image credit:Pixabay
温室効果ガスの削減が急務とされている世界は今、化石燃料からの脱却が求められている。
新しいエネルギー源として代表的なものに、風力発電や太陽光発電といった自然の力を利用した再生可能エネルギーが挙げられるだろう。
あまり馴染みはないかもしれないが、同じ自然の力を利用したものとして植物の光合成を利用するアイデアも研究されている。
特に注目が集まっているのが、太陽の光で二酸化炭素を酸素に変える植物の力をモデルにした「人工葉」だ。
これは、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量にするカーボンニュートラルな社会に転換させる切り札になるかもしれないと期待されている。
スポンサードリンク
電気を使わずに光合成を成功させる人工葉
たとえばカナダ・ウォータールー大学の研究グループは『Nature Energy』(11月4日付)に掲載された研究で、電気を使わずにCO2(二酸化炭素)をメタノールに転換する技術を考案した。
電気を使った人工葉は人気を増しつつあるが、一方で光触媒反応を利用するアプローチは、電気を利用するアプローチよりも安価かつ効率的というメリットがありながらも、1978年に提唱されて以来ほとんど成功してこなかったのだという。
問題だったのは安定性に乏しいことと、これを作るために必要な元素が高コストであることだ。
実験の様子。1時間が経過するころには化学反応により、二酸化炭素を燃料に変えるための新技術の鍵となる赤い粉末が生成された
image credit:University of waterloo
そこで研究グループは、光触媒化合物として新しく酸化第一銅を採用し、効率面でもコスト面でも電気式アプローチに対抗しうる光触媒反応式アプローチを考案した。
新開発の人工葉は、酸化第一銅の粉末を水に入れて光を当てると機能する。
これによって生じる反応で、まるで植物が光合成を行っているかのように酸素が作られてCO2はメタノールに転換される。
電気式アプローチでのメタノール生産性は50〜60パーセント程度だが、今回のアプローチでは72パーセントという高生産性を達成。
さらに転換効率もおよそ10パーセントと、自然の光合成より10倍も高かったとのことだ。
こうして作られたメタノールは石油に変わる代替エネルギーとして使うことができるし、プラスチック製品の原料としても利用できる。
ウォータールー大学のYimin Wu教授
image credit:University of waterloo
光合成を模倣した装置でクリーンかつ持続可能な合成ガスを生産
また英ケンブリッジ大学の研究グループは、人工葉でクリーンかつ持続可能な合成ガスを作り出すことに成功し、その成果を『Nature Materials』(10月21日付)で発表している。
合成ガスは今現在でも燃料、薬、プラスチック、あるいは肥料として広く利用されている。
しかし、それは石炭や石油から作られた素材の残りを利用したもので、二酸化炭素の排出という点で考えればあまり望ましいものではない。
そこで研究グループは光合成を模倣して、ペロブスカイト(灰チタン石と同じ結晶構造の物質)というコバルト触媒に光と水と二酸化炭素を結びつけることにした。
ここにさらに水素と一酸化炭素を加えれば合成ガスができあがる。
光合成を模倣した新デバイスの動作中の様子
image credit:Virgil Andrei
風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーは年々性能が向上している。しかし、世の中は電気だけで動いているわけではない。
自動車、船舶、飛行機など、現時点では電気だけは利用できないものもある。ゆえにこうした分野では化石燃料に変わるクリーンな燃料が求められている。
そこで人工葉の出番というわけだ。
どこかで二酸化炭素が排出されたとしても、それをなんらかの方法で吸収するなら全体としての二酸化炭素量は変わらない。これをカーボンニュートラルという。
排出された二酸化炭素を捕らえてそれをクリーンな燃料に転換することができる人工葉が実現するのは、このカーボンニュートラルな社会だ。
葉っぱと言えば人工葉を思い浮かべる・・・そんな未来も来るのだろうか?
References:University of waterloo/ Nature Energy / written by hiroching / edited by usagi
追記:(2019/11/7)本文を一部訂正して再送します。
あわせて読みたい
どうりで葉っぱみたいな形してるぜ。半分動物で半分植物、葉緑体を持ち光合成ができる「ソーラーパワーウミウシ」
植物のように光合成する衣服が開発される。藻類を使用し二酸化炭素を酸素に変える(カナダ研究)
照明器具が息してる?光合成をする世界初の生体工学シャンデリア「エクスヘイル(息を吐く)」
光が届かない地底で光合成するシアノバクテリアが発見される。生存メカニズムの解明が地球外生命体発見の鍵に?
昆虫の体液・人工光合成・光吸収100倍の太陽電池、次世代型エネルギーが続々開発
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「サイエンス&テクノロジー」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 2225 points | 聖剣エクスカリバーか?約700年前の剣が川底の岩に刺さった状態で発見される(ボスニア) | |
2位 1473 points | ベジタリアンから肉食に転向した女性。きっかけは妊娠中に食べたハンバーガー1個(オーストラリア) | |
3位 1393 points | リアルサバイバルホラー。世界一怖いお化け屋敷に10時間以上耐えられれば2万ドルの賞金をゲット(アメリカ) | |
4位 1000 points | 映画「IT」のペニーワイズのコスプレをした犬があまりにも出来すぎていたのでコラ職人頑張る | |
5位 784 points | 保護されたカラスが可愛がられた結果 →「待って待ってマイダーリン」と鳴くようになる |
スポンサードリンク
コメント
1.
2.
3. 匿名処理班
めっちゃ良いじゃん!
森切り開いて全部人工葉にしよう!(錯乱)
4. 匿名処理班
工場の煙突につければいいんだな。
5.
6. 匿名処理班
森林減少の助けになればいいけど
人工葉をたくさん作れば森林はじゃんじゃん伐採していい
という世界的風潮になるような気がする
7. 匿名処理班
石油石炭採掘企業、それらの大量消費企業にはこの人工葉の植林?を義務付けよう。アメリカと中国、君らに言ってる。とにかく大国は地球に責任持てよ
8. 匿名処理班
原潜だと二酸化炭素はまとめてポイするのが一般的なので
もしこの技術完成したら真っ先に採用しそう
おまけに宇宙空間でもシャトルなどの作業でも
十分使われると思うぜ
9. 匿名処理班
転換のスピードがウソ臭い
10. 匿名処理班
葉っぱでええやん
11. 匿名処理班
> そこで研究グループは光合成を模倣して、ペロブスカイト(灰チタン石)
> というコバルト触媒に光と水と二酸化炭素を結びつけることにした。
> ここにさらに水素と一酸化炭素を加えれば合成ガスができあがる。
ここは誤訳だと思う
後から水素と一酸化炭素を加えれば合成ガスができあがるのは当たり前なので
例えばこんな感じのが正しいと思う
# そこで研究グループは光合成を模倣して水と二酸化炭素を結びつけることにした。
# ペロブスカイト(灰チタン石)というコバルト触媒に光を当て
# 水素と一酸化炭素つまり合成ガスを生成させたのだ。
12. 匿名処理班
これシート状にしてビルの外壁覆えば自給自足も可能なんじゃない?
13. 匿名処理班
ロシア人「メタノールじゃないと飲めないではないか」
14. 匿名処理班
まずは開発者の国で試してみて欲しい
PM2.5が凄いから
15. 匿名処理班
人口光合成の研究は基本的に二酸化炭素を活用する前段階で必要となる
水を水素と酸素に分解することが盛んに研究されている。
後、今回のペロブスカイトは灰チタン石ではなく灰チタン石と
同じ結晶構造の物質の事を言っているはずですよ。
16. 匿名処理班
いきなり化石燃料から脱却するのは無理が出るから
こういうアプローチは猶予も出来るし現実的でいいね
ただ、生物の作用で行われる化学反応は再現が難しいものが多いから、大変だろうけど頑張って欲しいね
17. 匿名処理班
貝類の世界規模での養殖じゃダメかな。
貝殻生成には水中の二酸化炭素が必要なわけだし。
そして陸地より海のほうが広いし。
18. 匿名処理班
で、できたメタノールはどうなるの。CO2にもどるならせめてエタノールにしてほしい