妖猫、嬰児をかみ殺す

1901年（明治34年）2月15日付の朝日新聞に「妖猫、嬰児をかみ殺す」という記事がイラスト付きで掲載されている。
記事自体が古く、解読不明な箇所も少なくないが、出来る限り現代語訳してみよう。

埼玉県児玉郡某所の夫婦の家では一匹の猫が飼われていた。この猫は家主男性から大変可愛がられ、人間の食べ物を食べて丸々と太っていた。この夫婦には子供がおらず、この太った猫を息子のように可愛がっていたのだが、ある日、近所の夫婦から生後二か月の男子を養子として迎え入れ、ようやく家庭に跡取りができた。

ところが、2月2日。奥さんが外で洗濯をしていると赤ん坊が寝ている寝室から「ギャー！」という叫び声が聞こえた。奥さんが慌てて駆け寄ると、そこには額から血を流し、鼻から口にかけて肉が剥がされている赤ん坊の姿があった。奥さんは「キャッ」と悲鳴をあげ腰を抜かしてしまった。

奥さんが赤ん坊に近寄ると、奥の方から飼い猫が、口元の赤い血をペロペロと舌なめずりをしながら歩いていくのが見えた。

「まさか猫が赤ん坊を……」

猫を逃がしてはいけないと怒り狂った奥さんは身に着けていた襷（たすき）を外すと、猫をぐるぐる巻きにして縛りつけ動けないようにし蔵の中に押し込め、周囲に助けを求めた。

近所の人は薬を持ちより医者も呼んだが、顔の皮を剥がされた赤ん坊の傷は深くしばらくして息絶えた。奥さんは赤ん坊が死んでしまった悲しみ、そして猫に対する怒りで、猫を成敗しようと蔵を確認したが、猫は最初に奥さんが力いっぱい襷を縛り上げてしまったためか、窒息死してしまっていたという。

原因は猫のジェラシーか

以上が朝日新聞に掲載された。妖猫の逸話である。
この記事に登場する妖猫は恐らくは化物の類ではなく、ごく普通の家庭で飼われていた大きめの猫だと思われる。なお、飼い猫が人間の赤ん坊をかみ殺す事例はままあり、小さな赤ん坊を食べ物と勘違いするケースのほか、飼い主が赤ん坊に嫉妬して齧ってしまうケースも少なくないという。この妖猫事件は突然やってきた養子に嫉妬した飼い猫によるジェラシーが原因だったのかもしれない。

参照：朝日新聞
文：穂積昭雪（昭和ロマンライター / 山口敏太郎タートルカンパニー / Atlas編集部）



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