中世ヨーロッパで観測された暗黒の皆既月食の謎 / Pixabay
1110年5月、中世のヨーロッパで月が完全に消えてしまうほど異常に暗い皆既月食が観測された。
ノルマン・コンクエスト後のイングランド史を記した『ピーターバラ年代記』にはこのような記述がある。
5月の5番目の晩、夜の月は明るく輝いていたが、それから少しずつ陰り始め、夜が訪れるとまもなく完全に消えてしまった。それどころか光も輪郭も、見えるはずのものが一切消えてしまった
その原因はこれまで謎であったが、ジュネーヴ大学(スイス)の古気候学者チームによると、日本の火山噴火によって噴き上げられた硫黄エアロゾルによるものである可能性があるという。
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ヨーロッパで観測された暗黒月食の謎
1000年ほど前、地球でこのようなことがあった。硫黄を大量に含む粒子の雲が成層圏に流れ込み、数ヶ月から数年に渡って空を黒く染め上げ、やがて地面に降り積もった。
その証拠とされるのが、氷河や氷床の奥深くから採取されたアイスコアから発見された、過去1000年の間に形成されたものとしては最大の硫黄層だ。
Pixabay
歴史的な出来事から硫黄堆積層の時期を探る
これまで、この層を作り出した原因として有力視されていたのが、アイスランドでもっとも活動的で、”地獄の門”と呼ばれるヘクラ山だ。
ヘクラ山の噴火(1980年) / wikimedia commons
従来のアイスコアの分析では、ヘクラ山は1104年に大規模な噴火を起こしたと考えられており、このとき噴出した硫黄エアロゾルが問題の層を作り出したというのが、長く支持されてきた説だった。
ところが、2015年に発表された研究で、アイスコア分析の基礎となっている「グリーンランド・アイスコア・クロノロジー2005」という年代区分には、最初の千年紀で最大7年、その次の千年紀では最大4年のズレがあることが明らかになったのだ。
となると、ヘクラ山の噴火と暗黒の皆既月食とを結びつけるのは、時間的に無理ということになる。
その研究ではまた、硫黄エアロゾルの堆積が始まったのは1108年か1109年で、1113年まで続いただろうことまで特定している。
そこで、ジュネーヴ大学の古気候学者チームは、何が原因で硫黄堆積層が形成されたのか調べるために、その時期の歴史的な文献を丹念に調査し、大きな噴火に伴って起きた月食らしき記録がないかどうかを探した。
高緯度で起きた噴火でエアロゾルが噴出し、それが大気光学現象を引き起こしたなら、きっと当時の歴史家たちの注意を引いただろうからだ。
そして突き止められたのが、先ほどの暗黒の皆既日食というわけだ。天文学においては有名な歴史的事件だが、その原因が火山によって成層圏に噴き上げられたエアロゾルであるという見解は新しいものだ。
Pixabay
暗黒の皆既月食は日本の浅間山が原因である可能性
研究チームによると、暗黒の月食以外には、太陽の陰り、赤い薄明大気光や日暈といった火山性ダストが関連する現象の記録は見つからなかったとのこと。
だが、仮に火山の硫黄エアロゾル説が正しいのだとすれば、それを噴き上げた火山はどれなのだろうか?
確かなことは分からないが、研究チームは日本の浅間山が怪しいと睨んでいる。1108年に数ヶ月におよぶ大噴火が生じているのだ。
浅間山/iStock
『中右記』には、浅間山が「7月21日になって突然、大噴火を起こした。噴煙は空高く舞い上がり、噴出物は上野の国一帯に及び、田畑がことごとく埋まってしまった」と記されている。
また木の年輪の調査からは、1109年が異常なほど寒い年で、当時の北半球は平均気温が1度低かったことも判明しているという。
さらにさまざまな歴史的文献に、1109年から始まった異常気象のおかげで、それから数年にわたり西ヨーロッパは不作と飢饉に苦しんだという記述があるそうだ。
これらは暗黒の皆既月食の引き金となった原因の決定的な証拠にはならない。だが、総合して考えると、その時期に起きた噴火によって人間社会が大いに動揺したらしいことがうかがえると、研究チームは述べている。
この研究は『Scientific Reports』(4月21日付)に掲載された。
Climatic and societal impacts of a “forgotten” cluster of volcanic eruptions in 1108-1110 CE | Scientific Reportswritten by hiroching / edited by parumo
https://www.nature.com/articles/s41598-020-63339-3
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コメント
1. 匿名処理班
現代でさえ気温が1〜2度変わっただけで作物の出来が格段に変わったり、栽培できなくなるるんだから、当時の技術水準ならもっとだろうね。