジャイアン「おおい!!のび太~~ッ!!」
のび太「出木杉……ジャイアン……二人ともどうしたんだッ!?」
のび太を探し駆け回っていたのか
二人とも息も絶え絶えの様子である……
ジャイアン「のび太……無事だったか………!!」
のび太「うん、少将を倒して来たよ……」
ジャイアン「そうか……だけど安心していられねぇ…!!」
のび太「?」
出木杉は先程町で起こった現象を
のび太に説明した…
のび太「空から人や車が次々に落ちてくるだって………ッ!?」
ジャイアン「冗談じゃねぇっつうのッ!あんな光景見てられっかよォーーッ!!」
出木杉「テキオー灯を浴びた人達は問題ないんだけど……それ以外の大勢の市民や車が一斉に空へ向かって飛んでいったんだ……!!」
ジャイアン「今、しずちゃんとスネ夫がテキオー灯を使って地上に残っている人の救援に回っているけど、とても人手が足りねぇ!!」
のび太「ちょっと落ち着いてくれよ……言ってる意味が……」
出木杉「ほら、あれ……!!」
出木杉が指差す先…!
100……いや、200名ともあろう人の大群が空から墜ちて来ていた……!
出木杉「ああやって飛ばされた人々が数分刻みで落下して来ている!!何とかならないのかい!?」
ジャイアン「のび太!!」
のび太「『安全ネット』、この網は墜ちてくる人を自動的に助けてくれる……!」
のび太は『安全ネット』を解き放った
のび太「あの人数なら何とかなりそうだけど……車も墜ちてくるとしたらまだ油断は出来ない……人々を安全な場所に誘導しておいてくれよ!」
ジャイアン「のび太!?どこ行くんだ!?」
のび太「諸悪の根源を突き止めてくる!!」
のび太は都心部へ向かい
走り出した…!
のび太〈これ程の規模の災害を起こせる道具を持つ事が許されるのは恐らく一人………〉
残る敵、『中将』
ドラえもんを除けば最難関の敵である
のび太は今になって
准士官の言葉を思い出していた……
のび太〈下の者に道具を渡す役を任されるという事は道具の編成も好きに任されている………〉
中将は道具の支給係
今まで自分を窮地に追い込んできた部下の殆どの道具編成を任されている事になるのだ……
のび太「部下思いの遠慮した奴だったらいいんだけどなぁ……なんて希望的観測を抱いてもしょうがないか……」
のび太「僕も場数を踏んだ……戦いの駆け引きなら自信はある……!」
次の瞬間――――
のび太の甘い考えは一気に吹き飛ぶ事になる……
のび太「――――――…」
のび太は絶句していた
高層ビルの密集する都心部に足を踏み入れた瞬間
天地がひっくり返ったのである…
のび太「あ…危うく『上』に落っこちる所だった……」
のび太は丁度、横断歩道を歩いていたため
信号機に掴まる事でかろうじて難を逃れていた……
のび太「地球の引力が……逆に働いているのか………?」
のび太「とりあえずこのバッジを付けて元に戻るか…………」
※タテヨコバッジ
使用者のみ、バッジについている針の方向に重力が働く
のび太「……これだけの規模を逆さまにひっくり返す道具なんてあったか……?」
引力ねじ曲げ機など、重力の方向を変えてしまう道具は多くあるが
どれも使用している者にしか効果はない…
自分以外の者に働いている重力の方向まで変える事は出来ないのだ
のび太「周りのものにまで重力の影響を及ぼす道具は『重力調節機』だ……だけどこれは重力の『力』を調整する道具であって『力の働く方向』までは変えられない……」
のび太〈それとも何だ?道具の使い方次第で重力の方向まで変化させる事が出来るのか?………しかしどうやって……〉
のび太「実際にどういう使い方をしているのか見てみないとわからないな……早く探さなければ……」
のび太「…………………」
のび太はふと先の一戦を思い返す……
ドンブラ粉の被害を食い止める為、町に誘き出されたのび太は
敵の待ち構える新幹線まで選択肢を迫られ、追い詰められてしまった…
そして現在…
考えてみればこの町の状況も
のび太を誘い出す故である……
のび太〈相手が先に動いている以上……このまま敵の思惑通り動けば僕は間違いなく後手に回る事になる……〉
のび太は新たな出方を考える為
長考にふける……
敵の手に対し
何とか奇策を打って出る事は出来ないだろうか……
これまでの経験をもとに
敵が持つ自分の情報を冷静に分析した…
のび太〈中将は恐らく……僕の事を『石橋を叩いて渡るタイプ』だと認識しているだろう……〉
ここに至るまで数々の一撃必殺の采配を凌いできたのだ
あらゆるリスクに警戒し、安全でなければ余計な手段は一切選択しない……そう思われているに違いない
これは自惚れでも何でも無く
相手が抱く正当な評価であろうとのび太は自負していた
その先入観を利用して
のび太はあえて大胆な行動に出る……!
『重力調節機』を奪うべく
取り寄せバッグに手を突っ込んだのだ…!
のび太〈まさかこのタイミングで道具を直接奪ってくるとは思うまい……!〉
敵の姿を一度も目視せず
あえて対策されているであろう手段を選ぶのび太
のび太〈たとえ失敗したとしても……この手段は試しておいて損は無い……!〉
のび太「――――やっぱり取れないな……手を伸ばそうにも何か強い力で押し戻されてしまう………」
相手も深読みしていたのか……
無難な防衛策を施していただけなのかはともかく
これでまた一つの指針が出来た
のび太「つまりこの街が逆さまになった原因は『重力調節機』によるものであり、敵にとって『重要』な道具という事……!」
片腕を切り離す覚悟で道具の奪取を試みたのび太にとって
何の被害も無く、敵の攻撃の要が判明しただけでも充分であった
取り寄せバッグから腕を引っ込めるのび太…
その腕の先…
バッグの中から数十ともあろう小さな眼が
のび太を見つめていた……
忘れもしない裏山での出来事…
のび太の片腕をすり潰していった道具……
のび太「『玩具の兵隊』――――――ッ!?」
『重力調節機』を守っていた玩具の兵隊が腕を伝い
こちらへやってきたのだ……!
のび太「体ごと引きずり込むのでは無く、僕の元へと送り込む作戦に出たか……ッ!」
しがみついた玩具の兵隊達は
徐々にのび太の腕を上っていく……!
のび太「だけどこれは良い手じゃあないな……」
玩具の兵隊達が肩までよじ登ってくる中
のび太はあくまで落ち着いていた
のび太「今は僕以外の重力が逆に働いているんだ。必死にしがみ付いている兵隊等が僕の腕を攻撃することはまず無い……」
のび太「タテヨコバッジを付けている僕とは違い、『空』に落っこちてしまう可能性があるからね。」
のび太はよじ登る玩具の兵隊を
指でつまみブチブチと捻り潰していった
のび太「一体一体がこのスピードなら僕のスーパー手袋の力で処理できる。」
安心していたのび太に
またしても予期していない出来事が襲う……!
逆立ちするように腕にぶら下がっていた無数の兵隊達が
うつ伏せに倒れこんだ……!
のび太「……逆に働いていた重力が……元に戻ったのか!?」
脅威再び……
兵隊達が一斉に体勢を立て直し、整列する
のび太「この絶妙なタイミングでの重力方向転換!!これは……!!」
のび太〈敵はどこかで僕の様子を伺っている――――――ッ!?〉
襲いかかる兵隊の群…!
丁度その中の一体が飛びかかり、のび太の頬を蹴り飛ばした!
のび太「おうふッ!?」ブシュウウウウ……
あまりの脚力に頬の一部が削り取られ
肉片が飛び散る…!
のび太〈『がん錠』で鉄の硬度を保っているのに……ロボットってのは加減を知らないらしい………!〉
のび太はふと周囲の異変に気付く…
自身の周りを大きな影が覆っていた…
のび太「うおォォォォォォーーーーッ!!?」
見上げるとコンテナ搭載のトラックが
のび太の目の前まで迫っていた…!
のび太〈『玩具の兵隊』はブラフ……本命はこっち――――――ッ!?〉
重力の方向が元に戻った事により
空高く上げられていた車が次々と地上に落下していたのだ…!
のび太「 」ゴシャアアッ!!
コンテナは玩具の兵隊ごとのび太を押し潰した……!
のび太「……我ながら『石橋を叩いて渡る』って自己分析は間違っちゃいないな………」
落下物が押し潰そうとする直前……!
のび太は例の如く『液体』となって難を逃れていた……!
もしもの時を想定し
のび太はバッグに手を突っ込む際、サンタインを口に一粒含んでいたのだ
のび太「恐ろしい敵だ……貴重な玩具の兵隊達を犠牲にしてまでこのような手段に出るとは…………」
のび太「『サンタイン』はこの二粒で最後、か………」
度重なる戦闘で使い続けたサンタインもとうとう底をついてしまう……
今後、危機に陥ってもこの道具に頼る事は出来ない……
のび太は最後の二粒を頬張り実体に戻った
?「成程、判断が良い……部下が全滅させられる訳だ…」
のび太「誰だ………!?」
のび太が振り返ると一人の女性が佇んでおり
その頬には『中将』のワッペンが貼られていた……
のび太「お前が………『中将』……!!」
中将「始めまして……と言っても、お互い自己紹介はいらないわね……」
カタカタ……カタカタ……
のび太〈何の音だ………!?〉
足元に目をやると
コンテナに潰されてもなお身体を引きずりながら
のび太へ攻撃を仕掛けようとする無残な兵隊達の姿があった……
中将「大した執念ね……まるでゾンビの兵隊……」
のび太〈くっ………!〉
のび太は『通り抜けフープ』を使い
自身を押し潰そうとしたコンテナの内部に入り込んだ
中将「………?」
ーコンテナ内部ー
のび太「今の兵隊達が僕を脅かす事は無いだろう……」
のび太「しかし『中将』相手にこのまま放って置いたんじゃ何をしでかすかわからないぞ………だからその前に…!」ゴソゴソ…
のび太「これで良し……!」
のび太はバッグから
ガソリンの入ったポリタンクを取り寄せ、中身をブチ撒けた
のび太「そしてこのタケコプターを装着して準備完了……!」
のび太「残りの兵隊にとどめ&中将へ奇襲だ……!」
のび太はガソリンを垂らしながら
通り抜けフープでコンテナの上へ抜け出した
のび太「これでもくらえ!!」
中将「!!」
のび太はバッグから取り出したニトログリセリンの入った瓶を
上空からコンテナへ落とす……
トラックは瞬く間に燃え上がり
大爆発を起こした!
ゴオオオオオオオ・・・・・・
のび太「目の前でこれだけの大爆発が起きたんだ……ただでは済まない筈…!」
中将「それはあなたにも同じ事が言えるわ。」
のび太「―――ッ!?」
声のする方へ振り向いたその時
爆風で吹き飛ばされた残骸のいくつかが
のび太に命中した!
のび太「ーー~~ッ!!」
中将「打撲程度で済むなんて……どうやらかなりの防御力を持っているようね……」
中将〈それにこの男、『重力調節機』の影響を受けていない……何か重力の方向を操る道具で中和している……〉
のび太「……何だこいつは?……宙に浮いてる………!?」
のび太「そうか!この辺りを無重力にしたんだな!?通りでここまで破片が勢い良く飛んでくる訳だ………!」
中将「そういう事……!」ヒュッ!
のび太「うわっ……!!」バシャッ!!
のび太に液体が投げつけられた!
のび太「クソッ!!目潰しか……!!」ゴシゴシ…
中将「お気に召さないなら……この『重力調節機』を奪ってみる?」
中将は空高く『重力調節機』を放り投げて
そのままどこかへ飛んで行ってしまった…
のび太〈迂闊な奴め………!!〉
のび太は視力を取り戻すと
取り寄せバッグで『重力調節機』を取り寄せた
のび太「このまま壊してしまってもいいけれど……上空に飛んでいってしまった人達はどうなったんだ?……まさか全員墜ちてしまって……」
しずか「のび太さ~~ん!!」
下を見下ろすと
しずかとスネ夫の二人が手を振っていた
のび太「二人とも!無事で何よりだよ!」
スネ夫「凄い爆発音がしたから急いでこっちに来て見たけど…やっぱ誰かと交戦中だったみたいだね」
のび太〈そうだ!玩具の兵隊は壊れたんだ……今、ドラえもんの『苦手つくり機』を破壊すれば………!〉
のび太はバッグに手を突っ込むが
『苦手つくり機』を取り寄せる事は出来なかった……
のび太〈『しずめ玉』だな。やはり、二度と弄れない様に沈めている……この分だと『なくし物取り寄せ機』も恐らく……〉
スネ夫「ところでのび太、その手に持っている体重計みたいなのは何だい?」
のび太「ん?ああ……これは『重力調節機』といって……そうだ。二人ともお願いしていいかい?」
のび太はこれまでの経緯と
これからの目的を簡潔に述べた
しずか「……つまり住民を救助するまで、この『重力調節機』のスイッチを切らないほうがいいわけね?」
のび太「中将を不利にさせる為にも本当は今すぐスイッチを止めたいけど……まだ助かっていない人もいるからね。じゃあ二人とも頼んだよ!」
『重力調節機』を二人に託し
のび太は先程飛んで行った中将の後を追った
のび太「追いついた……!」
中将「『重力調節機』より私を優先した様ね……フフッ……嬉しいわ……!」
のび太「…あいにく無重力だろうと僕には何のデメリットも無いんでね……!」
中将「へぇ……腕に覚えがあるみたいだけど……!」
中将は『空手ドリンク』を飲み干した……!
※空手ドリンク
飲むと体が鉄のように頑丈になる
また、素手で空き地の土管を粉々に砕く程の力を得る
中将「これでお互い攻撃力も防御力も互角ね……勝負ッ!」
中将は飛びかかりざまに放たれたのび太の拳をかわし
その姿勢から脇腹目掛けて回し蹴りを放つ…!
のび太「ぐッ……!」
思わぬ動きに翻弄され
体勢を崩すのび太…
続いて中将は深く身を屈め、のび太の懐に潜り込むと
顔面に強烈なハイキックを繰り出した…!
中将「あら、女だからって加減しなくても結構よ!!」
のび太「何を……おうッ!?」
無防備となった胸部に間髪を入れず肘打ちの突進攻撃…!
そのままのび太を壁まで打ち付け、突込絞で首を締め上げる…!
のび太〈い……息が……苦しいッ!!〉グググ…
のび太はもがきながらも拳を振るい
背後の壁を全力で打ちつける……!
中将〈ヒビを入れて逃げるつもりね。だけど……!〉
暴打の衝撃により壁の一部が崩れた瞬間……!
中将はのび太の顔面を即座に掴み上げ
壁を抉るようにゴリゴリと押し付けながら移動した……!
のび太〈だ……だめだ……このままでは………!〉
獅子奮迅の如く……
中将の猛追は終わらない
ぐったりしているのび太の体勢を無理矢理起こすと
無重力に身を任せ、空高く飛び上がった……!
高い位置まで来たところで
中将はのび太に関節技<サブミッション>を仕掛ける…!!
中将「あなたは無重力の影響を受けていない……このまま行けば普段通り地面に叩きつけられる事になるわ……!」
のび太〈この高さはまずいな……落ちるわけにはいかない……!〉
中将「な……何!?」
のび太の片腕が
車ほどの大きさに変化する…!
のび太「手を出せず暇だったんでね……『からだポンプ』を取り付けていたのさッ!!」
中将「足掻くなッ!」
中将がすかさず『からだポンプ』の吸盤を弾き
のび太の腕は徐々に元に戻っていく……!
しかしこれで関節技から解放され、片腕が自由に動かせる様になったのび太は
胸についた『タテヨコバッジ』の針をでたらめに動かした!!
右から左へ……左から右へ……
舵取りの利かない死のジェットコースターが徐々に高度を落とす……!
中将「こんな脅しが私に通じるとでも……!」
のび太「脅してなんかないさ…自分の背後をよく見てみろ!!」
中将「!?」
勢いのついた両者の身体は
ビルの側面に向かって突き進んでいた……!
中将〈しまった……ここは離脱を……!!〉
のび太「させるか!お前が後ろだ!!」ガシッ!
掴まれた腕を振り解こうと中将が懸命に手刀を繰り出すも
のび太はその手を緩める事はない……!
両者激しい攻防の末
中将を壁にしてビルの側面と激突!
しかし、それでもなおジェットコースターは続く…!
そのまま削られるように下へ下へと叩きつけながら両者は落ちていった……
地表に辿り着く頃……
のび太は中将の束縛からとうとう解放された
のび太「ハァ……ハァ……今のはかなりダメージがあった筈だ!!」
中将「お……お互い様よ……!」
終始戦局を圧倒していた中将が地に伏せている……!
チャンスがあるとすれば今しか無い……!!
のび太は身体を休める事なく
中将に渾身の一打を繰り出した……!
のび太「うおォォォォォーーーーーッ!!」
中将「―――――――――……ッ!!」
ゴキィッ!!
のび太「…………痛ッ!!」ビキビキビキ…
中将「フフッ……拳の砕ける音がしたわ……!」
中将は即座に身を立て直し
のび太の拳を膝蹴りで迎撃して見せた……!
のび太〈何て重たい攻撃だ……体格は僕と殆ど変わらないのに……それにこの反応速度は……!!〉
中将「女だからって嘗めていた様ね……こんな身体だけどインナーマッスルだけなら私はボディービルダー級よ………!」
のび太「インナーマッスル…………!?」
インナーマッスル
体の内側の筋肉の事を指す
体の外側の筋肉(アウターマッスル)が大きな力や持久力をつかさどるのに対し
インナーマッスルは反射神経等をつかさどる
また筋肉の動きや関節の働きを補助する役割がある
のび太〈聞いた事あるぞ……確か鍛えるのが難しいと言われる筋肉……!〉
のび太「無重力化での変則的な戦法は……その筋肉が可能にしているという事か……!?」
中将「絶望的な身体能力の差を実感できた?」
のび太「くっ……!!」
中将「あなたがこの場にいるという事は、いくつもの道具を看破してきた事になるわけだけど……」
中将「この劣勢な状況……私に対してはどんなミラクルで凌ぎ切るつもりなのかしら……?」
のび太は取り寄せバッグから
バイオリンを取り寄せた…!
中将「肉弾戦の望みは捨てて今度は自棄……?」
のび太「情けないが……戦闘技術<マーシャルアーツ>に関しては君の方が遥かに上だ……!!」
のび太「……だから君の戦闘技術に対し……僕は『知恵』で挑む………!!」
中将「知恵、ね………で、そのバイオリンでどうやって戦うというのかしら……?」
のび太は自分のタテヨコバッジを外し
バイオリン本体ではなく弓にそれを取り付ける…
のび太「こんな物でも……何が出来るか考えるのが『知恵』ってもんだよ……!」
中将の真上に
バイオリンの弓を放り投げた!
中将「――!?」
のび太「今だッ!!」
のび太はバイオリンの弓に『もどりライト』を照射…!
バイオリンの弓は徐々に『原料』へと姿を変える……!
中将「これはッ!?」
のび太「『ヒゲクジラ』まで戻ったッ!!潰れてしまえッ!!」
体長30メートルともあろうクジラが
中将に圧し掛かった!
ズシーーーーーン・・・
のび太「やった……!!」
のび太「……厄介な相手だった……!」
緊張の糸が切れたように
尻餅を着くのび太…
空を見上げると
そこには軽トラックを持った中将が目の前まで迫っていた…!
のび太「ゲェェーーーーッ!?」
中将「今度はあなたが避ける番よッ!!」
ゴシャアアアアッ!!
のび太「ハァー……ハァー………!」
中将「無重力下のおかげでとっさに身体が動かせた様ね……!」
のび太〈さ……さっきのクジラは決定打だった筈だ……あの攻撃を回避できる方法はひとつ……!〉
中将の頭の上には先程まで無かった
『エスパー帽子』が被せてあった!
のび太〈やはり……ッ!!『瞬間移動』でかわしたんだッ!!〉
※エスパー帽子
被ることで透視、瞬間移動、念力の3つの超能力が使えるようになる
のび太〈無重力下なら『エスパー帽子』に全神経を集中させる事で……町の人達や車を『念力』で空へ飛ばす事も可能という訳か……〉
のび太「こんな物………!」
のび太は取り寄せバッグで『エスパー帽子』を奪い取り
紙クズの様に丸めて押しつぶした…!
中将「やけに焦っている様だけど大丈夫……?」
のび太〈そりゃあ焦りもするさ……!〉
中将の戦闘技術に圧倒されるばかりで
まだ道具を三つ程しか使わせていないのだ……!
のび太〈今までの目安から推測すると……中将はあと二つか三つ道具を持っている……!〉
今度は取り寄せバッグで
『車』を取り寄せるのび太…
のび太〈やはり……無重力空間が功を奏した……スーパー手袋さえあれば片腕でも『車』を取り寄せられる……!〉
中将「まるで帽子から鳩を出すマジシャンね……」
のび太「そして『ゾウ印口紅』……これを唇に塗れば上唇がゾウの鼻のように扱える……!」
のび太は『ゾウ印口紅』で生えた鼻で建物の柱を掴み
車を投げる体勢に入った……!
のび太「この柱を軸足にして、遠心力を加え……車を放つッ!!」ブンッ!
中将〈速い…!〉
のび太〈この一撃で……残りの道具を炙り出してやる……ッ!!〉
のび太「……!!」
中将「あなたがマジシャンなら……私は本物の魔法使いってところかしら……?」
のび太の投げつけた車は
中将の手前でピタリと静止していた……!
のび太「まいったな……『エスパー帽子』を壊したにもかかわらず……手も使わずに車を止めてしまうなんてね………」
中将「……その割にはあまり驚いていない様だけど……!」
のび太〈………手を使わずに物体を止めるとすれば……やはり念力(テレキネシス)以外にないだろう………〉
のび太〈そしてこの中将は……『玩具の兵隊』を囮にしてコンテナで押し潰す様な戦法を得意とする……つまり………〉
のび太「『エスパー帽子』をあえて破壊させて油断した所を……事前にさしていた『念力目薬』の力を使って奇襲ってのが僕の見解だけど………!」
中将「へえー、当たり…ッ!」
中将はそのまま車を念力で操り
のび太に向けて放り返した!
のび太はゾウの鼻を駆使し
車をかわす……!
のび太「君の道具の秘密が段々と解けてきたぞ……!」
中将「あら、そうかしら?」
のび太「……?」
中将「渇ッ!!」
中将が大きく息を吐いた瞬間!
避けたはずの車がバラバラに分解した!!
のび太「うわッ!?」
飛散した車の部品が
のび太を容赦なく襲う……!
のび太「………ッ!!」
中将「一方向に物体を移動させる念力(テレキネシス)も……多方向に力を分散させれば爆弾の様に物を扱う事だって出来るわ……!」
テレキネシスの一種
いわゆる念分裂〈サイコクラッシュ〉と言われる物である
中将は車を放った後、急激に息を吐く事によって横隔膜を収縮…
瞬間的に血圧を上げる事で念力を分散させ、念分裂〈サイコクラッシュ〉を発生させたのだ……!
のび太「だけど肝心の威力は疎か……これじゃあただの出来の悪い花火だ…………」
のび太の言う通り
飛散した部品のダメージは
致命傷には遠く及ばないものであった
中将「……どうやらあなたの事を少々買いかぶり過ぎていた様ね……」
のび太「………?」
中将「自分の身体をよく見てみなさいッ!!」
のび太「………えッ!?」
飛散したボルトやネジ等の細かい部品……
それだけでは無く
細かい金属の欠片やコンクリートの岩片……
本来なら動いている内に落ちる程度の物から
明らかに許容量をオーバーした握りこぶし程の石までもが
のび太の衣服に付着していたのだ……
中将「戦いに気取られて全く意識していなかった様ね……」
のび太「何だ……これ……一体どうなって………?」
中将「私が『重力調節機』を放り投げる前から既に……戦いは始まっていたのよ……!」
のび太〈『重力調節機』を投げる前……?確か僕は目潰しを喰らって……『目潰し』………?〉
のび太「ま……まさかあの液体は………」
中将「そう……『重力ペンキ』よ……!!」
※重力ペンキ
これを塗った部分に重力が働く様になる。壁などに塗ればそこを歩く事も可能。
中将「衣服や身体に付着した『重力ペンキ』は……あなたが動いている間、この無重力に浮かぶ様々な破片〈デブリ〉を吸い寄せた……!」
のび太「………!!」
中将「そして……これが私の奥の手……ッ!」
中将は『おもかる灯』を取り出し
のび太に向けて照射した!
のび太「何を………ッ!?」
中将「あなたに付着した破片〈デブリ〉は『おもかる灯』によって徐々に質量を大きくするッ!」
のび太「うッ!?」ミシミシミシ…!
付着した破片は重量を増し
のび太の肉体に深くめり込んでいく……!!
中将「……まるで人間の重みに耐えられなくなった地球ね………そのままミンチになるといいわッ!」
のび太「……ふふ……くっくっく……!」ズブズブズブ…
中将「……ッ!?」
のび太「あっはっはっはっは……!」ブシュウウウ……!
中将「き、気でも狂ったの……!?」
のび太「計画通り……!!」
中将「なんですって……ッ!?」
のび太「しぶとく喰らい付いて君の切り札を搾り出すのに専念していたのさ!」
のび太はバッグからメガホンを取り出し
口に当てて叫んだ…!
のび太「『無生物催眠メガホン』ッ!!僕に食い込んだ破片は全て……僕の細胞になるッ!!」
のび太に食い込んだ破片の傷が
徐々に治癒していく…!
中将「な……なんて奴なの……ッ!!」
のび太「それより気付いたかい……周囲の異変に……!」
中将「異変……ハッ!?」
あらゆる方位から
何か大きな物が落下したような轟音が響く……!
のび太「『重力調節機』が止まったんだ……重力が元に戻ったッ!」
のび太「君が僕に足止めされている間に、僕の仲間が上空に飛んで行った市民の救助をしてくれた……それが今、終わったんだ!」
中将「まさか……時間稼ぎをしていたとでも言うの……っ!?」
のび太「そう、時間を稼ぎながら………万が一逆転される事の無い様に君の切り札を先に見せてもらった……!」
中将「へぇ……まるで何時でも私を倒せたかの様な口ぶりじゃない……!」
のび太「ああ、いつでも倒せたさ……!」
中将「……っ!?」
のび太「だけどこの手段は君の事を思うとあまりに不憫でね。他の方法で君を倒せないか幾つか考えた………!」」
のび太「しかし君の戦闘技術だけは正直、計算外だ……だから、やはり当初の方法で君を裁く……ッ!」
のび太が指差す先……
中将の肩に『玩具の兵隊』がぽつりと乗っかっていた……!
中将「これはっ!?何時の間に!?」
のび太「その『玩具の兵隊』……壊れた内の一体だけ回収して『魂ふき込み銃』で操った物だ……ッ!」
※魂ふき込み銃
自分の魂の半分を対象に吹き込むことで、もう1つの体のように対象を意のままに動かすことができる
のび太「戦いは……終わりだ……!!」
中将「!!」
玩具の兵隊は手に持っている武器を
中将の首筋に突き刺した!
中将「あ……ああ……………!」
のび太「勝負あった……!!」
中将が『重力ペンキ』を投げつけるより前……
のび太は既に戦いを仕掛けていた!
コンテナ内部に逃げ込んだ際
壊れた『玩具の兵隊』の一体を取り寄せバッグで回収し『魂ふき込み銃』を撃つ……
その後、接近戦に乗じて
武器を持たせた『玩具の兵隊』を中将の衣服に忍ばせていたのである……!
中将〈そ……そんな………!〉 ドクン… ドクン…
のび太〈君の『今後の事』を思うと可哀想だが……これしか手はなかった………〉
中将「『玩具の兵隊』は………私に何を刺したの……?」モジモジ…
のび太〈……戸惑っているな。無理もない……何故なら今の君は『玩具の兵隊』に―――…〉
中将「一体何を刺したの!?あ、こらッ!?待ちなさい!!」がしっ!
のび太「は……離せッ!いでで…ぐるじい……」
中将「さぁ!『玩具の兵隊』が私に刺した物は何だったの!?言いなさい!!」
のび太「きゅ……『キューピッドの矢』……だよ……!!」
中将「………え?」 ズキュウウゥゥ―――z___ン!
のび太「『キューピッドの矢』!テレビでも恋のキューピッドが云々って言うだろ!あれと一緒だよ!」
中将「な……ッ!?///」カァァ…
中将「何て事するのよッ!?信じられないッ!!」
のび太「だから言っただろう!?僕は必死に悩んだ!!だけど君を止める方法が思いつかなかったんだよ!!」
中将「さっきの……ゾウの鼻を出す道具とか使えば、私を絞め殺す事ぐらい出来たでしょう!?」
のび太「いや……その……君だって苦しいのは嫌だろ………?」
中将「……ッ///」ボッ
のび太〈何にしても…これで彼女は『玩具の兵隊』にメロメロの筈だ。これ以上暴れる事は無いだろう………〉
のび太は『魂ふきこみ銃』から息を吸い込み
『玩具の兵隊』に宿った魂を回収した
のび太〈……これからは野蛮な命令を受ける事無く、その玩具の兵隊と共に自由に生きていくがいい……!!」
中将「ま、待ちなさいよ!」グイッ!
のび太「!?」
中将「こんな場所に……か弱い女の子一人を置いてどこへ行く気!?」
のび太〈……な……何言ってんだコイツ……?ちゃんと兵隊はここに置いて……〉
中将「っ!」ゲシッ!
のび太「おぅふ!」
中将「せ……責任……とってよね……!///」
のび太「責任………!?」
のび太〈まさか……玩具の兵隊が壊れた事を根に持っているのか……!?〉
のび太〈大体コンテナを落としてきたのはそっちだろ!?……女ってのはみんなこういう生き物なのか……!?〉
のび太〈……しかし『キューピッドの矢』さえなければ彼女は人形にこんな想いを抱く事も無かったのか……う~ん……〉
のび太「そりゃあ…お互い悪かったけどさ……どうしようもなかったじゃないか……」
中将「だ、だから責任とってって言ってるじゃない……!」
のび太〈まいったな~……壊れた未来デパートの道具は『復元光線』や『タイム風呂敷』でも直せないというのに……〉
のび太「……君はどうしたら許してくれるんだい?」
中将「……え?ちょ……ちょっと何よいきなり!それを私に言わせるわけ!?」
のび太「だって責任とらなきゃ」
中将「あ……うぅ……///」ドキドキドキ…
中将〈あああ……なんでこんな奴にドキドキしちゃってるのよ……!〉
中将〈そうよ!所詮道具の力……!この男は私を誑かそうとしているんだわ……!〉
中将「そ……そうね……じゃあ証明してみせてよ………!」
のび太「証明?」
中将「私達の仲が…本物かどうか……」
のび太〈だから一人になれる様に気を使ってるのに……もしかして人形遊びしてる所を覗かれるのが嫌で僕に釘をさしているのか?〉
のび太「……君の言いたい事はよーくわかったよ。」
中将「えっ?〈ど……どどどどうしよう……まだ心の準備が……!///〉カァァ…
のび太「それじゃ、僕はこのへんで御暇させてもらうよ。」スタスタスタスタ……
中将「…………へ?」
のび太〈ふう……やっと開放された……〉
中将「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」がしっ!
のび太「!?」
中将「やましい気持ちが無いのはわかったけど普通そこまでする!?」
のび太「だって証明しろって……!」
中将「証明しろって言ったけど、もっと他にも色々方法があるじゃない!?」
のび太「ー~ッッッ!???」
のび太〈馬鹿なッ!?僕は離れる、彼女は人形と一緒、今のはお互い最良の選択だったはずだ……!〉
のび太〈先程から奴は僕が射程圏外に出るのを異常に恐れている……!〉
のび太〈考えられる理由は恐らく……まだドラえもんによる『洗脳』が解けていないという事……ッ!!〉
のび太〈考えてみればこの中将が得意とする戦法は『何かを囮にして油断した所を一気に叩く』……いわば陽動戦術!!〉
のび太「先程のコンテナの一撃や『念力目薬』での攻撃から推測すると………つまり……!」
のび太〈人形を好きだと思わせておいて、その一連の所作は『フェイク』!!実際は僕の隙を伺っている……ッ!?〉
のび太〈『桃太郎印のきび団子』と『階級ワッペン』の効力が『キューピッドの矢』の効果を打ち消してしまった、という事なのか……!?〉
のび太は嘘発見器を取り出し
中将に向けた……!
のび太「君は今もドラえもんに忠誠を誓っているのかッ!?」
中将〈と、突然何よこいつ!私にあんな矢を刺しておいて……そこまで自分の事をどう思ってるか言わせたい訳!?///〉
中将〈それとも……はは~ん、さては嫉妬してるのね?〉
中将「そ、そうね…!私にとってボスの命令は絶対よ!!」 ブブー!
のび太〈嘘発見器が反応した!…という事は『洗脳』は解け、『キューピッドの矢』の効果を受けている……思い過ごしか……?〉
のび太〈とすれば……やはりどうあっても兵隊を壊した責任を僕にとらせたいらしいな……困ったぞ………〉
中将〈ふふん、ショックを受けている様ね……さっきのお返しよ…!〉
中将〈………でもちょっと言い過ぎたかしら……だ、だめじゃない…これじゃあせっかく近づいた二人の距離が……〉
中将〈でも……でも……!ああああああああどうしよどうしよーーー!〉
のび太「わかった……責任は取るよ。だから少しの間待っててくれないかい?」
中将「…ひぇ?」
のび太「今すぐには無理なんだ……だから……」
中将〈そ……それってつまり……それってつまり………!〉
のび太「時期がくるまで我慢出来るかい?」
中将〈そ……そうよね……考えたら私達まだ10代前半よ………!〉
中将「わかったわ…!その代わり……忘れたら許さないんだから……っ!」
のび太「ありがとう……!」
中将〈………っ!///〉ボッ
のび太〈こればかりはタイムマシンがないと修理も出来ないからなー……〉
のび太〈とにかく一件落着だ……みんなと合流しないと……!〉
中将「……」ジーッ…
のび太「ん?」
中将〈っ!///〉ジーッ…
のび太〈な……なんだ!?まだ何かあるのか……!?〉
中将「き、気付きなさいよ……」ボソ…
のび太「へ?」
のび太〈そういえばさっきから『玩具の兵隊』を拾おうとしないな……〉
のび太〈『玩具の兵隊』にトラップが張ってあると警戒しているのか……?〉
のび太は壊れた玩具の兵隊を拾い上げ
中将に差し出した……
中将「……何よ」
のび太「ほら、何ともないだろ?あげるよ」
中将「あ、アンタってデリカシーの欠片も無いのね!普通渡す!?」
のび太「あ、ああゴメン……〈じ……自分で拾うつもりだったのか……?〉」
中将〈……ったく、こんな薄気味悪い人形拾って渡すなんてどういう神経してるのかしら……〉
中将〈でも……さっそく貰っちゃった……プレゼント………〉
中将〈考えてみれば……この人形があったから………今の私達があるのよね………〉
中将「………///」ギュッ・・・・
のび太〈やはり……『玩具の兵隊』にただならぬ愛着を示している様だ………〉
のび太「………」スタスタ…
中将「………」テクテク…
のび太「………!?」クルッ!
中将「………」ジーッ…
のび太〈ま……まだ着いてくる!?どうなってんだッ!?〉
のび太〈………これ以上僕に付きまとう理由があるとすれば…………!!〉
中将〈な……何よ~人の顔ジロジロ見て……今更私のサインに気付いたって……///〉ドキドキドキ…
のび太〈こいつ……僕の『取り寄せバッグ』を奪うつもりだッ!!〉
のび太〈僕が遠くから『玩具の兵隊』を奪う可能性を潰そうとしているんだ………それしか考えられない!!〉
のび太〈何という人形への執着心だ…!!完全にイッちまってる……ッ!!〉
「おお~い!のび太~~!!」
遠くから呼びかけるジャイアンの声
救助に出ていた四人が戻って来たのだ
のび太「みんな!!無事だったか!!」
中将「……?」
しずか「こっちは何とか区切りがついたわ。」
ジャイアン「それより敵はやっつけたか!?」
のび太「そ…その事なんだけど………」
スネ夫「……ところでそっちの女の子は誰だい?」
中将「え……ええと私は……」
出木杉「え……!?」
全員がほぼ同時に
中将の頬に貼られているワッペンに気付いた……!
のび太〈しまった!!剥がすのを忘れてた!!〉
しずか「これって……!!」
ジャイアン「おい!どういう事だよのび太!!」
しずか「のび太さん……何か複雑な事情があるんでしょう?」
のび太「彼女は……さっきまで中将だった。だけどもう洗脳が解けたから……」
ジャイアン「洗脳が解けたから何だ!?こんだけ町に被害を出しておきながら……沢山の人を殺しておきながら関係ねぇことあるかよ!!」
スネ夫「そうだぞ!救助だってどれだけ大変だったことか!」
中将「被害……人殺し……………?」
出木杉「ちょっと二人とも落ち着いて!……大体僕等だってワッペンを貼られてたじゃないか。」
スネ夫「まだこの女にはワッペンが貼ってあるじゃあないか!それに『中将』だぞ!?わかったもんじゃない!!」
中将「違う……私……違うもの…………」
ジャイアン「おい!とりあえず取り押さえとかないと……!」
中将「……いや…………やめて……!」
スネ夫「のび太。もしかしてお前……洗脳されたんじゃあ………!」
のび太「な……何を……何をバカな事言ってるんだ!?どうしたんだ二人とも!?」
出木杉「無理もない……町であんな転落死体の山を見たんだ……元凶と会った事で二人とも恐慌状態に陥っている……!」
ジャイアン「悪いけどよ……しばらくの間拘束させて貰うぜ………!」
中将「やめて……いやあああああああああ!!」
パァン!!
ジャイアン「 」ピューピューッ…
スネ夫「へっ?」
ジャイアン「」ドサっ・・・
スネ夫「ジャ……ジャイアン?」
のび太「え…………!?」
その場にいた誰一人もが
現状を飲み込めずにいた……
ジャイアンの頭部が突然
無残にも弾け飛んでしまったのだ……!
出木杉「あ……ああ…………!!」
しずか「うそよ……たけしさん……?」
のび太〈まさか……念分裂!?彼女が……!?〉
スネ夫「ま……魔女だ!お前がやったんだ!!」
中将「違う!……私じゃない!……私じゃない!」
横たわったジャイアンの体が
次々に弾け飛んでいく………!!
しずか「もう嫌よ……やめてええええ!」
のび太「う……うう………!?」
出木杉「のび太君……い……今の見たかい………!?」
のび太「……え?」
出木杉「この中でかろうじて平常を保っているとすれば君だけだ……落ち着いて……よく落ち着いて聞いてほしい……!」
出木杉「ジャイアンに……『小型のミサイル』が着弾したんだ……!!」
のび太「小型……ミサイルだって………!?」
出木杉「『小型のミサイル』が高速で飛来してきた……心当たりは!?」
のび太「………!!」
出木杉「僕の恐慌状態による幻覚じゃなければ早急な対策が必要になる!!このままじゃ全滅だぞのび太君!!」
小型ミサイルを有し
残っている敵……
該当する者は一名しかいない……!
のび太「まさか………!?」
ドラえもん「のび太くんご苦労様。」
スネ夫「うわああああああああああああああああ!!!」
最初に大声を上げたのはスネ夫だった
中将やのび太に半信半疑を抱いている状況の中
この戦いの元凶となる者が現れたのだ……
彼の頭の中の欠けたピースが埋め合わされ
のび太達とは別の解が導き出される……!
ドラえもん「のび太君。僕らの計画通りだね^^」
のび太「は………!?」
スネ夫「やっぱり!!やっぱりだ!!!」
出木杉「スネ夫君……!?」
スネ夫「お前達……!グルだったんだな!?」
のび太「スネ夫……!?」
スネ夫「だ、だっておかしいじゃあないか!?何でのび太と中将とドラえもんが平然とそこにいるんだ!!」
ドラえもん「バレちゃあしょうがない。」
のび太「ドラえもん何を言って……!?おいスネ夫!!耳をかしちゃ駄目だ!!」
ドラえもん「いつも君とジャイアンがのび太君を虐めるからね。僕等でじっくり懲らしめてやろうと思ったんだ」
スネ夫「うわああああああああ!!」ダッ!
しずか「スネ夫さん!!」
のび太「スネ夫!!」
ドラえもん「逃がさないよ……!」 パァン!
無敵砲台のミサイルが飛来し
スネ夫の足に直撃した…!
スネ夫「ぎゃあああああ!!痛いよ!!ママーーーーーーーーーッ!!!」
ドラえもん「ウフフフフ。」
ドラえもん「『らくらくシャベル』~!」てってれっててってってーー
※らくらくシャベル
どんな硬い岩や地面でも、豆腐のように簡単に掘ることのできる道具
スネ夫「助」スパァン!!
ドラえもん「ウフ、ウフフフフフ。」ザクッ!ザクッ!ザクッ!
頭を刎ね、崩れるようにして倒れたスネ夫の肉体を
ただひたすらにシャベルで削り取っていくドラえもん……
その腕に貼られた『大将』の階級ワッペンが返り血を浴び
みるみる内に赤く染まっていった……
中将「あ………」
出木杉「は……はは…………」
しずか「いやあああああああああああ!!」
のび太「スネ夫ーーーーーーーッ!!」
ドラえもん「さて……」クルッ!
のび太「ッ!!」ゾクッ…
のび太達の方へ振り返るドラえもん…
その表情に情けの二文字は無く
全てを破壊し尽くさんと言わんばかりの殺気に満ち溢れていた…!
ドラえもん「次は裏切り者の番だ……出木杉か……中将か………!」
出木杉「……!」
ドラえもん「ターゲット補足……!」
しずか「中将さん……貴方の名前を教えて……」
中将「私の……名前…………?」
ドラえもん「無敵砲台発射ッ!!」
ドゴオオオオオオン・・・・・・
しずか「残念だったわね………!」
ドラえもん「ミサイルが全て迎撃された……いや、何かにぶつかったような感じがしたな……!」
しずか「そう……この『バリヤーポイント』は全ての攻撃を拒絶する………!」
ドラえもん「ほう……半径2メートル内にみんなを入れる事で守ったわけか……くふふふふ……!」
のび太〈何が可笑しいんだ……ドラえもんのやつ………!〉
ドラえもん「それにしても中将。この町でこれだけの被害を出しておきながらノコノコ生き長らえるなんて虫が良すぎるんじゃないかい?」
中将「ひっ…………!!」
のび太「ドラえもんッ!訂正しろッ!」
のび太「君が『桃太郎印のきび団子』で洗脳して『殺戮マシーン』に仕立て上げたんじゃあないか!!」
中将「…………」
ドラえもん「『殺戮マシーン』に仕立て上げた、か……クックック…!」
のび太「何が可笑しい……!?」
ドラえもん「僕は『階級ワッペン』以外に『洗脳』なんか施した覚えはないよ。」
のび太「……なんだって………!?」
ドラえもん「僕は『のび太を殺せ』としか命令していない。」
ドラえもん「一般人に危害を加えたのは彼等の独断だよ。」
のび太「馬鹿な……ッ!?『階級ワッペン』だけであれほどの統率がとれるわけがない!!」
ドラえもん「中将、どうやらのび太君は君たちの事を『殺戮マシーン』だと思ってるみたいだよ。」
のび太「な……ッ!?」
中将「ううっ……………!」
のび太「ドラえもん!嘘をつくんじゃあ無い!!ジャイアンやスネ夫に比べて他の部下の統率は異常だったんだ!!」
ドラえもん「人聞きの悪い事を言うねぇ。それは君の思い込みだろう?とにかく『桃太郎印のきび団子』なんてものは僕は一切使っていないよ。」
のび太「嘘だっ!!連続殺人犯だった『少佐』を除けば……君の部下の殆どが普通の生活を送っていた人間じゃあないか!それを君が洗脳して悪人に仕立て……!」
ドラえもん「『復讐の為なら殺人すら厭わない孤児』、『小動物を殺生して喜ぶ高校生』、『影で過度の暴力を振るう教師』『完全犯罪で罪を逃れた殺人犯』etc………」
のび太「……?」
ドラえもん「彼らの殆どは『怒りエネルギー観測チャート』で探し当て吟味、選出した……元々クレイジーな人材なのさ……!」
のび太「……そ……そんな……!」
ドラえもん「ほら……取り乱した彼女を見てごらんよ……!」
中将「あ………あ…………」
のび太「!?」
ドラえもん「彼女は私生活で色々と問題があったみたいだねぇ。冤罪で殺人犯に仕立て上げられてしまうなんて……」
中将「いや!……やめてママ!!」
しずか「離れてはダメよ!落ち着いて!!」
出木杉「駄目だ…フラッシュバックに陥ってしまっている!しずちゃん!無理やりにでも取り押さえて!!」
中将「やめて!離してママ!いや!!」
のび太「くっ………!」
ドラえもん「おいおいのび太君。見かけで判断されるのを人一倍嫌っていた君が……まさか同じものの見方で人を判断していたというのかい?」
ドラえもん「それじゃあ君が見た目で判断されようが自業自得ってもんだよ!くひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ドラえもん「何よりのび太君。そんなクレイジーな人材を葬ってきた君こそ本物の『殺戮マシーン』だよ………!」
のび太「僕が……『殺戮マシーン』だって……!?」
出木杉「のび太君!耳をかしたら駄目だ!!」
ドラえもん「出木杉君。僕は事実を述べているまでだよ。」
のび太「僕は……『殺戮マシーン』なんかじゃない………!」
ドラえもん「ほう……じゃあ君は今まで僕の部下をどうやって退けてきたんだい………!?」
のび太「それは………!」
ドラえもん「そういえば動物園を襲撃した大佐の死体がニュースで取り上げられてたけど……彼は頭部を撃ち抜かれていたそうだ………!」
のび太「う………!」
ドラえもん「ジャイアンに虐められ、帰ってきた時にいつも喉元で押し殺していた言葉を思い出してごらん?」
ドラえもん「私利私欲で弱い者を虐げているクズどもはいなくなればいい!……そしてその願望を君は叶えた!清々したろう…?」
のび太「ち……違う……僕は…ッ!」
ドラえもん「まさか僕の部下達を倒したときも、自分の都合の良い様に言い訳をして責任から逃れていたというのかい?」
のび太「う……うう……ッ!」
ドラえもん「綺麗事を吐いておきながら我が身がかわいくてしょうがないんだねぇ」
ドラえもん「君は立ちはだかる反対派を抹殺する事で己の身を守った……」
のび太「ち……違うッ!あれは……正当防衛で………!」
ドラえもん「いいや、それでも君は殺したんだよ。」
のび太「警察じゃどうにもならなかった……それに彼等は無関係の人を……!」
ドラえもん「暴力に対し同じ暴力でねじ伏せたんじゃないか。清々したろう?」
のび太「違う……ッ!」
ドラえもん「何が違うんだい?やっている事は同じだろう?」
ドラえもん「やっぱり君は……クズだよ。」ニタァ…
のび太「うう………僕は……僕は………ッ!」
しずか「……口車に乗せられてはダメよ!」
のび太「しず……ちゃん……」
しずか「のび太さんも……中将も……二人ともしっかりしなさい!!」
しずか「特にのび太さんの方よ!こんな事になってしまった元々の原因は何!?」
のび太「……?」
しずか「相手の過去だとか貴方が人を殺してしまっただとか……そんな事は今、関係無いでしょう!?」
しずか「あなたが今、悩んでいるのも……これだけの被害が出てしまっているのも……全てドラちゃんがバラ撒いた道具がもたらしたものよ!」
のび太「………!」
しずか「ドラちゃんもよ!自分の非を認めないあなたに……のび太さんの事を悪く言う資格なんてないわ!!」
ドラえもん「心外だなぁ。君の言う通りだとしても、のび太君が人を殺した事実は消えないだろう?」
のび太「そうだ……僕は人を……人を………!」
しずか「事実は変えられない……だけど私達には幸いにも、全てをやり直す事が出来る道具があるでしょう……?」
のび太「全てを……やり直す………」
しずか「全て変えてしまえばいいのよ……ドラちゃんを倒して……タイムマシンで過去を変えるの!!」
ドラえもん「おや、しずちゃん。そんな簡単に人の過去を変えてしまってもいいのかい?」
ドラえもん「どんな過去であれ……そういう過ちがあったからこそ今の君達が築かれているわけだよ?」
ドラえもん「君は自分の積み重ねた努力や過去の過ちを平気で否定するような人なんだねぇ」
しずか「ドラちゃん……あなたの戯言にはうんざりだわ……!」
しずか「努力や過ちで築かれてきた今の私たちが『過去を変える』という事を決めたのなら……」
しずか「私達にとっては何も間違ってはいないし、決して無意味なんかじゃないわ……!」
しずか「それに私達は過去を否定するんじゃない……受け入れた上で、先へ進む為に……過去を変えるのよ……!」
虚ろだったのび太の目に光が宿る……
それは希望にも似た一筋の輝きであった…!
のび太「ドラえもん…僕は過去も、これからも変えてみせる……僕の過ちも……君の過ちもだ!」
ドラえもん「ちっ……!あともう少しで自滅を促せたものを……!」
しずか「当然よ…!元凶であるあなたの言葉には何の重みも感じないもの……!!」
ドラえもん「くふふ……ふふふふふふ……!」
ドラえもん「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
のび太「……!?」
ドラえもん「こんな単純なマインドコントロールに揺さぶられてしまうなんて!君は本当に脆いなぁ。」
のび太「ドラえもん……君は………!」
しずか「!」
のび太「どこまで人をバカにすれば気が済むんだァーーッ!!」
出木杉「ダメだ!!飛び掛っては敵の思うツボ…!」
ドラえもん「出たな……?」
ドラえもんの挑発により
のび太はバリヤーポイントの結界から飛び出してしまった……!
のび太「……!!」
ドラえもん「かかったなアホが!!」
ドラえもん「『ひらりマント』ッ!!これを全身に纏えば……僕が体を逸らすだけで君の攻撃は全て外れるッ!」
のび太「くっ……!!」ブンッ!
ドラえもん〈そして……しずかのバリヤーポイントはのび太を受け入れた、という事はつまり……!〉
ドラえもんは先端に手の付いた
長い棒の様な物を取り出し、静香達の方へと向ける…!!
ドラえもん〈頭文字はのび太と同じ『の』ッ!!よって『ノビールハンド』はバリヤーポイントを貫通するッ!!〉
のび太「マズい!!『ノビールハンド』だ!!しずちゃん!!!」
ガキィンッ!!
しずか「のび太さん……!」
ドラえもん「拒絶したか……だけどこれでのび太はバリヤーポイントから離れた!!!」
のび太「これが狙いだったのか……!!」
ドラえもん「うふふふふ……楽しいバトルの始まりだッ!」
のび太〈……………〉
のび太「しずちゃん……さっきはありがとう…」
しずか「え…ええ………」
のび太「おかげで大分気持ちが楽になったよ……」
しずか「のび太さん……?」
のび太「出木杉も……この戦いに着いて来てくれた事……本当に感謝してる……!」
出木杉「の……のび太君……突然何を……!?」
のび太「それと……お願いがあるんだ……」
中将「………」
のび太「中将……」
のび太「僕がやられてしまったら……しずちゃんのバリヤーポイントしか身を守る術が無い……」
のび太「だから……その時は中将……君の持っている道具の力で二人を助けて欲しい……」
中将「私が………?」
のび太「そうだ……!」
中将「私………」
のび太「じゃあ……頼んだよ……!」
のび太はタケコプターで空へ飛び上がり
しずか達から離れて行った…!
ドラえもん「あッ!!逃がすかッ!!」
出木杉「行ってしまった……!」
しずか「のび太さんは……私達を戦いから遠ざけようと……自分から遠くへ行ったんだわ……!!」
出木杉「僕らには……のび太君の帰りを祈る事しか出来ないというのか……!?」
しずか「そんな……祈っている暇なんてないわ!!私達にも何か出来る事が……きっと出来る事があるはずよ……!」
中将「私達に…出来ること……」
しずか「どうしたの……?」
中将「二人とも……しっかりつかまってて……!」――――――――…
ドラえもん「どこへ逃げても無駄だぞ!!」
ドゴオオオン・・・・!ドゴオオオン・・・・!
のび太「くっ………!」
ドラえもん「残念だけど『ひらりマント』と『無敵砲台』を確保している時点で僕の勝利は約束されたようなものだ!諦めて死ねっ!」
のび太「それはどうかな………!」
ドラえもん「………!?」
のび太は『空気ピストルの元』を手に垂らし
ドラえもんの方へ振り返った
のび太「ドラえもん………無敵の道具って何だと思う…?」
ドラえもん「無敵の道具?そりゃ今の僕が使っている………」
のび太「例えば君が使った『ウソ8OO』や『タイムベルト』……これらも効果だけを見ると無敵そうに見える……』
のび太「けどね……君が失敗した様に、道具ってのは必ず弱点があるものなんだ……!!」
ドラえもん「……何が言いたい………?」
のび太「君の『ひらりマント』だって『無敵砲台』だって無敵じゃない……決して無敵じゃないんだ……!」
ドラえもん「僕の道具が……無敵じゃないだって……!?」
のび太「例えばその『ひらりマント』は『電磁波の反発』を利用する事で攻撃を逸らしてしまうらしいね……!」
ドラえもん「な……なんだ!?」
ドラえもんの纏う『ひらりマント』の周りに
気流のようなものが浮かび上がる……!
のび太「それが『電磁波の反発』だ……実際目で見る事は出来ないが『具象化鏡』で映してやれば視覚で見る事が出来る……!」
※具象化鏡
『時の流れ』等、言葉の表現を具象化させる
のび太「そして……視覚化させた後は簡単だ……その『電磁波の反発』を『実体化』させる!」
※イメージベレー帽
目で見る事が出来ないイメージを実体化させる。
ドラえもん「う……!?」
のび太「全身を取り巻いていた気流……『電磁波』が実体化したことによって君は身動きがとれない!!」
ドラえもん「くっ……だからどうした!?僕を殴ろうとしても全身のマントが反動でぶれる事によって攻撃は逸れる!!」
のび太「何も殴ろうってわけじゃあない……!」
のび太はバッグから
『NSワッペン』を取り出した
のび太「実体化した『電磁波』……マントの周囲で反発し合っている電磁波の部分に『NSワッペン』を貼り付ければッ!その間、電磁波の反発は行われなくなるッ!!」
ドラえもん「!?」
のび太は空気ピストルで『NSワッペン』を弾き
実体化した『電磁波』に命中させた!!
のび太「これで君の『ひらりマント』はただの布切れと化した………!!」
ドラえもん「だ……だったら何だというんだ!?『ひらりマント』は保険!!攻撃も防御も『無敵砲台』で補えるんだッ!!」
のび太「そうだろうね……君に近づけばミサイルが僕を迎撃しにかかるだろう……」
ドラえもん「……それなのに……君はなんで平然と僕に近づいて来れるんだァァーーーッ!?」
のび太はドラえもんと腕ひとつ分の距離まで迫っていた……!
ドラえもん「何故だッ!?何故ミサイルは迎撃しないッ!?」
のび太「……仲間を捨てゴマ同然の様に扱ってきた君にはわかるまい……!!」
ドラえもん「仲間!?仲間だと!?」
のび太「さっき別れた三人さ……!!」
ドラえもん「何処だ!?何処にいるッ!?」キョロキョロ…
のび太「ここにはいない……恐らく君が設置した『無敵砲台』の本体の所だろう……!」
ドラえもん「………何だって!?」
のび太「しずちゃんには『バリヤーポイント』があるからね……それに中将の『念力目薬』があれば浮遊する事だって出来る……」
ドラえもん「まさか………先程の会話だけで……のび太の為に『無敵砲台』を止めに行ったと言うのかッ!?」
のび太「僕はさっき彼等の目を見て確信した…………同じ立場なら………僕だってそうする…………!!」
ドラえもん「バカな!?くだらない友情ごっこに命をかけたと……ッ!?」
のび太「これでも……追い詰められたこの状況でも……くだらないと思えるのかい……!?」
ドラえもん「……ッ!?」
のび太「ドラえもん……君は一体………どうしたんだ……!?」
ドラえもん「寄るな……僕のそばに寄るなァーーーーーッ!!」
ドラえもんは懐から束になったダイナマイトの様な物を取り出し
自身の口に含んだ!!
のび太「!?」
ドラえもん「我……ピピ………ッ!!」
のび太〈まさか……『自爆』――――――!?〉
――――――………
―――夕暮れ時……
のび太は窓の外を眺めながら
ドラえもんとのこれまでの日々を思い返していた……
しずか「のび太さん……目が覚めたのね……」
のび太「………二人は……?」
しずか「出木杉さんは帰ったわ……中将さんもよほど疲れたんでしょうね……寝室でぐっすり眠ってる………」
のび太「そう………」
しずか「…………」
戦いはあっけなく幕を閉じた…
ドラえもんの突然の自爆……
タイム風呂敷など、あらゆる処置を施すも
ドラえもんが再び目を覚ます事は無く……
暴走した真意もわからぬまま
それぞれに癒える事の無い深い傷跡だけを残す結果となった
しずか「――…お墓を……?」
のび太「うん。」
のび太「僕らがタイムマシンで歴史を変えればこの時間軸は劇的に変化するだろう……」
のび太「僕等も……もしかしたら今と全く異なる僕等になるのかも知れない……」
のび太「今の僕があるのはドラえもんのおかげだ……だから………」
しずか「……そうね………」
新たなる時代へのけじめ……
それと同時にドラえもんに対する
のび太の感謝に他ならない……
その日の夜
二人はドラえもんの墓を立てる為
公園へと足を運んだ……
時刻は0時を過ぎ
次の日付を回っていた
――8月6日、深夜――――――…
ー公園ー
のび太「この辺がいいかな………」
しずか「ええ、ここだと人目につく事も無いでしょう」
のび太「さて……まず穴を掘らなきゃ……」
しずか「……ええ。」
のび太「ドラえもんの事だ……タイムマシンを修理に出してるだろう………」サクッサクッ
しずか「…………」
のび太「………はやくタイムマシンを見つけて……こんな歴史………!」
しずか「のび太さん……」
のび太「な、なんでもないよ……はねた土が目に入っただけ……」ゴシゴシ…
しずか「無理しないで………」
のび太「……うん……………」
のび太「……早くお墓を作ってやらなきゃ……野ざらしじゃ…落ち着かないもんね……」
しずか「ええ………」
のび太「……」サクッサクッ
ガンッ!
しずか「……あら?今地面に……」
のび太「シャベルに何か当たったね……なんだろう…?」
のび太達は
地面に埋まってた球状の物体を掘り起こした…
しずか「……何かしら……?」
のび太「丸い、ね……公園の設備に関するものじゃあないみたいだ……」
しずか「……誰かが埋めたのかしら…?」
のび太「う~ん……玩具かな…………」
しずか「あら?このボール、上半分が蓋みたいだわ?」
のび太「何かの入れ物なのかな……?」
しずかが球状の物体の上部分を捻り
蓋を開いてみると
中には 一冊のノートと一枚のシール、それに時計がひとつ
ひっそりと置かれていた…
しずか「……誰かが記念品を埋めてたみたいね。」
のび太「タイムカプセルってやつかぁ………何だか悪い事をしたなぁ…………」
しずか「誰かのしまった思い出はむやみに覗くものじゃないわ…元に戻しておきましょう」
のび太「うん……それにしても変な形の入れ物だね。」
しずか「うふふ、まるでドラちゃんの道具みたい……」
――――――――――――ドラえもんの道具……
のび太「……待ってしずちゃん!」
しずか「え…!?」
のび太はボールを両手に取り
見開いた目で中身を覗く…!
のび太「……ま、間違いない!じっくり見るまで何の道具か全く思い出せなかった……!」
のび太「これは…………!」
のび太「このボールは……『タイムカプセル』だ……!」
しずか「……?」
のび太は中にあった一冊のノートを手に取り
ページをめくる…!
のび太「……………!?」
しずか「……どうしたの?のび太さん……?」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・
のび太「……こ……これ……これはどうなって……!」
7月07日――――――
のび太は死なない
7月08日――――――
のび太は死なない
7月09日――――――
のび太は死なない
…次々とページをめくるも
どのページも同じ事柄で埋め尽くされていた
のび太〈―――――――何だ……ッ!?これは……ッ!?〉
のび太「どのページも…どのページもッ!!」
しずか「のび太さん…!?ちょっと落ち着いて…!」
のび太「お墓を作る為に…ここの地面を選んだのは……僕だ…!」
のび太「……だけどこれは?……誰が……誰が書いた?……これは僕の字じゃあ無いッ!」
のび太「これを埋めた奴は……どうして僕がここを掘る事を知っていたんだ!?」
のび太「………!」
8月6日――――――
日記を付けたのは良いものの
のび太が好き勝手していないだろうか心配だ
8月6日に一度僕らで日記を掘り起こそうと思う
そこで話し合って、どうするか決めよう
それまでこの日記やタイムカプセルは誰にも見つかる事なく
ひっそりと地中に埋まる事
のび太「これは……?ドラえもんが書いたのか……!?」
しずか「そういえば、ドラちゃんがおかしくなったのはいつ頃からなの……?」
のび太「ドラえもんがおかしくなったのは……7月13日………」
しずか「……?」
のび太「無い……13日以前の記憶が……全く思い出せない……!!」
のび太はバッグから
『いつでも日記』を取り寄せた
のび太「『いつでも日記』、これは記憶にないような過去の出来事を正確に書くことができる……!!」サラサラサラ…
のび太〈書いた通りになる『あらかじめ日記』に何故、僕が死なないと書かれていたのか……『いつでも日記』で僕の抜け落ちた記憶を探れば何かわかるかも……!〉
7月07日――――――
もっと刺激のあるスリルに満ちた日々を送りたい
ドラえもんに『もしもボックス』を出してもらおう
のび太〈――――――っ!!〉ズキッ!
のび太〈……頭が……痛い……………!〉
しずか「何か思い出せた……?」
のび太「……見当はついたよ……後は『記憶とり出しレンズ』で念じて……曖昧な記憶を脳内で鮮明に映像化させる……!!」
――7月07日――――――…
のび太「ドラえも~~~~~~~~~~ん!!」ドタドタドタドタ…!
ドラえもん「お帰りのび太くん。期末テストの結果が返ってきたんだろ?どうだった?」
のび太「聞かなくてもわかるだろっ!!」
ドラえもん「やっぱりね…」
のび太「もうこんなテストに追われる生活は嫌だーーーーーっ!!」
ドラえもん「仕方ないよ。みんな嫌々ながらやってる事なんだ。」
のび太「こんな紙切れの上から僕が判断されてたまるかっ!!人間は統計じゃない!!」
ドラえもん「逆に5分10分の面接で人間の全てが把握できる訳でもなく……ある程度の指針になっちゃうのはしょうがないよ。」
のび太「あーやだやだっ!こんな退屈な学校生活っ!もっと刺激のあるスリルな毎日を送りたーーいっ!」
ドラえもん「起業でもすれば」
のび太「……それだ!僕は独立する!!そして独立するにはやっぱり経験が必要だな……」ジーッ
ドラえもん「……何だいその目は」
のび太「その…ドラえも~ん……『もしもボックス』をかしてくれないかな~」
ドラえもん「君はまず僕から独立する方が先なんじゃないかな……」
のび太「何だかんだ言いながらも道具を出してくれるドラえもんってやっさし~」ガチャ
ドラえもん「はぁ…」
のび太「何だよ」
ドラえもん「君が好き勝手しないか心配だ。僕もついて行く」
のび太「えぇー…」
ドラえもん「やっぱり遊ぶ目的だったんだな!?だいたい君はいつも…」
のび太「『もしも僕がスリルに満ちた戦いの日々を送る事が出来たら』!!」
ドラえもん「あ、こらっ!!」
パァァァァ・・・・・・
ドラえもん「呆れたっ!やってる事はバーチャルのゲームと同じじゃないか!!」プンスカ!
のび太「それは違う。この野比のび太が独立へと踏み出す為の夢の第一歩だよ。」
ドラえもん「何がさ」
のび太「これから僕は『スペアポケット』を落としにいく。それを見ず知らずの誰かが拾う事によって、これから幾多の戦いが展開される事になるだろう…」
のび太「そういった困難に対し僕は適材適所で道具を使い分けて潜り抜ける!それによって僕は状況判断能力が磨かれると言うわけさ!」
ドラえもん「全然理に適ってないよ」
のび太「それじゃさっそく」
ドラえもん「ちょっと待て」グィッ
のび太「何だよドラえもん。止めたって無駄だよ。僕は何度でも『もしもボックス』を使ってここへ戻って来るからね」
ドラえもん「わかってるよ。どうせ止めても聞きやしないんだ……これで良し、と。」サラサラサラ…
のび太「そのノートは?」
ドラえもん「これは『あらかじめ日記』。この日記帳に書いた通りになる。僕の持ってる道具の中で一番凶悪な道具だね。」
ドラえもん「君が死なない様に書いておいた。」
のび太「!?」
ドラえもん「考えても見ろ……『ウソ8OO』とかを使われてしまえば僕らは一発であの世行き。元の世界へ戻る事も出来なくなるぞ。」
のび太「そ、そうか……確かに!……でもドラえもんは?」
ドラえもん「僕の身に何かあれば君に助けてもらうとしよう。これも修行の一環である。」
のび太「えぇ~めんどくさい事するなぁ……」
のび太「それじゃあこうしよう」
のび太はドラえもんのポケットから
『ワスレンボー』を取り出した
ドラえもん「?」
のび太「いくつかの無敵の道具の存在を一旦忘れるんだ。どうせ僕は死なないし、それくらいのハンデが無いとスリルな日常は送れない」
ドラえもん「なるほどね。すると誰かに悪用されても困るな……本当に危ない道具は『タイムカプセル』に入れて僕等にしか掘り起こせない様に隠しておこう。」
のび太「いいね!あとは……これと、『タンマウォッチ』は使ってみたいから……こっちを入れて……これだけでいいかな。」
ドラえもん「道中、スペアポケットを落とすのも忘れずにね。」
のび太「それじゃあさっさとむさ苦しい『もしもボックス』から出て、公園へしゅっぱーつ!」ガチャ!
ー公園ー
ドラえもん「『ジェットモグラ』を使えばあっという間だったね!」
のび太「あとは『タイムカプセル』を埋めて、と……」
ドラえもん「そういえば『魔法事典』も中々危ない道具だけれど……入れなくていいのかい?」
のび太「魔法と逆の名前を言うだけで対処できるし、入れなくてもいいだろ。」
ドラえもん「そっか……道具を忘れるといっても、見たり聞いたりする内に思い出せるから悪用されても心配ないね。」
ドラえもん「それじゃあ『ワスレンボー』でお互いの頭を叩くよ」
のび太「よしきた」
ポコッ☆
ポコンッ☆
―――――…
のび太「……!!!」
しずか「のび太さん、何かわかった……?」
のび太「え……いや……確信部分についてはまだ何にも……!」
のび太〈い……言えやしないよ……この世界が僕のワガママによって作られた『もしもボックス』の世界だなんて……!〉
のび太〈それより……ドラえもんはどうしてああいう風になってしまったんだ……!?〉
のび太は再び『いつでも日記』に
筆を走らせる…
のび太「……!?」
7月07日――――――
夜に珍しい客が訪ねてきた
どうやら僕らが故意に落とした『スペアポケット』を返しに来てくれたらしい
僕らは油断していた
この世界はスリルある日常を求めて作られた世界……
彼は『敵』として僕らの前にやって来たのだ
『メモリーディスク』の不意打ちを喰らって僕等は倒れてしまう……
ディスクとして取り出される今日一日分の『記憶』
でも日記の力は僕を守ってくれている
それに記憶を覗いた所で『タイムカプセル』は僕等でしか掘り起こせやしないんだ
ドラえもんの記憶を覗き見ている隙に再び起き上がる僕
奴は記憶のディスクにあわてて何かを書き込んだ後、ドラえもんの頭にそれを放り戻す
僕は我を忘れて飛び掛ったが、奴も何か道具を使ったのだろう
一瞬の内に『ワスレンボー』で殴られてしまった
ここで逃がす訳にはいかない……
何度も起き上がろうとする僕に恐れをなしたのか、奴があわてて逃げていく……
追いたくても……追えない……今日一日分の記憶が剥がれ落ちていく……
明日になっても……僕はこの事を覚えているのだろうか……
奴は……出木杉は今日の記憶を見て何を思ったのだろうか……
のび太「こ……これは……!?」
しずか「ねぇ、のび太さん……」
のび太「な、何だい!?」
しずか「私……普段はマッチなんて持ち歩かないし……今だって暑いから擦りたいとも思わないのよ……?」
のび太「……?」
突然、静香は取り出したマッチを擦り
『あらかじめ日記』に火をつけた!!
のび太「しずちゃんッ!?一体何をッ!?」
しずか「私だってわからないわッ!身体が勝手に動いて……!」
のび太〈マズいぞ……『あらかじめ日記』は燃えてしまえば効力を失う……火がついた今、もう手遅れだ……!!〉
のび太「『もしもボックス』もバッグから取り出す事が出来ない……とすれば残る手は一つ…!」
のび太は『タイムカプセル』の中にあった
時計を手に取り、叫んだ!
のび太「『ウルトラストップウォッチ』ッ!!時間よ止まれッ!!」
バァ――z___ン!!
のび太〈全てのカギを握るのは出木杉だ……奴に直接会わないと……!〉
のび太は出木杉の家へ向かい
駆け出した…!!
のび太「……見つけた!」
出木杉はちょうど家の門から出た所であった
しかし、それよりものび太が驚いたのは出木杉の手に握られていた物……!
のび太「あれは『ビッグライト』!?……やはり出木杉が………!」
のび太「……………」
のび太「『ウルトラストップウォッチ』は……止まっている生物に関わることで時間停止が解除されてしまう……」
のび太「だから一撃で仕留める。このスーパー手袋の拳で……!頭蓋骨を叩き割るッ!」
ゴシャァッ!!
のび太〈……出木杉……さようなら……〉
出木杉「――…それが君の答えか」
のび太「!?」
のび太の拳は出木杉の頭部を捉えていた……!
しかし、額から多少の血が流れた程度で
当の本人は至って平静であった
出木杉「数発、撃たれてたらどうなっていたかわからないな……」
のび太〈硬い……!!なんて体の強度だ……!!〉
出木杉「あらかじめ日記で保険をかけるような君だ……時を止めて襲ってくる事も予想していたよ」
出木杉「だがしかし……止まった時間の中では他の物体の時も止まる…君は直接攻撃しか術が無い様だな。」
のび太「……まさかこれまでの戦いが……全て君が仕組んだものだったなんて……!!」
出木杉「日記の効果で君を倒す事が出来なかったからな。『メモリーディスク』も例外では無かった…」
出木杉「だから君に対しては記憶を弄るのではなく、一部の記憶を消し去る事にした……」
出木杉「翌日に襲えば記憶が戻る恐れがある……だから『メモリーディスク』で洗脳しておいたドラえもんに数日間『ワスレンボー』を使用させた後、戦わせるように仕向け……」
出木杉「8月6日『タイムカプセル』を掘り起こした後、日記を焼き払うよう静香の記憶も改ざん……」
出木杉「ドラえもんの記憶によると今日、君がタイムカプセルを掘り起こす事は『あらかじめ日記』によって決定された事だったからな……」
のび太「……まさか……ドラえもんが自爆したのは…ッ!!」
出木杉「君と協力されても困るので、今日に備えて離脱してもらった………あの青ダヌキは良くやってくれたよ。」
のび太「君は協力するフリをしながら……平気で僕らを欺いていたのか……!!」
出木杉「いくら僕でもそこまで演技は上手くない。君達と協力した出来杉は言わば片割れ、あれは僕であって僕ではない…」
のび太「……?」
出木杉「君の記憶を消したとは言え……万が一、僕の計画に気付かれたら厄介だ」
出木杉「日記を燃やすまで僕が無害だと刷り込ませる必要があったわけだ……そこで『分身ハンマー』を使った」
のび太「……!!」
出木杉「『分身ハンマー』でこの出木杉の肉体を『善』と『悪』に完全に分断」
出木杉「悪意の記憶を一切持たない『善』の肉体を君の味方として溶け込ませ……」
出木杉「後は『悪』である肉体を『タイムピストル』を自身に撃つことで未来に飛ばした。7月7日から……この8月6日にね……」
出木杉「今しがたちょうど融合して元の僕に戻ったばかりだよ……くくく……!」
出木杉は『ビッグライト』を床に捨て
踏み潰した……!
出木杉「面倒だった事といえば……分裂した事で身体のサイズまで半分になった事だな。毎日サイズを調整する様に記憶を埋め込んでおいたが……」
出木杉「昨日、『ビッグライト』のバッテリーが尽きたところだ。タイミング的にもちょうど良かった……」ギロ…
のび太「……っ!」
出木杉「『宇宙完全大百科』を少しかじった程度だが……中々道具の併用が上手いだろう僕は?」
出木杉「しかし、それでも僕は屈辱的な敗走を強いられる事になった……!」
出木杉「あの時の君ほど……憎たらしく感じたものは無い……!」
出木杉「自ら生み出した世界で、結果の見えた勝負を挑ませる、反吐が出る程に臆病な君に、な……!」
のび太は目の前の青年に打ちのめされかけていた……
戦い続けていたのは自分だけでは無い……
この男も『あらかじめ日記』という地上最強の道具を打破せんが為に
全頭脳を駆使し、勝負をしかけていたのだ……!
そして今、自分の前に立ち憚っている…!
出木杉「のび太君。いや、のび太。勝負だ……!」
のび太「……!」
以前の出木杉からは想像もつかない気迫が
のび太の身体を震わせた
出木杉「始めて直面する苦難に君がどう立ち向かうのか…見極めさせてもらおうか!!」
言い終えた直後、出木杉がすかさずナイフを放つ!
瞬間、その切っ先がのび太の喉元に達しようとしていた!
のび太「……こ…これは……!」
出木杉「避ける暇も無かったろ―――…」
バァ――z___ン!!
のび太〈なんてね、こっちだってウルトラストップウォッチがあるんだ……時を止めた!〉
のび太「……僕だけは…この止まった時間の中で動く事ができる…!」
のび太は首に刺さる寸前だったナイフを払いのけた
のび太「しかし……出木杉のやつ……今、何をしたんだ…?」
出木杉の手を見ても、道具らしきものは見当たらない
しかし彼の放ったナイフが、一瞬で喉を貫こうとしていたのは確かなのだ
のび太「……この世界を作った責任は僕にあるとはいえ……!」
のび太「ドラえもんを侮辱したのは……絶対に許せないッ!!」
のび太は出木杉の顔面に
強烈な一撃を浴びせた!!
ドゴオオン!!
のび太「……二発目を受けても平気だなんて……まるでサイボーグだ…!」
出木杉「『機械化機』……という道具がある……」ガラガラ・・・
※機械化機
さまざまな機械の機能を人間の体にうつす。最大9つまで記憶出来る
出木杉「『宇宙完全大百科』と『お医者さんカバン』の技術力をもってすれば……」
出木杉「未来デパートの道具でさえも『機械化機』に登録し、肉体に組み込む事が可能だ……!」
のび太「じ、自分の肉体を!?道具で改造したというのか!?」
のび太〈……つまり……任意で道具の効果を発動させる術を持っている、という事か!!〉
出木杉「僕に失敗があるとすれば早とちりしすぎた事だな……」
出木杉「まさか君たちが『故意』でスペアポケットを落としたなんて思いもよらなかった……」
出木杉「奪われる心配が無いなら、もう少し『宇宙完全大百科』を読んで色々道具を把握しておきたかったが……まァいいか……」
出木杉「結果的にドラえもんは死に、『あらかじめ日記』は無くなった……!!」
のび太〈……以前の出木杉だとは思えない……このドス黒さ……これが僕が作ってしまった世界の出木杉なのか!?〉
のび太「な――――――――――――…」
出木杉の殺気に身構えようとしたのび太であったが
突如、体が停止してしまう…!
出木杉「フハハハハハ!この世界の創造者だと言うのに……惨めだね!」
出木杉の肉体に組み込んだ道具の真骨頂
『狂時機〈マッドウォッチ〉』
この道具は特定の範囲〈エリア〉だけ時を加速させたり減速させたり出来る
ただし時を完全に停止させたり、巻き戻したりという事は出来ない※原作に発言や描写が無い為
出木杉「この地球上を流れる時の速さを1億分の1程度にした……!」
出木杉「今の君にナイフを突き刺せば…単純に1億倍の時間君の歪んだ表情が見れるというわけだ…!!」
のび太「―――――――――――――――」
出木杉「んん?今の君は必死に聴覚の信号を脳に送っているという感じかな?」
出木杉「実に愉快だ……笑いが止まらないよ………!!」
出木杉「本来なら今、君の持っている全ての道具を奪ってやりたいところだ…今後の為にもね」
出木杉「しかし君達の事だ、仲間割れの時点で『道具を奪う道具』の対処はしているのだろう?」
出木杉「だから無駄な作業はしない…!今すぐ楽にしてやる…!」
出木杉はのび太の心臓部分にナイフを付き立てた
出木杉「『あらかじめ日記』の無い今なら…このナイフでとどめを刺せる…!」
出木杉「……終わりだよ、のび太…」
ザクッ
無情にも―――――
出木杉の持ったナイフは
のび太の心臓部を貫いた
出木杉「……届いた…とうとう奴の心臓に……!」
出木杉「……この一撃の為に……!」
出木杉「……あらゆる計画を練った……!」
出木杉「……長い……戦いだった…!!」
出木杉「……それなのに…貴様という男は…!」
出木杉「この抜け目の無さ…癇に障る…!虫唾が走る…ッ!」
出木杉のナイフはのび太を貫いた…
しかし血しぶきを上げるわけでもなく
その腕はのび太の体をすり抜けていたのだ!
出木杉「こいつのこの腐った性根…!あくまで自分の優位な土俵にしか上がらないアンフェアな精神ッ!」
出木杉「全くもって腹立たしい…!」
出木杉はのび太の脇腹に貼られてある印を見た
出木杉「『四次元若葉マーク』…つまり肉体だけこいつは別の空間に逃げていたというわけだ…」
※四次元若葉マーク
この若葉マークを貼ったものは肉体だけ四次元空間に入った状態となり
壁でも建物でも何でもすり抜けることができる。
出木杉「時を止めて実体による攻撃、次の時間停止まで『四次元若葉マーク』による完全防御…!」
出木杉「スリルを求めてこの世界を創造しておきながら、汚い浅知恵を使うものだ…!」
出木杉「しかし、窮地を脱し、この出木杉をうろたえさせているのも事実。賢しいとも言える…!」
出木杉「『マッドウォッチ』解除!」
のび太「―――んて奴だ……」
のび太〈出木杉の能力の大体の想像は付く……ここは若葉マークで身を守るのが得策だ…〉
出木杉「くくく…ッ!望む所だ…!必ずこのナイフで君を貫いてやる…!」
のび太がウルトラストップウォッチを押す寸前…!
出木杉は再び体内の道具を発動させた
――――――――――――……
のび太「あっちから感じるぞ…!この異様な感じは……間違いない!」
のび太は街の本道を抜け、住宅街へと駆け出す
道行く人の影が落ち 町が徐々に色を付け始める頃
街角から流れるラジオが時刻を告げた…
「ピッ…ピッ…ピッ…ポーン……」
「―――さぁ17時を回りましたミュージックチャンネル。7月23日現在のヒットチャートをお送り致します…」
ドシャ―――z___ン!!
出木杉「僕は時間を逆行させる事ができるんだよ……!!」
※フリダシニモドル
出たサイコロの目の数だけ日付や時間を戻せる
出木杉「さて、僕の予想が正しければ、ここは先程から数日前。ドラえもんと奴が戦いを繰り広げている時間軸の筈だ」
出木杉「なるべく今日中に見つけたいものだ……『ドラえもん』の方をな……」
出木杉はデパート5階の駐車場まで飛び上がり
街を見下ろした
出木杉「見慣れた景色だ……何の面白みの無い景観………あれは……!?」
出木杉の見ている先
のび太が全速力で住宅街の袋小路へ向かって駆けていた
出木杉「向こうは奴の住んでいる家の方向と真逆…一体何を企んでいる……?」
出木杉「ふむ……ドラえもんの消息が掴めない今、奴が唯一の手がかり……ならば追跡するまで……!」
出木杉〈この先は行き止まりだがどうするつもりだ…?〉
のび太は慌てふためいた後
タケコプターを取り出した
出木杉「空路を利用するのか。僕も後を追わなければ…」
出木杉「『逆重力ベルト』作動ッ!!」フワッ
出木杉「奴はあの脚で陸路を行くのでは無く、わざわざ敵に見つかりやすい空路を選んだ…!」
出木杉「袋小路に真っ直ぐ向かった事から恐らく、この住宅街をよく知らないのだろう。」
出木杉「にも関わらずこの住宅街に入り込むという事は…!」
出木杉「奴にとって避けられない『何か』…すなわち『ドラえもん』に関わる事があるに違いないッ!」
出木杉「どれ、一応検証しておこうか……奴があの屋根に近い場所まで来たところで…」
出木杉「『マッドウォッチ』作動ッ!」 ドギュウゥ―――z___ン!!
のび太「――――――――――――」
出木杉「この住宅街だけ時の流れを限りなく停止状態に近い速度にした……!」
出木杉は忍ばせたナイフを取り出す…!
出木杉「今、この時点で奴の心臓を貫いたら果たしてどうなるのか…?」
出木杉「大きな時間改変が起き、僕は戦わなくて済むのか…タイムパトロールが阻止しに来るのか…」
出木杉「様々な可能性を模索する上で……試してみるとしようッ!」
出木杉は手に持ったナイフを
のび太に突き刺した!
出木杉「……答えはどちらでも無く、心臓を捉えたはずのナイフは『何故か致命傷にならない箇所へと逸れる』…か。」
出木杉「このまま…!」ザクッ
出木杉「奴を…!」ズバッ
出木杉「蜂の巣のように刺し傷を加えようとしても…!」ブンっ!
出木杉「……攻撃するたびにどんどん逸れていく。もうこれ以上傷をつける事が出来ない……」
出木杉「まぁ想定の範囲だ。この時点の奴には『あらかじめ日記』が味方をしている」
出木杉「やはり未来の……日記を燃やした後の奴を直接下さなければならないようだな…!」
出木杉「『マッドウォッチ』解除!」
のび太「うわっ!!こ、この攻撃はッ!!?」
出木杉〈くくく……〉
飛行機の漏れたエンジンが引火していく様に
のび太から赤々しい血液が飛散し目の前で墜落していく
?「んん?まだ上に仲間がいたのかァ?」
出木杉〈何ッ!?敵がいたのかッ!?〉
男は地上から目に見えぬ攻撃を繰り出す…!
出木杉は思わぬ不意打ちに屋根から滑り落ちてしまった
出木杉〈ちっ…中々思い通りに事は運ばないものだな…!〉
准士官「……そろそろのび太が来る頃だと思ってたぞ」
准士官「お前が今にボスの居場所を把握しようとしてるって『中将』が言うんでな」
のび太「ドラえもんのやつ…自分の位置が割れている事に気がついてないのか…」
准士官「そぉいう事よ。上がボスに連絡を取ろうと躍起になってる間、俺達下っ端は道中見つけ次第足止め役ってわけだ」
のび太「…大した統率力だよ…君達のボスはワッペン以外にも何か道具を使って従えてさせているようだね…」
准士官「さぁ…どうだったかな…」
出木杉〈……確かこの男、『准士官』だったな。道具の支給、編成を任されていた筈……〉
准士官「お前は中々の策士だと聞いてるが……まさか仲間を連れてくるとは…」
のび太「仲間?」
のび太は後ろに振り返った
のび太「お前は……出木杉!?どういう事だ?確かお前は……!!」
出木杉〈まずいな……気付かれたか……〉
出木杉「『フリダシニモドル』発動…!」
ドシャ―――z___ン!!
出木杉〈むやみに過去を弄って厄介事を増やすわけにはいかない…慎重に事を進めなければ……〉
―――この時点でのび太の前に姿を現すのは、出木杉自身に相当なリスクを伴う行為である
もし自身が黒幕であることがバレたなら
のび太の目的は『ドラえもんを止める』のではなく、『正気に戻す』ことに変わる
つまり元の時間軸に戻った時
ドラえもんと結託したのび太達と戦わなければならない可能性を産む事になるのだ
それだけは何としても避けたい出木杉であった
ーデパート5階の駐車場ー
少し前の出木杉「ふむ……ドラえもんの消息が掴めない今、奴が唯一の手がかり……ならば追跡するまで……!」
出木杉「待て」
少し前の出木杉「何者だッ!?……なんだ『僕』か、どうしてここに?」
出木杉「『僕』なら少し頭を働かせればわかるだろう……?」
少し前の出木杉「……今から僕がやろうとしている事が失敗すると?」
出木杉「そういう事だ。奴から距離を取れ。興味半分で近づくのは止めておく事だ。」
少し前の出木杉「了解した。過去の僕にも同じように伝えよう。武運を祈る。」
少し前の出木杉「『フリダシニモドル』、発動しろッ!」
出木杉「うう……っ!」ギュオオオオオオオオ・・・・・・・
過去を変えた事で
出木杉の記憶が改変される……!
出木杉「…ふむ、未来の僕は『遠くから様子を伺え』と言っていたな……今、奴は袋小路へと向かっているが…」
出木杉「目的はあくまでドラえもん…必要な時まで手を出さず、あくまで傍観に徹しよう……」
のび太「『爆発コショウ』だ!!『自分自身の』クシャミで宇宙まで飛んでいけッ!!」
准士官「ウォォォォォォッ!!」
――――――――――――…
のび太「ハァ…ハァ……」
出木杉〈あの男も倒し、だいぶ距離を進めた……そろそろ何らかの手がかりを示しても………!〉
のび太「な…なんだ…ドラえもんの奴…」
のび太「さっきまでこっちの方角…『西側』にいた筈だぞ!?」
出木杉〈何だ……?何をキョロキョロと見回している…?〉
のび太「真逆だ…今は『東』にいる……!」
のび太「今度は北ッ!!」
出木杉〈『東』…『北』……?〉
その時である
背筋に氷塊が滑るが如く……
張り詰めた異様な空気が出木杉を慄然とさせた……!
出木杉〈…な……何だこの感じは……!?〉
出木杉〈奴の見ている方角……確かに遠くから何か大きな『存在』を感じる…!!〉
出木杉〈な、何だ……この威圧感にも似た圧倒的な『存在感』は……!!〉
のび太「くそ~…ここまで頻繁に移動されちゃ…!」
出木杉〈奴がこの『存在感』を頼りにしている事は明白……ならば!!〉
出木杉「『マッドウォッチ』ッ!時を減速させろッ!!」
ドギュウゥ―――z___ン!!
出木杉「ドラえもんの位置はわかった…が、用があるのは僕一人だ、君には一旦退場願おう」
出木杉はのび太の両足のアキレス腱に
ナイフを突き刺した!
出木杉「ふん…あくまで『足止め』として相手をしてやろう…この『存在感』が消えて君がドラえもんを見失うまでの、な」
出木杉「この『存在感』が消えた後、『フリダシニモドル』で再びこの時間軸に訪れれば…!」
出木杉「君が『今の僕』に足止めを食らっている間に用件が済ませられるというわけだ…ッ!」
『マッドウォッチ』を駆使し、のび太を足止めしながら
ドラえもんの『存在感』が消えた事を確認すると
出木杉は再び時を遡った
――――――――――――…
出木杉「さて、この『存在感』のする方へ向かうか……」
出木杉「頻繁に位置を変化させている様だが…『マッドウォッチ』を持ってすればこの程度の瞬間移動…」
出木杉「捉えられないものではないッ!」 ドギュウゥ―――z___ン!!
ードラえもんのアジトー
ドラえもん「くそーのび太のやつ!『石ころ帽子』に細工をしていたとは…!」
※石ころ帽子
この帽子を被ると道端の石ころのように、周りから一切認識されなくなる
ドラえもん「石ころ帽子に『あべこべクリーム』が塗ってあったおかげで僕が巨大な存在感を出す様になってしまった!」
ドラえもん「脱ごうにも接着剤らしき道具が塗ってあってしばらく脱げない!」
出木杉「……それで『ひっこし地図』を使い、この家の位置を頻繁に移動させていたというわけか…くくく…!」
ドラえもん「むっ、誰だッ!」
出木杉「やぁドラえもん…『石ころ帽子』で買い物、もとい食料調達に行く所を狙った緻密な作戦に引っかかったのかな…?」
ドラえもん「…出木杉か?たかが『上等兵』の君がここで何をしている?」
出木杉〈たかが『上等兵』か、ふん……『善』の肉体は良いカモフラージュになったな………!〉
出木杉「実は今、のび太君の足止めをしていてね…」
ドラえもん「何ッ!?本当か!?」
出木杉「ああ、だけど少し困っているんだ…『准士官』殿が退けられたんだ…その、わかるだろう?」
ドラえもん「まぁ准士官の事だ…君のような低階級にはあまり良い道具を渡していないだろうからね…」
出木杉「そういう事なんだ。このままだとあっけなくここへ辿り着いてしまう」
出木杉「早急に新たな道具を支援していただきたい」
ドラえもん「出木杉君」
出木杉「何でしょう」
ドラえもん「それは出来ない相談だ…」
出木杉「…と、申されますと?」
ドラえもん「君はとても頭が良い…万が一、寝首をかかれると厄介だ」
出木杉「滅相も御座いません…恐れ入ります」
ドラえもん〈急にかしこまっちゃって…あざとい奴だ〉
出木杉「ところでさっき准士官殿が吹き飛ばされたのですが…」
出木杉「その際、落ちたジャケットにワッペンが貼られていましてね…」
ドラえもん「…ちっ、そういえば具体的にどこへワッペンを貼れば良いのか指示をしてなかったな……」
出木杉「じゃあこのジャケットを羽織れば僕は『准士官』という事でよろしいのでしょうか?」
ドラえもん「…まぁそうなるけど…昇格がそんなに嬉しいのかい?」
出木杉「五階級特進ですよ?冬戦争の英雄シモ・ヘイヘ以来の快挙だ」
出木杉「それに…」
ドラえもん「何をするッ!?」
出木杉は『二等兵』の階級ワッペンを
ドラえもんの背中へと貼り付けた
出木杉「このジャケットに入ってました…これで君は『大将』でもありただの『二等兵』…」
ドラえもん「!?」
出木杉「なに…この事実を知っているのはこの場にいる二人だけだ。君は普段通り『大将』として振舞えばいい…」
出木杉「心配しなくてもわざわざ上司に命令しようとする部下はいない」
出木杉「この僕を除けば、ね…」
ドラえもん「くっ…!」
出木杉はジャケットの袖に手を通した
出木杉「『准士官』の僕が命令する。『入りこみミラー2』と『道路光線』をこちらに渡せ」
ドラえもんは渋々命令に従った
出木杉「最初から素直に言う事を聞いていればよいのだ…」
出木杉はドラえもんの石ころ帽子にナイフで傷をつけた
ドラえもん「痛っ!」
出木杉「もうこの時代に用は無い…さらばだ!」
ドラえもん「あっこら!待ていっ!」
ドギュウゥ―――z___ン!!
ドラえもん「……逃げ足の速い奴め……まぁいいや…石ころ帽子を傷つけてくれたおかげで僕が助かったのも事実だ…」
ドラえもん「あんな道具じゃ寝首をかかれる事も無いだろう…」
出木杉「『機械化機』を使ってこの道具を肉体に登録し…任意で使えるようになれば…!」
――――――――――――…
出木杉「最強だ…これで奴を……のび太を倒せる…ッ!!」
出木杉「ふはははははァ…ッ!!待っていろのび太ァ!!」
出木杉「『マッドウォッチ』ッ!元の時間まで加速しろッ!」――――――――――――…
――8月6日――――――…
出木杉「………やぁ、お待たせ」
のび太〈急にいなくなったと思ったら…何をしていたんだ……?〉
出木杉〈『入りこみミラー2』発動ッ!〉 瞬ッ!
のび太「また消えた…!?」
――――――…
出木杉「ふははは!着いたぞ『鏡面の世界』ッ!」
出木杉「奴が『四次元若葉マーク』で肉体だけ異次元の空間に逃げようが関係ない!」
出木杉「回避不可能の攻撃というのを見せてやろう…!」
ー現実世界ー
のび太「奴は何をしているんだ……!?」
透明になる道具は全て処理してあるにもかかわらず
出木杉は目の前で消えた…
つまり出木杉は消えたのでは無くどこかへ『移動』している事になる……
のび太「とりあえず『ウルトラストップウォッチ』で時を止めるッ!!」
バァ――z___ン!!
のび太「時を止め、尚且つ若葉マークを貼っておけば襲われずにじっくり次の手を予想する事が出来る……奴はどこに移動した…?」
のび太「例えば、『タイムピストル』で未来に移動してから攻撃を行うとしたら……?」
未来に移動して攻撃……
この手段は言い換えれば『目隠しをしながら瞬間移動で攻撃』するのと何ら変わりない
時を止める道具を持っている相手に対し、出木杉はこれほどリスクの高い方法を選ぶだろうか…?
のび太「逆に過去に移動したところで『あらかじめ日記』が存在している。僕の命を奪うことは不可能……」
では、日記を『燃やした』時点まで時を戻したとすれば
出木杉はどうするだろうか…
のび太「もしあの時、僕に何らかの攻撃を仕掛けていれば……僕の『四次元若葉マーク』の存在に気付くだろう。」
『四次元若葉マーク』で攻撃が通らないと知れば
出木杉なら…のび太ならどうする……?
のび太「『四次元若葉マーク』に対抗する術は………無い、不可能だ。僕の考えすぎか…?」
ー入りこみミラー2の鏡面世界ー
※入り込み鏡
この道具は『現実世界』と『鏡面世界』を行き来する事が出来る
『鏡面世界』は左右が逆なだけで現実の世界とまったく同じように出来ている。
『鏡面世界』には人が誰もいない上、何をしようと現実世界には一切影響がない
出木杉「『四次元若葉マーク』と『入りこみミラー2』……一見別の道具だが、この二つには共通点がある……」
出木杉「ひとつは『現実世界』と『別の世界』を行き来できるという能力…」
出木杉「そしてふたつめ、これが最大のポイントだ……」
出木杉「これだけは他の道具じゃあ代用できない…この二つの道具のみが持つ特有の物といえる…」
『入りこみミラー2』の鏡面世界は
上記で説明した『入り込み鏡』の鏡面世界とは少し異なる…
それは『入りこみミラー2の鏡面世界』で壊した物体や家などは『現実世界でも壊れる』という点である
出木杉「『四次元若葉マーク』は肉体だけ『別の世界』に移動するが…」
出木杉「使用者は『現実世界』で見聞きができ、姿も目視することができる。時間の干渉も受けていた…」
出木杉「『入り込みミラー2の鏡面世界』で壊した物体や建物は『現実世界でも壊れる』……」
出木杉「つまり…双方とも『現実世界』と『別世界』の間を『常に』リンクさせている『道』のようなものが存在するという事だ……」
出木杉「もし、その『道』に…干渉する術があるとしたら…!」
出木杉「……どうやら奴は『現実世界』の時を停止させている様だな……」
出木杉〈しかしこちら側の世界とリンクしているのは『現実世界』に存在する『物体や建物』……僕は時間の干渉を受けない……!〉
出木杉「まずは『入りこみミラー2』を覗き、『現実世界』にいるのび太の現在地を把握ッ!」
出木杉「続いて、僕とのび太の位置を結ぶ直線上に、現実世界と鏡面世界を繋ぐ出入り口を作成ッ!!」
出木杉「そしてその出入り口に……『道路光線』を照射するッ!!」
カッ――――――…
のび太〈何だ!?眩しい……!!〉
のび太〈時は停止している筈だ……何故、急にライトが……!?〉
その時……!
光を遮る様に
一つの人影がのび太の視界に飛び込んで来た…!
のび太「誰か……来る!」
出木杉「これで終わりだッ!のび太ッ!」
のび太がその目を凝らすと
出木杉がナイフを握り、眼前まで迫っていた……!
のび太「出木杉!?」
身の危険を察し
咄嗟に突進攻撃をかわすのび太…!
出木杉「ふん、かわされたか……!!」
のび太「何故……時の止まった中を動けるんだ……ッ!?」
出木杉「次の一撃はタダでは済まさん……!」
のび太〈しかも『四次元若葉マーク』を付けている僕に迷わず攻撃してきた………!!〉
出木杉〈『フリダシニモドル』発動ッ!!時を『数分』巻き戻すッ!!〉
ドシャ―――z___ン!!
ー数分前ー
出木杉B「………やぁ、お待たせ」 …瞬ッ!
のび太「また消えた…!?」
出木杉A〈『僕』が鏡面世界へ移動したようだな……『入りこみミラー2』発動ッ!〉 瞬ッ!
――――――…
出木杉B「ふははは!着いたぞ『鏡面の世界』ッ!」
出木杉A「どうやら上手くいった様だな……」
出木杉B「君は……未来の僕か……良く来てくれた………!!」
カッ――――――…
のび太〈何だ!?眩しい……!!〉
のび太〈時は停止している筈だ……何故、急にライトが……!?〉
その時……!
光を遮る様に
一つの人影がのび太の視界に飛び込んで来た…!
のび太「誰か……来る!」
出木杉B「これで終わりだッ!のび太ッ!」
のび太がその目を凝らすと
出木杉がナイフを握り、眼前まで迫っていた……!
のび太「出木杉!?」
身の危険を察し
咄嗟に突進攻撃をかわすのび太…!
出木杉「ふん、かわされたか……!!」
のび太「何故……時の止まった中を動けるんだ……ッ!?」
のび太が疑念を抱いたと同時…
上空から再び光の道筋が現れ、のび太を照らし出す!
のび太〈何だ!?また光が……!!〉
出木杉A「逃げられると思うなッ!」ズァァ!!
のび太「!?」
出木杉A「――――…中々の身のこなしじゃあないか………ッ!」
上からの突進攻撃……!
ナイフは頬をかすめたものの致命傷には至らなかった…!
のび太「で、出木杉が……どうして二人もいるんだッ!?」
出木杉A「だがあともう少し………!」
出木杉B「楽しみだよ……君に一撃が加えられると思うと……!」
のび太〈『四次元若葉マーク』を付けている僕に迷わず攻撃してきた……それより、『二人』いる……これは……!?〉
出木杉A、B〈『フリダシニモドル』発動ッ!!時を『数分』巻き戻すッ!!〉
ドシャ―――z___ン!!
ー数分前ー
出木杉D「………やぁ、お待たせ」 …瞬ッ!
のび太「また消えた…!?」
出木杉C〈『僕』が鏡面世界へ行ったようだな……『入りこみミラー2』発動ッ!〉 瞬ッ!
出木杉A、B〈『入りこみミラー2』発動ッ!〉 瞬ッ!
――――――…
出木杉D「おや、先客が居る様だが……未来から加勢に来てくれた様だな。」
出木杉C「のび太は仕留められそうか……?」
出木杉A、B「あと3巡ほど遡れば奴の退路は完全に塞がるだろう……」
出木杉D「ハッハッハッ!これはいい!最強の攻撃だッ!!」 ――――――…
カッ――――――…
のび太〈何だ!?眩しい……!!〉
のび太〈時は停止している筈だ……何故、急にライトが……!?〉
のび太「そ……それよりも……!!」
のび太は周囲を見渡しながら吃驚する……!
止まった時の中、四方八方からライトを照射されていたからだ…!!
のび太「……何じゃこりゃああああァーーーーーーーーッ!?」
出木杉「これで終わりだッ!のび太ッ!」
光の軌跡を辿り
無数の出木杉が一斉に襲い掛かってきた……!
出木杉の群れが
のび太の居た場所をあっと言う間に覆いつくす…!
のび太「ハァー……ハァー……!!」
出木杉「小さい穴を掘って地中へ逃げたか……だが…!」
出木杉の群れの中の一人が握るナイフから
真新しい血が滴る…
出木杉「このダメージ……摩擦などによる『かすり傷』ではない、僕の攻撃が完全に触れたッ!!」
のび太「!?」
出木杉「君の時間停止は『ウルトラストップウォッチ』によるものだ……よって僕が君に触れた今、時は動きだす……ッ!!」
のび太〈『四次元若葉マーク』を付けているのに……ダメージを受けてしまった……!?〉
出木杉「『マッドウォッチ』ッ!のび太の周囲を減速させろッ!!」ドギュウゥ―――z___ン!!
のび太「――――――――――――」
出木杉「チェックメイト……!!」
『四次元若葉マーク』に対する出木杉の攻撃……
それは秘密道具の製作者にも想定されていない
道具の併用による『バグ』を利用したものであった
『道路光線』で作り出した異次元の道筋に『入り込みミラー2の出入り口』を噛ませることで
現実世界と異世界を繋ぐ隙間に干渉出来る異次元空間を作り出したのである……!
出木杉「お別れだ……!!」ジャキン!
出木杉達はのび太のいる穴に向かい
一斉にナイフを放つ!!
出木杉「『マッドウォッチ』……ナイフの周囲を加速させろッ!!」ドギュウゥ―――z___ン!!
加速した数十本のナイフが
のび太の体に突き刺さる……!
出木杉「『マッドウォッチ』……解除ッ!!」
のび太「が…ハ………!?」ブシュウウ…!
出木杉「自ら墓穴を掘ってくれるなんてね……手間が省けた……」
のび太「あ……」
出木杉「さよならのび太……」
のび太「」
出木杉A「さて……ここに至るまで増えてしまった僕等をどうするか……」
出木杉J「簡単な事だ……一番古い君がここに残り、後は全員過去へ戻って同じ事を繰り返す……」
出木杉X〈僕が抜けるのは当分先か、まぁしかたない。Aのおかげで我々の勝利が約束された様なものだ……〉
出木杉C「」
出木杉K「三番目……さっきからうずくまってどうした?」
出木杉F「ぐ………ぁ………」ブシュウウ…!
出来杉L「!?」
違和感に気付いた時には既に何人かが
体中から血を流し倒れていた後であった……!
出木杉C´「な……何だァァーーーッ!?何がどうなっているッ!?」
出木杉Z「喚くなッ!僕なら平静を保t……っ………」ブシュウウ…!
ドサッ・・・
出木杉A´「こ……これは一体……!?」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・
32名の出木杉の誰もが
現状を把握できずに次々と倒れていく……!
出木杉B´「う………ッ!!」ブシュウウ…!