妖怪「ぐふふ、おぬしの体液をよこせぇ!!!」女「体液って血液? 唾液? 胃液? それとも……」
- 2020年06月13日 21:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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女「なに、あなた」
妖怪「ワシは妖怪だ……おぬしの体液をよこせぇ!!!」
女「体液って血液?」
妖怪「いや、そうではない」
女「唾液?」
妖怪「違う!」
女「胃液?」オエッ
妖怪「違うし、わざわざ吐こうとするな!」
妖怪「ちがーう!」
妖怪「若いおなごがそんなはしたない言葉を口にするでない!」
女「じゃあなんなの」
妖怪「涙だ! おぬしの涙を欲しているのだ!」
妖怪「おぬしからは、“極上の涙にありつける”という確かな予感がするのだァ!」
女「はぁ……」
妖怪「というわけで、泣いてもらうぞ! 覚悟ォ!」
女「こりゃ参ったわね」
女「……」
女「そんなんじゃ、今時小学生でも泣かないわよ」
妖怪「うぐぐ……」
妖怪「だったら、これならどうだ! かつてワシが号泣した物語!」
妖怪「ある日、貧しい母と子はかけそばを一杯頼みました……」
妖怪「母は麺を全部食べ、子は汁を全部飲み、ゲップを……あれ、こんなんだっけ?」
女「うろ覚えにも程があるわよ」
妖怪「?」
女「私、泣いたことないのよね」
妖怪「は……!?」
妖怪「だけど、さすがに赤ん坊の頃は泣いただろう?」
女「そりゃ泣いたでしょうけど、物心ついてから泣いた記憶が一度もないの」
妖怪「ウソだぁ!」
妖怪「親に叱られたり、誰かにいじめられたり、失恋したら……悲しくて泣くだろう!?」
女「そりゃ悲しいけど、涙は流さなかったわ」
妖怪「なんという血も涙もないおなごよ……」
女「そういわれてもねえ」
妖怪「ならば、おぬしを泣かせるチャンスをくれ!」
妖怪「しばらくおぬしの家に居候させてくれえ!」
女「別にいいけど」
妖怪「いいの!? 普通断ると思いますけど!?」
女「悪い妖怪じゃなさそうだから」
妖怪「うむむ、こっちが泣きそうになってくるわい……」
妖怪「さぁて……どうやって泣かすか……」
妖怪「そうだ! 手料理だ! ワシの手料理で感涙させてやる!」
トントントン…
ジュージュー…
グツグツ…
女「いい匂いがしてきたわね」
女「いただきます」モグッ
妖怪「どうだ?」
女「うん、おいしい」
妖怪「涙は!?」
女「おいしいけど、泣けはしないわね」
妖怪「はうっ! 作り損!」
妖怪「うむ」
妖怪「こうしてあったかい布団で眠るのも久しぶりだ……」
女「あら、どうして?」
妖怪「ワシのような妖怪を狙う“妖怪ハンター”がおるのでな……」
妖怪「人里に安息の地はないのだよ」
女「ふうん、妖怪も大変なのね」
女(涙でいいなら、飲ませてあげたいけど……)
女「……」カタカタ
女「ねえ、後輩ちゃん」
後輩女「なんですか、先輩?」
女「泣いたことある?」
後輩女「泣く? しょっちゅうですよぉ!」
後輩女「映画見たら泣きますし、課長に叱られたら泣きますし、ケガした時も泣きますし……」
後輩女「今も、ペットの犬が死んだことを想像するだけで……」シクシク
女「羨ましいわ」
後輩女「ありがとうございますぅ~」グスッ
課長「なにかね?」
女「叱ってくれませんか?」
課長「え、なんで……? 君はよくやってくれてるのに……」
女「いいから、やってみて下さい。叱られたい気分なんです」
課長「分かった……コホン」
課長「いつもいつも冷静に完璧な仕事をして!」
課長「おかげで上司の私の立場がないじゃないか!」
課長「どうしてくれるーっ!!!」
課長「……どう?」
女「もういいです」
課長「ううう……」
女(泣くって……難しいわね)
TV『全米が泣いた……!』
TV『孤独な狩人と心優しき熊の……愛と友情の物語! 涙腺が枯れ果てミイラになる感動作……!』
妖怪「むむむ……これは面白そうだ!」
妖怪「この映画、見に行こうぞ!」
女「まあ、いいけど」
妖怪「ぐふふふ、映画館で号泣するおぬしの体液をゴックゴクだぁ!」
女「そう上手くいくといいけどね」
受付「いらっしゃいませ」
女「大人一枚、妖怪一枚」
受付「かしこまりました」
妖怪「体液とは関係なく、ワクワクしてきたのう!」
女「まあね」
妖怪「どうでもいいけど、映画始まる前の予告編ってどれもやたら面白そうに見えない?」
女「たしかにね」
妖怪「泣けた~! ワシ泣けた~!」
女「……」
妖怪「って、全然泣いてないんかーい! そんなにつまらなかったか!?」
女「面白かったわ」
妖怪「涙は?」
女「出なかったわ」
妖怪「ぐぬう……」
後輩女「せんぱーい! 最近なにか面白いことありました?」
女「映画が面白かったわ。今話題の全米が泣いたやつ」
後輩女「あっ、先輩もあれ見たんですか!」
後輩女「私なんかもう……大号泣しちゃって。隣の人に怒られちゃいましたよ」シクシク
女「私でも怒るでしょうね」
後輩女「主人公がまるで私みたいで……今思い出しても泣けちゃいますよぉ~」シクシク
女「その泣きやすさを少し分けて欲しいわ」
妖怪「おーい、今日は部屋を掃除したぞ!」
ピカピカ…
女「……まぁ」
女「ありがとう、嬉しいわ」
妖怪「涙は?」
女「出ないわ」
妖怪「……」ガクッ
妖怪「ううっ……苦しい……!」
妖怪「ワシはもう死んでしまう~! もうダメだぁ~!」
女「救急車呼ぶわ」
妖怪「呼ばんでいい! 呼ばんでいい!」ガバッ
女「あら、元気だったの」
妖怪「うむ……救急隊に迷惑をかけるわけにはいかん」
女「意外と常識あるのね」
妖怪「泣けるDVD借りてきたぞ!」
妖怪「涙が出るツボを指圧してやろう!」
妖怪「玉ねぎを切ってやるぅ!」トントントントントン
……
妖怪「どれもダメだ……」ハァハァ…
女「これだけ頑張ってくれてるのに、ごめんなさいね」
妖怪「いや……よいのだ。ワシも好きでやってることだからな」
女「……」
女「買い物に行ってくるわ」
妖怪「こんな時間にか?」
女「うん、食べ物がなくなっちゃったから。買い出しにね」
妖怪「だったらワシも同行しよう」
女「いいの?」
妖怪「若いおなごを守るのは、男子の務めよ……!」
女「じゃあお願いするわ」
妖怪「うむ」
妖怪「……」
妖怪(最初会った時は、“血も涙もないおなご”などといってしまったが……とんでもない)
妖怪(よいおなごではないか……泣かないけど)
妖怪「さて、買い物が終わるまで、ここで……」
「見ーつけた」
ハンター「パトロールしてたら、まさかこんなところで妖怪に出会えるなんてねえ。ついてる」
妖怪(この仮面、この出で立ち……! こやつ……妖怪ハンター!)
妖怪(しかも……相当の使い手……!)
ハンター「さいわい人通りもないし、私のナイフですぐ滅してあげる」ジャキッ
妖怪「……そうはいかん」
妖怪「ワシは……ここで待っていなければならんのだ!」
ハンター「待つ? 誰を待つか知らないけど、地獄で待ってなさいな!」
女「ふぅ、買い物終わり。ずいぶんかかっちゃった」
女(あれ? 妖怪はどこに行ったのかしら……)キョロキョロ
女「!?」
ガキンッ! キィンッ! ザシュッ…
ズバッ!
妖怪「ぐうっ……!」
ハンター「なかなか粘るけど、そろそろ地獄が見えてきたでしょ」
妖怪「く、くそっ……!」ゴフッ…
女(妖怪と……仮面をつけた怪しい人が戦ってる)
女(いったい何が起こってるの?)
ザシュッ!
妖怪「ぐはぁぁぁ……!」ドサッ…
女「あっ……」
女「しっかりして!」タタタッ
妖怪「う、ぐ……」
ハンター「……え!?」
妖怪「あやつは……妖怪ハンター……」
妖怪「うっかり見つかってしまい……このざまだ……ぐふっ……」
女「なんで……! あなたは何もしてないのに……」
妖怪「気にするな……これでよいのだ……」
妖怪「人と妖怪は相容れぬ……人里に降りた時からこうなることは覚悟、してた……」
妖怪「だが、おぬしとの……日々は……とてもとても楽しい、ものだった、ぞ……」
女「……!」
女「こんなことになってるのに……私の目からは一滴も……」
妖怪「ぐふふ……かまわん……」
妖怪「そうやって、ワシを想ってくれるだけで、ワシは、嬉しい……」
妖怪「おぬしに出会えて……よかった……」
妖怪「ワシらの別れに……涙はいらんよ……」
女「待って……死んだらダメ!」
ハンター「あ、あの」
女「ちょっとあなた」ギロッ
ハンター「……!」ビクッ
ハンター「……え」
ハンター「いえ、あの、妖怪だから……。見つけたから……」
女「妖怪だからって問答無用で退治するの!?」
女「そんなの、やってることは通り魔と同じじゃない!」
女「私はわけあって、今この妖怪を居候させてるんだけど……」
女「下手な人間より、よっぽど平和的で面白い妖怪だったわ」
女「それなのにこんなことして……いくら仕事だろうと許さない!」
妖怪「よ、よせ……。人間同士、争うなど……」
ハンター「う、うう……」
女「え!?」
妖怪「え……?」
女「ちょっと、いきなりどうしたの」
妖怪「ワシも……死にそうなのに、気になって死ぬに死ねなくなってきたぞ……」
ハンター「私は、私は取り返しのつかないことをぉ~!」シクシク
女「……」ハッ
女(この泣き方、どこかで見たことあるような……)
女「あ……!」
後輩女「私です」
妖怪「え……お知り合い……?」
女「まあ、ちょっとね。いえだいぶ知ってるけど……」
後輩女「私……本業は妖怪ハンターなんです。いや、副業かな? どっちだろ?」
後輩女「分かんなぁ~い!」シクシク
女「ああ、もう……」
女(そういえば、映画に出てくる狩人が自分みたいだっていってたわね……)
後輩女「人をムシケラみたいに殺す奴とも戦ったことがあります……」
後輩女「だから今日もそのつもりで戦ったんですが……」
後輩女「こんなことに……! 先輩の大切な同居人を……」シクシク
女「……」
女「妖怪ハンターに、妖怪を助ける力はないの?」
後輩女「ない……です」
女「そう……」
女(これ以上、この子を責めても仕方ないわね……)
女「あなたの涙、ちょっともらえる?」
後輩女「こんなものでよければ……」グスッ
女(ハンカチに染み込ませて……)
女「妖怪、これを舐めて」
妖怪「む……」
女「私は涙を流せなかったけど、私の後輩が流してくれたから……」
妖怪(なんと優しいおなごよ……ワシに最期の食事をさせてくれるとは……)
妖怪「かたじけ、ない……」ペロッ
女「どう?」
妖怪「う、うまい!!!」
女「え」
後輩女「ふぇ?」
妖怪「ワシは涙を糧にするゆえ……これまで幾人もの涙を味わってきた……」
妖怪「だが、これは……今までで一番の味だ!」
妖怪「これぞ、まさに……まさに極上の涙……! ワシの追い求めていた涙よ……!」
女「あらま」
妖怪「その涙を舐めるなど、普通に考えればまず不可能」
妖怪「だが、このハンターのおなごは、おぬしの知り合いであった」
妖怪「だから、こうして極上の涙にありつけることができた」
妖怪「ワシがあの時感じた“予感”は、このことだったのだ」
女「なるほどね」
後輩女「よく分からないけど、よかったです!」
妖怪「うむ、この通りだ! 極上の涙を味わったら、すっかり回復したぞ!」シャキンッ
女「……」
女「よかったわね」クルッ
妖怪「“よかったわね”と言いつつ、そっぽ向かないで!」
後輩女「絶対呆れてますよね、これ!」
後輩女「だが?」
妖怪「ワシはまだまだおぬしを泣かせることを諦めておらんぞ!」
後輩女「私も先輩が泣くところ見たいです!」
女「え?」
妖怪「というわけで、ワシらは共同戦線を張るぞ!」
後輩女「はい! 妖怪と妖怪ハンターの同盟です! これは歴史に残りますよぉ!」
女「……黒歴史にならなきゃいいけどね」
後輩女「先輩、遊びに来ました!」
妖怪「来たな、ハンターのおなご!」
女「いらっしゃい」
後輩女「今日こそ先輩を泣かせてみせますからね!」
妖怪「うむ、ワシら最強タッグに不可能はない!」
女「最低の間違いじゃないの」
女「……」
後輩女「ってリアルすぎて私が怖い! ギャーッ!」
妖怪「次はワシだ! ガオオオオオオッ!」
女「……」
妖怪「涙出たか!?」 後輩女「涙出ましたか!?」
女「出たわ。ため息が」
後輩女「わっ、楽しみです!」
女「料理の腕は本物だから、期待してていいわよ」
後輩女「じゃあ見学してもいいですか? 私、料理ヘタクソで……」
妖怪「ぐふふ、よかろう! 料理のイロハを叩き込んでやる!」
アハハハ… ワイワイ…
女(すっかり仲良くなっちゃって……)
女(どうやら、私が涙を流す日はまだまだ遠そうね)
女(だけど――)
女『よかったわね』クルッ
女(私の目が少し潤んでしまったのは……私だけの秘密よ)
~おわり~
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- 2020年06月13日 22:39
- まあまあ
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- 2020年06月13日 22:46
- 妖怪が男だったのに驚いた。子犬のイメージで読んでたわい。
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- ぽんぽここんなところで何をしているのだぽんぽこ
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