男「メドゥーサの末裔? だったら俺のアソコもカチンコチンにできるのか?」女「できる」
- 2020年01月25日 22:40
- SS、神話・民話・不思議な話
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男「たしかに雰囲気はよさそうだな」
友人「ところで、この店は女の人がやってるんだけど……」
友人「その人がなんと、メドゥーサの末裔だって噂があるんだ」
男「メドゥーサって、ギリシャ神話の?」
友人「そう、ペルセウスに退治されたっていう」
友人「もしかしたら、俺らも石化されちゃうかもしれないぜ。カチンコチンにさ」
男「下らないな……。俺は自分の目で見たものしか信じない主義だ」
友人「あのー、彫刻用の石ってあります?」
女「それなら向こうにある。自由に見てってくれ」
友人「こりゃどうも!」
友人「どうだ?」
男「たしかに……いい石がたくさんあるな。作品に使えそうだ」
友人「だろ?」
男(だが……今はそんなことより、確認したいことがある)
女「ん?」
男「あんたはメドゥーサの末裔なのか?」
友人「おい、いきなりそんなこと聞くなよ!」
女「そうだ」
友人「え!?」
男「ということは、化け物なのか?」
女「いや……血はすっかり薄れて、私は人間だ。ただし……“石化能力”は受け継いでる」
友人「えええええ!?」
男「ふん……」
女「私が睨みつければ、近くにある物なら石化できる」
男「ずいぶんアバウトなんだな」
男「あいにく俺は、実際に目で見たものしか信じないタイプの人間でね」
男「だったら……俺のアソコもカチンコチンにできるのか?」
女「できる」
男「ならやってもらおう」ヌギッ
友人「ちょっ! 何やってんのお前!?」
女「いいだろう」ギロッ
男「なにっ!?」カチーンッ
男「…………!」
友人「…………!」
男(本当に股間だけカチンコチンに石化した……! どうなってるんだ……!?)
男「……戻った」ヘナ…
女「どうだ?」フフン
男「疑って……すみませんでした」
友人「いや、謝るとこそこじゃないからね!? まず露出したことを謝れよ!」
友人「すいません! こいつ芸術家で……ちょっと非常識なとこあって……」
友人「ホントすいません、すいません、すいません! 今日はもう帰るんで!」
友人「ほら、来い!」グイッ
男「いてて」
女「これは私が紙を石化した“石名刺”だ。持ってけ」サッ
男「あ、どうも」
友人「名刺なんかもらってないで、早く来い! このバカ!」
友人「お前……バカか!? なにやってんだ!? 正直、石化よりお前の露出に驚いたわ!」
友人「女の人の前で、あんなもん出しやがって……。通報されたらどうすんだ!」
友人「明日のワイドショーは、『若手彫刻家、下半身を露出!』で持ちきりになっちまう!」
男「いや、俺も冗談のつもりだったんだが、“できる”っていわれたから、ついはずみで……」
友人「昔からお前は、思い立ったら突っ走るとこあるからなぁ……」
友人「お前もうあの店行くな! 分かったな!」
男「分かったよ……。悪かったよ……」
~
女(あんなものを見せつけられてしまったら……。私のやることは一つしかない……)
男「…………」ガッガッ
石を砕き、彫刻に取り組む。
男(さっきはもったいないことをしたな……)ガッガッ
男(せっかくいい店を見つけたのに……俺の軽率な行動で二度と行けなくなってしまった)ガッガッ
男(またしばらく石探しに苦労しそうだ……)ガッガッ
ピンポーン
男(……来客か。誰だ?)
女「…………」
男「あ、さっきの――」
女「お前に用があるのだが」
男「なんでしょうか」
男(もっと謝れってことか? それとも慰謝料……? どっちにしろ悪いのは俺だから仕方ないが)
女「結婚しよう」
男「は?」
女「だって……あんなもの見せられたら、女としては結婚するしかないだろう!」
男「いや、しかし……」
女「ダメなのか?」
男「ダメというか、結婚は好きな相手とするものだと思うんだけど……」
男「君は俺のことが好きなのか?」
女「うーん……よく分からないな。嫌いではないが、好きともいえない」
男「だろ? 俺だって君のことはよく分からない」
男「この状況で結婚というのは厳しいと思う」
女「そうか、厳しいか……」
女「しばらく一緒に住んで、好きになるか嫌いになるか見極めるんだ」
女「お互い好きになれたら結婚、なれなかったらこの話はなかったことにする、というのは」
男「うーん……」
女「同棲してくれたら、私の店の石を割引価格で売ってやろう」
男「喜んで同棲しましょう」
女「決まりだな!」
男「だけど店は大丈夫なの?」
女「元々お得意様相手の商売だし、スマホさえ持ってれば何とかなる」
男「そうか、だったらよろしく」
女「こちらこそ!」
女「私は自分が石化させたものの場所を、感知することができる」
男「あ……あの名刺か!」
女「その通り。あれを感知して、ここまでたどり着いたんだ」
男「便利だな……」
女「せっかく世話になるんだ。今日の夕食は私が用意しよう」
男「それはありがたい。俺はほとんど自炊しないからな」
男「こ、これは……石焼き芋!」
女「いただきます」
男「いただきます」
モグモグ… モグモグ…
女「うまいか?」
男「うん、うまい」プッ
女「出すの早いぞ」
こうして奇妙な同棲生活が始まった。
男「…………」ガッガッガッ
女「何をやってるんだ?」
男「石を削って彫刻を作ってるんだ。粉末が飛び散るからマスクした方がいい」
女「作ってるところを直に見るのははじめてだな。作品は売れてるのか?」
男「まあまあだな。無名ではないだろうが、有名ともいいがたい」
男「とにかく今は作品をたくさん作って、認められなきゃならない」ガッガッ
女「私の能力なら、たくさん作品作れるぞ! 協力しようか!?」
男「物を能力で石化しても彫刻とはいえないからな。気持ちだけ受け取っておくよ」
スタスタ…
女「どこ行くんだ?」
男「特に目的地はないよ」
男「街を歩いて、色んなものを見て、色んなことを感じる」
男「これが新しい作品のヒントになることがあるんだ」
男「実際に目で見た感動を、そのまま石にぶつけるというのが、俺のスタンスだから」
女「なるほど」
男「スズメだ」
女「可愛いな」
男「じっくり観察してみたいが、鳥はすぐ逃げてしまうからな」
女「だったら……」ギロッ
カチーンッ
女「どうだ、スズメを石化したぞ!」
男「えぇっと……」
男「可哀想だから解除してあげてくれ」
女「ごめん」
女「近くにいればな」
男「だけど、睨んだだけで石化できてしまうとなると、日常生活が不便なんじゃ?」
女「うん、子供の頃は暴発してしまって、大変なことになったこともある」
女「にらめっこの相手が石化してしまったり……」
女「だけど、今は制御できるから心配しなくていい」
女「こんな風に変な顔もできる!」ベローン
男「ぶふっ!」
女「あ、笑った! お前の負けー!」
男「うぐぐ、油断した……」
ズゾゾゾッ
男「メドゥーサの末裔もラーメンを食べるんだな」
女「当たり前だ。むしろ好物だ」
ズゾゾゾゾッ ズルルルルッ
男「ただ……このラーメンちょっと柔らかいな。個人的にはもうちょっと固い方が……」
女「任せろ!」ギロッ
男「…………!」ガチンッ
男「麺を石化しないでくれ……! 歯が欠けるとこだった……!」
女「ご、ごめん」
女「どうした?」
男「今ので、新しい作品のイメージが思い浮かんだ!」
ズゾゾゾゾゾッ! ゾゾゾゾゾゾッ!
男「ごちそうさま!」
男「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」タタタタタッ
女「おい、待て!」
女(まったく……一度思い立つと突っ走る性格みたいだな)
一心不乱に石を彫り続け――
男「できた!」
男「題して≪あらぶるラーメン≫!」
女「おおっ!」
≪あらぶるラーメン≫――
石で彫られたラーメン。
どんぶりから飛び出し、まるで生き物のように躍動する麺の姿は、まさに圧巻の一言。
具まで丁寧に彫られた緻密さ、麺のダイナミックさなどが人々の心を魅了し、
美術界でも怪作として評価されるようになる。
―アトリエ―
女(誰かお客が来てるのか?)
美術商「……というわけだ。君の作品を未発表のものを含め、私に任せてもらいたい」
美術商「私に任せてもらえれば、どの作品も飛ぶように売れることだろう」
美術商「そうすれば、君の名声も高まり、もっといいアトリエで作業することもできる」
男「…………」
女(おおっ、いい話じゃないか)
美術商「! な、なぜだ……!?」
男「あなたは……作品を金儲けの道具としか見ていない」
男「そんな人に自分の作品を委ねることはできません」
美術商「な、なんだと……! せっかく目をかけてやったというのに!」
美術商「私を敵に回して、この世界で食っていけると思ってるのか!」
男「それでも俺は自分のプライドを優先します」
美術商「若造めが……!」
男「…………」
女「よかったのか? ずいぶん怒ってたが」
男「ああ、これでいいんだ。あの美術商、儲けてはいるけど、あまりいい噂を聞かないし……」
女「だが、いい話だったのも事実だ」
女「いっそ奴を利用するつもりで、話に乗っかるのも手だったのでは?」
男「確かにそうかもしれない」
男「だけど、結局それは自分自身を騙すことになるし、きっと作品にも悪影響が出る」
男「だから遠回りになるとしても、俺は自分が胸を張れる道を進みたい」
女「ふふ、お前もなかなかの石頭だな」
―アトリエ―
女「ほら、新しい石だ」
男「ありがとう。安く売ってくれて助かるよ」
男「さて……新しい作品に取り組むとするか」
ガッ ガッ ガッ ガッ
女「…………」
男「うん。だけど、だからこそやりがいもある」
男「しかし、一瞬でどんな物も石化できる君にとっては」
男「彫刻なんて“自分には簡単に出来ることを苦労してやってる作業”に見えちゃうだろ?」
女「…………」
女「そんなことないぞ」
男「え……?」
女「私が石化させたリンゴと、お前の作品であるリンゴ」
女「どっちも同じ“石のリンゴ”なのに――」
女「不思議なことに、お前のリンゴの方がどう見ても瑞々しくて美味そうなんだ」
男「…………」
女「だから私は思ったんだ」
女「私は命を石にするが、お前は石に命を吹き込むのだな、と」
男「!」
女「これはとてもすごいことだと思うぞ」
女「ん……?」
女「どうしたんだ? 顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」
男「いや、そんなことないよ! 大丈夫、大丈夫!」
女「そうか」
男「さあ、作業作業!」ガッガッガッ
女「?」
TV『全国各地で美術品の盗難が相次いでいます』
TV『警察では、単独ではなく窃盗団のような組織があると見て、捜査を……』
女「けしからん! お前も気をつけろよ!」
男「まあ、まだまだ駆け出しの俺なんかの作品を盗もうとする奴がいるとは思えないけど」
女「そんなことはない」
女「後々有名になる奴の作品を今のうちに盗んでおけば、あとで高値になるかもしれないしな」
男「株じゃないんだから」
男「だけど、こういう連中に狙われるぐらい有名になってみせるよ」
女「新しい石をたくさん仕入れたぞ」
男「おお、どれもいい石だ」
女「メドゥーサの末裔だからな。石を見る目には自信あるんだ」フフン
男「しかし、メドゥーサはギリシャ神話の怪物なのに、どうして末裔は日本にいるわけ?」
女「…………」
女「きっと……ご先祖が、シルクロードとか……通ったんだろう……多分……」ゴニョゴニョ
男「あまりよく知らないのか」
女「うるさいな、石化するぞ!」
男「悪いことしたからとかじゃなく、女神様のやっかみで退治されることになって……」
男「末裔としてはどう感じてる?」
女「別に……神話ってのはだいたいそういうもんだ」
男「案外ドライなのね」
スタスタ…
女「どうだ? なにか新しい作品は思いついたか?」
男「うーん、なかなか“こういうのを彫りたい!”っていう衝動が降りてこなくて……」
子供「あ、ボールが……」コロコロ…
ブロロロロロ…
子供が車道に飛び出してしまう。
男「あっ!」
女「あっ!」
男(ダメだ、間に合わない!)
女「…………」ギロッ
キキキーッ! ドカンッ!
運転手「だ、大丈夫か!?」ガチャッ
子供「…………?」キョトン
運転手「……へ? 無傷? たしかにぶつかったのに……」
女「……ふぅ」
男(そうか! あの子を石化して守ったのか……)
女「なにがだ?」
男「もし、俺が君の能力を持ってたら、もしかしたら悪用してしまうかもしれない」
男「だけど、君はそんなことせず、それどころか今みたいに人助けに使っている」
女「褒めすぎだ。悪用したら退治されちゃうかもしれないしな」
男「もしかしたら、本家のメドゥーサも……君みたいに穏やかな性格だったのかもしれないな」
女「…………!」
女(私……やっぱりこいつのこと、好きみたいだ……)
女(だけど、こいつはどう思ってるんだろう……)
―アトリエ―
紳士「いかがでしょう? 何点かの作品と、あと新作を出展してもらえれば……」
男「ぜひよろしくお願いします!」
紳士「それでは……」
女(お客だ。今度はどんな話だろう?)
男「ある美術館の館長さんで、若手美術家の作品を集めた展覧会をやるから」
男「俺の作品もぜひ出して欲しいっていわれたんだ」
女「おお、よかったじゃないか!」
男「うん、あの人は信頼できる人だし、目をかけてもらえて嬉しいよ」
女「新作を出して欲しいともいってたが、どうするんだ?」
男「もちろん作る。だから、石を二つ購入したい」
女「一つじゃなくて、二つ?」
男「ああ、二つだ」
男「…………」ガッガッガッ
女「それが展覧会に出す新作か」
男「うん、メドゥーサを彫ってる」
女「メドゥーサを?」
男「ただし、従来の石化する化け物、というイメージとはかけ離れた像を造りたいと思ってる」
女「おお、いいじゃないか!」
男「あの奥の部屋で造っているが、君にも内緒だ」
女「えっ、なんで?」
男「なぜなら……君にさえ絶対造れない像を造るからだ。だから見られたくない」
女「私にも造れない……?」
男「絶対見ないでくれよ。見たら……本気で怒る」
女「う……分かった。見ない!」
女(しかし、“見るな”といわれると、気になってしまうのが人間だ。私は化け物の末裔だが)
女(“私でも造れない石像”っていったいなんだ?)
女(ああもう、気になってしょうがない! ケチ臭いことするから!)
女(あのドアを開ければ、見ることはできるけど……)
女(ダメだ、約束したんだ! 見ちゃいけない!)
女(好きな人との約束は……破れない……)
新作≪慈愛のメドゥーサ≫の仕上げに取りかかる。
ジョリジョリジョリジョリ…
男「……できた!」
男「≪慈愛のメドゥーサ≫の完成だ!」
女「おおっ、とても穏やかで、優しそうな顔をしているな」
男「一番苦労したのはそこだよ、ありがとう」
男「ちなみにこの≪慈愛のメドゥーサ≫、ペルセウスに退治されず、シルクロードを渡ったという裏設定になってる」
女「私の話を組み込んでくれたのか……!」
男「おいおい、泣くことはないだろう」
女「あ、いや……私のご先祖をここまで優しく彫ってくれたことが嬉しくて……」
女「きっと、みんな褒めてくれると思うぞ!」
男「だといいけどね」
女「…………」
女「ところで……もう一つの方は?」
男「あっちはまだ出来てないから、まだ見せない」
女「くっ!」
男「私は発表済の作品に加え、この≪慈愛のメドゥーサ≫を出展したいと思います」
紳士「おおっ、これはすごい」
紳士「従来の恐ろしい化け物というイメージのメドゥーサとは違う、非常に美しい石像だ」
紳士「人を石化するどころか、人助けでもしそうなメドゥーサですな」
紳士「他の美術家たちの作品も力作揃いですし、今回の展覧会は成功間違いなしですよ!」
男「よろしくお願いします」
男「んー……一仕事終えると気持ちいいや」ググッ…
女「ほら、石焼き芋だ」ホクホク
男「ありがとう」モグッ
―アトリエ―
男「君の石化能力って、石化された者は死ぬわけじゃないんだよな?」
男「あの時石化された俺のアソコも別に壊死してないし……」
女「ああ、私がもう一度睨みつけて解除するまで、意識はそのままに石化することになる」
男「だったら、その石化能力で一つ頼みがあるんだけど……」
女「なんだ?」
男「俺を石化して……石像にしてくれないか?」
女「は?」
男「展覧会に石像として、展示されてみたいんだ」
男「一度だけでいい……どうしても“展示される石像”の気持ちを味わってみたいんだよ」
男「だから頼む! 展覧会の初日だけでいいから……!」
女「相変わらず、とんでもないことを考える奴だな」
女「だけど分かった。いいぞ!」
男「ありがとう!」
女「よし、今なら誰もいない……」キョロキョロ
男「場所はここらへんにしておこう」
女「石化するぞ!」ギロッ
男「…………」カチーンッ
全身が石化する。
女「どんな気分だ?」
男(いやー、新鮮な気分だ。全く動けないのが逆に開放感があるというか……)
女「きっと答えてくれてるんだろうが、私には分からんな」
女「明日になったら解除してやるから、今日一日石像気分を楽しめ!」
男(そうさせてもらうよ!)
ワイワイ… ガヤガヤ…
客A「若手の展覧会なんて大して期待してなかったが、どの作品も力作だな」
客B「ああ、日本の美術界もまだまだ捨てたもんじゃないな」
客C「この≪慈愛のメドゥーサ≫、かなりの熱の入った傑作だぜ。いずれ高値がつくんじゃないか」
男「…………」
客A「……ん? こんなところにも石像がある」
男(俺を見てる……)
客A「リアルだな……本物の人間みたいだ」
男(そりゃあ、本物の人間だからな)
客A「ただ、リアルなだけで、美術品として考えると魅力はあまりないな」
客B「うん、≪慈愛のメドゥーサ≫や、他の作品に比べるとイマイチだ」
客C「作者の情熱みたいなもんが伝わってこないな。ただ単に人を石にしただけって感じだ」
客A「モデルもイマイチかっこよくないしなぁ……」
男(ボロクソに評価されてる……)
男(喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、複雑な気分だ)
男「…………」
男(ふぅ、終わった)
男(おかげで石像の気持ちを堪能できた……)
男(今日の経験は、きっと今後の創作に生かせるはず……)
男(あとは明日、彼女がやってくるまで、石像でいるとするか)
コソコソ…
ガサガサ…
ウッ… ドサッ…
男(――ん? 物音? 警備の巡回かな?)
手下A「あの人のいうとおり、大した警備じゃありませんでしたね」
泥棒「小さな美術館なんてこんなもんよ。手はず通り、値打ちのありそうな品を盗んでくぞ」
手下A「へい!」
手下B「へい!」
男「…………!」
男(こいつらまさか……美術品泥棒!?)
手下A「このオブジェも……」ゴトッ
手下B「台車に載せて下せえ。運びますんで」
ガサゴソ… ガタゴト…
次々に展示品が盗み出されていく。
男(ちくしょう、目の前で作品が盗まれてく……。俺の≪慈愛のメドゥーサ≫まで……)
男(しかし、石化されてる俺じゃ、どうしようもない……)
男(いや、石化されてなくても、どうしようもなかっただろうけど)
手下A「へい」
手下B「へい」
男(だが、こいつらの顔はバッチリ覚えた)
男(朝になって、石化から戻してもらったら、こいつらの顔を彫刻にして警察に持ち込んでやる)
泥棒「……ん?」
泥棒「石像か……結構でかいな」
泥棒「だが、もしかすると値打ちもんかもしれねえ。ちと重そうだが、こいつも持ってけ」
男(……え?)
手下A「そっち持て」ガシッ
手下B「よし」ガシッ
男(ウソだろ!? 俺も盗む気かよ!?)
泥棒「出発しろ」
手下A「へい!」
ブロロロロロロロ…
男(まさかこんなことになるなんて……!)
―倉庫―
ブロロロロロ… キキッ
手下A「着きました」
泥棒「よし、積荷を下ろせ。くれぐれも傷つけんなよ。あの人に怒られちまう」
手下A「分かってますって!」
男(俺はこのまま売り飛ばされてしまうのだろうか……)
?「うむ、ご苦労」
泥棒「小さい美術館なんで、いつもに比べりゃ楽勝でしたよ」
?「よしよし。今注目を集める若手美術家たちの作品……闇ルートでは破格の値がつくだろう」
男「!?」
男(この声は……聞いたことがある……!)
泥棒「心得てます」
男(美術商ッ!)
男(まさか黒幕はこいつだったなんて……)
男(どうりで羽振りがいいはずだ……)
男(なにしろ表では美術商として活動し、裏では盗品を売りさばいてたんだからな)
男(!)
泥棒「展示品の一つです」
美術商「あの生意気な彫刻家そっくりだな……自分で自分を彫ったのか。ナルシストめ」
男(生意気なナルシストで悪かったな)
美術商「この男はな、たかが彫刻家の分際でこの私に意見しおったのだ!」
美術商「思い出しただけでも腹が立つ! ええい、こんなものは海の底に沈めてしまえ!」
泥棒「しかし、せっかく持ってきたのに……」
美術商「金が欲しかったらいうとおりにしろ!」
泥棒「……分かりました」
男(おい、ちょっと待て)
手下A「へい」
泥棒「ちょっと船出して、この石像を海に沈めてこい」
手下A「えっ、せっかくここまで持ってきたのに捨てちゃうんですか?」
泥棒「美術商さんの命令だ」
手下A「分かりましたよ……もったいない」
泥棒「いいからやれ!」
男(やばいっ! 海に捨てられたら、俺はもう……)
手下B「おう」ガシッ
男(くっ……動けない!)
手下A「よいしょ、よいしょ」
手下B「よいしょ、よいしょ」
男(ここまでか……!)
女「何をしている!」
手下A「うわっ!?」
手下B「誰だ!?」
男(なんで彼女がここに……!?)
女「その石像は私の大切な人なのだ……返してもらう!」
手下A「ふざけんな!」
手下B「てめえも海に放り込んでやる!」
女「かかってくるなら、容赦しないぞ!」
手下A「…………!」カチーンッ
手下B「えっ、どうした!? なんで固まって――」
女「お前もだ」ギロッ
手下B「…………!」カチーンッ
女「しばらく石になってろ」
男(分かってたことだけど……この能力、やっぱり強いな)
男「……おお、戻った!」
男「助かった! 危うく海底に沈められるとこだった……!」
男「だけど、どうしてここが……!?」
女「忘れたのか? 私は自分が石化したものを感知できる」
男「あ……!」
女「美術館にいるはずのお前がどんどん離れていくから、あわてて追いかけてきたんだ」
女「おかげでタクシー代がかなりかかってしまった」チラッ
男「後で払うよ」
泥棒「おい、騒がしいぞ! ちゃんと海に沈めたのか?」
男「あ……」
石化された二人の手下を見て――
泥棒「なんで手下たちの石像があるんだ?」
泥棒「いや、まさか……石にされたのか!?」
女「そうだ、私がやった」
泥棒「な、なにぃ!?」
女「今度はお前たちを石化してやる! 覚悟しろ!」
女「…………」ギロッ
泥棒「…………!」カチーンッ
男(あっさりと……)
女「あれは……たしか美術商。あいつも誘拐されてたのか?」
男「そうじゃない。あいつが美術品泥棒の黒幕だったんだ」
女「むむ……悪い奴だったんだな。だったらお前も石化してやる」スタスタ
美術商「く、くそっ……!」
美術商(こんな化け物に勝てるわけがない……!)
美術商(こいつ、こんな力があるなら、とっとと私も石化してしまえばいいのに……)
美術商「さてはお前……かなり近づかないと石化できないんじゃないか?」
女「!」ギクッ
女「い、いやっ! そんなことないぞ! 遠くからでも……」
男(ウソが下手すぎる!)
美術商「やはりそうか……だったら別に怖くもない。なぜなら――」
女「な……ッ!」
男「銃……!?」
美術商「これでも私は、今までに危ない橋を幾度も渡ってきてねえ」
美術商「銃の扱いは決して素人ではない」
美術商「この距離なら、君ら二人ぐらい十分始末できる」チャキ…
男「なんとか石化できないのか!?」
女「さっきからやってるが、無理だ! 遠すぎる……!」
男(飛んでくる銃弾を石化するってのも無理だろうな……)
女「!」ハッ
美術商「まずはそっちの石化女からだ。死ねえっ!」
男「うおおおおおっ!」バッ
女「あっ!」
美術商「盾になっただと? バカめ、貫通するだけだ!」
パンッ! パンッ! パパパンッ! パンッ!
美術商「え!?」
男「…………」カチーン
美術商「あ……!」
女「たしかにお前のことは石化できないが、目の前で盾になってくれたこいつなら石化できるぞ」
女「そして石になってしまえば……銃弾は通じない!」
美術商「…………!」カチッカチッ
男「よしっ!」タタタッ
美術商に向かって走る。
美術商「ちっ、弾を補充……」
男「させるかっ!」タタタッ
美術商(一発ぐらい殴られるかもしれんが、弾丸は込められる!)
美術商(そしたらまず彫刻家を射殺して、次にあの女を――)
男「だが、残念だったな」
美術商「え」
男「俺の右腕をよく見ろ」カチーン
美術商「あ……」
美術商(石化したまんま……!)
男「これで殴ったら……どうなるだろうな。いくら彫刻家のパンチでも……」
美術商「や、やめろっ! 死んじゃうっ!」
男「お前に美術品を扱う資格はない!」
ガツンッ!
美術商「…………」ピクピク…
女「念のため、警察が来るまで石化しとくか」ギロッ
美術商「…………」カチーンッ
女「やったな!」
男「ああ、美術品泥棒を退治できてよかった」
女「しかし、お前もとんだ目にあったな。盗まれちゃうなんて」
男「いいや……そうでもない」
男「盗まれる石像の気分を味わえるなんて最高だ! これは作品に生かせる!」
女「……変わった奴だ」
すでに闇ルートに流れてしまった品に関しては、今後の警察の動き次第ということになるだろうが――
紳士「おかげで若手展覧会は成功しそうですよ。本当にありがとうございます!」
男「いえいえ、俺は石像になってただけですから」
紳士「へ? 石像になる?」
男「いや、なんでもありません」
……
―アトリエ―
男「展覧会も無事終わったし、そろそろ君に隠してた“もう一つの作品”を見せたいと思う」
女「おおっ、見せてくれるか!」
女「いったいどんな作品だ?」
男「これだ」グイッ
バサァッ!
女「…………!」
女「これは……私?」
男「ああ、俺はずっと……君の石像を彫ってたんだ」
男「さすがの君も、自分の石像は造れないだろ?」
女「その通りだ……」
女「こんなに綺麗にしてくれて……ありがとう……。嬉しい……!」
男「…………」
男「そして……この石像を君に捧げると同時に、言いたかった言葉がある」
女「え、なんだ?」
女「…………!」
男「俺はいつからか、君のことが好きになっていた。もっと立派な彫刻家になって、必ず君を幸せにする」
男「もし君も俺のことが好きになってくれたなら……これからも一緒に暮らしてくれないか」
女「はいっ!」
………………
…………
……
友人(招待状が届いた時は驚いたぜ……)
友人(まさかあいつと、あの石材店のメドゥーサさんがくっつくなんてなぁ……)
男『だったら……俺のアソコもカチンコチンにできるのか?』
女『できる』
友人(世の中、何が出会いのきっかけになるか、分かったもんじゃないな)
司会『新郎新婦のご入場です! 盛大な拍手をお願い致します!』
友人「お、出てきた出てきた!」
パチパチパチパチパチ…
男「…………」カチン
女「…………」コチン
司会『どうぞ?』
男「え、あ……本日は……お日柄もよく……!」
女「あうう……わざわざ来てくれて……あ、ありがとう……!」
友人(二人ともカチンコチンになってやがる……こりゃお似合いだ)
~おわり~
元スレ
男「メドゥーサの末裔? だったら俺のアソコもカチンコチンにできるのか?」女「できる」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1579937430/
男「メドゥーサの末裔? だったら俺のアソコもカチンコチンにできるのか?」女「できる」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1579937430/
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コメント一覧 (4)
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- 2020年01月26日 00:03
- オチがよかった
こういうのでいいんだよ!
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- 2020年01月26日 00:03
- 友人がうるさくて邪魔なのは最初だけだったので星5です
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- 2020年01月26日 00:05
- いい話にいいオチだ!
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