拳銃のグリップに恋人の写真 image by:u/bigmeat
戦場に向かう兵士たちは、自分の装備品にはっきり自分のものだとわかるようにな工夫を施していた。
16トン爆撃機の鼻づらに芸術的な模様を入れたり、食器やライフルの台尻に自分のイニシャルを刻んだりしたそれらの装飾品は、「トレンチ(塹壕)アート」と呼ばれ、第一次大戦以降、こうした戦場アートはよく見かけるようになった。
第二次世界大戦を戦うアメリカ軍兵士たちの間で流行したトレンチアートの中に「スイートハート・グリップ」と呼ばれるものがある。自分の拳銃のグリップを細工して、そこに恋人、あるいはピンナップガールの写真を忍ばせたのだ。
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トレンチアートの歴史
トレンチ(塹壕)アートの起源は、ナポレオン戦争時代からと言われている。イギリス軍の廃船に閉じこまれたフランス軍兵士10万人の捕虜たちは、10年に及ぶ監禁生活の中で、配給されるものの利用して様々な物を作り、それらを物々交換していたという。
盛んになったのは第一次世界大戦のときだ。4年にわたる塹壕戦となった西部戦線時、塹壕で過ごす兵士たちの間で、暇つぶしとして、手元にあるものを利用して様々な物が作られていった。
薬莢や使えなくなったナイフ、ドッグタグなどの金属片を利用し、エンブレムや文字などを彫って細工したり、小皿やサイコロ、レターナイフやペンなど、実用的なものを作り上げた。
第二次世界大戦時には「トレンチアート」という言葉は、兵士、あるいは捕虜や市民たちによって作られたお土産品や記念品のことを示す言葉として使われるようになった。
WWIの彫刻が施されたシェルケース image by:public domain/wikimedia
第二次世界大戦中、米軍が考案した「スイートハート・グリップ」
カメラが発明されて以来、兵士たちは自分の愛する人の大切な写真をしのばせるようになった。恋人がいない場合は、たいていピンナップガールの写真だった。
ヘルメットの下、ポケットの中、シガレットケース、聖書など、大切な人の面影を常に身近にキープしておく方法はさまざまだったが、第二次大戦中、アメリカ軍の兵士たちが透明なプラスチックのプレキシガラス(アクリル樹脂)のユニークな使い方を考案した。
これは1928年に、ウィリアム・チャルマーズ、オットー・ローム、ワルター・バウアーといった化学者たちによって、複数の研究所で開発された素材で、ローム&ハース社が「プレキシガラス」の名前で商標を取り1933年に市場で売り出したものだ。
これは画期的な発明品で、第二次大戦中に重宝され、とくに戦闘機の窓に使われた。軽量で柔軟性もあったため、車両の窓、軍用機の両サイドの窓、操縦席の上の円蓋、砲塔、航空機全般の窓部など、ガラスが必要な場所によく利用された。
兵士たちは、墜落した戦闘機のプレキシガラスを使って、自分のコルトM1911のグリップを改造した。
もともとあった木のグリップを取り外し、自作の透明グリップに付け替えたのだ。このとき、ピンナップガールの写真を下にはさむこともあり、これらは「スイートハート・グリップ(恋人グリップ)」として知られるようになる。
USGI Colt 1911 Sweetheart Grips
右側に恋人の写真を入れ、左側にはなにも入れない場合もあった。こうすると、右利きの兵士が脇から弾倉を見て、あと何発残っているかを把握することができる。
写真に残されたスイートハート・グリップ
スイートハート・グリップは、第二次大戦の歴史の中でも興味深いものだ。大量のコレクションがあるわけでもなく、ほとんどの人はこのようなグリップがあることを知らない。
祖父が持っていたコルト1911には、グリップのところに祖母の写真がつけられている(一番左)。ルガーのグリップは、戦闘機のガラスと同じ素材のもので作られていて、ナチの兵士から取り上げたものだという。ジャネットという名の女性は誰なのかわからないが、きっと、その兵士の妻なのだろう。
image by:imgur
image by:xavierthoughts
上の写真のグリップにまつわる話はこうだ。戦争から帰って来たジェームズ・L・モリスは、愛用の銃を生涯手元に置いていた。
透明のプラスチックがついたグリップには、恋人ヴェルマの写真をずっとしのばせていた。戦後はヴェルマと新たな結婚生活を始め、戦争の遺物であるこの銃は、二度と戦争など起こらないで欲しいと彼が望んだ時代の古い思い出としてしまいこまれた。
ジェームズとヴェルマは幸せな人生を送り、その息子は成長して米海軍に入った。2005年、ヴェルマが亡くなり、2007年9月にはジェームズも後を追った。このピストルは、息子のジムに引き継がれた。
ところが、10月、モリス家は強盗に入られ、この貴重なM1911A1を含む3挺の銃が盗まれた。「ぼくにとって、あれほど感情的に大切なものはほかになかった」ジムは言った。「あの銃は、ぼくにとってすべてだったのに」
1944年、イタリア戦線でドイツの要塞部隊攻撃に従事した米軍第88歩兵師団のリーダー、ジョン・エルンサー中尉(26)の銃。よく見ると、ガールフレンドの写真をグリップにつけている
image by:thevintagenews
第二次大戦中、南太平洋で衛生兵として従事していた父は、日本の8ミリ口径の十四年式ナンブ銃を持ち帰った。グリップに恋人の古い写真を入れていた。
image by:forums.1911forum
米海軍の対潜哨戒機のパイロットが持っていた1918年製コルト。プラスチックのグリップに作り替えられている。穴を通して、弾倉に残された弾丸の数を確認できるようになっている
image by:forums.1911forum
ワルサーモデル9のグリップの写真
image by:crazyfacts
ちなみに、2014年の映画『フューリー』では、ブラッド・ピットが演じるウォーダディーが持っているスミス&ウェッソンM1917のグリップに女性の写真が見える。
image by:9gag
References:thevintagenews written by konohazuku / edited by parumoあわせて読みたい
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コメント
1. 匿名処理班
ラストシューティスト
2. 匿名処理班
こういうのを見ると、「人間が戦争をやってたんだな」と実感できて、何とも切ない気分になる。妻や恋人の写真を仕込んだ銃で敵を撃つ時、彼らは何を思ったのか。
3. 匿名処理班
刀の茎に恋人の名前を彫る習慣が日本にもあったかもしれない(妄想)