深夜の大事故
7月28日23時30分ごろの東京都新宿区の某クラブでは、売り物である踊り子たちによるラストダンスが行われていた。
このクラブには舞台の端から端へ移動できる舞台装置があり、そこから人気のある踊り子が登場してくる……という仕掛けだ。
ところが、この日、機械にトラブルが発生した。
舞台装置の歯車部分にマイクコードが挟まり動けなくなってしまったのだ。
舞台では踊り子達が踊っているため、遮ってコードを外すわけにもいかず、
照明係の男性が装置の下に潜り込み、コードを外すよう試みた。コードはなんとか外せそうだったが、
故障を知らないスタッフが「あの装置邪魔だな」とスイッチを入れたから、さあ大変。
照明係の男性は機械に体を挟まれ「ギャー!」という叫び声がホール内にこだました。
男性の体は機械と舞台の高さ30センチの間に挟まれており、
下半身がねじれ動けなくなっていたのだ。
急いで照明係を救助しようとしたが、まったく動かず、ショーは中止。
警察や消防署が来て照明係の救助がはじまった。
「もう殺してくれ!」
クラブには10名前後の消防署の救助隊が駆け付けたが、照明係はガッシリと体が挟みこまれてしまっているために全く動かない。
そこで、消防隊員は装置を舞台から外し照明係を助けることにしたのだが、装置は鉄骨でできており、びくともしない。消防隊員は物理的に装置を壊すことにした。
消防隊員は照明係に毛布をかぶせエンジンカッターで鉄骨を切断。しかし高速でうなるエンジンカッターに恐怖した照明係は
「もう殺してくれ!」と大絶叫。事故があってから既に6時間が経過しようとしていた。
そして日が変わり7月29日朝5時30分ごろ、
照明係は無事に生還。そのまま病院へ運ばれて行いったという。幸い怪我は軽く数日後には退院できたという。
最悪の舞台事故
さて、舞台装置による事故だが、今回紹介したのは無事に脱出できたケースではあるが、中には不幸にも亡くなってしまったケースも少なくない。
これは1958年(昭和53年)4月1日に兵庫県の
宝塚大劇場で発生した事故である。宝塚歌劇団月組に所属していた女優・香月弘美はこの日の公演に出演中に、
衣装ドレスの裾が舞台装置の駆動部分に巻き込まれ亡くなったのだ。
宝塚歌劇団の俳優は舞台公演に何度も早着替えをする必要があり、香月は
舞台装置を使い飛び降りたのだが、急いでいたため足が駆動部に巻き込まれてしまった。
香月は腰にスチール製のベルトをしていたため、ベルトが香月の胴体を締め付ける形となり
体を真っ二つに切断され即死してしまったのだ。
この事故の模様は同じ宝塚の女優・松島三那子が一部始終を目撃しており、香月の最後の断末魔を聞き、体がメリメリと音を立てながら切断される瞬間を目撃し、ショックのあまり気を失ってしまったという。
本事故は2020年現在、唯一の宝塚の舞台公演中の死亡事故であり、
宝塚音楽学校敷地内には彼女を偲ぶ慰霊碑が建立されている。
参考文献:毎日新聞縮刷版
文:
穂積昭雪(昭和ロマンライター /
山口敏太郎タートルカンパニー /
Atlas編集部)
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