106枚のチケット

東京オリンピック開催2週間前の1964年（昭和39年）9月27日。東京都文京区の某小学校教員の乗っている自動車が車上荒らしにあった。
盗られたのは現金のほか、東京オリンピックの子供用の観戦チケット106枚だった。

この観戦チケットは都内の小学校へ配られていたもので、チケットを盗まれた小学生たちは落胆。楽しみにしていたオリンピックへ行けないと知った生徒たちは悲しみにくれた。

そして、都民の日の祝日をはさんだ10月2日。チケットを盗まれた担当教員の机に封筒が置かれていた。差出人は不明で今朝、学校宛に届いたものだという。

「いったい誰からだろう」

教員が封を開けてみると、なんと中には盗まれたはずのオリンピックチケット56枚が出てきたのだ。驚いた教員がさらに確認すると、中に青いボールペンで書かれた便箋が入っており「たいへんご迷惑をかけて申し訳ございませんでした。それほど大切なものとは知らず大変ご面倒をおかけしました。券はお返ししますから、楽しいオリンピックを子供たちに見せてください。もう一度、本当に申し訳ございませんでした」との詫び状が入っていたのだ。

しばらくして、封筒に入りらなかったと思われる残りのチケット50枚も学校あてに届き、これで盗まれた東京オリンピックの観戦チケット106枚は無事に返却されたのだ。

捜査は打ち切り・・・

チケットは無事が戻ってきたため、教員は警察へ無事にチケットが見つかった旨連絡した。
返却はされたもの盗難の事実は消えないため、立件することもできるが「反省してるようなので」という教員の意見を尊重し、捜査は一旦打ち切ることになった。

警察いわく筆跡から手紙の主はある程度、年齢を重ねた女性であることは間違いなく、恐らく子供が悪戯で盗んだものを母親が見つけ届け出たのではないかと思われる（また、チケットには通し番号が入っているので、盗品を使用することはそもそも不可能だった）。

チケット事件から１週間後の10月10日、東京オリンピックは国立競技場で無事に開会式をあげ、生徒たち106人も無事にオリンピック観戦ができたという。

知られざるオリンピックの「観客裏話」である。

参照：毎日新聞
文：穂積昭雪（昭和ロマンライター / 山口敏太郎タートルカンパニー / Atlas編集部）



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