西暦79年、イタリア・カンパニア州のヴェスヴィオ山が大噴火を起こした。今から約1940年以上前だ。
その噴火で壊滅的被害を受けたのは、古代都市ポンペイである。火砕流の熱は凄まじく、逃げ惑う人々の体液を一瞬にして蒸発させ、その力で頭蓋骨を破裂させるほどだった。
それだけではない。熱で脳組織がガラス化してしまった犠牲者もいたという。
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噴火による熱エネルギーは原爆の10万倍
噴火による熱エネルギーは、広島や長崎に落とされた原爆の10万倍に相当すると言われている。
吹き出した火砕流がポンペイやヘルクラネウムの街を襲い、あっという間に壊滅させたときの様子を、ローマの政治家ガイウス・プリニウスは、歴史家タキトゥスへ宛てた手紙の中で「松の木のような形の暗い雲が山の斜面を急速に降った」と書き記している。
犠牲者のほとんどは有毒ガスと火山灰にまかれて窒息死したとされるが、2001年の研究の推定によれば、そのときのポンペイの温度は300度に達しており、その熱によっても住人はほんの数秒で命を落としただろうことが窺える。
体液が蒸発し、頭蓋骨が破裂
また2018年の研究は、その熱によって人体の体液が蒸発し、頭蓋骨が破裂するという、被災地はさながら地獄絵図のような状況だったことを明らかにしている。
その研究では、ヘルクラネウムの海岸沿いにあった舟小屋で発掘された100体ほどの遺骨から、赤と黒の残留物が発見されている。
分析の結果、それは高濃度の鉄であることが判明。血液かどうかは断定できないものの、体液の痕跡と考えられると述べられている。
さらに骨の破砕や頭蓋冠の破裂といった、極端な高温にさらされたときに生じる痕跡も確認された。破砕流によって脳の軟組織や体液が沸騰・蒸発し、頭蓋骨が破裂したのだ。
P. Petrone et al
520度の火砕流によって脳がガラス化
そして、今回『New England Journal of Medicine』(1月23日付)に掲載された研究では、1960年代にヘルクラネウムで発掘されたある犠牲者の頭蓋骨が分析されている。
発掘当時、その遺体は木製のベッドに横たわり、火山灰に埋もれた状態だった。頭蓋骨の中にはまだ脳組織が残っていたのだが、そこには珍しい物質があった。
研究グループによると、大抵の場合、そうした脳組織は高温によって鹸化(グリセロールと高級脂肪酸に分解)してしまう。ところが、この犠牲者の脳は融合してガラスになっていたのだ。
Petrone et al/NEJM / 2020
ガラスから脳や髪の毛の物質が検出
これを分析したところ、脳内のトリグリセリドに含まれる脂肪酸が見つかったほか、人間の髪の毛に含まれる物質も検出。周囲の灰や炭からはそうした物質が発見されなかったことから、ガラスは脳が変化したものである可能性が一番濃厚であるとのことだ。
周辺の炭化した木に基づく推定によれば、そのときの温度は520度に達していたそうだ。
こうした発見は、「極端な放射熱は、体内の脂肪を発火させ、軟組織を蒸発せるほどだったことを示唆する」と論文では述べられている。
頭蓋骨を埋める黒くガラス化した脳
image credit:Petrone et al/NEJM / 2020
References:nbcnews. / iflscience / arstechnicaなど/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ねぇ、7つ下の記事
猫は犬と同等、あるいはそれ以上に飼い主に強い愛着を持ち、深い絆を築くことが判明(米研究)
これのコメント欄の最初の方の日付…
2. 匿名処理班
恐ろしい
科学も何もない当時ではまさに神の怒りとしか思えなかっただろう
3. 匿名処理班
いくら即あぼーんでもこのようなあぼーんは絶対に嫌だ
せめてしの間際まで何も感じずにこのようになったことを
祈ろう
4. 匿名処理班
※1
記事の下の方に9月に書かれたよ〜ってあるのじゃよ
5. 匿名処理班
そこまでの高温なら、苦しむ時間は最小限で済んだのかな…
6. 匿名処理班
当たり前、9月の記事を再録したんだから。
それより火山の怖さやパワーについて書き込みしましょうよ。
7.
8. 匿名処理班
サイクロプスかジェネシスか
9. 匿名処理班
古代核戦争じゃなくてもガラス化する
という現実を突きつけなくても・・・
10. 匿名処理班
脳がガラス化とか一般人には理解を超えてるわ
11. 匿名処理班
Oh No!
12. 匿名処理班
前の記事でCGでポンペイの1日を再現したアニメの際、火噴火から火砕流発生までに半日経ってる間に逃げられなかったのかという意見あったけど、有毒ガスや火山灰が300度の熱伴って降ってきたら、そりゃ逃げられないな、と思った。
かなり始めの段階で犠牲者が出て、その後を火砕流が埋めたんだろうか
13. 匿名処理班
まさに現出した地獄
苦しむ前に亡くなったとしてもこんな最後もまた嫌だ
14. 匿名処理班
大昔の鬼界カルデラからの火砕流も超が付くほどの規模だったと聞く
破壊力が圧倒的過ぎる
15. 匿名処理班
※12
大半は避難済だったらしいよ。ポンペイには二万人が住んでいたけど火砕流の犠牲者は二千人だとか。
16. 匿名処理班
財産に執着した人は逃げ遅れたらしい ポンペイ最後の日という映画があったな
17. 匿名処理班
小学生の頃、ポンペイ最後の日っていう子供向けの本を偶然図書館で見つけたんだけど、文章ばかりだったのに、情景がものすごく思い浮かんだんだよね(だから本のタイトルも覚えてる)
もしかしたら自分、前世はポンペイに住んでたのかも知れないと思うのよ、割とマジでw
18. 匿名処理班
こわ…
19. 匿名処理班
別サイトの記事では、全ての物質は理論的には熱して溶解後に急冷却するとガラス質、つまり凍って結晶化するという
船着き場で見つかったって事は波をかぶって冷やされたのかもしれない