実は、あの子が高校2年生になった頃から、だんだん口数が少なくなり、何を言っても返事が口こもるようにしか言わなくなって、「うん」とか「あー」とか 言う程度で、すぐに部屋にこもってしまうようになったのです。
主人がいたころは、何でも話し合えるとっても良好な関係でした。
それというのも、3年前、主人を山の遭難事故で亡くした私は、どうしても働かなければならず、元働いていた薬局で働き始めました。
幸い薬剤師という職業は、今とても条件がよく息子一人ぐらいはなんとか育てられるぐらいは十分のお給料をいただけます。
でも、主人が居たときと違い、私がいつも家庭に居るわけではありませんので、夕飯も私が朝用意はしますが、食べるのは息子が一人ですることの方が多く、ひとりぼっちの夕食が多くなってしまいました。
遅番が続いた時は、私が帰宅しても自分の部屋で勉強していて、何日も会話が無いことが続いた事もありました。
ですから息子との距離が少しずつ広がっていったのかも知れません。
半年ほど前、洗濯かごに入れておいた下着に男の人の体液が着いていたのです。
私はびっくりして、一瞬頭の中が真っ白になりました。私には男の兄弟はいませんので男の子のことはよくわかりません。でも、医学書にも男性の性に関する部分はありますので、それを読みましたがこのようなケースは載っていません。
もし主人が生きていたらこんな時どうすればよいのか話せたのにと涙がでてきました。
私は、この事にはふれず自然に振る舞うことにしました。でも、下着は、まとめて洗う事はせず、お風呂上がりにすぐ洗濯をして干すようにしました。
そうしましたらしばらくは何も起こりませんでした。あれからひと月ほどたったころお風呂にはいって髪を洗っていた時、脱衣場に人の気配を感じました。
たぶん息子の晃(あきら)がタオルでも探しているのだろうと思い気にもとめませんでしたが、しばらくゴソゴソしていたので、
「どうしたの?。タオルは右の引き出しよ。」って声をかけましたら、
「うーん」という返事がかえってきて、戸がバタンて閉まる音が聞こえました。
別に気にも止めませんでしたが、着替えようと脱衣場に移りましたら、今まではいていた下着が無くなっていました。
これは、もうあきらかです。息子しかいません。私は、絶句してしまいました。どうしていいのか頭が真っ白でした。