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たった3つのブラックホールがあるだけで時間の対称性は破れる(ポルトガル研究) : カラパイア

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 物理法則のほとんどは、時間が流れる方向などちっとも気にしていない。それが未来へ流れようと、過去へ流れようと、物理法則はまったく同じに働くからだ。

 ニュートン物理学でも一般相対性理論でも、時間の流れる向きは計算結果に影響を与えない――これを「T対称性」や「時間反転対称性」という。

 だが、実際の宇宙においては、ことはそう単純ではないようだ。アヴェイロ大学(ポルトガル)の天文学者によって、重力が作用し合う天体がたった3つあるだけで、T対称性が破れてしまうことが証明されてしまったからだ。
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たった3つの天体が生み出すカオス系


 この研究グループが取り組んだのは、天体物理学では有名な「多体問題」という、3つ以上で構成され、相互に作用する系についての問題だ。

 中心点を周回する同サイズの2つの天体の動きは比較的単純で、ニュートンの運動の法則と万有引力の法則に従えば、数学的に予測することができる。

 ところが、ここにもう1つ天体を加えてみると、途端に物事は混沌とし始める。天体は互いの軌道を重力で乱し合い、そこには「カオス」が生み出されることになる。

 このカオス系では、個々の特殊な状況を予測する解はあるものの、それらすべてを完璧に記述できるようなたった1つの解は、ニュートン物理学からも一般相対性理論からも導くことができない。

 よく理解されている太陽系においてすら、予測できるのはせいぜい数百万年先の未来まででしかない。宇宙に宿ったカオスは、特性なのであって、バグではないのだ。


Three-body problem sonified

シミュレーションの時間的不可逆性は何のせい?


 多体問題のシミュレーションを行うと、その結果に時間的な不可逆性が生じることがしばしばだ。

 つまり、ある時点から未来へ向けてシミュレーションを行った後で、そこからまた過去へさかのぼってシミュレーションを巻き戻してみたとき、最初のスタート地点の状態に戻らないのだ。

 物理にはT対称性(時間反転対称性)があるはずなのだから、何かがおかしいのだ。だが、はたしてこれがカオスのせいなのか、シミュレーションの欠陥のせいなのか、どちらが原因なのかよく分からなかった。

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Gerd Altmann from Pixabay

強力なシミュレーションコードで3つのブラックホールの挙動を予測


 今回の研究グループが解明しようとしたのはこの点だ。

 彼らが用いたのは「Brutus」という多体問題シミュレーションコードだ。このコードは、総当たり的な演算能力を利用することで、数的エラーを抑制し、緻密なシミュレーションを可能にする。これを利用して、3体系のT対称性を検証してみようというのだ。

 なお、ここで想定された3つの天体はブラックホールだ。まず静止状態からシミュレーションを開始する。ブラックホールが互いに引き寄せ合い、やがて複雑な軌道に変化し、1つがそこから弾き出された時点でシミュレーションを終了する。

 そして今度は、その終了時点から過去にさかのぼってシミュレーションを行い、最初の状態に戻るか試してみる。


Two computer simulations of 3 black holes that influence each other (Boekholt et al., in MNRAS 2020)

プランク長の乱れがT対称性を破る


 その結果、最初の状態に戻れない確率は5パーセントだった。だが恐るべきは、そうなるためには「プランク長」の距離の乱れがあるだけでよかったということだ。

 プランク長――それは0.000000000000000000000000000000000016メートルのこと。この世に存在しうる最小の長さのことだ。

 「3つのブラックホールの動きは、カオスもカオスで、プランク長ほどの短い距離であっても動きに影響してしまう。プランク長の乱れが指数関数的な影響を及ぼし、T対称性を破る」と研究者は説明する。

 たかが5パーセントの確率など大したことがないように思われるかもしれない。しかし、どのシミュレーションがその5パーセントに収斂するのか予測できないということは、多体で構成される系は「根本的に予測不能」であるということなのだそうだ。

 そして、この時間の不可逆性という問題は、結局シミュレーションの欠陥ではなかったことが証明された。研究者はこのように述べている。

 「時間を逆転させることができないというのは、もはや単なる統計上の議論ではなくなった。それは自然の基本的法則に隠されている。それが大きなものであれ小さなものであれ、惑星であれブラックホールであれ、動き回る3つの天体の系はただの1つたりとも、時間の方向から逃れることができない。」

 この研究は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に掲載された。

References:interestingengineering / sciencealert/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 20:57
  • ID:.DEwlFDb0 #

よくわからないが、タイムマシンは不可能だということが証明されたということか?
三体星人もびっくりってか。

2

2. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 20:58
  • ID:r2kxw8G30 #

人間だって天体みたいなものだしって思いながら読んでみると、少なくとも現時点で計算できる未来なんて存在しないんだなって。

3

3. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 21:04
  • ID:Fm7tAF1m0 #

ん?
なんかおかしい
プランク長のせいにしてるけど、
そもそも3体問題は一般的には正確な解を持たないので、
シミュレーションで議論すること自体が間違い

4

4. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 21:09
  • ID:qoIlGq820 #

三角関係のもつれってやつですね

5

5. ナパチャット

  • 2020年03月29日 21:21
  • ID:7d7D2d2p0 #

何か書こうと思ったけど
>>4が正解でいいや

6

6. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 21:35
  • ID:dtE8mqRj0 #

シミュレーションの誤差がその程度って事
証明になってない

7

7. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 22:04
  • ID:qIW.raQl0 #

※3
解析的な解を式で表せない、という事と決定論的じゃない事は全く別問題。
決定論的なルールに従った処理も当然カオス系になりうるが、その場合は時間反転したら元に戻る。

これは量子論的なプランク長スケールの非決定性が重力というマクロ系でもカオス系の指数関数的拡大によって時間対称性を破るという話。

8

8. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 22:13
  • ID:4cmNHRPC0 #

※3
方程式そのものはあるから、方程式の変数に代入できる初期条件があれば解ける
代入して得られた解を利用して、少し時間を進めたときの解を求める
これを何度も繰り返すことによって時間を進めていったときの解を求めるシュミレーションはある

9

9. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 22:44
  • ID:9h6M.nDk0 #

門外漢には、ブラックホールが3つあることが"たった"という言葉で表されるということが驚きだよ

10

10. 匿名処理班

  • 2020年03月29日 23:16
  • ID:ms.J8GV.0 #

「量子的な揺らぎのせいで、仮に理論上の最高精度で初期条件を用意できたとしても時間反転させた運動を確実に実現することはできない」ということと、「物理法則に時間反転対称性がない」ということは別の内容では…?

電子を全く同じ初期条件で二回、時間を空けて射出したとすると、一定距離後に電子が観測される場所は絶対にばらつくけれど、それが物理法則の時間並進対称性を破っているわけではないのと同じことのような気がする。だれか物理くわしい方教えてください……

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