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人間の知能はいかにして進化したのか? この謎を解き明かすため、考古学者たちは長年、道具や火を使用した痕跡、あるいは頭蓋骨から分かる脳の大きさの変化といった手がかりを調べてきた。
しかし南アフリカ、ウィットウォーターズランド大学の研究グループは、私たちの祖先の知能を推測するためにまた別のユニークな方法を利用している。
頭蓋骨の化石を調べることで、脳が機能するために必要な血液の量、すなわちエネルギーを調べることができる。ここから祖先がどのくらい物事を考えていたのか読み取るのだ。
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脳の代謝率が大きいほど脳の性能が上がる
よくある前提は、祖先の知能は脳が大きくなるにつれて向上したというものだ。もちろん間違いではない。現生の霊長類ならば、脳内の神経細胞の数はその体積におおむね比例する。
また哺乳類全般の研究からは、脳の代謝率――つまりそれが機能するために必要になるエネルギー量は、大きさにほぼ比例することも明らかになっている。
脳の情報処理を担うのは、神経細胞(ニューロン)とそれらの結合(シナプス)だ。シナプスは、コンピューターに例えればトランジスタのように情報処理を行う部位である。
人間の脳には、800億を超えるニューロンと1000兆ものシナプスがある。それは人体のたった2パーセントを占めるに過ぎないが、消費されるエネルギーは全体の20パーセント(安静時)にも達する。
そして、そのうちの7割は、シナプスがニューロン間で情報を伝達する神経化学物質を作り出すために使われている。
mr.suphachai praserdumrongchai/iStock
電気と電源ケーブル = 血液と頸動脈
人類の祖先の脳がどのくらいのエネルギーを使用していたのか明らかにするために、『Proceedings of The Royal Society B』に掲載された今回の研究は、脳に流れる血流量に着目している。
人間の脳は毎秒10ミリリットルの血液を必要とする。これは起きていようと寝ていようと、運動や数学をしていようとほとんど変わらない。
この点に関して、脳はかなりエネルギー消費の激しいスーパーコンピューターのようなものだ。高性能のコンピューターは、その分消費する電力も多くなるし、それを供給するために太い電源ケーブルが必要になる。
同じことが脳にも言える。認知機能が高度になるほど代謝率は上がり、太い血管でそれだけたくさんの血液を流し、酸素を供給してやらねばならない。
脳の認知機能を司る大脳への血流は、2本の内頸動脈からやってくる。その動脈の太さは、そこを流れる血流量に関係し、それはすなわち血液が流れ着く脳が必要とする酸素の量に関係する。
whitehoune/iStock
アウストラロピテクスの脳はゴリラの半分しか血液を必要としない
研究グループは、50本の先行研究に基づき血流量と動脈のサイズとの関係を、頭蓋骨の底にあいている穴の大きさから内頸動脈の太さを割り出した。
さらに、現生の類人猿96種(チンパンジー、オランウータン、ゴリラなど)の頭蓋骨の穴を計測。そうしたデータを400万〜200万年前に生きていたとされるアウストラロピテクスの頭蓋骨と比較した。
Roger Seymour
チンパンジーとオランウータンの脳の容積はおよそ350ミリリットル、ゴリラとアウストラロピテクスはそれよりやや大きく500ミリリットルである。
従来の説によれば、アウストラロピテクスは他の動物よりも多少なりとも賢いはずだ。ところが、今回の研究では、アウストラロピテクスの脳の血流量は、チンパンジーやオランウータンの3分の2、ゴリラの半分程度でしかないことが判明したのだ。
これまでアウストラロピテクスの知能は人間と類人猿の中間くらいと考えられてきたが、それが誤りである可能性が浮上したのである。
ヒト脳の進化の軌跡。縦軸が内頸動脈の血流量、横軸が年代(100万年単位)
image credit:Roger Seymour
ヒトの脳は大きさ以上に多くの血液を必要とした
人間とそれ以外の多くの現生霊長類の場合、内頸動脈の血流量は、脳の大きさに直接比例しているように見える。つまり、脳の大きさが2倍になれば、血流量もまた2倍になるということだ。
これは意外なことではある。というのも、ほとんどの内臓の場合、そのサイズが大きくなっても代謝率は少しずつしか上昇しないからだ。哺乳類では、内蔵の大きさが2倍になっても、代謝率は1.7倍にしかならない。
このことは、霊長類の脳の代謝強度(脳1グラムあたりのエネルギー消費量/毎秒)が、そのサイズの拡大から予測される以上に増加してきたことを物語っている。ヒト亜科だと、この増加率はさらに大きくなる。
アウストラロピテクスとホモ・サピエンスとでは、脳の大きさにほぼ5倍の違いがあるが、血流量には9倍の開きがある。つまり我々の脳は、先祖より2倍多くのエネルギーを使っているということだ。それがシナプス活動と情報処理の増加に起因することは明らかだ。
どの霊長類でも脳の血流量は長い間に増加したようだが、ヒト亜科の増加率は特に際立っている。こうした変化は、道具の発達や火の使用、小グループ内でのコミュニケーションと並行して生じてきた。
References:How smart were our ancestors? Turns out the answer isn't in brain size, but blood flow/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
てことはオレの脳は血流が少ないってコトね 増やしたいなぁ 血流
2. 匿名処理班
なるほどねー
エンジンがどれだけでかいかじゃなくて燃料どれだけ使うかで測ったのね
3.
4. 匿名処理班
アインシュタインの脳の大きさは一般男性よりも小さくて
一般女性と同じ大きさだったので
脳の大きさ=賢さではないのかもとなったよな
因みに記憶力は女のが良いのは結構前から判明してる
ただ記憶力=賢さではないけどな
5. 匿名処理班
※1脳の血流が悪くなるとてんかんや脳梗塞、認知症などが起きるから
頭の良し悪しよりも健康のために脳の血流をよくした方がいいよ
脳といっても血管は血管なので
有酸素運動が大事
ただ妊娠中の女性はあまり激しい運動はやめとくこと
胎児に酸素や栄養を届けるために血液の量が普段よりも多くなっていて
胎児を成長させるのに必要な栄養=母体の血管や細胞の再生や修復に使う栄養
なので母体の血管が脆くなってる
普段よりも多い血液、普段よりも遥かに脆い血管
これのせいで妊婦の脳出血が多い
医師の指導で運動してね
男性も血流を良くすると男性の象徴も大きくなりやすいからそのために運動するのもあり
本来は思春期前からやってると普段の状態も大きくなり、興奮状態でも更にってなるよ
あと有酸素運動を効率的にしたいならタバコはやめよう
タバコは酸素の取り入れを阻害してしまうからね
6. 匿名処理班
日本でもトロ臭い奴を「血の巡りが悪い奴」などと言ってたけど、本当にそうだったんだな
7. ナパチャット
賢くなっても戦争は終わらない
8. 匿名処理班
CPUの性能が上がって消費電力増えるようなもんか
頭を冷やすというか、機械と違って冷却パーツがくっついてないのが残念だけども
ところで、PCはPen4時代の爆熱の反省もあって多コア化へ舵を切ったけど、脳はどうなんだろう?
右脳左脳がそれに当たるのかな??
9. 匿名処理班
よし、外付けのポンプを増設しよう
10. 匿名処理班
「頭に血が上る」って悪いことばかりじゃないのかも
11. 匿名処理班
発達障害も前頭葉の血流が低いことが一因って
言われてるな。実際に脳には問題がないので、
投薬で血流を良くするとワーキングメモリが改善する。
俺も薬飲んでるけど飲まない時は霞がかって思考がまとまらないけど、飲むと理解力、短期記憶が改善する。
血流と思考力に因果関係があるのは何となくわかる気がするな。
12. 匿名処理班
デスクに向かってウンウン考えるときよりジョギングしてるときの方が考えまとまるもんなあ