『お岩さん』に怯える
1927年(昭和2年)9月2日の朝日新聞に
「映画の『お岩さん』に怯え3人殺し犯人捕まる」という記事が掲載されている。
記事によると、9月1日、東京都
浅草である不審な男が逮捕された。
この男は京都市内の焼酎工場従業員のMという男で、今年6月に
京都市内で強盗殺人を行い指名手配されていた男だった。
Mはこの年の5~6月、勤めていた工場の昼休み中、強盗に押し入り、その場にいた26歳の母親および3歳の息子をタオルで首をしばり絞殺し逃走。その数日後、Mは夕食後に散歩中、好みの女性をみかけ茶畑でことに及ぼうとしたが、抵抗したため、同じく持っていたタオルで首をしばり殺してしまった。
Mの犯行は衝動的だったため、警察は犯人逮捕に時間がかかっていたが、ジワジワと
疑いの目が自分に集まっていることを感じ取ったMは、京都を飛び出し、大阪に住んでいる友人の自宅に居候させてもらうことにした。
夜汽車で向かった先は?
友人は久々に再開したMは手厚くもてなしたが、浮かない顔ばかり。そこで
友人はMを連れて上映中だった「四谷怪談」の映画(タイトル不明。時期からして月形龍之介主演の「いろは仮名四谷怪談 前後篇」と思われる)を鑑賞することにした。
四谷怪談は日本三代幽霊の一つで、おちこぼれ浪人の伊右衛門が、過去の自分の悪事を隠すため妻であるお岩の父親を殺害した。その直後、お岩は体を壊しいてしまい、その姿を疎ましく思った伊右衛門はお岩に「顔のくずれる毒薬」を渡し、顔の醜くなったお岩は死亡する。その後、新しい女房と結婚した伊右衛門は、その晩からお岩の亡霊に悩まされ続け、その結果、目に映る全てのものがお岩の顔となり、お岩の呪いにより成敗されるというストーリーだ。
四谷怪談は、話によってバラつきはあるが
「自らの欲望のために殺人を犯す男が主人公」という部分は変わらないため、殺した女の亡霊に悩まされ続ける伊右衛門の姿に、
Mは自らが京都で犯した罪をオーバーラップさせるようになり、ノイローゼに近い状態になってしまった。
そして、Mは自首か自死を決意するが
「生き恥を京都で晒したくない」と、映画を観てから一睡もせぬまま東京行きの夜汽車に乗り東京浅草へ向かった。
そこでMは藁をも掴む思いで浅草観音へ向かったが、顔色が悪くフラフラになっていたところを浅草署の警官に怪しまれお縄となったのだ。
一本の怪談映画が、連続殺人鬼の人生を変えた……これぞまさに現代の怪談話ではないだろうか?
参照:朝日新聞
文:
穂積昭雪(昭和ロマンライター /
山口敏太郎タートルカンパニー /
Atlas編集部)
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