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以前から自然界では動物たちの同性愛的行動(同性の性的行動)が知られていた。それは交尾に限ったことではない。同性同士のマウンティング、歌をはじめとするシグナルによる求愛などの行動は、霊長類やヒトデ、コウモリやカワトンボ、ヘビや線虫など、1500種を超える動物で観察されている。
ではなぜ動物たちは、生殖とは直接関係ない性行動を行うのか?
その動機や目的はまだ十分には理解されていない。ここ数十年、動物の同性愛的行動を行う理由についていくつもの仮説が提唱されてきた。
だが、そうした仮説は、異性愛を基準として考える人間社会の規範による影響で、正しい理解を妨げているという。
アメリカ・イェール大学をはじめとする研究者のグループが『Nature Ecology and Evolution』(11月18日付)に掲載した最近の論文によると、人間社会の規範にとらわれずに視点を広げてみることで、動物の多様な性の世界を理解できるようになるという。
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動物の同性愛的行動は「進化のパラドックス」なのか?
これまで発表された、どの仮説にも共通しているのが、動物の生存や生殖(生物学では「適応度」という)に関する明白なメリットがないことから、同性愛的行動を「進化のパラドックス」とみなしていることだ。
生物学者に言わせれば、それは非常にコストが高くつく行動であって、何らかの大きなメリットがないかぎりは、自然淘汰によって種の絶滅につながるという。
さらに、同性愛的行動を取り上げたほとんどの研究は、関心のある単一の種のみを対象としており、そのために同性愛的行動がそれぞれの動物種で独自に発達したという、まったく一般的ではない前提ができてしまっている。
こうした説は本当に確かなことなのだろうか? 今回の研究グループは、それは科学というよりも文化的な規範に根ざしたものだと論じている。
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同性愛行動は本当に高コストなのか?
これまでの研究では、同性愛行動は適応度上のメリットがなく、時間・エネルギー・リソースを無駄にするために、非常にコストが高いとみなされていた。
しかもこのコストの高さは、異性愛的行動(異性との性行動)のメリットと比較されていっそう強調される。異性愛的行動は子孫を残すことを通じて適応度を高めるゆえに、それは非常に効率的であるというメリットだ。
しかし動物はしばしば、異性とたくさんの性行為をしつつ、それでいて子供はほんの少ししか産まないということがある。
異性愛的行動はいくつもの理由のために常に生殖にいたるわけではない。つまりは異性愛行動もまたコストが高いのだ。
ゆえに、生殖につながらないという理由だけで、同性愛的行動が本当に異性愛的行動よりも高コストであるかどうかは、それほどはっきりしていない。
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同性愛的行動はさまざまな種で独自に発達したものなのか?
同性愛的行動と同じくらい数々の種で見られる特徴については、いろいろな種で独立して進化したのではなく、共通祖先でほんのかぎられた回数だけ進化したものだと考えるのが普通だ。
しかし、研究グループが知るかぎり、同性愛的行動についてはそのようには想定されていないという。この問題にかぎっては、なぜだかさまざまな種で独立して進化したかのような、あまり一般的ではない前提に立った研究が多いのだ。
ついでに、こうした同性愛的行動が高コストであり、さまざまな種で独立して進化したという前提は、同性愛的行動は異常であるという異性愛がスタンダードの世界観によって補強されてしまっている。
このことは、こうした前提がどのようにして形成され、なぜほとんど疑問視されることがないのかを説明しているだろう。
視点を変えることで見えてくる自然界の多様な性
今回の研究グループは、視点を少し変えてみることで、同性愛的行動も含めた動物の多様な性の世界を理解できるようになると主張する。
同性愛的行動は異性愛的行動とは相容れないものとみなすのではなく、動物は同性愛と異性愛の範囲にある性行動の広範な組み合わせを行うものなのだと認めるのだ。
このような見方をしてみると、同性愛的行動はじつは動物が性行動を行うようになって以来ずっと存在しているのでは? という別のシナリオが浮かび上がってくる。
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私たちの祖先は性別など関係なしに交配を行なっていた?
研究グループは、私たちの共通祖先は性別など関係なしに無差別に交配したという説を提唱している。
性行動が登場するのと同時に性別を見分けるような特徴(大きさ、形態、色、臭いなど)までが進化したとは考えにくいからだ。
そして、じつは無差別な交配はコストよりもメリットの方が大きい可能性もある。なぜなら、交配相手を識別するためには、生理的にも認知的にもコストの高い適応が必要になるし、あまり選り好みをしすぎると、かえって生殖のチャンスを逃すことになるかもしれないからだ。
その上で、現在見られるさまざまな動物の性行動は、どんな性別の相手とでも交配した共通祖先に起因するものだと考えてみる。
するとこんなシナリオが見えてくる。進化の系統樹の枝の中には、同性愛的行動が実際に高コストだったものもあるだろう。そうした枝では同性愛的行動はやがて廃れ、異性愛のみが進化した。
しかし、それほど高コストでない枝もあっただろう。そのような場合は同性愛的行動が残り、それどころかまた別の機能を担うようにも進化した。
歴史的に同性愛的行動は不適切な行為や偶然の出来事とみなされてきたために、種全体でそれがどのくらい一般的なのかはっきりとはわからない。
しかし、もしこれを系統的に記録し、同性愛と異性愛行為のメリットとデメリットを数値化すれば、これまで考えられてきたよりもずっと一般的で、低コストであることが明らかになるだろうと研究グループは予測している。
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文化という制約から解き放たれた科学からはどんな発見があるか?
なお、こうした議論の中で、人間の性行為は一切概念化されていない。人間の規範を作り出すのは科学の役割ではないからだ。
ただし、人間の文化は生物の研究から影響を受けるよりも、むしろ影響を与える側だったとは述べられている。
私たちが発する問いは世界の理解を形作るが、そうした問いもまた世界の理解によって形作られている。科学者が考案する仮説や前提は、私たちが持つ常識や偏見によって左右されてしまうのだ。
研究グループが期待しているのは、こうした議論によって自然界の多様性についての理解が広がることだ。文化的な規範や歴史的な前提から解き放たれたとき、進化生物学からどのような発見がもたらされるだろうか――。
References:nature / phys/ livescience / written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
これも謎なテーマだよ
感情が高度になりすぎた人間は置いておいて
動物の中には性欲の発散のために
見境なく付近の同種に接してしまうパターンはあるっぽいけど
あえて異性を差し置いて同性を選ぶ個体がいるのは何なんだろうな
本能的に一定割合で発生するとしたら、これも何らかの意味があるんだと思うよ
2. 匿名処理班
難しいことはよく分からないけれど たぶんボノボはエンジョイしているだけだと思うんだ
3.
4. 匿名処理班
別に子どもを産むのが人生の目的って訳でもないでしょ。
犬だって猫だって気持ちいいからやるんじゃないの?
5. 匿名処理班
「選り好みしない」が答えなんじゃないか?
ストライクゾーンの広い遺伝子ほど残りやすかったんだよ。
6. 匿名処理班
今から40年程昔はTVや学校でも多くの間違った常識を教えていた
「同族を殺す生き物は人間だけ」
「動物の中で自殺するのは人間だけ」
「動物の中で人間だけが感情で涙を流す」
「同性愛は人間だけのもの」
まだしっかりとした研究がされていなかったり、インターネットの無い時代で
情報が広く伝わる事がなかった時代だったとはいえ、誰がこういう主張を
常識として広めていたんだろうね
7. 匿名処理班
オス同士のやつは単に排泄欲ちゃうの
8.
9. 匿名処理班
雌雄なかった可能性?
10. 匿名処理班
これは思ったことがある
どの生物も性的特徴が顕著だったりフェロモンを出してるわけでもないし、それらの特徴が発達する前は同類とみたらとりあえずやってみる方が効率良かったんだろ。今でも男か女か判断つきにくい人もいるもんな
それに繁殖はしなくてもボノボみたいに友好を深めることもできる
平安貴族も政敵を懐柔したりするのに同性愛してたし
11. 匿名処理班
性交は子孫を残すと言う目的よりも、快楽を求める事が本質なんだろう。
12.
13.
14. 匿名処理班
>>11
より多くの子孫を残すため
またやりたくなるように
快楽に感じるようにできているのでは
15.
16. 匿名処理班
無性生殖から有性生殖に進化したんだからまぁそうだよねぇ。
でもそこまで遡って考えると、そもそも生き物ってなんで発生したの?どこから来たの?宇宙??
考えすぎて眠れなくなっちゃうね。
17. 匿名処理班
ある程度同性を許容する要素がないと、雄同士殺し合いとかしちゃうんじゃない?
割合の問題かなあと思うんだけど。
18. 匿名処理班
※4
幾ら何でもものを知らなさすぎだ…
猫なんか息子スティックにトゲついてて娘フラワーに引っかかるんで
メスが痛みで怒って交尾終了するんだぞ
交尾のための発情ってのはあくまで本能の仕事だよ
人間と一緒にしたらいかん
19. 匿名処理班
選り好みすんじゃねえ数撃ちゃ当たんだよ!ってのが共通祖先の手法なら
いや良く狙えよ(第二次性徴)ってのがモダンな手法なのかね
コストもだけど感染症などリスク低減にもなる…?
20. 匿名処理班
淘汰されなかったって事は何かしらメリットがあったんだと思う。
同性愛に限らず、盗み癖や暴力癖、浮気性なんかも社会としてはNGだけど飢餓や人口減少、戦争とかの歴史を考えると
生存戦略としてはなくてはならないものだったんだろうって思う。
21. 匿名処理班
探究の姿勢は常に必要だと思うけど
すべてに意味があるはずだというのも先入観かもしれない
今も生き物全体で試行錯誤の途中かもしれないし
22.
23. 匿名処理班
少し前の記事にあった、720種類の性別がある生き物。
同性愛がしたくても大変困難でしょうねわかります。
24. 匿名処理班
人間は男と女が愛し合う"傾向が強い"動物である・・・がそれ以外の性志向を持つ個体も当然いる。人間が世界を認知し、共有しあう時に世界の簡略化が必要になる。そのままでは複雑すぎて伝達できないし、人間の脳スペックでは処理しきれないから。よって"男と女が愛する"という簡略化された価値観が浸透したんじゃないかな。
25. 匿名処理班
同性を性の対象にすることによって、闘争の対象外となるとか?
結果、多様性が守られ種の繁栄となる。
※2を見て深く考えずそう思ったが、案外と本質かもしれん。
26. 匿名処理班
雌雄同体だった頃の名残だったりして
27. 匿名処理班
文鳥♀によくシッポ振られて求愛されてたわー自分も♀だけどw
鳥ってわりと種族も性別も気にしないよね
28. 匿名処理班
そもそも性行為なのか?
まずそこじゃないの?
人類が便宜上、性器を接触させる行為を性行為と呼んで分類別けしているだけで言葉を持たない動物達にとっては性行為などではないのでは?
ひょっとすると子孫を残す為の行為を行うことが目的でなく、異性異種族関係なく本能に従って腰を振っているだけ、残せるか残せないかではなくただそういう時期環境肉体的整備等様々な要因によってただ腰を振っているだけ。
で、その時群れや相手の都合上同性だった例を見て「自然界でも同性愛はあるんだ!」って思いたい人が思っているだけでは?
29. 匿名処理班
コミュニティの数の調整かなって思ったことある。数が少ない場合でも同性愛が発生したらそれは覆っちゃうけども。
30. 匿名処理班
動物って必ずしも交尾で気持ちよくなるとは限らないし、ペンギンみたいに子育てまでするとなると、生殖云々だけではないよね
31. 匿名処理班
そういう考えになるとカタツムリなんかの雌雄同体も興味深いね また調べてみよ
32. 匿名処理班
遺伝子プールが少ない事による近親交配が遺伝子に異常をきたした、だなんていう臆測。同性愛のその個体が次も同性を選べば完全におねえな個体だとは言えるがどうなんだろ。
若い個体がツガイを得られず、同性に走った可能性だとか?雌を得るための練習をしている説がNHKでやってはいたが。