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戦場にいる兵士のために空から届けられた特別仕様の戦場ピアノ(アメリカ) : カラパイア

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 「ピアノ売ってちょーだい!」と言えば、みんなまあるくタケモトピアノだが、1940年代、「空からピアノが降って来る」という、まるでフィクションの世界の中のような出来事が実際に起きていたようだ。

 第二次世界大戦中、アメリカ政府は兵器として使用できる材料で、それ以外のものを製造しないよう通達を出していた。楽器メーカーも例外ではない。

 彼らは細々と工場で楽器の代わりに武器の部品を作っていたが、兵士の心の健康を保つため、音楽を奏でる為のピアノの製造が許可された。

 そのピアノはパラシュートで空から戦地へと届けられるため、頑丈な特別仕様となっていた。これが空から降ってくる戦場ピアノである。
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大戦中、楽器が作れず武器を作っていた楽器メーカー


 第二次大戦中、鉄、銅、真鍮などの金属を使ったあらゆる製品は、戦争に不可欠なものでない限り、米政府によって製造が中止された。こうした金属は極力、銃や戦車、大砲を作るために回されたからだ。

 多くの楽器メーカーが、この新たな規制の影響を受けた。軍が使えるなにかほかのものを作るか、戦争が終わるのを待つしかなかったが、それは廃業に等しい一大事だった。

 ヨーロッパでの戦争が勃発した当時、創業90年だったアメリカの大手ピアノメーカー、スタインウェイ&サンズも、この規制の影響を受けた。

 スタインウェイは、工場を閉鎖する代わりに、棺や部隊の移動用グライダーの部品を製造しながら、次のチャンスを待とうと決めた。

 同様に、ボールドウィン・ピアノも、飛行機の木製の翼を作り、ギブソン・ギターも木製のおもちゃを代わりに製造してしのいだ。こうした投機はほとんど利
益にはならなかったが、少なくとも細々とでも会社は操業することができた。


兵士の為のピアノの製造が許可される


 スタインウェイの忍耐が報われるときがきた。従軍兵士たちのための頑丈な軍用ピアノを製造する契約を米軍と結んだのだ。

 1942年6月までに、スタインウェイは幅100センチ以下、4人の兵士でも運べるくらいの重さ200キロ以下の小ぶりのアップライトピアノを設計した。

 シロアリや虫がつかないよう加工処理をされ、湿気に耐えられるよう防水グルーで密閉された。南国の気候で変色しないよう、象牙の鍵盤は白いセルロイドでコーティングされ、低音域の弦に通常巻きつける銅の代わりに軟鉄を使った。

 もっとも優れた点は、通常のグランドピアノのおよそ10分の1、わずか15キロの金属しか使われていないピアノだということだ。

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戦場ピアノは空からやってくる


 "ヴィクトリー・バーティカル"モデルとして知られるこの戦場ピアノは、木枠の箱で梱包されて、調律機材と指示書とともにパラシュートで安全に野営地に降下させることができた。

 およそ2000台から5000台のピアノが、3つの大陸で戦っている米兵たちのために降下された。

 音楽は、兵士たちが戦争の恐怖やホームシックなどから精神が病んでしまうのを防ぐ優れた手段だった。

 こうした戦場ピアノは、前線の兵士たちに計り知れない気晴らしや教養、娯楽、尊厳、充実感、福祉をもたらし、戦地において重要な役割を果たした。

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1943年6月10日、アリゾナ州フォート・フワチューカの野営地で演奏する、第19特別部隊
image credit:

 ある兵士は母親にこんな手紙を書いている。

この2日間、小さなワゴンを引っ張った一台のジープが野営地にやってきて、夜に歓迎の余興があったんだ。

ワゴンには灯火装置とスタインウェイのピアノが積んであったよ。ママ、これを見たらきっと笑うだろうな。

だって、そのスタインウェイはアンクル・ジェイクスのピアノとはまるで違うものだったから。ずいぶん小ぶりで、カーキ色に塗られていて、なんだかジープみたいだった。

ぼくらは食事の後で、みんなしてまわりに集まって、ピアノに合わせて歌い、その音に酔いしれ、本当に楽しんだんだ

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バーティカルモデルのそばで、前線の兵士たちのために歌うバリトン歌手ベンジャミン・デローチ

音楽は心を癒す


 戦争が終わるまでに、スタインウェイは5000台のピアノを出荷したが、すべてが軍隊用というわけではなかった。およそ半分が軍向けで、あとの半分は宗教団体、教育機関、ホテル、集会場などが購入した。

 スタインウェイのピアノは、戦後も軍に提供され続けた。

 原子力潜水艦トーマス・A・エジソンが1961年に建造されたとき、スタインウェイのアップライトピアノが艦長の要請で乗組員の食堂に設置された。

 ピアノは1983年にこの潜水艦が退役するまでずっと船と共にあった。現在は、ワシントンD.Cの海軍歴史センターに所蔵されている。

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木箱に梱包され、輸送されるのを待つヴィクトリー・バーティカル

References:That Time When America Air-Dropped Pianos For Troops in Battlefields | Amusing Planet/ written by konohazuku / edited by parumo

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