吸血鬼「おいオマエ、掃除はまだできていないの?」俺「はっ、申し訳ございません」
吸血鬼「仕事が遅くてイライラするのよ」
俺「はい……」
吸血鬼「いい? オマエがどうしても、大ネズミから助けてやった恩を返したいというから、こうしてこき使ってやっているの」
吸血鬼「これでは、使い魔共にやらせた方が遥かにマシでしょうねえ」
俺「仰る通りです……ふがいなさを恥じるばかりです」
吸血鬼「チッ、次戻ってくるまでに終わってなかったら、血を吸いつくして捨ててやるんだから」
俺「それはお太りになられますよ」
吸血鬼「……オマエ、たまに私のことを馬鹿にしていない?」
俺「いえ、滅相もございません」
俺「余計なお世話でございます喋る畜生」
猫「物怖じしなさすぎだろ……」
猫「オレッチを見たニンゲンは、みんな悲鳴上げて逃げてくんだぜ」
俺「掃除手伝ってもらえませんか?」
猫「おいおい、オレッチは猫ちゃんだぜ? できるわけないじゃん、箒とかに頼めよ」
俺「猫の手も借りたい、という奴です」カタスクメッ
猫「…………」
俺「…………」
俺「……ふむ」コホンッ
猫「ああ見えても吸血鬼様は、オマエが来たことに大喜びだ」
俺「そうは見えませんが?」
猫「ずっとニンゲンに怖がられてきたからな」ケケケ
猫「従順なオレッチら畜生以外との距離感がわからねえんだよ」
猫「朝からドレスの皴取って、犬歯と寝癖を気にして鏡の奴と面合わせて大騒ぎよ」
俺「ほう」
俺「……」
猫「どった、ニンゲン? 黙りこくって」
俺「まあ、それはそうかもしれませんね」ハッハッハッ
猫「だろ?」ニャッニャッニャッ
吸血鬼「ほう……?」ピキピキ
俺「……と、こちらの猫様が全て仰っておりました。今晩は猫鍋にするのがよろしいこと、進言いたします」
猫「ニャニッ!?」
吸血鬼「どうしたの? 私に言いたいことがあるなんて、珍しいわね」
吸血鬼「手短に言いなさい。紅茶が冷めてしまうわ」
俺「実はわたくし、故郷に用事がありまして」
俺「しばしお暇いただきたいと……」
吸血鬼「はあ? 下僕のくせに、自由に出入りしたいなんてムカツクわね」イラッ
吸血鬼「立場がわかっていないんじゃなくて?」
俺「大事な要件なのでございます」
俺「どうかお許しいただきたく」
吸血鬼「そうやって、裏切っていくんだ」
吸血鬼「口先ばっかり都合のいいこと言って、だから貴方達ニンゲンって嫌いよ」
猫「ニャア……」ドキドキ
俺「必ず戻ってまいります。このわたくしの、命に懸けまして」バッ
吸血鬼「…………」
吸血鬼「行きなさい」チッ
俺「ありがたく存じます……」
吸血鬼「……これ、お守りよ。持っていきなさい」
吸血鬼「下僕に死なれたら、私が困るものね」
俺「ハッ!」
猫「ニャア……」ニコニコ
吸血鬼「……」ソワソワ
ギイ
吸血鬼「おっ、遅いわよ! どこをほっつき歩いていたのかしら?」
吸血鬼「私の下僕の自覚が足りないみたいね!」
猫「にゃ~ん」
吸血鬼「……なんだ、オマエか」ハァ
猫「まだ三日ですぜ、主様よ」
吸血鬼「べ、別にアイツのことを考えていたわけじゃないわよ!」バンッ
吸血鬼「私から様子を見に行った方がいいのかしら?」
吸血鬼「何か、万が一がないとも限らないし……」カリカリ
吸血鬼「……私もそんな労ってやらなかったから、愛想尽かされちゃったんじゃ……」
吸血鬼「で、でも、私、こんな、わからなかったし……慣れてないし……」ジワッ
吸血鬼「誰も、教えてくれなかったから……」
ギイッ
吸血鬼「っ!?」
猫「にゃ~ん……」ヒョイ
猫「その、悪い……」
吸血鬼「……別に、いいわよ。そんな、期待なんてしてなかったし……」シュン
猫「にゃ~ん……」
俺「ああ、十分だよ」
俺「吸血鬼の魔力、部下の数、使い魔の質、家の間取り、すべて正直に教えてくれたさ」
俺「概ねこの目で確かめたのだから、間違いない」
俺「彼女は警戒されていたほど強い吸血鬼ではなかった」
部下「さすが、異端審問官の幹部に、最年少で昇り詰めたお方!」
部下「得体の知れない妖魔でさえ、あっさりと篭絡してしまうとは」
部下「我が国最強のジゴロでございますね」ククク
俺「明日、引き返し、あの吸血鬼の館を焼き払う」
俺「早めに戻ると伝えているのでな」
部下「ひゅーっ! 冷酷ぅ! さすが、そこに私は憧れますっ!」
猫「教会魔術師だ! 数は、二十にはなる!」
吸血鬼「う、狼狽えないで!」
吸血鬼(私……人を殺して血を奪ったりなんか、したことないのに……どうして……)ジワッ
猫「早く、逃げねぇと……」
吸血鬼「ま、まだ、アイツも帰ってきてないのに、逃げるなんて……」
猫「そんなこと言ってる場合じゃねぇっ!」ニャアッ
部下「アハハハハ! 律儀なことですねぇ! 化け物如きが、私達の俺さんに唾つけた気になるなんて、百年早いってもんですよ!」カラカラ
猫「うっ……教会魔術師!」
俺「ぺらぺらと喋りすぎだ。悪趣味だぞ」スッ
吸血鬼「……え?」
吸血鬼「あ、あ、あ……」ガクガク
吸血鬼「わ、わかったわ、脅されて、人質に連れてこられたのね?」ジワッ
吸血鬼「ま、まったく、で、出来の悪い下僕を持つと、主は苦労するのね……」
吸血鬼「大丈夫よ、すぐ助けてあげるから……」
猫「危ねぇっ!」バッ
ゴウッ
俺「外したか」
俺「だが、今なら他の使い魔は手出しできないはずだ。すぐに仕留めるぞ」
部下「アイアイサーッ! 猫ちゃんは皮剥いで、私のコレクションにしてやりますよ」ペロッ
吸血鬼「…………」
吸血鬼「うぐっ!」
吸血鬼「そんな、こんな魔法使えたのに、大鼠相手に後れを取るわけ……」
吸血鬼「そうか……本当に、最初から……」
猫「主様ーっ! 攻撃に出ろおッ! コイツは、アンタの知ってるアイツじゃねえんだよ!」
俺「煩い化け猫だ」ガシッ
ブンッ バリンッ
猫「ニャアアアアアアアアアアア!」
吸血鬼「ね、猫ッ!」
部下「隙アリィッ!」ザシュッ
吸血鬼「あ、ああ……」
部下「片腕取ったりー!」キャッキャ
吸血鬼「あ、ああ……」ドサッ
部下「右耳! の次は、お腹ッ!」ザシュッザシュッ
俺「胸部を貫け。吸血鬼への決定打は、心臓を女神の祝福を帯びた刃で貫く。それだけだ」
部下「すぐ終わっちゃうじゃないですかああっ! 弱っち過ぎて、つまんないんですよおおおっ!」ザシュッザシュッ
吸血鬼「い、今なら、全部、忘れてあげるから……」
俺「命乞いか。くだらない」
吸血鬼「お願い……帰ってきて……お願い……」ポロポロ
俺「……おい、部下」
部下「はい?」
俺「すぐ終わらせろ」
部下「仕方ないですねぇ……」
枢機卿『その歳で、村に巣食っていた魔女を単騎で撃破したそうだな?』
枢機卿『素晴らしい、キミは将来、いい教会魔術師になるよ』
俺『自分のような未熟者には勿体のないお言葉です。ありがとうございます、猊下』バッ
俺『異端を殺す覚悟でしたら、誰にも負けるつもりはありません』
俺『自分は、異端審問官になりたいんです』
枢機卿『……キミは、両親を吸血鬼に殺されたのだったね?』
枢機卿『異端審問官志望はキミのような子が多いんだ』
枢機卿『若者が目指すには、彼らは血に汚れすぎている……』フルフル
枢機卿『今回の魔女狩りのような、綺麗な仕事ばかりではすまないよ』
枢機卿『組織には方針と建前ということがある』
枢機卿『融通は利かないものなんだ』
枢機卿『その果てに精神を病んで、自死を選ぶものもいる』
俺『任せてください、それこそ私が適任であるはずです』
俺『自分の中には、連中を殺さねばならないという、どす黒い衝動があるのです』
俺『もう、それは、自分では抑え込めないところまできています』
俺『どうか、私を異端審問官に……! きっと自分は、そこにしか居場所を見いだせないでしょう』
枢機卿『…………』
部下「ぐーりぐりぐりぐーりぐりぐりぐーりぐりぐりぃ!」
グチャッ
ズチャッ
吸血鬼「……」ガハッ
ドサッ
部下「これぞ本当の、大出血サービスという奴ですね」カラカラカラ
部下「心臓ぶっちしましたよ」
俺「ご苦労。早く焼ける館から脱出するぞ」
部下「そういえば、どうして猫ちゃん窓から捨てちゃったんですか!」プンプン
部下「皮剥いで、俺様と悪しき吸血鬼をぶっ殺したときのやつだって記念にしたかったのに! のに!」
俺「煩かったからな。化け猫は七回殺す必要がある、黙らせるには効率が悪い」
部下「あり、生きてる?」
部下「祝福足りてないんじゃないですか、この聖剣。生臭坊主共め……」ハア
俺「まさか……」
俺「離れろ部下っ! 見誤った!」
部下「ふえっ?」
俺「こいつ、準真祖以上だ! 心臓を二つ以上持ってる!」
部下「あっはっは! ヤダなぁ、俺様、そんな奴が、こんなクソ雑魚なわけ……」ヘラヘラ
ブンッ
部下「あ……」ゴトッ
吸血鬼「……」ギロッ
俺「部下が、一瞬で……!」
俺「馬鹿な、この階位の吸血鬼が主であったならば、もっと日常的に魔法を駆使していたはず……」
俺(まさか、俺を怯えさせないために、手間を掛けて隠していたのかっ!)ギリッ
部下2「俺様、援護に……!」
俺「退けっ! 想定外のことが起こった!」
部下2「そ、そんな……!」
吸血鬼「……」シュッ
ゴンッ
俺「あがっ!」
俺「クソ吸血鬼め……心臓片方吹っ飛んだショックで、意識が飛んでやがるな」ゼエゼエ
俺「あ、うぐ……!」
俺(千切れた耳が、もう再生しかかっている……!)
俺「ク、ククク……無意識で、これだけ暴れやがるとはな」
俺「だから貴様ら吸血鬼は、根絶せねばならんのだ」
俺「血に飢えし、穢れた獣共めが!」
俺「貴様らが例え降りてきて捕食対象の隣に立ったつもりでも、俺達人間はそんなものは認めないぞ……!」
吸血鬼「…………」
俺「フ、フフ、何も聞こえてはいないか」
俺「…………」フー
俺「……さすが、見事でございます、主様」ニコッ
グシャッ
吸血鬼「館が、燃えてる……」ケホッケホッ
吸血鬼「うぶっ! し、心臓、片方……ない……」
吸血鬼「そっか、私、潰されて……」
吸血鬼「猫は……? 俺は……?」
吸血鬼「どうして……? 初めて私のこと、怖がらない人が現れたって思ったのに、どうして……」
吸血鬼「寂しい、苦しいよ……私を、私を、一人にしないで……」ガタガタ
吸血鬼「今まで、こんなに苦しくなったことなかったのに……」
吸血鬼「どうしてあれこれ見せびらかしてから、私から全てを奪うようなことをするの、ねえ……?」
ガサッ
吸血鬼「!」
動く木「ヘッホッホッホ!」
動く木「ヘッホッホッホ!」
吸血鬼「ひぇっく!」
吸血鬼「なんでこの高貴な私が、寒さに震えながら野営なんかしないといけないのよ」ハァ
俺「僭越ながら申し上げましょう。それはわたくしめが、部下を引き連れて悪しき吸血鬼の館に火を放ったからですよ」
俺「ほんの昨日のこともお忘れになったとは、いやはやこのわたくしめも感服の至り」
俺「わたくしからは過ぎたお言葉とは承知しておりますが、主様は心臓は二つあるのに、脳みそは人様の半分しか持っておられなかったご様子」ニコニコ
吸血鬼「三つよ……」ハァ
俺「真祖かよ……最悪だな」ペッ
吸血鬼「……何か言ったかしら?」
俺「いえいえ、主様は大変なご高齢、もとい長生きなことですから、さぞお耳も具合が悪いのでしょう」
俺「聞き間違えでございますよ」
俺「ちなみに好きなものは、ニンニク、十字架、流れる水にございます」
吸血鬼「……で、何が言いたいのかしら?」
俺「脳みそを半分落とされた主様のために進言いたしますと、なぜわたくしが生きているのか、ということでございます」
吸血鬼「ちなみにオマエも今、その大嫌いな低位の吸血鬼よ。残念だったわね、大好きな川遊びができなくなって」
俺「やってくれましたね!」ガタッ
吸血鬼「しょうがないじゃない、起きたらその貧相な身体が潰れていたのだから」
猫「もしもオレッチぶっ殺してたら、メンヘラネクラぼっちの主様でも、さすがにただじゃおかなかったぜ?」
猫「非道な異端審問官様も、案外甘ちゃんじゃねえか」ニヤニヤ
俺「それは猫様が、手に掛ける価値もない畜生だったからでございます」
吸血鬼「別にオマエが死んでても、特に決断は変えなかったわよ」
猫「ニャニッ!?」
俺「甘いのはあなた様の方でございますよ、真祖様」
俺「我が身が穢れた鬼に墜ちたのは忌むべきことですが、主様が色々拗らせて愚かにもわたくしめを蘇生したのはとんだ幸運」
俺「今度こそもっと確実な計画を練って、あなた様を滅ぼしてご覧にいれますよ」ニマァ
吸血鬼「結構よ、いつでも来るといいわ」ハァ
吸血鬼「眷属になった以上、私を殺せばオマエも死ぬ。それは覚えておきなさい」
俺「元より、死など覚悟のうえでございます」
俺「おやおや主様、怖くなったのならば今からでも処分を検討なされては?」
吸血鬼「いいわよ。吸血鬼は懐が広いのよ、オマエの殺意も受け止めてあげるわ」
俺「…………」
吸血鬼「ただし、私はもうオマエを信用していないわ」ガッ
吸血鬼「どんな理由をこじつけようとも、一生ここから出られないことを覚悟しておきなさい」
吸血鬼「私の許を去ることは、永遠に許さないわ」
俺「……おお、怖い怖い」カタスクメッ
完
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-
- 2019年12月16日 22:31
- こういうのいいっすねぇ
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